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微分するとx軸方向に平行移動する実関数(f'(x)=f(x-t))を考えたら、想像以上にいっぱいあった件

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tを実数とする。
f(x)=f(xt)を満たす関数f:RRにはどんなものがあるだろうか?

いろいろと考えたのですが、自分には一般解を求めることができませんでした。
以前に投稿したf(x)=f(x)の問題 と同様、WolframAlphaが解いてくれない系の問題ですし、どうしようもない感が半端ないです・・・

わかる範囲(f(x)が解析的と仮定する)で書いています。

f(x)=esxの形の解を見つける

t=0のときはf(x)=f(x)なので、
f(x)=Cex (C:)であることは簡単にわかります。

t0の場合を考えます。
例えばf(x)=e2xとするとf(x)=2e2xですが、
変形すると2e2x=e2x+log(2)=e2(x+log(2)2)なので、
f(x)=f(x+log(2)2)を満たします。
t0のときでも指数関数の形が解になりそうです。

f(x)=esx (s>0)とすると、
f(x)=sesx=esx+log(s)=es(x+log(s)s)=f(x+log(s)s)なので、
t=log(s)sとなるsを求めればいいことが分かります。

ただ、このsは初等関数で求めることができなくて、「乗積対数関数」とか「ランベルトのW関数」などと呼ばれる関数W(x)を使って表します。
W(x)は、y=xexの逆関数です。
t=log(s)sを変形するとsest=1となりますが、
両辺にtを掛けてstest=tとして、両辺にW関数をとると、
st=W(t)、すなわちs=W(t)tであることがわかります。

したがって、eW(t)txf(x)=f(xt)を満たします。
さらに、実数倍したCeW(t)tx (C:)もまたf(x)=f(xt)になります。

ただし、W関数には気を付けないといけないことがあります。
W(x)は実数の値域で2種類あるのです。

W(x)は「1つ」じゃない

W(x)は、y=xexの逆関数として導入しましたが、関数の逆関数が存在するためには、その関数が定義域から値域まで、1対1の対応をしていなければなりません。y=xexはグラフを描けばわかりますが、1対1の対応をしていません。

y=xexの増減表
x1y(0)0+y(0)1e

f(x)=xexW関数のグラフ

xe^xとW関数 xe^xとW関数

y=xexの定義域を適切に制限すれば逆関数を定義できるのですが、制限の仕方によって逆関数が変わります。
y=xex (x1)の逆関数をW0(x)y=xex (x1)の逆関数をW1(x)と書くことにします。

W0(x)は定義域x1e、値域はW0(x)1、単調増加で原点を通る曲線です。
W1(x)は定義域1ex<0、値域はW1(x)1x=0を漸近線とする単調減少の曲線です。
1e<x<0の部分だけW(x)2種類あるんですね。

f(x)=f(xt)の問題に話を戻します。
t>0のとき、CeW0(t)tx (C:)が解になります。
1et<0のときは、eW0(t)txeW1(t)txも解となります。
この微分方程式の問題でも「重ね合わせの原理」は明らかに成り立ち、C0eW0(t)tx+C1eW1(t)tx (C0,C1:)はすべて解です。
(なお、t=1eのとき、W0(1e)W1(1e)も同じ1になります。)
t<1eのときは、xex=tを満たす実数xが存在しないので、解はなさそうに思えます。

f(x)=f(x+13)を満たす関数の例f(x)=2e3W0(13)x12e3W1(13)x
青線f(x+13)と赤線f(x)が重なっている

f'(x)=f(x+1/3) f'(x)=f(x+1/3)

というわけで、f(x)=f(xt)を満たす実関数は以下のようになりそうです。
f(x)={CeW0(t)tx(t>0)(C:)Cex(t=0)(C:)C0eW0(t)tx+C1eW1(t)tx(1et<0)(C0,C1:)(t<1e)
1階の微分方程式なのに、任意定数が2種類出てくるとは・・・個人的にビックリです。
なお、t0とすると、W0(t)t1となるので、t=0のときの一般解f(x)=Cexと一致します。

・・・しかし、実はこれは正しくないんです。
例えばf(x)=cos(x)とすると、
f(x)=sin(x)=cos(x+π2)=f(x+π2)なので、
t=π2の場合に該当します。
しかし、この場合は上記の場合分けでは「存在しない」となっています。
まだ見つかっていない解があるようです。
原因はW(x)の"イタズラ"です。

複素関数W(z)を調べる

W(x)は値域が実数の範囲では2種類ありますが、複素数の範囲では無限種類あります。
つまり、複素数zに対し、wew=zを満たす複素数wは無限にあるのです。これらをWn(z) (nZ)と書くことにします(ただし、例外としてz=0のときはw=W0(0)=0しかありません)。
(厳密には、W0(z)から、複素関数の解析接続を使ってw=Wn(z) (nZ)を定義するのですが、基本的には虚部の小さいほうから「,W2(z),W1(z),W0(z),W1(z),W2(z),」となっていると思って差し支えはないようです。)

Wn(t)を実数の範囲だけで考えていたとき、t0に対して、f(x)=f(xt)の解には
eWn(t)txの定数倍と和で組み合わせたものがありました。(C0eW0(t)tx+C1eW1(t)txのことです。)
これは、tが複素数、n0,1以外でも同じです。

任意の整数nに対して、
Wn((a+ib)ea+ib)=a+ibとなる複素数a+ib (a,bR)があります。
そこで、t=(a+ib)ea+ibとすると、
eWn(t)tx=ea+ib(a+ib)ea+ibx=eeaibxとなります。

Wn(zez)=zとなるnが何かを複素平面にプロットしたものがこちら(英語版Wikipedia "Lambert W function")

ただ、ここで求めたいのは「実数」tに対するf(x)=f(xt)の解なので、
t=(a+ib)ea+ibが実数であってほしいわけです。
b=0なら、上記の実数の範囲だけの話なので、b0であるとします。

(a+ib)ea+ibを実部と虚部に分けると、
(a+ib)ea+ib=(a+ib)ea(cos(b)+isin(b))=ea(acos(b)bsin(b))+iea(bcos(b)+asin(b))

なので、(a+ib)ea+ibが実数になるには、ea(bcos(b)+asin(b))=0でなければなりません。
よって、a=bcot(b)です。
このとき、t=ebcot(b)(bcot(b)cos(b)bsin(b))=bebcot(b)cosec(b)です。

y=xcot(x)のグラフ
a=bcot(b)のとき、(a+ib)ea+ibが実数になる

-xcot(x) -xcot(x)

y=xexcot(x)cosec(x)のグラフ
0でない実数tに対し、t=bebcot(b)cosec(b)となるbが無限個存在する

-xe^(-xcot(x))cosec(x) -xe^(-xcot(x))cosec(x)

また、eWn(t)txも実部と虚部に分解すると、
eWn(t)tx=eeaibx=eebcot(b)ibx=eebcot(b)(cos(b)isin(b))x=eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x)ieebcot(b)cos(b)xsin(ebcot(b)sin(b)x)

従って、実数bに対して、f(x)=f(xt)つまりf(x)=f(x+bebcot(b)cosec(b))の解には、
eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x)ieebcot(b)cos(b)xsin(ebcot(b)sin(b)x)(の定数倍)があることがわかりました。

しかし、欲しい解は「実関数」です。
ieebcot(b)cos(b)xsin(ebcot(b)sin(b)x)が邪魔になっています。
この邪魔な虚部をなくしましょう。

方法としては、2つの解の和がまた解になることを使って、虚部を相殺することです。
複素数aib (a,bR)に対して、
Wm((aib)eaib)=aibとなるmがあります。

そこで、今度はt=(aib)eaibとすると、
eWm(t)tx=eaib(aib)eaibx=eea+ibxとなります。
同様にtが実数であってほしいのですが、実部と虚部に分解すると、
(aib)eaib=ea(acos(b)bsin(b))iea(bcos(b)+asin(b))であり、
(a+ib)ea+ibのときと虚部の符号が違うだけなので、a=bcot(b)tが実数になる条件です。
さらに実部が同じなので、a=bcot(b)ならばt=(a+ib)ea+ib=(aib)eaib=bebcot(b)cosec(b)Rになります。
つまり、実数t0に対し、Wn(t)=a+ib,Wm(t)=aibですね。

eWm(t)txも実部と虚部に分解すると、
eWm(t)tx=eea+ibx=eebcot(b)+ibx=eebcot(b)(cos(b)+isin(b))x=eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x)+ieebcot(b)cos(b)xsin(ebcot(b)sin(b)x)
これもeWn(t)txと虚部の符号が違うだけです。

よって、eWn(t)txeWm(t)txを足し算すると、
eWn(t)tx+eWm(t)tx=2eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x)
となって、実関数になります。

したがって、実数t0が与えられたとき、
t=bebcot(b)cosec(b)となる実数bに対し、
f(x)=eWn(t)tx+eWm(t)tx=2eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x)とすると、これは
f(x)=f(xt)の実関数の解になることが分かりました。
(n,mによって、bの値は変わり、2eebcot(b)cos(b)xcos(ebcot(b)sin(b)x))もさまざまな関数になります。)

実は、nmの関係は、t<0のときm=n1t>0のときm=nなんです。
t<0の場合は、
f(x)=eW3(t)tx+eW4(t)txや、
f(x)=eW6(t)tx+eW7(t)txなどが解です。
t>0の場合は、
f(x)=eW3(t)tx+eW3(t)txや、
f(x)=eW6(t)tx+eW6(t)txなどが解です。
nはすべての整数をとれるので、無限にいろんな関数ができます。
そして、「重ね合わせの原理」から、これらをそれぞれ実数倍して足したものもすべて解になります。

f(x)=eW3(5)5x+eW4(5)5xのグラフ

f(x)=eW3(5)5x+eW3(5)5xのグラフ

具体例 具体例

したがって、新たにこれらの実関数の解が見つかりました。
f(x)={n=0Cn(eWn(t)tx+eWn(t)tx)(t>0)(Cn:)n=0Cn(eWn(t)tx+eWn1(t)tx)(t<0)(Cn:)
(ただし、任意定数Cnは、この関数項級数の無限和が任意の実数xで収束して、項別微分可能になることを前提とする。)

例えば、実数の範囲だけではうまく説明できなかったf(x)=cos(x)の場合は、
W0(π2)=iπ2, W1(π2)=iπ2であることを使って、
f(x)=12(eW0(π/2)π/2x+eW1(π/2)π/2x)となり
t=π2の場合になることが分かります。

今わかっている解をまとめると

実数tに対し、f(x)=f(xt)を満たす実関数は、
f(x)=esxの形に注目してW(t)を値域が実数の関数として見たときに、以下の解が見つかりました。

f(x)={CeW0(t)tx(t>0)(C:)Cex(t=0)(C:)C0eW0(t)tx+C1eW1(t)tx(1et<0)(C0,C1:)(t<1e)

そして、W(t)を値域が複素数の関数として見て、2つの複素関数の解の和で実関数になってくれるものを調べて、以下の解が見つかりました。

f(x)={n=0Cn(eWn(t)tx+eWn(t)tx)(t>0)(Cn:)n=0Cn(eWn(t)tx+eWn1(t)tx)(t<0)(Cn:)

これらをきれいにまとめるとこのようになります。

実数tに対し、f(x)=f(xt)を満たす実関数には、以下の関数がある。
f(x)={n=0Cn(eWn(t)tx+eWn(t)tx)(t>0)(Cn:)Cex(t=0)(C:)CeW0(t)tx+n=0Cn(eWn(t)tx+eWn1(t)tx)(1e<t<0)(C,Cn:)n=0Cn(eWn(t)tx+eWn1(t)tx)(t1e)(Cn:)
(ただし、任意定数Cnは、この関数項級数の無限和が任意の実数xで収束して、項別微分可能になることを前提とする。)
(Wn(t)はランベルトのW関数の解析接続)

1階の微分方程式なのに、任意定数が無限個登場するとは個人的にビックリです。
これもW(t)の多価性(しかも無限価)の影響で、さらに複素対数関数とは違い、定数の差だけではないからですね。
f(0)=1,f(1)=0,f(5)=7,のようにいくら初期値を設定しても、特殊解を一通りに定めることができない可能性が高いです。
想像以上に解がいっぱいあるってことですね・・・

もしかしたらまだあるかも・・・

かなりの実関数の解を見つけたつもりなんですが、もしかしたらまだあるかもしれないです。。。
もしf(x)が実数全体で解析関数だったら、上記の解だけだと思うんです。
だけど、非解析的で無限回微分可能な解となると・・・他にないことを証明するのは自分の実力じゃ無理でしたので、わかる人は教えていただきたいです・・・

以上、読んでいただきありがとうございました。

(2021/02/07 追記)
J_Koizumiさんにより、実数全体で解析的でなくても、f(x)=f(xt) (t0)を満たす実関数の存在が確認できました。
ありがとうございます!!!
詳しくはコメント欄をご覧ください。
やはり想像以上に解がいっぱいあるってことですね・・・

投稿日:202125
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