はじめに
この記事では類数公式の証明を行います。
類数公式とは以下のような主張のことを言うのでした。
類数公式
代数体とそのデデキントゼータ関数について、
をそれぞれの実埋め込みの個数、複素埋め込みの個数、単数規準、類数、の冪根の個数、判別式とすると
が成り立つ。
これの証明の肝となるのはディリクレの単数定理になります。
ディリクレの単数定理とはについて
ディリクレの単数定理
の任意の単数は基本単数とあるの冪根によって
の形に一意的に表される。
という主張でした。実際には以下に示す別の形の主張を用いることになります。
の個の異なる共役写像をがで実埋め込み、で複素埋め込みかつとなるようにおく。
このとき写像を
で定める。
なおディリクレの単数定理の証明については
代数的整数論 - 中川仁
のp.42-p.50によく書かれているので私の記事では紹介しないつもりです。
用語の解説
今回の記事ではいろんな記法・記号が登場するので一度ここにまとめておく。
先の定義ではのへの像はと表さなければいけなかったが一々を書くとごちゃごちゃしてしまうのでこれを単にと表すこととする。
上でも色々定義したようにがかかで場合が分かれることが多いので議論を簡潔にするため補助的な因子をにおいて、においてとして導入しておく。
上のノルムを
と定義します。このときであったので
が成り立ちます。
ちなみにこの記事では写像が多用されます。代数的数のノルムにイデアルのノルムに上のノルム、そして領域内の格子点の個数といった具合です。少しややこしいですが注意して読んでれば混同することはないと思います。
に含まれるの冪根全体からなる集合をとおきます。一般に体の有限部分乗法群は巡回群となるのではの原始乗根によって生成される巡回群となります。(別に一般論を持ってこなくてもが巡回群であることは容易に示せます。)
は個の体の直積であるとして考えると積が考えられます。このときはそれぞれ
という関係によって準同型となります。
証明のあらすじ
まずデデキントゼータ関数が
という形の級数の個の和に等しいことを示し、またある次元の格子とある領域があってつまり
との世界に落とし込めることを示す。
次にある条件を満たす格子と領域と上の正値写像に対して定まる関数
がの基本胞体の体積とのある単位的な集合の体積について
が成り立つことを示す。
最後に
を示すことで
を得る。
デデキントゼータ関数の分割
のイデアル類群をとおくと
(ただしは分数イデアルではなく整イデアル(つまりのイデアル)として渡る。)
と変形でき、類数は有限であるので以降は内部の和
について考える。
いまの逆元から任意に整イデアルを一つ取りとおく。
このとき任意のにあるがあってが成り立ち、
逆に任意のにあるがあってが成り立つので
およびに注意すると
と変形できる。(ただしこれは単項イデアルのうちなるもの全体を渡るものでが全体を渡るわけではない。)
そしてがを満たすときある単数があってが成り立つので同値関係をで定義すると
と表すことができる。
上の表現
の基底と基本領域
定理3で言及したようににおいては線形独立であり、またの各成分の和はに等しいので、それらが生成する部分空間はと特徴づけられる。
よってとおくとであるから個のベクトルはの基底となる。
ここでの基本領域というものを定める。
基本領域
の部分空間がの基本領域であるとは任意のが以下の条件を満たすことをいう。
の基本領域は錐(cone)である。
つまりは空ではなく、ならば任意のにが成り立つ。
任意のとについて、、なのでとなる。また、、であるからつまりがわかる。
本題
この説では以下の定理を示す。
この定理が示されればに注意すると
と表すことができることになる。
と表したとき、とおくと
となる。またの第一成分の偏角をとおき、なる整数およびなるの原始乗根を取りとおくとおよびであってが成り立つ。
またなる二通りの表示があったとき、のの係数を比較するとでなければならず、
この記事
の補題2からとなることに注意するとあるにつまりとなる。
いまであって、この両辺の第一成分の偏角を比較するとでなくてはならないがなのでつまりとなり、を得る。
定理5の証明
任意のの元についてであってなるがただ一つ存在することを示せばよい。
そのことはとし、とおくとが成り立ち、またならばなので表現の一意性からでなくてはならないことからわかる。
の計算
この記事では最終的に
を示すがこの節ではより一般的に以下の公式を示す。
を含まない錐上の写像が以下の条件を満たすものとする。
- 任意のおよびについてが成り立つ。
- が有界で次元体積を持つ。
このとき次元格子(つまりは階数の自由-加群)について
と定める。
このときの基本胞体(fundamental parallelepiped)の体積(つまりの基底に対する)をとおくと以下の事実が成り立つ。
一応以下の事実を補題として触れたうえで証明を記す。
これは次元体積というものが超立方体への無限の分割によって定義されたようにを個の基本胞体(体積)に分割したらが出てくるという程度の話である。
定理7
いまの全ての元をによる像が小さい順に並べ替えたものをとおき、とおく。
このときおよびの取り方よりは全てに含まれることになる。よってが成り立つ。
また任意のについてはに属さないのでとなり、これらをで割ることで
つまり
を得る。
さていま任意のにあるがあってで
これを乗して足し合わせることで
となりの収束性からもで収束し、また
および
に注意すると先の不等式にをかけてとすることで
となりは任意であったので結局
を得る。
いま線形空間としてという同型によってとみなせばの基本領域上の写像および格子について定理7が適用でき、
が成り立つので残るはの体積との基本胞体の体積を求めればよい。
具体的にそれぞれの値は以下のようになる。
さてこの記事におけるラスボスの計算は後にして、まずを求める。
の計算
いまの基底をとおくとの基底はとなる。いまをとみなしていたのでにおいて、においてとおくと
となる。
いまにを足し、の倍からを引き、適当に列を入れ替えると
よって
を得る。
の計算
まずの基本領域に対するが有界であることを示す。
任意のについて
の各成分を比較するとおよびからによらずとなるようなある定数が取れる。つまりとなり主張を得る。
次にを元におよびを定め、の代わりにの体積を考える問題に帰結させる。
をなるの原始乗根とし、をで定め、とおく。
このときが成り立つ。
上の線形変換の表現行列は
であり、その行列式はとなるのでからがわかる。
また、、からは
なる全体の集合であり、特につ目の条件からであればとは互いに素となるので
を得る。
いまは
なる全体の集合であり、どちらの条件も各成分の絶対値に対する制限となっているのでは各成分の符号について対称性があることがわかる。つまりに対しての成分をで置き換えた点もに含まれることになる。
よってを符号の置換とみなせば
となる。いま右辺は直和であり、から両辺の体積を取ることでを得る。
以上より以下の等式を示すことで類数公式の証明は完結する。
の積分表示
を適当に変数変換して計算することで示す。
まずと変数変換するとそのヤコビ行列は
であるからヤコビアンはであり、またから領域は
という条件によって定まる領域に写される。これは(補題13でも触れたように)に対する制限がないので
となる。
さらにを変数として
と変数変換すると
なのでそのヤコビアンは
であり、最後の行列の一番下の行に他の全ての行を足すとなので結局
となる。
またに注意すると領域の一つ目の条件はに、二つ目の条件はに置き換わるので
と求まる。