1

数論工具箱 (2)

13
0

** 謹賀新年
2021年を迎えることとなった。新年も数学研究と数学の発信に励んでいきたい。
昨日にして昨年の記事に続き、オイラー関数を含む和に関する不等式について触れていきたい。

n=p1e1p2e2prerp1,p2,,pr は相異なる素数)に対して
通例通りオイラー関数 φ(n)=i=1rpiei1(pi1)=n(11p1)(11p2)(11pr)n 以下の、 n と互に素な正の整数の個数、メビウス関数 μ(n)e1=e2==er=1 のとき μ(n)=(1)r, それ以外のとき μ(n)=0 と定義する。したがって e1=e2==er=1 のとき μ2(n)=1、それ以外のとき μ2(n)=0 となる。
また γ(n)=pnp=p1p2prn を割り切る素数を1回ずつかけた積とするμ2(γ(n))=1 がつねに成り立つ。τ(m)m の約数の個数とする。
また O(g(x)) を 絶対値が g(x) を超えない、 x の関数をあらわすときに使う。

x1<nxμ2(n)φ(n)=logxx1+O(c1logxx1+c2x(1x1+1x)),
c1=mφ(m)m2γ(m),c2=mτ(γ(m))mγ(m)

つまり、平方因子をもたない数全体でオイラー関数の逆数の和をとると、大きさはだいたい自然対数と一致する(したがって調和級数と増加の速さは一致する)ことがわかる。

下からの評価を 1 から x までの和について行っている論文として
Kevin Ford,
An explicit sieve bound and small values of \sigma(\varphi(m)),
Period. Math. Hungar. 43 (2002), 15–29
があるが、意外と上記の形の不等式を証明した文献が見当たらないので、ここで証明しておきたい。

証明

Qm(x1,x)=x1<nx,gcd(n,m)=1μ2(n)/n とおくと
x1<qxμ2(q)φ(q)=x1<qxμ2(q)qpqpp1=x1<qxμ2(q)qγ(m)q1m=m=11mγ(m)q,x1<qxμ2(q)q=m=11mγ(m)x1/γ(m)<rx/γ(m),gcd(r,m)=1μ2(r)r   (1)m=11mγ(m)Qm(x1γ(m),xγ(m))
が成り立つ。

n=n1n22n3,pn1pm,gcd(n22n3,m)=1
n3 が平方因子をもたないように n を分解する。
このとき
k2n22n3μ(k)=kn2μ(k)={1(n2=1 つまり μ2(n22n3)=1),0(n2>1 つまり μ2(n22n3)=0),
n1μ()={1(n1=1 つまり gcd(n,m)=1),0(n1>1 つまり gcd(n,m)>1)
だから
k2n,gcd(k,m)=1,mμ(k)μ()=(kn2μ(k))(n1μ())={1(gcd(n,m)=1,μ2(n)=1),0(gcd(n,m)>1 または μ2(n)=0)
となる。よって
Qm(x1,x)=x1<nx1n(gcd(n,m)μ())(kn,gcd(k,m)=1μ(k))=mμ()kx,gcd(k,m)=1μ(k)k2n,x1<nx1n=mμ()kx,gcd(k,m)=1μ(k)k2x1k2<nxk21n(2)=mμ()kx,gcd(k,m)=1μ(k)k2(logxx1+O(k2(1x1+1x)))=logxx1(mμ())(kx,(k,m)=1μ(k)k2)+mμ2()kx,gcd(k,m)=1O(1x1+1x)
が成り立つ。
主要項に現れる に関する和については
mμ()=pm(11p)=φ(m)m
が成り立つ。また k に関する和については
kx,gcd(k,m)=1μ(k)k2=gcd(k,m)=1μ(k)k2+k>x,gcd(k,m)=1μ(k)k2,
となるが、
gcd(k,m)=1μ(k)k2=pm(11p2)=1ζ(2)pm(11p2)1
および
|k>x,gcd(k,m)=1μ(k)k2|k>x1k21x1
が成り立つから、
h(m)=pm(11p2)1
とおくと
kx,gcd(k,m)=1μ(k)k2=h(m)ζ(2)+O(1x1)
となる。
誤差項において、 μ2()=1 となる の選び方は m の平方因子をもたない約数の個数を超えないから、 τ(γ(m)) を超えない。
k の選び方は明らかに x を超えないから (2)
Qm(x1,x)=φ(m)m(h(m)ζ(2)+O(1x1))logxx1+O(τ(γ(m))x1x1+1x)
が成り立つ。
よって (1) の右辺について
m=11mγ(m)Qm(x1γ(m),xγ(m))=(mφ(m)h(m)m2γ(m)ζ(2)+O(φ(m)m2γ(m)(x1)))logxx1   (3)+O((mτ(γ(m))mγ(m))x(1x1+1x))
がいえる。

mφ(m)h(m)m2γ(m)ζ(2)
を求める必要がある。m=p1e1p2e2prer と素因数分解すると
φ(m)h(m)m2γ(m)=φ(m)m×1mγ(m)×h(m)=i=1rpi1pi×1piei+1(11pi2)1
だから
mφ(m)h(m)m2γ(m)=p(1+(11p2)1p1p(1p2+1p3+))=p(1+p2p21×p1p×1p(p1))=p(1+1p21)=ζ(2)
となる。よって
mφ(m)h(m)m2γ(m)ζ(2)=1
となって1に一致してしまう。(1) と (3) から
x1<nxμ2(n)φ(n)=logxx1+O(c1logxx1+c2x(1x1+1x)),
c1=mφ(m)m2γ(m),c2=mτ(γ(m))mγ(m)
となって、定理が証明された。

投稿日:202111
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

tyamada
34
2590
主に整数論について、よく知られた話題から、自身の研究に関することまで記事にしていきます。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中