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大学数学基礎解説
文献あり

メビウス変換の微分作用素表示

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こんにちは(´∀`*)
毎度毎度誤植が多くてごめんなさい(^_^;

メビウス変換の微分作用素表示

fを無限回微分可能な関数、=ddxadbc=1d0とする。このとき ecd1(x2+λx)d2xλebd1f(x)=(cx+d)λf(ax+bcx+d)

証明

並進変換

eaf(x)=f(x+a)

eaf(x)=n0m0(a)nn!f(m)(0)m!xm=m0n0f(m)(0)m!anm!n!(mn)!xmn=m0f(m)(0)m!(x+a)m=f(x+a)

オワリ

exp(f(x)+)=exp(f(x+1)f(x))exp

線形代数の固有値の話を思い出すと良いです。
任意のkについて関数exp(kxf(x))上記の作用素の固有値ekの固有関数であり、線形独立なので関数全体を張る基底となります。実際
(f(x)+)exp(kxf(x))=(f(x)+(kf(x))exp(kxf(x))=kexp(kxf(x))
であるのでf(x)+は固有値kの関数なので(左辺)の固有値はek
一方[補題2]より
()exp(kxf(x))=exp(f(x+1)f(x))exp(kx+kf(x+1))=ekexp(kxf(x))
なので固有値はekです。
固有値と固有関数の一致が取れたので作用素は等しいです。 オワリ

補題2は割と有能ですが全く見かけないのなんででしょうね(BCH公式の系でもあります)
微分作用素は変数変換をすることができます:
ddx1=x2ddx
ddlogx=xddx
です。 ここまで来ればスムーズに定理を証明できます。
z=dcxとして

expcd1(x2+λx)exp(log(d)(2x+λ))exp(bd1)f(x)=dλexpcd1(x2+λx)exp(2log(d)logx)f(exp(logx)+bd1)(2)=dλexpcd1(x2+λx)f(exp(logx2logd)+bd1)(2)=dλexp(zλz1)f(d2x+bd1)=dλexp(λlog(z+1)+λlogz)exp(cd1x1)f(1d21x1+bd)(3)=dλ(z+1z)λf(1d(x(1+bc)+bdcx+d))=(cx+d)λf(ax+bcx+d)
最後はadbc=1を用いました。
オワリ
メビウス変換はPSL₂行列と同型な構造を持ちます:
2次行列M=(abcd)について作用素Aを
Aλ(M)f(x)=(cx+d)λf(ax+bcx+d)
と定義すると、行列がM1M2=M3のとき作用素の合成として Aλ(M1)Aλ(M2)=Aλ(M3) ()Aλ(1001)=1リー群の話として見ていきましょう。

交換子積を[A,B]=ABBAとすると以下のリー代数準同型が作れます。

sl2の微分作用素表現

sl2CE0CE+CEE+:=z2λzE:=E0:=2z+λ[E+,E]=E0[E0,E+]=2E+[E,E0]=2E

実際に準同型を満たしていることの確認です。
[E+,E]f(z)=(z2f(z)+λzf(z))(z2+λz)f(z)=2zf(z)+λf(z)=E0f(z)
[E0,E+]f(z)=2z(z2f(z)λzf(z))+(z2+λz)(2zf(z))=2E+f(z)
[E,E0]f(z)=(2zf(z)λf(z))(2zλ)f(z)=2Ef(z)

一方行列表現もあります。

sl2の自然表現

E0(1001)E+(0100)E(0010)

実際に同じような交換関係が成立します。これは微分作用素表現が自然表現に対応する行列と同等に使えることを示しています。

exp(0a00)=(1a01)
exp(a00a)=(ea00ea)
に注意すると、線形代数のUDL分解(上三角,対角,下三角に分解)を行うことでadbc=1のもと
(abcd)=(1c/d01)(1/d00d)(10b/d1)
Aλ(abcd)=Aλ(1c/d01)Aλ(1/d00d)Aλ(10b/d1)
という対応が得られますが、右辺のAλの因子は順に、1/x,logx,xのshift作用素になっていますから、2×2行列をシンプルな作用素に分解出来たことになり、冒頭の定理が証明できたことになります!(これは次回の記事でも用います)

このsl2の微分作用素表現はλ=0のとき射影平面の正則ベクトル場を貼り、
メビウス変換の生成子になっています。
今回はexpでリー環からリー群に具体的に対応させた公式になっています。
次の記事のexp sl2の明示公式とLie群の考え方を活用すると定理3が証明できます!

https://mathlog.info/articles/2160

メビウス変換明示公式(UDL分解しない形)

ϕ=a02+a+aとする。このとき
exp[a+(x2+λx)+a+a0(2x+λ)]f(x) =(xaϕ1sinhϕ+coshϕa0ϕ1sinhϕ)λf(xϕcoshϕ+xa0sinhϕ+a+sinhϕxasinhϕ+ϕcoshϕa0sinhϕ)

一般次元Hankel変換の作用素的表現を見ていたらモジュラー形式の定義と全く同じ構造が仕組まれていることに気づきましたので、まとめてみました。
γ1,γ2PSL2Cとしたとき
Ak(γ1)Ak(γ2)=Ak(γ1γ2)
Ak(γ1)=Ak(γ)1
Ak(12)=1
が成り立ち、最初の定理を活用します。

もっともシンプルな保型形

離散部分群 Γ0(N)={γPSL2Z;c0  (mod N)} に対して、レベルN、重さkmod NのDirichlet指標χを保型因子につけたモジュラー形式とは、上半平面H={zC;Im z>0}上で正則かつziで正則な次の微分方程式の正則関数解である。 γΓ0(N)ker(Ak(γ)dχ)

次の乗算作用素J(γ1)
J(γ1)f(x):=1cx+df(x)
は保型因子の作用素です:
Ak(γ)=J(γ)kA0(γ)

A0(γ)は特にMöbius変換作用素として知られています。保型因子の積の公式として
J(γ1γ2)=J(γ1)A0(γ1)J(γ2)A0(γ1)1
が成立する(J(γ1)から定義してるので通常の関数jと少し流儀が異なるので注意)
また微分形式δxに対して平行移動とチェインルールから
A0(γ)δx=δax+bcx+d=δbadccx+d=1(cx+d)2δx
という変換を受けるのでm次元体積要素g(x)δxmの変換は
A0(γ)g(x)δxm=δxm(cx+d)2mA0(γ)g(x)=(A2m(γ)g(x))δxm
となり重さは次元と関係が深いことが分かりました。

以上はPSL2作用の固有関数についてで、今回は1変数で証明しましたが行列変数の公式に書き換えるとSiegel保型形式も今回と同様な形で書き表せます。

大体の話の参考元に関してはWikipediaしかないです。リー環については井ノ口順一氏の『初めて学ぶリー環』です。

どうだったでしょうか〜? すこし保型形式のなんやこれ感が減った気がします
では(。・ω・)ノ゙

参考文献

[1]
井ノ口順一, 初めて学ぶリー環
投稿日:202134
OptHub AI Competition

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投稿者

赤げふ
赤げふ
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東工大情報M1 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

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