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大学数学基礎解説
文献あり

素数pがベルヌーイ数を割り切るなら非正則素数である

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はじめに

 この記事では素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3のいずれかを割り切るならば非正則素数であることの証明を行います。
 正則素数とは次のように定義されるもののことを言いました。

 円分体K=Q(ζp)の類数hKpが割り切らないとき、そのようなpを正則素数という。

 ここでζpとは1の原始p乗根のひとつとします。
 pが正則素数であることと同値な条件として以下の命題が知られています。

Kummer's criterion

 素数pが正則素数であることとpがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3を割り切らないことは同値である。

 この記事ではひとまずベルヌーイ数を割り切ることが類数を割り切ることの十分条件であることを示します。必要性の解説については 次回の記事 で行います。
 なおここでは以下の事実を既知として扱います。

類数公式

 代数体Kに対し
r1:実埋め込みの個数
r2:複素埋め込みの個数
hK:類数
RK:単数基準
WK1の冪根の個数
DK:判別式
ζK(s):デデキントゼータ関数
とおくと
lims1(s1)ζK(s)=2r1(2π)r2hKRKwK|DK|
が成り立つ。

証明のあらすじ

 デデキントゼータ関数のL関数による分解
ζQ(ζp)(s)ζQ(ζ+ζ1)(s)=χ:oddL(s,χ)
と類数公式から色々計算して
hKhK+k=1m1(12B2k2k)(modp)
が成り立つことを示す。
 これによりpB2,B4,,Bp3のいずれかを割り切ればphK/hK+つまりphKとなることが示される。

補題パート1

 以下
K=Q(ζp),K+=Q(ζp+ζp1),m=(p1)/2
とする。

RK/RK+=2m1

  この記事 の補題4よりμp=ζpとおくとOK×=μp×OK+×が成り立つ。つまりKK+はともに同じ基本単数ε1,ε2,,εm1を持つ。
 したがってRKRK+σiが実埋め込みであるか複素埋め込みであるかの違いによる
RK=|det(2log|σi(εj)|)|,RK+=|det(log|σi(εj)|)|
という2m1のずれを除いて一致するので主張を得る。

wK/wK+=p

  この記事 の補題3として示したようにKに含まれる1の冪根は
±ζpk(k=0,1,2,,p1)
2p個で尽くされ、またK+に含まれる1の冪根は±12個しかないため
wK/wK+=2p/2=p
を得る。

|DK|/|DK+|=pm2

  この記事 よりDK=pp2=p2m1 この記事 よりDK+=pm1であったことからわかる。

ζK(s)ζK+(s)=χ:oddL(s,χ)
が成り立つ。ただしχ:oddは法pの奇なるディリクレ指標全体を渡る。

  この記事 より
ζK(s)=χ:primeL(s,χ),ζK+(s)=χ:evenL(s,χ)
であったことからわかる。

 χ:oddに対して
L(1,χ)=τ(χ)πip(1pa=1pχ(a)a)
が成り立つ。

 法pの自明でないディリクレ指標は全て原始的であるので この記事 の公式2より
L(1,χ)=τ(χ)πip(B1,χ)
が成り立ち、また同記事の定理4の証明より
B1,χ=a=1pχ(a)B1(ap)
が成り立つのであった。
 したがってB1(x)=x12であることに注意すると主張を得る。

χ:oddipτ(χ)=pm2

 法pの奇指標はp12=m個であってまた|τ(χ)|=p12なので符号が正であることを示せばよい。

p1(mod4)のとき

 ルジャンドル記号(p)は奇指標ではないため実なる奇指標χは存在せず、また
τ(χ)=χ(1)τ(χ)=τ(χ)
に注意すると
χ:oddτ(χ)p=(χ:oddτ(χ)τ(χ)p)12=(χ:odd(1))12=χ:oddi
を得る。

p3(mod4)のとき

 ルジャンドル記号以外に実なる奇指標は存在せず、また上と同様に この記事 から
τ((p))=ip
であったことに注意すると上と同様にして
χ:oddτ(χ)p=χ:oddi
を得る。

hK/hK+の計算

hKhK+=2pχ:odd(12pa=1pχ(a)a)

 類数公式
lims1(s1)ζK(s)=(2π)mhKRKwK|DK|lims1(s1)ζK+(s)=2mhK+RK+wK+|DK+|
に注意すると補題3,4,5より
lims1ζK(s)ζK+(s)=πm(RK/RK+)(wK/wK+)|DK|/|DK+|hKhK+=2m1πmppm2hKhK+
が成り立ち、また補題6,7,8より
lims1ζK(s)ζK+(s)=χ:oddL(1,χ)=χ:oddτ(χ)πipχ:odd(12pa=1pχ(a)a)=πmpm2χ:odd(12pa=1pχ(a)a)
と求まることから主張を得る。

補題パート2

 以下、modpの合同式はp進整数環Zp上で考える。

Sn=a=1p1an
とおくと
n0(modp1)のとき1pSnBn(modp)
n0(modp1)のときSn1(modp)
が成り立つ。

 ファウルハーバーの公式から
Sn=1n+1k=0n(n+1k)pn+1kBk=p(Bn+k=0n1(n+1k)pn1kpBk)
であってvon-Staudt-Clausenの定理からp2Bk0(modp)および明らかにpB00(modp)であることから前者が従う。
 後者についてはフェルマーの小定理から
Sna=1p11=p11(modp)
とわかる。

クンマーの合同式

 mn0(modp1)において
BmmBnn(modp)
が成り立つ。

 gpの原始根の一つとし
F(t)=gtegt1tet1=n=0Bnn!(gn1)tnG(u)=g(1+u)g11u=k=0ckuk
とおく。このとき
limu0u(1+u)g1=1gZ(p)
に注意するとckZ(p)であり、また
F(t)=tG(et1)=k=0ckt(et1)k=k=0ckj=0k(1)kj(kj)tejt=k=0ckj=0k(1)kj(kj)n=0jnn!tn+1=n=0(k=0ckj=0k(1)kj(kj)jn)tn+1n!
と表せるのでmn(modp1)において
Bmm(gm1)=k=0ckj=0k(1)kj(kj)jmk=0ckj=0k(1)kj(kj)jn=Bnn(gn1)Bnn(gm1)(modp)
が成り立つ。
 あとはgの取り方から
m0(modp1)のときgm10(modp)
m0(modp1)のときgm10(modp)
が成り立つことに注意するとわかる。

証明

hKhK+k=1m1(12B2k2k)(modp)

 gpの原始根の一つとしωをタイヒミュラー指標
ω:(Z/pZ)×Zpalimnapn
とする。このとき1の原始p1乗根ζp1に対しω(g)を対応させる埋め込み
φ:Q(ζp1)Qp
を考えると、これは同型
(Z/pZ)×^ω
を引き起こす。
 特に法pの奇ディリクレ指標はω2k1(k=1,,m)に対応するのでhK/hK+Qφを作用させることで補題9から
hKhK+=2pχ:odd(12pa=1pχ(a)a)=2pk=1m(12pa=1pω(a)2k1a)
と表せる。
 また
ω(a)ap(modp2)
および
1+p(2k1)2k(modp1)
に注意すると補題10,11からkmにおいて
12pa=1pω(a)2k1a12pS1+p(2k1)12B1+p(2k1)1+p(2k1)12B2k2k(modp)
が成り立ち、またω(a)a(modp)よりk=mにおいて
2p(12pa=1pω(a)p2a)Sp11(modp)
が成り立つので
hKhK+k=1m1(12B2k2k)(modp)
を得る。

 この合同式の系として以下が得られる。

 素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3のいずれかを割り切ることと、phK/hK+を割り切ることは同値である。

 特に今回の記事の目的である以下の主張が直ちに従う。

 素数pがベルヌーイ数B2,B4,,Bp3のいずれかを割り切るとき、pは円分体Q(ζp)の類数も割り切る。

参考文献

投稿日:20201216
更新日:2024111
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 証明のあらすじ
  3. 補題パート1
  4. hK/hK+の計算
  5. 補題パート2
  6. 証明
  7. 参考文献