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大学数学基礎解説
文献あり

アダマールの因数分解定理

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はじめに

 この記事ではHadamardの因数分解定理について解説していきます。
 アダマールの因数分解定理は ワイエルシュトラスの因数分解定理 よりも強い主張であり、{pn}gとして具体的にどういうものが取れるのかを保証してくれるものとなっています。
 具体的には以下の主張のことをアダマールの因数分解定理と言います。

アダマールの因数分解定理

 fを位数有限な整関数、{an}fの重複度込みの0でない零点全体とし、fの位数をλ{an}の種数、指数をそれぞれp,vとおくとある多項式gがあって
f(z)=zmeg(z)n=1(1zan)exp(k=1p1k(zan)k)
が成り立つ。特にf種数h=max{p,degg}に対してhλh+1が成り立つ。

 ここで整関数fの位数、列{an}の種数、指数とは次のように定義されるもののことを言います。

λ=lim suprloglogmax|z|=r|f(z)|logr
によって定まる数λf位数
p=min{qZ | n=11|an|q+1<}v=inf{xR | n=11|an|x<}
によって定まる数p,vをそれぞれ{an}種数指数と言う。
 またfが位数有限であるとは位数λが有限であることをいう。

 アダマールの因数分解定理の嬉しさはfが有限位数であるときワイエルシュトラスの因数分解定理における{pn}が定数列として取れること、gが多項式として取れること、そしてp,deggが取りうる最小値が具体的にfの位数λにほぼ等しいことを保証してくれることにあります。

具体例

 例えばsinxについて考えると
max|z|=r|sinz|max|z|=r|eiz|+max|z|=r|eiz|2=er+er2=er
と評価できるのでその位数に関して
λlim suprloglogerlogr=1
が成り立ちます。つまりh=0,1であり、零点の種数はp=1と求まることに注意するとh=1と決定できます。
 よってある一次関数g(x)=a+bxがあって
sinx=xea+bxn=n0(1xπn)exπn=xea+bxn=1(1x2π2n2)
が成り立ち、sinxの奇関数性からb=0limx0sinxx=1からa=0と求まるので
sinx=xn=1(1x2π2n2)
sinxの因数分解公式を完全に決定することができます。
 このようにアダマールの因数分解定理は整関数を因数分解した形で議論するときに非常に役に立つ武器となります。

仮定の簡略化

 fz=0において位数mの零点を持つとき、f(z)/f(m)(0)zmを改めてfとおくことでf(0)=1としてよい。このとき
lim suprloglog(|f(m)(0)|rm)logr=0
から位数は変化しないことに注意する
 またlimn|an|=であるものとし、適当に並べ替えることで|an|は単調増加であるものとしてよい。

vλであること

v=lim supnlognlog|an|
が成り立つ。

 定義よりvはディリクレ級数
n=11|an|s=n=11eslog|an|
の収束軸であるので 収束軸の公式 より主張を得る。

 vλが成り立つ。

 |aN|<|aN+1|なるNを任意にとりf(0)=1の仮定に注意して ポアソン・イェンゼンの公式 ver.2をR=3|aN|,z=0について適用すると
log|f(0)|=|an|<3|aN|log|an3aN|+12π02πlog|f(3|aN|eiθ)|dθ=0
が成り立つ(f|z|=3|aN|において零点を持つときはR=3|aN|+εと少しずらして考える)。
 いまlog|an/3aN|<0および|an|の単調増加性の仮定から
|an|<3|aN|log|an3aN||an||aN|log|an3aN|n=1Nlog13=Nlog3
と評価でき、また
12π02πlog|f(3|aN|eiθ)|dθlogmax|z|=3|aN||f(z)|
が成り立つので
0Nlog3+logmax|z|=3|aN||f(z)|
が得られる。
 この対数を取ってlog|aN|で割ると、
logNlog|aN|+loglog3log|aN|loglogmax|z|=3|aN||f(z)|log3|aN|log3
となり、これのN上極限を取ることでvλを得る。

gが多項式であること

 ワイエルシュトラスの基本因子を
Ep(z)=(1z)exp(k=1p1kzk)
と定め
P(z)=n=1Ep(zan)
とおく。このときpの取り方からP(z)は整関数を定めることに注意する(そのことは この記事 の補題4として確認している)。

g(z)=logf(z)P(z)
およびh=λとおくとg(h+1)(z)=0が成り立つ。

  ポアソン・イェンゼンの公式 ver.3から
(logf(z))=|an|<R(1anz+anR2anz)+12π02π2Reiθ(Reiθz)2log|f(Reiθ)|dθ
が成り立つので、これをh階微分することで
(logf(z))(h+1)=h!|an|<R1(anz)h+1+h!|an|<Ranh+1(R2anz)h+1+(h+1)!2π02π2Reiθ(Reiθz)h+2log|f(Reiθ)|dθ
を得る。
 また命題3より
pvλ<λ+1=h+1
となることに注意すると
(logEp(zan))(h+1)=(log(1zan)+k=1p1k(zan)k)(h+1)=h!1(anz)h+1
つまりRにおいて
h!|an|<R1(anz)h+1(logP(z))(h+1)
が成り立つので他の二項が0に収束することを示せばよい。

limR|an|<Ranh+1(R2anz)h+1=0
が成り立つ。

 各zに対して|a1z|,|z|<|aN|および|aN|<|aN+1|なるNを取り
R=|aN|+ε(0<ε<|aN+1||aN|)
とおく。このとき
||an|<Ranh+1(R2anz)h+1|=||an|<R1((|aN|+ε)2anz)h+1|n=1N1(|aN||z|)h+1=N(|aN||z|)h+1
と評価でき、またv<h+1より
limNN|aN|h+1=limN1|aN|h+1exp(log|aN|logNlog|aN|)limN1|aN|h+1exp(log|aN|lim supNlogNlog|aN|)=limN|aN|v|aN|h+1=0
が成り立つので主張を得る。

limR12π02π2Reiθ(Reiθz)h+2log|f(Reiθ)|dθ=0
が成り立つ。

|12π02π2Reiθ(Reiθz)h+2log|f(Reiθ)|dθ|2R(R|z|)h+2logmax|z|=R|f(z)|
と評価でき、上と同様にしてλ<h+1から
limR1Rh+1logmax|z|=R|f(z)|limRRλRh+1=0
が成り立つので主張を得る。

hλh+1であること

 ひとまず命題4から以下の主要な主張は示されたことになる。

 ある高々h次の多項式gが存在してf(z)=eg(z)P(z)が成り立つ。

 あとは残りの主張hλh+1を示そう。

Ep(z)の評価

 任意のpsp+1に対しあるMが存在して
|Ep(z)|<exp(M|z|s)
が成り立つ。

 |z|<12のときは
log|Ep(z)|=Re(k=p+11kzk)<k=p+1|z|k=|z|p+11|z|2|z|p+12|z|s
と評価でき、|z|12のときは
log|Ep(z)|=Re(log(1z)+k=1p1kzk)<log(1+|z|)+k=1p2k|2z|k21|2z|+k=12k|2z|p(21+1)|2z|p<32p1|z|s
と評価できるのでM=32p1とおけばよい。

 任意のε>0に対しあるR>0が存在して|z|>Rにおいて
|n=1Ep(zan)|<exp(|z|v+ε)
が成り立つ。

 pvp+1に注意すると任意の0εmin{ε,p+1v}(εε)に対して
|n=1Ep(zan)|<exp(Mn=1|zan|v+ε)
が成り立ち、vの定義からn=1|an|(v+ε)は収束するので|z|を十分大きくとることで
Mn=11|an|(v+ε)<|z|εε
とすると
|n=1Ep(zan)|<exp(|z|εε|z|v+ε)=exp(|z|v+ε)
を得る。

各定数の関係

 λ=max{v,degg}が成り立つ。

 命題9に注意すると|z|において
log|eg(z)|=O(|z|degg),log|P(z)|=O(|z|v+ε)
が成り立つのでf(z)=eg(z)P(z)より
log|f(z)|=O(|z|max{degg,v+ε})
と評価できる。
 つまりεの任意性も踏まえるとλmax{degg,v}が成り立つが、命題3よりvλ、命題4よりdegghλであったのでλmax{degg,v}、つまりλ=max{v,degg}となることがわかる。

 hλh+1が成り立つ。

h=max{p,degg},λ=max{v,degg}
に注意して3つの場合に分けて示す。

  • deggpvのとき
    h=p,λ=vとなるので、p,vの取り方からpvp+1であることからわかる。
  • pdeggvのとき
    h=degg,λ=vとなるので、deggvp+1degg+1であることからわかる。
  • pvdeggのとき
    h=λ=deggとなる。

参考文献

投稿日:2021117
更新日:2024114
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 仮定の簡略化
  3. $v\leq\la$であること
  4. $g$が多項式であること
  5. $h\leq\la\leq h+1$であること
  6. $E_p(z)$の評価
  7. 各定数の関係
  8. 参考文献