言葉の意味と記号について
この記事では,記号を以下の意味で使用します.
: 可換環
: 上の加群の複体からなるdg圏
: dg圏からへの(反変)dg関手からなるdg圏
: dg圏の導来圏
: (米田埋め込みにより同一視された)を含み直和因子で閉じるの最小の三角部分圏(のperfect derived category)
: の対象のsubsetを含む最小のlocalizing部分圏
準備として,acyclic,K射影的,右K射影的を定義します.
acyclic
をdg圏とする.がacyclicであるとは,任意のに対してが複体の意味でacyclicであることをいう.
K射影的
をdg圏とする.がK射影的であるとは,任意ののacyclicな対象に対してが複体としてacyclicであることをいう.
右K射影的
をdg圏とする.が右K射影的であるとは,任意のに対してがK射影的であることをいう.
右K射影的な対象の例
をdg圏,をdg関手とする.このとき,は右K射影的である.実際,任意のを代入するととなる.これをと表すことにすると,任意のacyclicな対象に対して,米田の補題からであり,がacyclicであるから両辺次のホモロジーを取ることでが成立し,はK射影的である.よっては右K射影的であることがわかる.
は反変dg関手であるため,ですが,ここではをと同一視してに対しての形で表記すると約束しておきます.
記事の概要
今回の主題は以下の定理です.テンソル関手の左導来関手が圏同値関手である条件を与えます.
[Kel94, Section 6.1]
を右K射影的な対象とする.このとき,
が圏同値関手であることと次の3条件が全て成立することが同値である.
(a) 任意のについて,
が擬同型.
(b) 任意のに対して,.
(c) とする.このとき,が成立している.
ただし,(a)におけるのホモロジーは米田の補題で同一視したのものを考えます.これは
dg圏の導来圏におけるcompact generatorと圏同値性
の定理1の応用です.
準備
まず準備から入ります.
随伴性と米田の補題から
したがって,両辺0次ホモロジーを取って,米田の補題からを得る.
定理1の証明と具体例
本題の証明に入ります.
定理1
dg圏の導来圏におけるcompact generatorと圏同値性
の定理1から,が圏同値であることと次の3条件が同値である.
(a') 任意のとに対して
(b') 任意のに対して,である,
(c') はのgeneratorである.
ここで,のK射影性(例1を参照)からであり,さらに命題2からである.よって,(b'),(c')はそれぞれ定理1の(b),(c)と同値である.よって,(a')と(a)の同値性を示せば良い.(a)の両辺次コホモロジーを取った表示が(a')となることがのK射影性とのK射影性からわかるので示された.
定理1の具体例
をdg圏,をdg関手とする.は右K射影的であることは例1で見た.このとき,定理1からがquasi-fully faitufulである(すなわちが擬同型)であり,のlocalizing subcategoryがに一致していることと,が圏同値であることは同値である.実際,前者の条件はから(a)の条件を満たしていることがわかり,(b)と(c)の条件はのcompact性とそのlocalizing subcategoryが全体に一致しているところから従う.
間違っている点などありましたらご指摘いただけますとありがたいです.
謝辞
この内容は著者の参加するDG圏の自主ゼミで取り上げられたものです.ゼミメンバーの皆様に感謝いたします.
参考文献
- [Kel94] B. Keller, Deriving DG categories, Ann. Sci. École Norm. Sup. (4) 27 (1994), no. 1, 63--102.