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大学数学基礎解説
文献あり

素数pがベルヌーイ数を割り切らないなら正則素数である

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はじめに

 この記事では 前回の記事 に引き続き以下の主張を示していきます。

 素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3のいずれも割り切らなければ、pは円分体Q(ζp)の類数も割り切らない。

 今回の記事では クンマーの補題の記事 で証明の肝となった以下の主張(定理13)が重要となってきます。

 素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3を割り切らないとき
{1,log(δ2p1),log(δ3p1),,log(δmp1)}
Zp[ζ]+Zp上の基底となる。

 ただしlogxp進数上の対数関数
logx:=n=1(1)n1(x1)nn
であり
m=p12,η=ζpp+12,δk=ηkηkηη1=sin(kπ/p)sin(π/p)
としました。
 以下、複素関数としての対数はlnxと書き分け、また1の原始p乗根ζpζと表します。

証明のあらすじ

 K=Q(ζ),K+=Q(ζ+ζ1)について 前回の記事 から
hK(k=1m112B2k2k)hK+(modp)
であったので、仮定よりhK+pで割り切れないことを言えばよい。
 まず単数群E=(Z[ζ]+)×δ2,δ3,,δmのなすその部分群E0を考えたとき、類数公式
hK+=pm122m1RK+χ:evenL(1,χ)
からhK+がその指数|E/E0|に一致することを示す。
 そしてp|hK+であると仮定すると
εp=k=2mδkck(gcd(p,c2,c3,,cm)=1)
なるεEが取れることを示す。
 しかしZp[ζ]においてこのp1乗の対数を取ると
plog(εp1)=k=2mcklog(δkp1)
となるので定理2よりすべてのckpで割り切れなければならず矛盾を得る。

hK+の変形

hK+=(1)m1RK+χ:evenχχ0(a=1mχ(a)ln|1ζa|)

 いま この記事 から
ζK+(s)=χ:evenL(s,χ)
と表せたので、χ=χ0(自明な指標)のときつまりL(s,χ0)=ζ(s)であることを除いてL(1,χ)は収束することに注意すると類数公式より
lims1(s1)ζK+(s)=χ:evenχχ0L(1,χ)=2mhK+RK+wK+|DK+|=2mhK+RK+2pm12
つまり
hK+=pm122m1RK+χ:evenχχ0L(1,χ)
が成り立つ。
 また この記事 の公式3からχ:evenに対し
L(1,χ)=τ(χ)pa=1p1χ(a)ln|1ζa|=τ(χ)p(a=1mχ(a)ln|1ζa|+a=1mχ(a)ln|1ζa|)=τ(χ)p2a=1mχ(a)ln|1ζa|
と表せるので、 前回の記事 の補題8と同様にして
χ:evenχχ0τ(χ)p=pm12
が成り立つことに注意すると
hK+=(1)m1RK+χ:evenχχ0(a=1mχ(a)ln|1ζa|)
を得る。

hK+の意味付け

 位数nの有限アーベル群
G={σ1,σ2,,σn}
と写像f:GCに対し正方行列AMn(C)A=(f(σi1σj))i,jによって定める。
 このとき
detA=χG^(σGχ(σ)f(σ))
が成り立つ。

 Aの線形独立なn個の固有ベクトルがそれぞれ固有値
σGχ(σ)f(σ)
を持つことを言えばよい。
 いまCnの標準基底をe1,e2,,enとおくと各χG^に対し
Ak=1nχ(σk)ek=k=1nχ(σk)i=1nf(σi1σk)ei=i=1nχ(σi)eiσGχ(σi1σ)f(σi1σ)=(k=1nχ(σk)ek)(σGχ(σ)f(σ))
が成り立つのでAσGχ(σ)f(σ)を固有値に
xχ=k=1nχ(σk)ek
を対応する固有ベクトルに持つことがわかる。
 またχ,χG^に対してxχ,xχの内積
(xχ,xχ)=k=1nχ(σk)χ(σk)=σGχ(σ)χ(σ)1
を考えると任意のσGに対し
χ(σ)(xχ,xχ)=σGχ(σσ)χ(σ)1=σGχ(σ)χ(σ1σ)1=χ(σ)(xχ,xχ)
が成り立つのでχχならば(xχ,xχ)=0でなければならない。したがって
{xχχG^}
Cnの直交系をなす、特に線形独立であることがわかる。

 写像f:(Z/pZ)×Cf(a)=ln|1ζa|によって定め
A=(f(ij))i,jMp1(C)
とおく。このとき
hK+=1RK+|detA|lnp
が成り立つ。

 f(a)=f(a)に注意するとf(Z/pZ)×の商群
G=(Z/pZ)×/{±1}={1,2,,m}
からCへの写像ともみなせる。したがって
a=1mf(a)=12ln|a=1p1(1ζa)|=12ln|Φp(1)|=lnp
および
G^={χ|Gχ:even}
に注意すると上の補題より
(lnp)(1)m1RK+hK+=(a=1mf(a))χG^χ1(a=1mχ(a)f(a))=χG^(a=1mχ(a)f(a))=det(f(i1j))
が成り立つ(ただしi1ai1(modp)なる整数aの意)。
 またこの両辺の絶対値を取り(f(i1j))の行を適当に入れ替えることで主張を得る。

E={ε(Z[ζ]+)×ε>0},E0=δ2,δ3,,δm
とおくとhK+=|E/E0|が成り立つ。

i=1mf(ij)=a=1mf(a)=lnp
に注意してA=(f(ij))の1行目に他のすべての行を足し合わせることで
hK+=1RK+|det(111f(2)f(4)f(2m)f(3)f(6)f(3m)f(m)f(2m)f(m2))|
となり、この1列目を他の全ての列から引くことで結局
hK+=1RK+|det(f(ij)f(i))2i,jm|
が成り立つ。
 いまK+上の共役写像σk(k=1,2,,m)σk(ζ)=ζkによって定めると
f(ij)f(i)=ln|1ζij1ζi|=ln|ηijηijηiηi|=ln|σi(δj)|
と表せ、またK+の基本単数をε2,ε3,,εmとおくと単数規準の定義から
RK+=det(ln|σi(εj)|)2i,jm
と表せるので
δj=i=1m1εkci,j
つまり
[lnδ2lnδ3lnδm]=[lnε2lnε3lnεm]C
なる整数行列C=(ci,j)2i,jmを取ると
hK+=|det(ln|σi(δj)|)|det(ln|σi(εj)|)=|detC|=|E/E0|
を得る。

証明

 素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3のいずれも割り切らなければ、pは円分体Q(ζp)の類数も割り切らない。

  前回の記事 の定理12系からphK/hK+を割り切らないので、phK+を割り切らないことを示せば十分である。
 いまphK+ひいては|E/E0|を割り切ると仮定する。このときεE0かつεpE0なるεEが存在し、またεpE0から
εp=k=2mδkek
とおくとεE0からあるkに対しpekが成り立つ。
 しかしZp[ζ]上でこのp1乗のlogを取ると
plog(εp1)=k=2meklog(δkp1)
となるので定理2よりすべてのkに対しpekが成り立たなければならず矛盾を得る。

 ちなみにこの証明からもわかるように上の主張は
phK/hK+phK+
とも言い換えられるが、実はこの後者の命題は恒等的に真なのではないかと予想されている。

Kummer–Vandiver予想

 素数pが実円分体Q(ζp+ζp1)の類数を割り切ることはない。

参考文献

参考文献

[2]
Z. I. Borevich and I. R. Shafarevich, Number Theory, Academic Press, 1966, pp.359-362, p.376, p.421 PROBLEMS 13
投稿日:20201219
更新日:2024111
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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