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高校数学議論
文献あり

k-リュカ数の四捨五入表示についての考察

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はじめに

 この記事ではk-リュカ数の四捨五入表示について私なりに考察した結果を紹介します。
 かなり荒い評価ですがひとまず次のような結果が得られました。

 k-リュカ数Ln(k)の四捨五入表示
Ln(k)=αkn
nn0で成り立つようなn0のうち最小のものをnkとおくと
nk=O(k3logk)
が成り立つ(つまりkの増加に伴ってnkが増大する速さは少なくともk3logk以下であるということ)。

 ただしαkは方程式
fk(x)=xkj=0k1xj=0
の唯一の正の実数解としました。
 具体的にnkがどんな数で抑えられるかは以下で示すとして、まず考察の過程を見ていきましょう。

方針

 まずk-ナッチ数の四捨五入表示で有効だった 確率論的アプローチ を考えてみようとすると、これを適用するには少なくともk個の連続するnについて
|Ln(k)αkn|<12
が成り立つことを示さなければなりませんが、今までわかっているαkの評価
2(112k)<αk<2(112k+1k)
( 1 の補題6, 2 の命題4参照)からはn=k前後で示したい不等式が成り立たないことがわかったのでひとまずこのアプローチは断念することにしました。(実際にαkn
Ln(k)=2n1(1nk)
よりもはみ出ていることがDesmosなどで確かめてみるとわかります。)
 なので今度は方程式fk(x)=0αkではない解βの絶対値を評価してみることにしました。
 k-リュカ数の一般項が
Ln(k)=αkn+fk(β)=0βαkβn
で表されること|β|<1であったことを考慮するとあるn0に対し
|βn0|<12(k1)
が成り立ってくれればnn0において四捨五入表示が成り立つことになります。
 そのようなn0を考えるにあたって以下の評価を得ることができました。

 方程式fk(x)=0αkではない任意の解βに対し
|β|<154cos(11π6k)2k+1
が成り立つ。

 この不等式を以下で示し、n0をどのようにとればいいか考えていきましょう。

|β|の評価

 いまβは方程式
fk(x)=xk+12xk+1x1=0
の解であったのでこれを適当に変形することで
βk=12β
が成り立つことがわかります。
 ここでβ=r(cosθ+isinθ)と極座標表示し上式の絶対値を取ると
rk=1r24rcosθ+4
が成り立ち、これをまた適当に変形することで極方程式
cosθ=14r(r2+41r2k)
が得られます。この方程式からr=|β|の大きさを考えてみることにしましょう。
 まずr=|β|<1においてrθについての関数となることを示しましょう(Desmos等で
|βk(2β)|2=(x2+y2)k((x2)2+y2)=1
のグラフを見てみると想像が付きやすいと思います)。

 rについての方程式
cosθ=14r(r2+41r2k)
0r1なる解をただ一つ持つ。

 方程式の右辺をg(r)とおくと
g(1)=1,limr0+g(r)=
および
g(r)=141r2+2k+14r2k+2=14+1r2(2k+14r2k1)14+(2k+141)=k12>0
が成り立つことからわかる。
r0??1g(r)1cosθ1

 次にrθの増減によってどのような挙動をするのか調べます。rθについての偶関数(グラフがx軸について対象)なので変数をθの代わりにcosθを考えることにします。

 cosθが増加するに伴ってrも増加する。

 補題3の証明より
drdcosθ=1dcosθdr=1g(r)>0
が成り立つことからわかる。

 ではcosθひいてはθ=argβが取りうる範囲について考えてみましょう。

|argβ|11π6kが成り立つ。

 いま原点から円(x2)2+y2=1に引ける接線は
y=tan(±π6)x
2本であることに注意すると|z|<1なる複素数zに対して
|arg(2z)|<π6
が成り立つ。
 またβk=12βよりある整数jが存在して
argβ=2πjk1karg(2β)
が成り立ち、特にj0である( 2 の命題3参照)ので
|argβ|2π|j|k1k|arg(2β)|2πkπ6k=11π6k
を得る。

 いま
cos(11π6k)g(R)
なるRを取ってくると補題5から
g(|β|)=cosθcos(11π6k)g(R)
が成り立ち、特にgの単調性から
|β|R
|β|を上から評価できるので命題2を得るには以下のことを示せばよいことになります。

R=154cos(11π6k)2k+1
とおくと
cos(11π6k)g(R)
が成り立つ。

 r<1において
ddrr2+44r=141r2<141<0r2+44r>12+441=54
が成り立つことおよび
R<1542k+1=1
に注意すると
g(R)=R2+44R14R2k+1>12+44114R2k+1=5454cos(11π6k)4=cos(11π6k)
を得る。

n0の評価

 さて上での議論により命題2
|β|<154cos(11π6k)2k+1
が成り立つことを示しましたがこの不等式からどのようなn0をとれば
|β|n0<12(k1)
が成り立つのか見ていきましょう。
 まず命題2の不等式の右辺がこのままでは扱いづらいので少し変形しましょう(流石に(2k+1)log(2(k1))log(54cos(11π6k))n0
の整数解を直接求めるのには無茶があります)。

|β|<11+24k22k+1が成り立つ。

 いま任意の0<x11π6に対し
cos(11π6k)cos(xk)112(xk)2+124(xk)4
が成り立つのでk2に注意すると
54cos(11π6k)1+x2k2(2x26k2)1+x2k2(2x2622)=1+x2k248x224
と評価できる。
 そして0<2411π6に注意してx=24とすると
54cos(11π6k)>1+24k2
がわかるのでこれを適当に変形することで主張を得る。

 ここで
1(1+24k2)n02k+112(k1)
となるようなn0を考えると、この不等式は
(2k+1)log(2(k1))log(1+24k2)n0
と変形できるので命題1を得るには以下のことを示せばよい。

(2k+1)log(2(k1))log(1+24k2)=O(k3logk)が成り立つ。

 kにおいて
2k+1=O(k)log(2(k1))=O(logk)log(1+24k2)=O(1k2)
が成り立つことから主張を得る。

 ちなみに補題7のようにcosを展開しなくてもO(k3logk)が示せるはずなのでこれが命題2から得られる最良の評価だと思います。
 では具体的にn0にどのような値が取れるか考えてみましょう。整数を考えている以上O(logk)をそのまま扱うのは難しいのでO(k)で考えることにします。

n0=(2k+1)k312
とおくと
1(1+24k2)n02k+112(k1)
が成り立つ。

(2k+1)k312n0
に注意すると
1(1+24k2)n02k+11(1+24k2)k31211+k31224k2=11+2k<12(k1)
を得る。

 恐らくここでの議論も精密化することでもっと良い評価を得られると思いますがとりあえず私の考察としては以上にしたいと思います。

参考文献

投稿日:2021128
更新日:2024515
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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