この記事においてのEuler-Maclaurinの定理とは, 次を指すものとする.
$m,n$を$m< n$である整数とする. 実数値関数$f$が区間$[m,n]$で減少するとき,
\begin{align}
\sum_{k=m+1}^nf(k)\leq\int_m^nf(t)dt\leq \sum_{k=m}^{n-1}f(k)
\end{align}
が成り立つ. 特に, 実数$x$に対して$f$が$[1,x]$上の非負な減少関数であれば, 次が成り立つ.
\begin{align}
\int_1^xf(t)dt\leq\sum_{1\leq k\leq x}f(k)\leq f(1)+\int_1^xf(t)dt
\end{align}
$f$が有界閉区間でRiemann積分可能であることを認めているかに思えるが, 実はその必要はない. 実際,
Lealzさんの記事
で, 有界閉区間上の減少関数は積分可能であることが証明されている.
定理$1$の後半において$x\to\infty$を考えれば, $\sum_{k=1}^\infty f(k)$が収束することと$\int_1^\infty f(t)dt$が収束することは同値なことが分かる. そのため, この定理はDirichlet級数の絶対収束域を求めるのにしばしば利用される.
ゼータ関数$\zeta(s)=\sum_{n=1}^\infty n^{-s}$は$s$の実部が$1$より大きい領域でのみ絶対収束する.
例1を示そう. $s$の実部を$\sigma$とおいて定理$1$の後半を適用すれば, 実数$x$に対して
\begin{align}
\int_1^x\frac{1}{t^\sigma}dt\leq \sum_{1\leq n\leq x} \frac{1}{n^{\sigma}}\leq 1+\int_1^x\frac{1}{t^\sigma}dt
\end{align}
が成り立つので, $\int_1^x t^{-\sigma}dt$の$x\to\infty$における収束域を求めればよい.
\begin{align}
\int_1^x \frac{1}{t^\sigma}dt
&=
\left\{
\begin{array}{l}
\left[\frac{t^{1-\sigma}}{1-\sigma}\right]_1^x&\quad\pas{\sigma\neq1} \\
\left[\log t\right]_1^x&\quad \pas{\sigma=1}
\end{array}
\right.\\
&=
\left\{
\begin{array}{l}
\frac{1}{\sigma-1}-\frac{x^{1-\sigma}}{\sigma-1}&\quad \pas{\sigma\neq1} \\
\log x&\quad\pas{\sigma=1}
\end{array}
\right.
\end{align}
だから, $x\to\infty$で収束するのは$\sigma>1$の場合に限る.
このようにして, 特定のDirichlet級数の絶対収束域を求めることができる. では, 定理$1$の証明に移ろう.
$f$は$[m,n]$で減少する故, 各$k=m+1,\ldots,n$に対して
\begin{align}
f(k)\leq\int_{k-1}^k f(t)dt\leq f(k-1)
\end{align}
が成り立つ. この辺々を$k$に関して足せば, 前半を得る. 後半は,
\begin{align}
\sum_{1\leq k\leq x}f(k)=\sum_{k=1}^{\floor{x}}f(k)
\end{align}
に注意しつつ$(\text{$\floor{x}$は$x$以下の最大の整数を表わす})$, 適宜前半を使えば
\begin{align}
\int_1^xf(t)dt
&=\int_1^{\floor{x}}f(t)dt+\int_{\floor{x}}^xf(t)dt\\
&\leq\sum_{k=1}^{\floor{x}-1}f(k)+f(\floor{x})\\
&=\sum_{1\leq k\leq x}f(k)\\
&=f(1)+\sum_{2\leq k \leq \floor{x}}f(k)\\
&\leq f(1)+\int_1^{\floor{x}}f(t)dt\\
&\leq f(1)+\int_1^xf(t)dt
\end{align}
というように示すことができる. 但し, 最後の不等式では$f$が非負である事実を用いた.
参考:共立講座 数学の輝き$6$ 素数とゼータ関数, 小山信也, 共立出版.