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大学数学基礎解説
文献あり

Kummerの補題

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はじめに

 この記事ではnが正則素数であるときのフェルマーの最終定理セカンドケースの証明において用いられるKummerの補題について解説していきます。
 Kummerの補題の主張は以下の通りです。

Kummerの補題

 正則素数pについてZ[ζp]の単数upを法としてある有理整数と合同であるとき、ある単数εが存在してu=εpが成り立つ。

 なおこの記事では1の原始p乗根ζpを単にζと表します。

用語の解説

 以下では様々な(見慣れない)概念が登場するのでそれらについて説明を付けておく。

Zp[ζ](=Zp[1ζ])

 p進数整数環Zpζを付加した環。あるいはZ[ζ]ordp(1ζ)=1/(p1)なる付値によって完備化した環。

R×,R+

 左から環Rの可逆元全体、環Rの実なるもの全体を表す。
 ここでZp[ζ]の元が実であるとは複素共役写像:ζζ1に対して不変であることをいう。

指数、対数(ex,logx)

 ここで扱われる数は実数ではなくp進数であるので普段使われる指数や対数は扱えない。そこでp進数体上の指数、対数は
ex=n=0xnn!,log(1+x)=n=0(1)n1xnn
によって定義される。
 p進数体において級数nanの収束はlimnordp(an)=と同値であり、 ルジャンドルの公式 から
ordp(xn/n!)=n(ordp(x)1p1)()p1
なのでexordp(x)>1p1で収束し、log(1+x)は簡単な議論によりordp(x)>0で収束することがわかる。
 また積や和を考えることで(exlog(1+x)が収束する限り)実数と同じ指数法則が成り立つこともわかる。

証明のあらすじ

 まずとある単数δ2,δ3,,δmによってZp[ζ]+の基底
{1,log(δ2p1),log(δ3p1),,log(δmp1)}
が構成されることを示す。
 このとき仮定よりup11(modp)特にlog(up1)pZp[ζ]+であることから
nlog(up1)=k=2mpfklog(δkp1)
と表せ、すなわちv=k=2mδkfkなる単数によってun=vpと表せる。
 したがってnx+py=1なる整数x,yを取りε=uyvxとおくと
u=(un)x(uy)p=εp
が得られることになる。

補題パート1

 ここではまず通常の円分体Z[ζ]における単数の性質を考える。

 任意の共役元の絶対値が1なる代数的整数α1の累乗根となる。
 特にγQ(ζ)についてγ/γが代数的整数であればγ/γ1の累乗根となる。

 任意の共役元の絶対値が1で次数がdegα以下なる代数的整数βについて、その最小多項式の各係数はβの共役元についての対称式であるから次数の制約も踏まえるとβによらないある定数でおさえられることになる。
 そのような多項式ひいてはβは高々有限個であり、つまりあるmnにおいてαm=αnが成り立たなくてはならない。よってαは1の累乗根である。
 またGal(Q(ζ)/Q)の元σと複素共役は可換、つまりσ(γ/γ)=σ(γ)/σ(γ)が成り立つことに注意すると主張を得る。

 Z[ζ]に属する1の累乗根はあるnによって±ζnと表せるもので尽くされる。

 素数qについてζqZ[ζ]とすると単項イデアル(q)Z[ζ](q)=(1ζq)q1と分解されなければならないが、Dedekindの判別定理からZ[ζ]を割り切らない素数、つまりp以外の素数は不分岐であるのでq1=1またはq=pでなければならないことがわかる。

 εZ[ζ]×に対してある整数rZ[ζ]+の単数εがあってε=ζrεが成り立つ。

 補題2,3よりε/ε=±ζaと表せ、このとき
ε=f(ζ)(f(x)Z[x])
とおくと、ζζ1(mod1ζ)より
ε=f(ζ)f(ζ1)=ε(mod1ζ)
つまり
ε/ε=±ζa±11(mod1ζ)
が成り立つので11(mod1ζ)に注意するとε/ε=ζaとなることがわかる。
 また2ra(modp)つまりε=ζ2rεなるrをとりε=ζrεとおくと
ε=ζrε=ζrε=ε
よりεは実数となり、ε=ζrεと表せることがわかった。

補題パート2

 次にp進数上の円分体Zp[ζ]の持つ性質を考える。

πp1+p=0,πζ1(modπ2)
を満たすようなπZp[ζ]がただ一つ存在する。

α=p(1ζ)p1
とおいたとき、ウィルソンの定理(p1)!1(modp)に注意すると
α=n=1p11ζn1ζ=n=1p1k=0n1ζkn=1p1k=0n11=(p1)!1(mod1ζ)
が成り立つ。したがって
F(x)=xp1αZ[ζ]
とおくとこれは
F(1)0(mod1ζ),F(1)0(mod1ζ)
を満たすので Henselの補題 からγp1α=0なるγZp[ζ]が存在することがわかる。
 そのようなγに対してπ=(ζ1)γとおくとこれは主張を満たす。実際まず
πp1+p=(ζ1)p1α+p=0
であり、γ1(mod1ζ)およびこのことからγZp[ζ]×が成り立つことに注意すると
π(ζ1)π2=γ1ζ11γ2Zp[ζ]
つまりπζ1(modπ2)がわかる。
 後は一意性を示せばよい。いま
πp1+p=0,πζ1(modπ2)
なるπを取ると、πp1=p=πp1よりπ=ζp1kπと表せる。このときZp[ζ]のイデアルとして(π)=(π)が成り立つので
ζp1kπ=πζ1π(modπ2)
つまりζp1k1(modπ)でなければならない。特にζp1k1とすると
π(1ζp1k)(p1)
が成り立つことになるが、これは(π)p1=(p)に反する。したがってπ=πとなることがわかる。

 Zp[ζ]=Zp[π]およびZp[ζ]+=Zp[π2]が成り立つ。

 前者は(π)=(1ζ)であることからわかる。
 またπp1+p=0よりπ=ζp1kπと表せ、このときζp1Zpに注意するとπ=ζp12kπ=πが成り立つのでπ=±πとなる。もしπ=πとするとZp[ζ]+=Zp[ζ]とか
ππζζ10(modπ2)
とかが成り立つことになり矛盾。したがってπ=πでありZp[ζ]=Zp[π]を踏まえるとZp[ζ]+=Zp[π2]がわかる。

補題パート3

 最後の準備として指数関数と対数関数の展開を途中で打ち切った多項式E(x),L(x)の満たす合同式について考える。

E(x)=n=0p1xnn!Zp[x]
とおくとE(π)p1(modπ2p1)が成り立つ。

 まずE(x)=1+xf(x)とおくと二項定理より
E(x)p=1+xpf(x)p+pg(x)
と表せ、またE(x)exの部分和であるからあるp次以上のZp係数多項式e(x,y)が存在して
E(x)E(y)=E(x+y)+e(x,y)
という関係が成り立つ、つまり
E(x)p=E(px)+xph(x)
と表せる。
 このときpg(x),(E(px)1)pZp[x]から
h(x)f(x)p=pg(x)(E(px)1)xppZp[x]
となること注意すると
g(π)=E(pπ)1p+πph(π)f(π)pE(πp)1pπpp(modπp)
つまりpg(π)πp(modπ2p1)がわかる。
 またf(0)=1(および多項定理)よりf(π)p1(modπp)がわかるので
E(π)p=1+pg(π)+πpf(π)p1πp+πp=1(modπ2p1)
を得る。

 E(kπ)ζk(modπp)が成り立つ。

 上と同様にE(kx)=E(x)k+xph(x)と表せることから
E(kπ)E(π)k(modπp)
が成り立つのでE(π)ζ(modπp)を示せばよい。
 いまπの定義より
E(π)1+πζ(modπ2)
が成り立つのでζ1E(π)=1+π2γなるγを取ると
E(π)p=(1+π2γ)p=1+pπ2γ+(p2)π4γ2+1(modπ2p1)
より少なくともpπ2γ0(modπ2p1)つまりπ2γ0(modπp)でなければならず、したがって
E(π)=(1+π2γ)ζζ(modπp)
を得る。

 x0(modπ)ならばnp+1においてordp(xn/n)1が成り立つ。特にlog(1+x)L(x)+xpp(modp)
が成り立つ。

 不等式ordp(πn/n)1つまりn/(p1)ordp(n)+1の成立する条件を考えると
ordp(n)=0のときnp1で成立
ordp(n)=1のときn2(p1)よりnpで成立
ordp(n)2のとき
n/(p1)>n/ppordp(n)13ordp(n)1ordp(n)+1
より無条件で成立するので以上よりnp+1で不等式が成り立つことがわかる。

L(1+x)=n=1p1(1)n1xnn
およびm=(p1)/2とおくと
L(E(x)1x)x2+n=1m1B2n(2n)!2nx2n(modxp1)
が成り立つ。ただしB2nはベルヌーイ数とした。

L(E(x)1x)log(ex1x)(modxp1)
および
(logex1x)=exex11x=12+n=1B2n(2n)!x2n1
から所望の式を得る。

単数によるZp[ζ]+の基底の構成

 以下m=(p1)/2および
η=ζp+12,εk=1ζk1ζ=η2k1η21,δk=sin(kπ/p)sin(π/p)=η(k1)εk
とおく。(δkの右辺のπは円周率のπである。)
 このときεkk(mod1ζ)つまりεkk(modπ)よりεkp11(modπ)なのでεkの対数が考えられる。

 log(εkp1)=log(δkp1)が成り立つ。特にlog(εkp1)Z[ζ]+となる。

 plogζ=log(ζp)=0よりlogζ=0が成り立つことからわかる(logζの値は複素関数としてのlogとは異なることに注意する)。

log(εkp1)n=1m1B2n(2n)!2n(1k2n)π2n(modp)
が成り立つ。

εkp1=εkp/εkkpζ1ζk1kπζk1ζ1π(modp)
および補題8に注意すると
log(εkp1)log(ζ1π)log(ζk1kπ)log(E(π)1π)log(E(kπ)1kπ)(modp)
が成り立つ。
 また
1p(E(π)1π1)p=1πp1(n=2p1πn1n!)p=π(n=2p1πn2n!)pπn=2p1(πn2n!)pπ(12!)pπ2(modp)
に注意すると補題9,10より
log(E(π)1π)L(E(π)1π)π2n=1m1B2n(2n)!2nπ2n(modp)
および同様にして
log(E(kπ)1kπ)n=1m1B2n(2n)!2nk2nπ2n(modp)
が成り立つので主張を得る。

 pが正則素数のとき
{1,log(ε2p1),log(ε3p1),,log(εmp1)}
Zp[ζ]+Zp上の基底となる。

 補題6よりZp[ζ]+=Zp[π2]の基底として
{1,π2,π4,,π2(m1)}
が取れるので
[1log(ε2p1)log(εmp1)]=[1π2π2(m1)]A
なる行列AZp上で可逆であること、特にdetAZp×つまりdetA0(modp)となることを示せばよい。
 いま補題12はj1に対し
Ai+1,jB2i(2i)!2i(1j2i)(modp)
となることを意味しており、したがって
B=(10000221321(m1)210241341(m1)4102p313p31(m1)p31)
とおくと
detAdetBn=1m1B2n(2n)!2n(modp)
が成り立つ。またdetBはヴァンデルモンド行列
detB=|111112232(m1)212434(m1)412p33p3(m1)p3|
に変形できるので
detB=0<i<j<m(j2i2)0(modp)
であり、pの正則性からB2,B4,,Bp30(modp)なのでdetA0(modp)が示された。

証明

Kummerの補題(再掲)

 正則素数pについてZ[ζ]の単数upを法としてある有理整数と合同であるとき、ある単数εが存在してu=εpが成り立つ。

 補題4からu=ζruなるu(Z[ζ]+)×を取ると、uZp[ζ]+=Zp[π2]よりあるbZが存在して
ub0(modπ2)
が成り立ち、またπ1ζ(modπ2)より
ζr(1+π)r1+rπ(modπ2)
なのでub+brπ(modπ2)となる。
 このとき仮定よりbr0(modp)でなければならず、b0よりr0つまりu=u(Z[ζ]+)×を得る。特にuは実数となるのでu>0としてよい。
 いま定理13からZ[ζ]+の単数δ2,δ3,,δmZ上乗法的に独立なのでディリクレの単数定理より
un=k=2mδkek(gcd(n,e2,e3,,em)=1)
なるn,ekが取れる(※)。この両辺をp1乗してZp[ζ]上で対数を取ると
nlog(up1)=k=2meklog(δkp1)
となり、仮定よりup11(modp)つまりlog(up1)pZp[ζ]+が成り立つので定理13から各ekpで割り切れなければならない。
 このとき
v=k=2mδkek/p=un/p
とおくと、n,ekの取り方からpnなのでpx+ny=1なるx,yZが存在し
u=upx+ny=(uxvy)p
つまりuは単数ε=uxvyp乗として表せることが示された。

 ちなみに(※)を記した部分にpの正則性は本質的に関係なく、実際 この記事 の補題6から
uhK+δ2,δ3,,δm
となることが直ちに従う。

参考文献

投稿日:20201129
更新日:2024111
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 用語の解説
  3. 証明のあらすじ
  4. 補題パート1
  5. 補題パート2
  6. 補題パート3
  7. 単数による$\Z_p[\z]^+$の基底の構成
  8. 証明
  9. 参考文献