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dg圏におけるテンソル関手の左導来関手が圏同値関手となるための必要十分条件

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言葉の意味と記号について

この記事では,記号を以下の意味で使用します.
k: 可換環
Cdg(k): k上の加群の複体からなるdg圏
Cdg(C): dg圏CからCdg(k)への(反変)dg関手からなるdg圏
D(C): dg圏Cの導来圏
per C: (米田埋め込みにより同一視された)Cを含み直和因子で閉じるD(C)の最小の三角部分圏(Cのperfect derived category)
LocTT: Tの対象のsubsetTを含む最小のlocalizing部分圏
準備として,acyclic,K射影的,右K射影的を定義します.

acyclic

Aをdg圏とする.XCdg(A)がacyclicであるとは,任意のAAに対してX(A)が複体の意味でacyclicであることをいう.

K射影的

Aをdg圏とする.XCdg(A)がK射影的であるとは,任意のCdg(A)のacyclicな対象Yに対してCdg(A)(X,Y)Cdg(k)が複体としてacyclicであることをいう.

右K射影的

A,Bをdg圏とする.XCdg(AopB)が右K射影的であるとは,任意のAAに対してX(,A)がK射影的であることをいう.

右K射影的な対象の例

A,Bをdg圏,F:ABをdg関手とする.このとき,B(,F())Cdg(AopB)は右K射影的である.実際,任意のAAを代入するとB(,F(A))となる.これをF(A)と表すことにすると,任意のacyclicな対象YCdg(B)に対して,米田の補題からCdg(B)(F(A),Y)YF(A)であり,Yがacyclicであるから両辺n次のホモロジーを取ることでHn(Cdg(B)(F(A),Y))=0が成立し,F(A)はK射影的である.よってB(,F())Cdg(AopB)は右K射影的であることがわかる.

XCdg(AopB)は反変dg関手であるため,X:(AopB)opCdg(k)ですが,ここでは(AopB)opBopAと同一視してAA,BBopに対してX(B,A)の形で表記すると約束しておきます.

記事の概要

今回の主題は以下の定理です.テンソル関手の左導来関手が圏同値関手である条件を与えます.

[Kel94, Section 6.1]

XCdg(AopB)を右K射影的な対象とする.このとき,
ALX:D(A)D(B)
が圏同値関手であることと次の3条件が全て成立することが同値である.
(a) 任意のA,BAについて,
A(A,B)Cdg(B)(X(,A),X(,B))
が擬同型.
(b) 任意のAAに対して,X(,A)per B.
(c) C={X(,A)AA}とする.このとき,LocD(B)C=D(B)が成立している.

ただし,(a)におけるA(A,B)のホモロジーは米田の補題で同一視したCdg(A)(A,B)のものを考えます.これは dg圏の導来圏におけるcompact generatorと圏同値性 の定理1の応用です.

準備

まず準備から入ります.

[Kel94, Section 6.1]

任意のAAXCdg(AopB)に対して,K(B)における同型
AAXX(,A)
が成立する.

随伴性と米田の補題から
Cdg(B)(AAX,)Cdg(A)(A,HomB(X,))HomB(X,)(A)=Cdg(B)(X(,A),)
したがって,両辺0次ホモロジーを取って,米田の補題からAAXX(,A)を得る.

定理1の証明と具体例

本題の証明に入ります.

定理1

dg圏の導来圏におけるcompact generatorと圏同値性 の定理1から,ALX:D(A)D(B)が圏同値であることと次の3条件が同値である.
(a') 任意のA,BAnZに対して
F:D(A)(A,B[n])D(B)(AALX,B[n]ALX),
(b') 任意のAAに対して,AALXper Bである,
(c') {AALXD(B)AA}D(B)のgeneratorである.
ここで,AのK射影性(例1を参照)からAALX=AAXであり,さらに命題2からAAXX(,A)である.よって,(b'),(c')はそれぞれ定理1の(b),(c)と同値である.よって,(a')と(a)の同値性を示せば良い.(a)の両辺n次コホモロジーを取った表示が(a')となることがAのK射影性とX(,A)のK射影性からわかるので示された.

定理1の具体例

A,Bをdg圏,F:ABをdg関手とする.X:=B(,F())Cdg(AopB)は右K射影的であることは例1で見た.このとき,定理1からFがquasi-fully faitufulである(すなわちF:A(A,B)B(FA,FB)が擬同型)であり,{FAAA}のlocalizing subcategoryがD(B)に一致していることと,ALX:D(A)D(B)が圏同値であることは同値である.実際,前者の条件はB(FA,FB)Cdg(B)(FA,FB)=Cdg(B)(X(,A),X(,B))から(a)の条件を満たしていることがわかり,(b)と(c)の条件はFAのcompact性とそのlocalizing subcategoryが全体に一致しているところから従う.

間違っている点などありましたらご指摘いただけますとありがたいです.

謝辞

この内容は著者の参加するDG圏の自主ゼミで取り上げられたものです.ゼミメンバーの皆様に感謝いたします.

参考文献

  • [Kel94] B. Keller, Deriving DG categories, Ann. Sci. École Norm. Sup. (4) 27 (1994), no. 1, 63--102.
投稿日:20201224
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  1. 言葉の意味と記号について
  2. 記事の概要
  3. 準備
  4. 定理1の証明と具体例
  5. 謝辞
  6. 参考文献