noyarulerさんの記事
https://mathlog.info/articles/1692
を読み、少し考えてみたところ予想1,2の証明ができたので書き記しておきます.
noyarulerさんの予想を代数学の言葉で書き直すと以下のようになります.
3以上の整数$N$を固定し、$n\geq 0$に対してAbel群の準同型$\varphi_n\colon (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N\to (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$を
$$
\varphi_n(\begin{pmatrix}a_0\\\vdots\\a_n\\\vdots\\a_{N-1}\end{pmatrix})=\begin{pmatrix}a_0\\\vdots\\a_{n-1}+a_{n+1}\\\vdots\\a_{N-1}\end{pmatrix}
$$
で定める(ただし添字はmod$N$で考える).またAbel群の準同型$\psi\colon (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N\to (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$を
$$
\psi(\begin{pmatrix}a_0\\\vdots\\a_{N-1}\end{pmatrix})=\begin{pmatrix}a_{N-1}\\a_0\\\vdots\\a_{N-2}\end{pmatrix}
$$
で定める.$v_n\in (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$を漸化式
$$
v_0=\begin{pmatrix}0\\1\\\vdots\\N-1\end{pmatrix},~v_n=\varphi_n(v_{n-1})
$$
で定め、
$$
T(N)=\min\{n\in\mathbb{Z}_{>0}\mid \exists k, \psi^kv_n=v_0\}\in \mathbb{Z}_{>0}\cup\{\infty\},\\
S(N)=\min\{n\in\mathbb{Z}_{>0}\mid v_n=v_0\}\in \mathbb{Z}_{>0}\cup\{\infty\}
$$
とおく.このとき、
(予想1) $T(N)$, $S(N)$は常に有限である.
(予想2) $p$を$3$以上の素数とすると$S(p)/T(p)=p$である.
(予想3) $S(N)/T(N)$は$N$の素因数の最大公約数に一致する.
この記事では予想1,2を証明します.
Abel群の準同型$\varphi\colon (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N\to (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$を次のように定めます:
$$
\varphi(\begin{pmatrix}a_0\\\vdots\\a_{N-1}\end{pmatrix})=\begin{pmatrix}a_0+a_2\\a_2\\\vdots\\a_{N-1}\\a_0\end{pmatrix}.
$$
すると$v_n=\psi^n(\varphi^n(v_0))$と表せます.ここで$v_0$が$(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$の部分加群
$$
V=\{\begin{pmatrix}a_0\\\vdots\\a_{N-1}\end{pmatrix}\in (\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N\mid a_0=a_1+a_{N-1}\}
$$
に含まれることに着目します.$\varphi$は$V$を保つので$\varphi^n(v_0)$は$V$に属します.したがって$\exists k, \psi^kv_n=v_0$は$\varphi^n(v_0)=v_0$と同値です.$v_n=v_0$が成り立つのはそれに加えて$\psi^n(v_0)=v_0$のとき、すなわち$N\mid n$のときです.よって以下が得られます.
$T(N)=\min\{n\in \mathbb{Z}_{>0}\mid \varphi^n(v_0)=v_0\}\in \mathbb{Z}_{>0}\cup\{\infty\}$である.また$T(N)$が有限ならば$S(N)=\mathrm{LCM}(T(N),N)$である.
$(\mathbb{Z}/N\mathbb{Z})^N$の標準基底を$e_0,\dots,e_{N-1}$とすると、$V$の基底として$(e_0+e_{N-1}),(e_0+e_1),e_2,\dots,e_{N-2}$が取れます.この基底で$\varphi|_V$を行列表示すると
$$
\varphi|_V=\begin{pmatrix}
1&1&&\\
&&\ddots&\\
&&&1\\
1
\end{pmatrix}
$$
となり、特に$\varphi|_V$が可逆であることが分かります.よって$\varphi|_V$の$\mathrm{GL}(V)$における位数を$n$とすれば$\varphi^n(v_0)=v_0$となるので、予想1が正しいことが分かります.
次に予想2を示しましょう.$p$を$3$以上の素数とし、$N=p$とします.上の行列表示から$\varphi|_V$の固有多項式は$X^{p-1}-X^{p-2}-1$と分かります.この多項式は$\mathbb{F}_p$に根を持ちませんが、$(X^{p-1}-X^{p-2}-1)'=X^{p-3}(-X+2)\in \mathbb{F}_p[X]$は全ての根を$\mathbb{F}_p$に持ちます.よって$\varphi|_V$の固有多項式は$\overline{\mathbb{F}}_p$において重根を持たず、したがって$\varphi|_V$は$\overline{\mathbb{F}}_p$上対角化可能となります.$\overline{\mathbb{F}}_p^\times$の任意の元の位数は$p$と互いに素なので$\varphi|_V$の位数も$p$と互いに素であり、また$T(p)$は$\varphi|_V$の位数を割り切るので$T(p)$も$p$と互いに素です.したがって補題1より$S(p)=T(p)p$となり、予想2が示されました.