二項係数の入った有限和について色々考えたので, 暇つぶしとして記録しようと思います.
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まず, 有名等式 $\ds\sumk{0}\binom{n}{k}^2=\binom{2n}{n}$ を考えてみます. これの導出は, $(1+x)^{2n}=(1+x)^n\cdot(1+x)^n$の両辺の$x^n$の係数を見比べるのでした.
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そこで, $\ds\sumk{0}\binom{n}{k}^2t^k$ はどうなるかを考えてみましょう.
これは上と同様にして, $(1+x)^n\cdot(t+x)^n$の$x^n$の係数, と見ることができます. そこで, 今度は$\big((1+x)(t+x)\big)^n$を二項定理で展開してみようと思います.
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このままでは少し見づらいので, 中身を平方完成して$\big(a+(b+x)^2\big)^n$としたものを展開しようと思います.
$$\beq
\big(a+(b+x)^2\big)^n&=&\sumk{0}\binom{n}{k}a^{n-k}(b+x)^{2k}\\[5pt]
&=&\sumk{0}\binom{n}{k}a^{n-k}\sum_{\ell=0}^{2k}\binom{2k}{\ell}b^{2k-\ell}x^\ell\\[5pt]
&=&\sumk{0}\binom{n}{k}a^{n-k}\sum_{\ell=0}^{2n}\binom{2k}{\ell}b^{2k-\ell}x^\ell\\[5pt]
&=&\sum_{\ell=0}^{2n}\sumk{0}\binom{n}{k}\binom{2k}{\ell}a^{n-k}b^{2k-\ell}x^\ell
\eeq$$
ただしここで, 二項係数は$n< r$のとき$\binom{n}{r}=0$と約束します.
すると, これの$x^n$の係数は, $\ell=n$のとき, つまり $\ds\sumk{0}\binom{n}{k}\binom{2k}{n}a^{n-k}b^{2k-n}$ となります.
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この和についてさらに考えてみます. 今回は母関数をとってみます. 即ち
$$ f(z)=\sumn{0}\sumk{0}\binom{n}{k}\binom{2k}{n}a^{n-k}b^{2k-n}z^n$$
なる$z$の関数を考えてみましょう.
この和において$n=p+q,\ k=p$と置換してみます.
足し合わせる範囲は, 元が$0\leq k\leq n$ですから, 置換後は$0\leq p\leq p+q$即ち$0\leq p,\ 0\leq q$となります.
従って,
$$\beq
f(z)&=&\sumn{0}\sumk{0}\binom{n}{k}\binom{2k}{n}a^{n-k}b^{2k-n}z^n\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\sum_{q=0}^\infty\binom{p+q}{p}\binom{2p}{p+q}a^{q}b^{p-q}z^{p+q}\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\sum_{q=0}^\infty\frac{(p+q)!}{p!q!}\cdot\frac{(2p)!}{(p+q)!(p-q)!}a^{q}b^{p-q}z^{p+q}\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\sum_{q=0}^\infty\frac{(2p)!}{p!^2}\frac{p!}{q!(p-q)!}a^{q}b^{p-q}z^{p+q}\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\binom{2p}{p}(bz)^p\sum_{q=0}^\infty\binom{p}{q}\Big(\frac{az}{b}\Big)^q\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\binom{2p}{p}(bz)^p\Big(1+\frac{az}{b}\Big)^p\\[5pt]
&=&\sum_{p=0}^\infty\binom{2p}{p}\big(z(b+az)\big)^p
\eeq$$
と計算できます.
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ここで, Taylor展開 $\ds \sumn{0}\binom{2n}{n}z^n=\frac{1}{\sqrt{1-4z}}$ を用いれば,
$$ f(z)=\frac{1}{\sqrt{1-4z(b+az)}}$$
と書けることがわかります.
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さて, もともと求めたいのは$\big(a+(b+x)^2\big)^n$ではなく$\big((1+x)(t+x)\big)^n$の$x^n$の係数でしたので,
$$\beq
(1+x)(t+x)&=&\Big(x+\frac{1+t}2\Big)^2-\frac{(1-t)^2}{4}
\eeq$$
と平方完成して, $\ds a=-\frac{(1-t)^2}{4},\ b=\frac{1+t}2$ とわかるので, これを代入して, 以下を得ます.
実はこれは, ルジャンドル多項式と関係があるようです. (というかWikipediaにほぼ同じ式が載っていたので落ち込みました...)
それと, ルジャンドル多項式になるということで, これを具体的に$t$の多項式で明示するのは無理なようだということもわかりました.
結局この式は特に何も生み出さないように思えますね...😔
ただ, せっかく母関数を求めたので, 収束半径から, 係数のオーダーを求めてみます. 以下$t>1$とします.
このとき, $1-2(t+1)z+(t-1)^2z^2=0$ の解は $\ds z=\frac{t+1\pm2\sqrt{t}}{(t-1)^2}=\bigg(\frac{\sqrt{t}\pm1}{t-1}\bigg)^2$ となり, これを$\a,\b$とおきます. ($0<\a<\b$とします. ) すると収束半径は$\a$となります.
$$ \sumn{0}\bigg(\sumk{0}\binom{n}{k}^2t^k\bigg)z^n=\frac1{(t-1)\sqrt{(\b-z)(\a-z)}}\hspace{12pt}(|z|<\a)$$
次に, $\a$を用いて以下のように書き換えます.
$$ \sumn{0}\bigg(\a^n\sumk{0}\binom{n}{k}^2t^k\bigg)z^n=\frac1{(t-1)\sqrt{\a(\b-\a z)(1-z)}}\hspace{12pt}(|z|<1)$$
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ここで, $z\to1$とすると右辺はほとんど$\ds\frac{1}{(t-1)\sqrt{\a(\b-\a)}}$倍の$\ds\sumn{0}\frac{\binom{2n}{n}}{2^{2n}}z^n$に近く, $\ds\frac{\binom{2n}{n}}{2^{2n}}\sim\frac{1}{\sqrt{πn}}$ですので, (少し無理やりな議論に思われるかもしれません...が, )
$$\a^n\sumk{0}\binom{n}{k}^2t^k\sim\frac1{(t-1)\sqrt{πn\a(\b-\a)}}$$
即ち
$$\sumk{0}\binom{n}{k}^2t^k\sim\frac{(\sqrt{t}+1)^{2n+1}}{2\sqrt[4]{t}\sqrt{πn}}\hspace{12pt}\mathrm{as}\ n\to\infty$$
と, 漸近的挙動を予想することができます!
そしてなんとこれは, 数値計算ではほとんど正しそうなのです!
これの, 私なりの証明を考えてみたので, 次の記事 で紹介しようと思います!乞うご期待, です🥰
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