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アルキメデス的な順序環は可換であることについて

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順序環についてのちょっとした定理を証明します。

順序環は、アルキメデス的ならば可換である。

ここで順序環とは、次の条件をみたす体系をいいます。

  1. 環である(乗法単位元をもち、必ずしも可換ではない)
  2. 全順序集合である
  3. 演算と順序の間に次の関係がある
      $a \le b \to a+c \le b+c$
      $0 \le a \land 0 \le b \to 0 \le ab$

また、順序環$R$がアルキメデス的であるとは、
$$ \forall a,b \in R \, (a>0 \to \exists n \in \mathbb{N} \, (na>b)) $$
が成り立つことをいいます。

以下、$R$ を順序環とします。$R$ は乗法単位元を有するので、整数環 $\mathbb{Z}$ を部分順序環として包含すると考えられます。このとき、次の事実は数学的帰納法などを用いて簡単に証明できます。

\begin{equation*} \forall n \in \mathbb{Z} \, \forall a \in R \, (na = an) \end{equation*}
これを念頭において定理を証明します。

$R$ が非可換と仮定し、ある $a,b \in R$ に対して $ab \neq ba$ とする。$a,b$ はどちらも$0$ではなく、また $ab \neq ba$ ならば $(-a)b \neq b(-a)$ かつ $a(-b) \neq (-b)a$ だから、$a > 0$ かつ $b > 0$ としてよい。さらに $ab < ba$ として一般性を失わない。以下これらを仮定する。
 $ba - ab > 0$ で、$R$ はアルキメデス的だから、
\begin{equation*} b < m(ba - ab) \end{equation*}
をみたす $m \in \mathbb{N}$ が存在する。この $m$ に対して再び $R$ のアルキメデス性より、
\begin{equation*} nb < mba \le (n+1)b \end{equation*}
をみたす $n \in \mathbb{N}$ が存在する。これらに対して、まず
\begin{equation*} bn = nb < mba = b(ma) \end{equation*}
かつ $b > 0$ より $n < ma$ が成り立つ。一方、
\begin{equation*} mba + mab \le (n+1)b +mab = nb + b + mab < nb + m(ba - ab) + mab = nb + mba \end{equation*}
より
\begin{equation*} (ma)b < nb \end{equation*}
であるから、$b > 0$ より $ma < n$ が成り立つ。これは矛盾である。

そうすると、アルキメデス的でない非可換な順序環の存在を例示したくなりますが、これが今のところなかなか思いつきません。非可換環の上に演算と整合する順序を載せるのは結構難しそうです。

(2021/2/21追記) 非可換な順序環が例示できました。

投稿日:2021215

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趣味で数学を勉強しています。 ハンドル名はシャーロック・ホームズの「まだらの紐」の登場人物からです。私自身は博士ではありません。

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