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coth xの部分分数展開とsinh xの因数分解公式の初等的証明

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{ep}[0]{\epsilon} \newcommand{eq}[0]{\equiv} \newcommand{even}[0]{\mathrm{even}} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{lra}[0]{\leftrightarrow} \newcommand{m}[1]{\pmod{#1}} \newcommand{ndiv}[0]{\nmid} \newcommand{O}[0]{\mathcal{O}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{odd}[0]{\mathrm{odd}} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{prime}[0]{\mathrm{prime}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\rho} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\mathrm{Re}} \newcommand{resp}[0]{\mathrm{resp}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\tau} \newcommand{th}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{x}[0]{\chi} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

この記事では双曲線余接関数$\coth x$の部分分数展開の‘初等的’かつ‘厳密’な証明を余談を交えつつ紹介します。
まず$\coth x$の定義とその部分分数展開公式を確認しておきます。

双曲線余接関数の部分分数展開

$\dis\coth x=\frac{e^x+e^{-x}}{e^x-e^{-x}}$に対し$\dis\coth x=\frac1x+\sum^\infty_{k=1}\frac{2x}{\pi^2k^2+x^2}$が成り立つ。

ちなみに$\coth x$の部分分数展開と同様にして双曲線関数の因数分解公式を得ることができます。
$\dis\sinh x=x\prod^\infty_{k=1}\l(1+\frac{x^2}{\pi^2 k^2}\r)$
つまりこれも‘初等的に’証明できるわけです。

そもそも因数分解公式や部分分数展開というのは複素解析の手法を使えば アダマールの因数分解定理の記事 ミッタク=レフラーの部分分数展開定理の記事 で紹介したように容易に示すことができるのです。そこをあえて初等的に示すというのですからその‘初等的’の程度としては高校数学(数Ⅲまで)の範囲内の知識を想定することになります。つまり複素解析は使わなければ、$\e$-$\delta$論法も使いませんし、もちろんルベーグ積分も使いません。
 そんな初等的な導出を以下で示していきます。

余談1

私が初等的証明を発見したのは、複素解析、ひいてはリーマンゼータ関数の勉強(独学)をしていたときどうしても三角関数の因数分解公式の納得のいく証明が見つからなくてあちこちのサイトを漁っていた時のことでした。というのもWikipediaではなんかやたらややこしいことをしているし、ワイエルシュトラスの因数分解定理では不十分だし、ミッタク=レフラーの定理でも不十分だし、初等的証明の数々もヒューリスティックであったり極限の取り方に厳密性が無かったり(後述)となかなか難儀していました。
 そんなときようやくあるサイト(URL紛失)に行きつき、それなりに納得のいく手法を得たのです。

$x^n-y^n$の因数分解

$\dis e^t=\lim_{n\to\infty}\l(1+\frac{t}{n}\r)^n$であったことを思い出すと
$\dis\frac{\l(1+\frac{t}{n}\r)^{n-1}+\l(1-\frac{t}{n}\r)^{n-1}}{\l(1+\frac{t}{n}\r)^n-\l(1-\frac{t}{n}\r)^n}$
が部分分数分解できればいい感じになることがわかります。

 そこでまず$x^n-y^n$の因数分解を考えていきましょう。以下、$m$を自然数とし、$n=2m+1$とおきます。

$\dis x^n-y^n=(x-y)\prod^m_{k=1}(x^2-2xy\cos\frac{2\pi k}{n}+y^2)$が成り立つ。

方程式$x^n-y^n=0$の解は
$\dis \frac{x}{y}=\z_n^{-m},\ldots,\z_n^{-2},\z_n^{-1},1,\z_n,\z_n^2,\ldots,\z_n^m\quad(\z_n=\cos\frac{2\pi}{n}+i\sin\frac{2\pi}{n})$
$n$個で尽くされるので
\begin{eqnarray} x^n-y^n&=&(x-y)\prod^m_{k=1}(x-\z_n^ky)(x-\z_n^{-k}y) \\&=&(x-y)\prod^m_{k=1}(x^2-(\z_n^k+\z_n^{-k})xy+y^2) \\&=&(x-y)\prod^m_{k=1}(x^2-2xy\cos\frac{2\pi k}{n}+y^2) \end{eqnarray}
と因数分解できることになる。

$\dis\frac{(1+t)^{n-1}+(1-t)^{n-1}}{(1+t)^n-(1-t)^n}=\farc{1}{nt}+\sum^m_{k=1}\frac{2nt}{n^2\tan^2\frac{2\pi k}{n}+n^2t^2}$が成り立つ。

$x=1+t,\;y=1-t$として補題2を適用すると
\begin{eqnarray} (1+t)^n-(1-t)^n&=&((1+t)-(1-t))\prod^m_{k=1}((1+t)^2+2(1+t)(1-t)\cos\frac{2\pi k}{n}+(1-t)^2) \\&=&2t\prod^m_{k=1}2((1+t^2)-(1-t^2)\cos\frac{2\pi k}{n}) \\&=&2t\prod^m_{k=1}2((1-\cos\frac{2\pi k}{n})+t^2(1+\cos\frac{2\pi k}{n})) \\&=&2t\prod^m_{k=1}4\cos^2\frac{\pi k}{n}(\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2) \end{eqnarray}
と変形できるので、これを対数微分すると
$\dis n\frac{(1+t)^{n-1}+(1-t)^{n-1}}{(1+t)^n-(1-t)^n}=\farc{1}{t}+\sum^m_{k=1}\frac{2t}{\tan^2\frac{2\pi k}{n}+t^2}$
となり、これを$n$で割ると主張を得る。

ちなみに
\begin{array}{ll} &(1+t)^n-(1-t)^n&=(1+nt+\cdots)-(1-nt+\cdots) \\=&\dis2t\prod^m_{k=1}4\sin^2\frac{\pi k}{n}(1+\cot^2\frac{\pi k}{n}t^2)&\dis=2t\prod^m_{k=1}4\sin^2\frac{\pi k}{n}+\cdots \end{array}
より$t^1$の係数を比較することで
$\dis(1+t)^n-(1-t)^n=2nt\prod^m_{k=1}(1+t^2\cot^2\frac{\pi k}{n})$
が成り立つ。

補題3において$t\mapsto\frac{t}{n}$とすると
$\dis\frac{\l(1+\frac{t}{n}\r)^{n-1}+\l(1-\frac{t}{n}\r)^{n-1}}{\l(1+\frac{t}{n}\r)^n-\l(1-\frac{t}{n}\r)^n}=\frac1t+\sum^m_{k=1}\frac{2t}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}$
を得る。この$m\to\infty$極限を取ることで
$\dis\frac{e^t+e^{-t}}{e^t-e^{-t}}=\coth t=\frac1t+\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}\frac{2t}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}$
がわかるが...

余談2

一つの落とし穴

ここで$\dis\lim_{n\to\infty}n\tan\frac{\pi k}{n}=\pi k$だから
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}\frac{2t}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}=\sum^\infty_{k=1}\frac{2t}{\pi^2k^2+t^2}$
でいいじゃないか、と言いたいところだがこれだと厳密性に欠けてしまう。
というのも
$\dis f_m(k)=\l\{\begin{array}{cl}\dis\frac{1}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}&k\leq m\\0&k>m\end{array}\r.$
とおくと上の操作は
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^\infty_{k=1}f_m(k)=\sum^\infty_{k=1}\lim_{m\to\infty}f_m(k)$
のように総和$\sum$と極限$\lim$を交換する操作になっており、これを気軽に交換するのはおおよそルベーグ積分の範疇になってしまう。

どうしてこのような操作を気軽に行ってはいけないのかというと
$\dis\lim_{n\to\infty}\sum^n_{k=1}\frac{k}{n^2}=\lim_{n\to\infty}\frac{n(n+1)}{2n^2}=\frac12$
$\dis\sum^\infty_{k=1}\lim_{n\to\infty}\frac{k}{n^2}=\sum^\infty_{k=1}0=0$
という例があるように一つ一つの項はある値に近づくように見えても足し合わせてみると全く違う挙動を示すことがあるからだ。(ほかにもいい例があるかもしれないが私にはこれくらいしか思いつかなかった。)
 余談1で言及したあるサイトというのも含め、初等的証明と銘打たれた記事のことごとくが当然のようにこの操作を行っていてルベーグ積分という武器を手に入れるまでずっともやもやしていた。

これの一つの解決策として先にも言ったようにルベーグ積分の手法がある。今回有効なのは単調収束定理だろう。

ルベーグ積分の単調収束定理:数列版

数列$g_n(k),g(k)$が任意の$k,n$に対し$g_n(k)\geq0,\;g_n(k)\leq g_{n+1}(k),\;\dis\lim_{n\to\infty}g_n(k)=g(k)$を満たすとき
$\dis\lim_{n\to\infty}\sum^\infty_{k=1}g_n(k)=\sum^\infty_{k=1}g(k)$
が成り立つ。

これを使えば$\dis\frac{1}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}\geq0$$m$について単調増加であること(これは容易に示せる)から
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^\infty_{k=1}f_m(k)=\sum^\infty_{k=1}\lim_{m\to\infty}f_m(k)=\sum^\infty_{n=1}\frac{1}{\pi^2k^2+t^2}$
を得ることができる。

ただし最初に言った通りこの記事ではルベーグ積分を使わずに
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}\frac{1}{n^2\tan^2\frac{\pi k}{n}+t^2}=\sum^\infty_{n=1}\frac{1}{\pi^2k^2+t^2}$
を示すのであった。

証明制作秘話

ところで複素解析やルベーグ積分という道具があるのにもかかわらずなんでわざわざ初等的証明なんかを考えたのかというと、ある日 高校数学の美しい物語 のTwitterを眺めててこんなツイートを目にしました。

画像で示された式は
$\dis\sum^\infty_{n=0}\frac1{n^2+a^2}=\frac1{2a^2}(1+a\pi\frac{e^{a\pi}+e^{-a\pi}}{e^{a\pi}-e^{-a\pi}})$
見ての通り$\coth t$の部分分数展開から直ちに得られる公式です。三か月間誰も真に初等的で厳密な証明を与えてなかったようだったのでこれは!と思い、総和と極限の交換の部分をどうしようか色々考え始めたわけです。先のツイートに子葉の名でぶら下がっているように単調収束定理の証明をそのまま流用した手法で示したり、やたらややこしい関数の増減や不等式を示す方法を取ったりした結果、最終的に以下の形に落ち着きました。
 ちなみに因数分解から極限を飛ばすというアイデアは余談1で述べたあるサイトのものですが総和と極限の交換についての議論はすべて自力で考えたものになります。

$\dis\frac{1}{n^2x^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2x+t^2}$の評価

最終的に示したい等式は
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}(\frac{1}{n^2(\frac{\pi k}{n})^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2(\frac{\pi k}{n})+t^2})=0$
です。もちろん
$\dis\lim_{m\to\infty}(\frac{1}{n^2(\frac{\pi k}{n})^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2(\frac{\pi k}{n})+t^2})=0$
なのでこれが$k$によらず$1/m^2$くらいの速さで$0$に収束してくれると嬉しいわけです。最終的には実際に以下の不等式を示すことになります。

実数$t$$\dis0< x<\frac\pi2$に対し$\dis0<\frac{1}{n^2x^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2x+t^2}<\frac{2}{3n^2}$が成り立つ。

これを示すために色々と補題を示していく。以下$\dis0< x<\frac\pi2$とする。

$x^3(\tan^2x+1)-\tan^3x<0$が成り立つ。

$(\tan x-x(\tan^2x+1))'=(\tan^2x+1)-((\tan^2x+1)+2x\tan x(\tan^2x+1))=-2x\tan x(\tan^2x+1)<0$より
$\tan x-x(\tan^2x+1)<(\tan x-x(\tan^2x+1))|_{x=0}=0$なので
$(3(\tan x-x)-x\tan^2x)'=3\tan^2x-(\tan^2x+2x\tan x(\tan^2x+1))=2(\tan x-x(\tan^2x+1))<0$つまり
$3(\tan x-x)-x\tan^2x<(3(\tan x-x)-x\tan^2x)|_{x=0}=0$を得る。

よって
\begin{eqnarray} \l(\frac{x^3(\tan^2x+1)}{\tan^3x}\r)'&=&\frac{(3x^2(\tan^2x+1)+2x^3\tan x(\tan^2x+1))\tan x-3x^3(\tan^2x+1)^2}{\tan^4x} \\&=&\frac{x^2(\tan^2x+1)}{\tan^4x}(3\tan x+2x\tan^2x-3x(\tan^2x+1)) \\&=&\frac{x^2(\tan^2x+1)}{\tan^4x}(3(\tan x-x)-x\tan^2x)<0 \end{eqnarray}
即ち$\dis\frac{x^3(\tan^2x+1)}{\tan^3x}<\lim_{x\to0}\frac{x^3(\tan^2x+1)}{\tan^3x}=1$が成り立ち、これに$\tan^3x$をかけて移項することで主張を得る。

$\dis\lim_{x\to0}\frac{\tan x-x}{x^3}=\frac13$が成り立つ。

$(\tan x-x)'=\tan^2 x>0$より$\tan x-x<(\tan x-x)|_{x=0}=0$なので
$(\tan x-x-\frac13x^3)'=\tan^2x-x^2>x^2-x^2=0$つまり$\tan x-x-\frac13x^3>(\tan x-x-\frac13x^3)|_{x=0}=0$を得る。

よって補題6と合わせて
$\dis\frac13x^3<\tan x-x<\frac13\tan^3x$
がわかるのでこれを$x^3$で割って$x\to0^+$極限を取ることで挟み撃ちの原理より主張を得る。(一応$x\to0^-$については偶関数性より明らか)

$\dis\frac1{x^2}-\frac{1}{\tan^2x}<\frac23$が成り立つ。

補題6より
$\dis\l(\frac1{x^2}-\frac1{\tan^2x}\r)'=-\frac{2}{x^3}+\frac{2(\tan^2x+1)}{\tan^3x}=\frac{2(x^3(\tan^2x+1)-\tan^3x)}{x^2\tan^2x}<0$
なので補題7から
$\dis\frac1{x^2}-\frac1{\tan^2x}<\lim_{x\to0}(\frac1{x^2}-\frac1{\tan^2x})=\lim_{x\to0}\frac{\tan^2x-x^2}{x^2\tan^2 x}=\lim_{x\to0}\frac{\frac{\tan x+x}{x}\cdot\frac{\tan x-x}{x^3}}{(\frac{\tan x}{x})^2}=\frac23$
を得る。

命題5の証明

$\dis0<\frac{1}{n^2x^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2x+t^2}$
については$\tan x>x$より明らかであり、あとは補題8から
\begin{eqnarray} &&\frac{1}{n^2x^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2x+t^2} =\frac{n^2(\tan^2x-x^2)}{(n^2x^2+t^2)(n^2\tan^2x+t^2)} \\&<&\frac{n^2(\tan^2x-x^2)}{(n^2x^2+0^2)(n^2\tan^2x+0^2)} =\frac1{n^2}(\frac1{x^2}-\frac1{\tan^2x}) <\frac{2}{3n^2} \end{eqnarray}
を得る。

定理1の証明

いま命題5から
$\dis0<\sum^m_{k=1}(\frac{1}{n^2(\frac{\pi k}{n})^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2(\frac{\pi k}{n})+t^2})<\sum^m_{k=1}\frac{2}{3n^2}=\frac{2m}{3n^2}$
が成り立っており、$n=2m+1$であったのでこれの$m\to\infty$極限を取ることで
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}(\frac{1}{n^2(\frac{\pi k}{n})^2+t^2}-\frac{1}{n^2\tan^2(\frac{\pi k}{n})+t^2})=0$
を得る。よって
$\dis\coth t=\frac1t+\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}\frac{2t}{n^2\tan^2(\frac{\pi k}{n})+t^2}=\frac1t+\sum^\infty_{k=1}\frac{2t}{\pi^2k^2+t^2}$
が成り立つ。

余談3

$\sinh t$の因数分解公式の初等的証明

途中で
$\dis(1+t)^n-(1-t)^n=2nt\prod^m_{k=1}(1+t^2\cot^2\frac{\pi k}{n})$
という式を紹介したが、これも$t\mapsto\frac{t}n$とすることで
$\dis\frac{(1+\frac{t}n)^n-(1-\frac tn)^n}{2}=t\prod^m_{k=1}(1+\frac{t^2}{n^2}\cot^2\frac{\pi k}{n})$
となり、これの$m\to\infty$極限を取ることで
$\dis\sinh t=t\lim_{m\to\infty}\prod^m_{k=1}(1+\frac{t^2}{n^2}\cot^2\frac{\pi k}{n})$
を得る。

ここで
$\dis h_x(t)=\log(1+\frac{t^2}{n^2x^2})-\log(1+\frac{t^2}{n^2}\cot^2\frac{\pi k}{n})$
とおくと
$\dis h'_x(t)=\frac{2t}{n^2x^2+t^2}-\frac{2t}{n^2\tan^2x+t^2}$
なので命題5より$\dis|h'_x(t)|<\frac{4|t|}{3n^2}$が成り立ち、平均値の定理より$h_x(t)=h_x(t)-h_x(0)=h'_x(\theta_x)t$なので
$\dis\l|\sum^m_{k=1}h_{\frac{\pi k}n}(t)\r|\leq\sum^m_{k=1}|h_{\frac{\pi k}n}(t)|<\farc{4m|t|^2}{n^2}\to0\quad(as\;m\to\infty)$
つまり
$\dis\lim_{m\to\infty}\sum^m_{k=1}\log(1+\frac{t^2}{n^2}\cot^2\frac{\pi k}{n})=\sum^\infty_{k=1}\log(1+\frac{t^2}{\pi^2k^2})$
即ち
$\dis\sinh t=t\lim_{m\to\infty}\prod^m_{k=1}(1+\frac{t^2}{n^2}\cot^2\frac{\pi k}{n})=t\prod^\infty_{k=1}(1+\frac{t^2}{\pi^2k^2})$
が成り立つ。総乗$\prod$と極限$\lim$を交換するときにさっきまでとおなじ議論をやっているだけである。

おまけ

本来(?)なら大学で学ぶ数学の知識で示す公式を高校数学の範囲で(しかも自力で)証明できたということでこれがなかなかのお気に入りで、その調子で入試の問題調にしてTwitterにあげてみたところ少し伸びたことがあった。

もっとも会話形式にアレンジしてくださったのは私とは別の方ではあるが。

投稿日:2021213

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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