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数論工具箱 (1)

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今月に入って研究や講義で忙しくMathlogで記事を書かないまま大晦日となってしまったが、今年最後に記事を書いておきたい。
数論工具箱のシリーズでは数論的関数に関する等式や不等式をいくつか語ることにしたい。数論の学習や研究、各種計算の役に立つかも知れない。

$n=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_r^{e_r}$$p_1, p_2, \ldots, p_r$ は相異なる素数)に対して
通例通りオイラー関数 $$\varphi(n)=\prod_{i=1}^r p_i^{e_i-1}(p_i-1)=n\left(1-\frac{1}{p_1}\right)\left(1-\frac{1}{p_2}\right)\cdots \left(1-\frac{1}{p_r}\right)$$$n$ 以下の、 $n$ と互に素な正の整数の個数、メビウス関数 $\mu(n)$$e_1=e_2=\cdots =e_r=1$ のとき $\mu(n)=(-1)^r$, それ以外のとき $\mu(n)=0$ と定義する。したがって $e_1=e_2=\cdots =e_r=1$ のとき $\mu^2(n)=1$、それ以外のとき $\mu^2(n)=0$ となる。
また $$\gamma(n)=\prod_{p\mid n} p=p_1 p_2 \cdots p_r$$$n$ を割り切る素数を1回ずつかけた積とする。$\mu^2(\gamma(n))=1$ がつねに成り立つ。

本記事では、次の定理を示したい。

$$\sum_{n\leq x}\frac{1}{\varphi(n)}\leq C(1+\log x), $$
ここで $C$
$$C=\prod_p\left(1+\frac{1}{p(p-1)}\right)$$
により定義される定数である。$C$
$$C=\prod_p\frac{p^2-p+1}{p(p-1)}=\prod_p\frac{p^6-1}{p(p^3-1)(p^2-1)}=\frac{\zeta(2)\zeta(3)}{\zeta(6)}$$
とζ関数であらわされる。

定理および証明はNathansonの著書の定理A.17を参考とした。

証明

$$\varphi(n)=n\prod_{p\mid n}\left(1-\frac{1}{p}\right)$$
だから
$$ \begin{split} \frac{1}{\varphi(n)}= & \frac{1}{n}\prod_{p\mid n}\left(1-\frac{1}{p}\right)^{-1} \\ = & \frac{1}{n}\prod_{p\mid n}\left(1+\frac{1}{p}+\frac{1}{p^2}+\cdots\right) \\ = & \frac{1}{n}\sum_{\substack{d\\p\mid d\Rightarrow p\mid n}}\frac{1}{d} \end{split} $$
が成り立つ。最後の和は $d$ の素因数が $n$ を割り切るような整数 $d$ すべてを走る
$d$$n$ を割り切るとは限らない。たとえば $n=6$ のとき $d=2^2$$6$ を割り切らないが $d$ の素因数は $6$ を割り切る)。
$d=p_1^{e_1} p_2^{e_2} \cdots p_k^{e_k} (e_1, e_2, \ldots, e_k>0)$ と素因数分解すると、これは $\gamma(d)=p_1 p_2 \cdots p_k$$n$ を割り切ることと一致することがわかる。それで
$$\sum_{n\leq x}\frac{1}{\varphi(n)}=\sum_{n\leq x}\frac{1}{n}\sum_{d, p\mid d\Rightarrow p\mid n}\frac{1}{d} =\sum_{d} \frac{1}{d} \sum_{n\leq x, \gamma(d)\mid n}\frac{1}{n} \ \ \ \cdots \textrm{(1)} $$
が成り立つ。ここで $n=\gamma(d)m$ とおくと
$$\begin{split} \sum_{d} \frac{1}{d} \sum_{n\leq x, \gamma(d)\mid n}\frac{1}{n} =&\sum_{d} \frac{1}{d\gamma(d)} \sum_{m\leq x/\gamma(d)}\frac{1}{m} \\ <&\sum_{d} \frac{1+\log (x/\gamma(d))}{d\gamma(d)} \ \ \ \cdots \textrm{(2)}\\ <&(1+\log x)\sum_{d} \frac{1}{d\gamma(d)} \end{split}$$
となる。右辺の分母は $d\gamma(d)=p_1^{e_1+1} p_2^{e_2+1} \cdots p_k^{e_k+1}$ であるから
右辺の分母は、どの素因数の指数も $2$ 以上である整数を1回ずつとる。よって
$$\begin{split} \sum_{d} \frac{1}{d\gamma(d)} =&\sum_{f_1, f_2, \ldots, f_k\geq 2} \frac{1}{p_1^{f_1} p_2^{f_2} \cdots p_k^{f_k}}\\ =&\prod_p \left(1+\frac{1}{p^2}+\frac{1}{p^3}+\cdots \right) \ \ \ \cdots \textrm{(3)} \\ =&\prod_p \left(1+\frac{1}{p(p-1)}\right) \end{split}$$
$C$ と一致する。

参考文献

Melvyn B. Nathanson, Additive Number Theory: The Classical Bases, GTM 164, Springer-Verlag, New York, 1996.

投稿日:20201231
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投稿者

tyamada
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主に整数論について、よく知られた話題から、自身の研究に関することまで記事にしていきます。

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