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大学数学基礎解説
文献あり

ポアソン・イェンゼンの公式

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はじめに

 この記事ではPoisson-Jensenの公式にてついて解説していきます。
 ポアソン・イェンゼンの公式にはいくつかの形がありますがこの記事では最終的に以下の主張を示します。

ポアソン・イェンゼンの公式ver.3

 |z|R上の正則関数f|z|=Rにおいて零点を持たないとき
f(z)f(z)=α:zeros|α|<R(1zα+αR2αz)+12π02π2Reiθ(Reiθz)2log|f(Reiθ)|dθ
が成り立つ。ただしαfの絶対値R未満の零点全体を(重複度込みで)渡るものとする。

 一体これが何に使えるんだといった感じですが零点と円周上の振る舞いによって記述されるこの式は複素解析と相性がいいのです。具体的には次回の記事:アダマールの因数分解定理の証明において使うことになります。
 そして上でver.3と書いた通りver.1,ver.2の主張を通してver.3を示していくことになります。

補題

 |z|<Rに対して
Lz(ω)=R2(zω)R2zω
とおくとωが円|ω|=Rを反時計回りに一周するときLz(ω)も同じ経路をたどる。

 |ω|=Rにおいて
Lz(ω)=ωω(zω)ωωzω=ω1z/ω1z/ω
と表せるので
|Lz(ω)|=|ω|=RargLz(ω)=argω+2arg(1zω)+π
が成り立つ。
 よって|z|<Rに注意するとωが円|ω|=Rを反時計回りに一周すればLz(ω)も円|ω|=Rを反時計回りに一周することになる。

 |ω|=RにおいてLz(ω)=Reiθとおくと
dωω=iR2|z|2|Reiθz|2dθ
が成り立つ。

 ζ=Lz(ω)=Reiθとおいたとき
ω=Lz1(ζ)=R2(zζ)R2zζ
およびR2=ζζに注意すると
dωω=(1zζzR2zζ)dζ=(ζζz+zζz)dζζ=|ζ|2|z|2|ζz|2dζζ=iR2|z|2|Reiθz|2dθ
を得る。

 ωが円|ω|=Rの内部全体を動くときLz(ω)も同じ領域全体を動く。

 最大値の原理より
max|ω|R|Lz(ω)|=max|ω|=R|Lz(ω)|=R
なのでω=Lz(Lz(ω))に注意すると
|ω|R|Lz(ω)|R
が成り立ち、またLzは全単射(Lz1=Lz)であることから主張を得る。

Ver.1

ポアソン・イェンゼンの公式ver.1

 |z|Rにおいて零点を持たない正則関数fに対し、|z|<Rにおいて
log|f(z)|=12π02πR2|z|2|Reiθz|2log|f(Reiθ)|dθ
が成り立つ。

 仮定及び補題4からlogf(Lz(ω))|ω|Rにおいて正則なので
logf(z)=logf(Lz(0))=12πi|ω|=Rlogf(Lz(ω))dωω
が成り立ち、またL(ω)=Reiθとすることで補題2,3から
logf(z)=12π02πR2|z|2|Reiθz|2logf(Reiθ)dθ
となるので、この実部を取ることで主張を得る。

Ver.2

ポアソン・イェンゼンの公式ver.2

 少なくとも|z|=Rにおいて極も零点も持たない有理型関数fについて、|z|<Rにおいて
log|f(z)|=α:zeros|α|<Rlog|R(zα)R2αz|β:poles|β|<Rlog|R(zβ)R2βz|+12π02πR2|z|2|Reiθz|2log|f(Reiθ)|dθ
が成り立つ。ただしα,βはそれぞれfの絶対値R未満の零点、極全体を(重複度込みで)渡るものとする。

 |γ|<Rに対し
Bγ(z)=Lγ(z)R=R(zγ)R2γz
とし
g(z)=|β|<RBβ(z)|α|<RBα(z)f(z)
とおくとg(z)|z|<Rにおいて極も零点も持たないのでVer.1が適用でき、補題2から|z|=Rにおいて|Bγ(z)|=1つまり
log|g(Reiθ)|=log|f(Reiθ)|
が成り立つことに注意すると
log|g(z)|=|α|<Rlog|Bα(z)|+|β|<Rlog|Bβ(z)|+log|f(z)|=12π02πR2|z|2|Reiθz|2log|f(Reiθ)|dθ
を得、これを適当に移項することで主張を得る。

Ver.3

ポアソン・イェンゼンの公式ver.3(再掲)

 |z|R上の正則関数f|z|=Rにおいて零点を持たないとき
f(z)f(z)=α:zeros|α|<R(1zα+αR2αz)+12π02π2Reiθ(Reiθz)2log|f(Reiθ)|dθ
が成り立つ。

 単純な式変形により
Reiθ+zReiθz=R2|z|2|Reiθz|2+R(zeiθzeiθ)|Reiθz|2
つまり
R2|z|2|Reiθz|2=Re(Reiθ+zReiθz)
であることに注意してfにVer.2を適用すると
Re(logf(z))=Re(|α|<RlogR(zα)R2αz+12π02πReiθ+zReiθzlog|f(Reiθ)|dθ)
が成り立つ。
 いま正則関数hに対しh=(xiy)Rehが成り立つことに注意して上式にxiyを作用させることで主張を得る。

参考文献

投稿日:2021117
更新日:2024114
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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