この記事ではMittag-Leffler’s Expansion Theorem(ミッタク=レフラーの部分分数展開定理)について解説していきます。
ミッタク=レフラーの部分分数展開定理とは以下のような主張のことを言います。
$\C$上の有理型関数$f$がある整数$p$と非有界単調増加列$\{r_n\}$に対し$$\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{|z|=r_n}|f(z)|}{r_n^{p+1}}=0$$
を満たすとき
$$f(z)=f_0(z)+\sum^{p}_{k=0}\frac{F^{(k)}(0)}{k!}z^k+\sum_{\a:\poles}(f_\a(z)-\sum^{p}_{k=0}\frac{f^{(k)}_\a(0)}{k!}z^k)$$
が成り立つ。ただし$\a:\poles$は$f$の$0$以外の全ての極を渡るものとし、$f_\a$は$z=\a$における$f$のローラン展開の主要部、$F$は$F=f-f_0$とした(つまり一項目二項目は$z=0$におけるローラン展開を$k=p$で打ち切ったもの)。
この主張は、困ったことに、一般的な名前が付いていないようで、色々と文献を漁ってみても文献によって表記が違ったりそもそも定理名の表記が無かったりしてます。どちらかというと単にミッタク=レフラーの定理と呼ばれる以下の主張が一般的に部分分数展開といえばコレと挙げられる定理になっているようです。
集積点を持たない互いに異なる複素数の列$\{a_n\}$と定数項が$0$である多項式の列$\{P_n(z)\}$が任意に与えられたとき、任意の$n$に対して$z=a_n$におけるローラン展開の主要部が$P_n\big((z-a_n)^{-1}\big)$となるようなある有理型関数$f$が存在する。
またその証明から系として以下の主張が得られます。
定理2の主張を満たす任意の$f$についてある整関数$g$と整数列$\{p_n\}$があって
$$f(z)=g(z)+\sum_{n=1}^\infty(f_n(z)-\sum^{p_n}_{k=0}\frac{f_n^{(k)}(0)}{k!}z^k)$$
が成り立つ。ただし$f_n(z)=P_n\big((z-a_n)^{-1}\big)$とおいた。
こうしてみるとわかる通り正則関数の因数分解と部分分数展開にまつわる定理には
という類似があることがわかります。
例えば上記2つの因数分解定理の記事で$\sin x$の因数分解を考えたように$\cot x$の部分分数展開を考えてみましょう。
$\cot z$の極$z=\pi n\;(n\in\mathbb{Z})$におけるローラン展開の主要部は$\dis\frac{1}{z-\pi n}$であるからミッタク=レフラーの定理より
$$\cot z=g(z)+\sum^\infty_{n=-\infty}(\frac{1}{z-\pi n}+\sum^{p_n}_{k=0}\frac{z^k}{(\pi n)^k})$$
と表せる。具体的には$p_n=1$と取れ
\begin{align}
\cot z
&=g(z)+\frac1z+\sum^\infty_{n=1}(\frac{1}{z-\pi n}+\frac{1}{\pi n}+\frac{1}{z+\pi n}-\frac{1}{\pi n})\\
&=g(z)+\frac1z+\sum^\infty_{n=1}\frac{2z}{z^2-\pi^2n^2}
\end{align}
となることまではわかるが$g(z)$が何であるかまではわからない。
(一応周期性から$g(z)$の有界性を示しリウヴィルの定理から$g(z)=0$を得ることもできる。)
しかしミッタク=レフラーの部分分数展開定理を使えば$\cot z$について$p=0$とできることは簡単に示せる(この記事の最後に説明する)ので
$$g(z)=\lim_{z\to0}(\cot z-\frac1z)=0$$
と$g(z)$を決定することができるわけです。
ちなみに先ほど因数分解と部分分数展開にまつわる定理に類似性があると言いましたが$\sin z$と$\cot z$が
$$\frac{d}{dz}\log\sin z=\cot z$$
という関係にあるように、一位の極しか持たない有理型関数の部分分数展開については対数微分によって直接因数分解の話と結びついていると言えます。
まず弱い方の主張であるミッタク=レフラーの定理の証明を紹介しておく。
$f_n(z)=P_n\big((z-a_n)^{-1}\big)$は収束半径$|a_n|$のテイラー展開
$$f_n(z)=\sum^\infty_{k=0}\frac{f^{(k)}_n(0)}{k!}z^k$$
を持ち、その一様収束性から$|z|<|a_n|/2$なる任意の$z$に対し
$$\l|\sum^\infty_{k=p_n+1}\frac{f^{(k)}_n(0)}{k!}z^k\r|<2^{-n}$$
となるような整数$p_n$が取れる。このとき
$$Q_n(z)=\sum^{p_n}_{k=0}\frac{f^{(k)}_n(0)}{k!}z^k,\quad h(z)=\sum^\infty_{n=1}(f_n(z)-Q_n(z))$$
とおくと$h(z)-f_k(z)$が$z=a_k$周りで正則なことを示す。
いま任意に$R>|a_k|$を取り
$$h(z)-f_k(z)
=\sum_{\substack{|a_n|\leq2R\\n\neq k}}f_n(z)-\sum_{|a_n|\leq2R}Q_n(z)
+\l|\sum_{2R<|a_n|}(f_n(z)-Q_n(z))\r|$$
と分けると、一、二項目は有限和なので$z=a_k$周りで正則であり、三項目については$p_n$の取り方から$|z|< R$において
$$\l|\sum_{2R<|a_n|}(f_n(z)-Q_n(z))\r|<\sum^\infty_{n=1}2^{-n}=1$$
と一様収束しているので主張を得る。
系については任意の$f$に対し$g=f-h$は整関数であるというだけのことである。
いま$f_0$の取り方から
$$|f_0(z)|=O(|z|^{-1})\to0\quad(as\ |z|\to\infty)$$
つまり
\begin{align}
&\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{|z|=r_n}|f(z)-f_0(z)|}{r_n^{p+1}}\\
\leq{}&\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{|z|=r_n}|f(z)|+\max_{|z|=r_n}|f_0(z)|}{r_n^{p+1}}\\
={}&0
\end{align}
が成り立つので$f-f_0$を改めて$f$とおくことで$f$は$z=0$において極を持たないものとしてよい。
ミッタク=レフラーの部分分数展開定理は
アダマールの因数分解定理
と違って込み入った話をする必要はなく、留数定理から簡単に示すことができる。証明の核となるのは以下の等式である。
任意の$z$に対し
$$\lim_{n\to\infty}\frac{1}{2\pi i}\int_{|w|=r_n}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}dw=0$$
が成り立つ。
$$\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{|z|=r_n}|f(z)|}{r_n^{p+1}}=0$$
に注意すると
$$\l|\frac{1}{2\pi i}\int_{|w|=r_n}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}dw\r|
\leq\frac{2\pi r_n}{2\pi}\cdot\frac{\max_{|w|=r_n}|f(w)|}{r_n^{p+1}(r_n-|z|)}\to0
\quad(as\ n\to\infty)$$
を得る。
$$f(z)=\Res_{w=0}\frac{z^{p+1}f(w)}{w^{p+1}(z-w)} +\sum_{\a:\poles}\Res_{w=\a}\frac{z^{p+1}f(w)}{w^{p+1}(z-w)}$$
留数定理より
\begin{align}
&\frac{1}{2\pi i}\int_{|w|=r_n}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}dw\\
={}&\Res_{w=z}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}+\Res_{w=0}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}
+\sum_{\substack{\a:\poles\\|\a|< r_n}}\Res_{w=\a}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}\\
={}&\frac{f(z)}{z^{p+1}}+\Res_{w=0}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}
+\sum_{\substack{\a:\poles\\|\a|< r_n}}\Res_{w=\a}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}
\end{align}
が成り立つのでこの$n\to\infty$極限を取ることで主張を得る。
以下、この右辺が求める形となっていることを示す。
$$\Res_{w=0}\frac{z^{p+1}f(w)}{w^{p+1}(z-w)}=\sum^p_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}z^k$$
十分小さい$r>0$に対し
\begin{align}
\Res_{w=0}\frac{z^{p+1}f(w)}{w^{p+1}(z-w)}
&=\frac1{2\pi i}\int_{|w|=r}\frac{z^pf(w)}{w^{p+1}(1-\frac wz)}dw\\
&=\sum^\infty_{k=0}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w|=r}\frac{f(w)}{w^{p+1-k}}dw\r)z^{p-k}\\
&=\sum^p_{k=0}\frac{f^{(p-k)}(0)}{(p-k)!}z^{p-k}\\
\end{align}
とわかる。
$$\Res_{w=\a}\l(\frac{z^{p+1}f(w)}{w^{p+1}(z-w)}\r) =f_\a(z)-\sum^p_{k=0}\frac{f^{(k)}_\a(0)}{k!}z^k$$
\begin{align}
\frac{z^{p+1}}{w^{p+1}(z-w)}
&=\frac1{z-w}+\frac1{w^{p+1}}\cdot\frac{z^{p+1}-w^{p+1}}{z-w}\\
&=\frac1{z-w}+\sum^p_{k=0}\frac{z^{k}}{w^{k+1}}
\end{align}
と部分分数分解できるので
\begin{align}
\Res_{w=\a}\l(\frac{f(w)}{z-w}\r)&=f_\a(z)\\
\Res_{w=\a}\l(\frac{f(w)}{w^{k+1}}\r)&=-\frac{f^{(k)}_\a(0)}{k!}
\end{align}
となることを示せばよい。
ローラン展開の導出を思い出すと明らか。つまり$r<|z-\a|$に対し
\begin{align}
\Res_{w=\a}\l(\frac{f(w)}{z-w}\r)
&=\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}\frac{f(w)}{z-w}dw\\
&=\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}\frac{f(w)}{z-\a}\frac1{1-\frac{w-\a}{z-\a}}dw\\
&=\sum^\infty_{k=0}\l(\frac1{2\pi i}\int_{|w-\a|=r}(w-\a)^kf(w)dw\r)\frac1{(z-\a)^{k+1}}\\
&=f_\a(z)
\end{align}
とわかる。
$$\Res_{w=\a}\l(\frac{f(w)}{w^{k+1}}\r)
=\Res_{w=\a}\l(\frac{f_\a(w)}{w^{k+1}}\r)$$
に注意する。
いま$z\to\infty$において
$$f_\a(z)=\sum^m_{n=1}\frac{a_n}{(z-\a)^n}=O\l(\frac1z\r)$$
と評価できるので
$$\l|\frac1{2\pi i}\int_{|w|=R}\frac{f_\a(w)}{w^{k+1}}dw\r|
\leq\frac{2\pi R}{2\pi}\frac{O(1/R)}{R^{k+1}}\to0\quad(R\to\infty)$$
が成り立つ。したがって
$$\Res_{w=\a}\l(\frac{f_\a(w)}{w^{k+1}}\r)
=-\Res_{w=0}\l(\frac{f_\a(w)}{w^{k+1}}\r)
=-\frac{f^{(k)}_\a(0)}{k!}$$
を得る。
以上より
$$f(z)=\sum^{p}_{k=0}\frac{f^{(k)}(0)}{k!}z^k+\sum_{\a:\poles}(f_\a(z)-\sum^{p}_{k=0}\frac{f^{(k)}_\a(0)}{k!}z^k)$$
を得る。
上で見たようにミッタク=レフラーの部分分数展開定理の導出の肝は補題4であり、一般になんらかの閉経路$C_n$に対し
$$\frac1{2\pi i}\int_{C_n}\frac{f(w)}{w^{p+1}(w-z)}dw\to0\quad(n\to\infty)$$
が成り立てば同じ議論ができることに注意されたい。
特に$C_n$の長さを$l_n$、$\inf_{z\in C_n}|z|=r_n$と置いたとき
$$\lim_{n\to\infty}\frac{l_n}{r_n}\frac{\max_{z\in C_n}|f(z)|}{r_n^{p+1}}=0$$
と仮定すれば十分である。
この節では上で見た部分分数展開定理の具体例において保留にしていた「$p=0$とできる」の部分の説明をしていきます。いま
$$|\cot z|=\frac{|\cos z|}{|\sin z|}=\sqrt{\Bigg|\frac{1}{\sin^2 z}-1\Bigg|}$$
と表せるので$|\cot z|$の代わりに$1/|\sin z|$の挙動について考えることにします。
ただ
\begin{align}
|\sin z|^2
&=|\sin x\cosh y+i\cos x\sinh y|^2\\
&=\sin^2x\cosh^2y+\cos^2x\sinh^2y-(\sin^2x\sinh^2y-\sin^2x\sinh^2y)\\
&=\sin^2x+\sinh^2y
\end{align}
なので$\min_{|z|=r}|\sin z|$は...と考えると少し面倒です(一応頑張ればこれが$\sin r$になることは示せますが)。
なので上で注意として言及したようにもっと簡単な経路$C_n$を持ってくることにします。
具体的には$r_n=2\pi n+\frac\pi2$とおいて正方形状の経路$C_n$を
$$C_n:r_n+ir_n\to-r_n+ir_n\to-r_n-ir_n\to r_n-ir_n\to r_n+ir_n$$
と定めます。すると$z\in C_n$において
つまり$\min_{z\in C_n}|\sin z|=1$と求まり
$$\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{z\in C_n}|\cot z|}{r_n}\leq\lim_{n\to\infty}\frac{\max_{z\in C_n}\sqrt{\frac{1}{|\sin z|^2}+1}}{r_n}=\lim_{n\to\infty}\frac{\sqrt{1+1}}{r_n}=0$$
が成り立つので$p=0$とできることがわかります。