リーマンの素数公式

はじめに

　この記事ではリーマンの素数公式の導出について解説していきます。
　なお解説の中で級数や積分や極限を説明もなく交換したりしますが、そこら辺の正当性については特に触れませんので悪しからず。
　まずリーマンの素数公式とは以下の公式のことを言うのでした。

　ここで$\mu (n)$はメビウス関数、$\pi (x)$は素数個数関数、$\mathrm{Li}(x)$は対数積分関数、つまり
$$\pi (x)=\sum _{p<x}1,\mathrm{Li}(x)=\underset{\epsilon \to 0^{+}}{lim}({\int }_0^{1-\epsilon }\frac{dt}{\log t}+{\int }_{1+\epsilon }^x\frac{dt}{\log t})={\int }_0^x\frac{dt}{\log t}$$
とした。また素数個数関数の不連続点$x=$(素数)においては
$$\pi (x)=\frac{1}{2}+\sum _{p<x}1=\underset{h\to 0}{lim}\frac{\pi (x+h)+\pi (x-h)}{2}$$
と値を定める。(素数公式の右辺の各項は連続関数であることを踏まえればその妥当性には納得できると思う。)
　ちなみに素数公式右辺の$n>{\log }_{2}x$における項は$0$になる(このことは下の定理2でわかる)ので
$$\pi (x)=\sum _{n=1}^{\lfloor {\log }_{2}x\rfloor }\frac{\mu (n)}{n}(\mathrm{Li}(x^{\frac{1}{n}})-\sum _{\rho }\mathrm{Li}(x^{\frac{\rho }{n}})+{\int }_{x^{\frac{1}{n}}}^{\mathrm{\infty }}\frac{dt}{t(t^2-1)\log t}-\log 2)$$
と書くこともできます。

メリン変換

　素数公式の証明に入る前にメリン変換というものを紹介しておきます(ラプラス変換のように片側型と両側型があり、今回紹介するのは片側型の方です)。

　これはフーリエ変換
$$f\mapsto \mathcal{F}[f](t)={\int }_{-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}f(x)e^{-2\pi itx}dx$$
およびにステップ関数
$$\theta (x)=\{\begin{array}{cl}1& x\ge 0\\ 0& x<0\end{array}$$
を用いると$s=\sigma +it$に対して
$$\begin{array}{rcl}\mathcal{M}[f](s)& =& {\int }_1^{\mathrm{\infty }}f(x)x^{s-1}dx\\ & =& {\int }_0^{\mathrm{\infty }}f(e^{2\pi x})e^{2\pi (\sigma +it)x-2\pi x}(2\pi e^{2\pi x})dx\\ & =& {\int }_{-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}(2\pi \theta (x)f(e^{2\pi x})e^{2\pi \sigma x})e^{2\pi itx}dx\\ & =& \mathcal{F}[2\pi \theta (x)f(e^{2\pi x})e^{2\pi \sigma x}](-t)\end{array}$$
と表せるので、これを$t\mapsto -t$としてフーリエ逆変換することで
$$\begin{array}{rcl}2\pi \theta (x)f(e^{2\pi x})e^{2\pi \sigma x}& =& {\int }_{-\mathrm{\infty }}^{\mathrm{\infty }}\mathcal{M}[f](\sigma -it)e^{2\pi itx}dt\\ & =& {\int }_{\sigma +i\mathrm{\infty }}^{\sigma -i\mathrm{\infty }}\mathcal{M}[f](s)e^{2\pi (\sigma -s)x}\frac{ds}{-i}(\sigma -it=s)\end{array}$$
となり、この両辺を$2\pi e^{2\pi \sigma x}$で割って$e^{2\pi x}\mapsto x$とすることで
$$f(x)=\frac{1}{2\pi i}{\int }_{\sigma -i\mathrm{\infty }}^{\sigma +i\mathrm{\infty }}\mathcal{M}[f](s)x^{-s}ds$$
が成り立ちます。

$\mathrm{\Pi }(x)$の変形

　まず
$$\mathrm{\Pi }(x)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{n}\pi (x^{\frac{1}{n}})$$
とおくと
$$\begin{array}{rl}\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{\mu (n)}{n}\mathrm{\Pi }(x^{\frac{1}{n}})& =\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\sum _{m=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{\mu (n)}{mn}\pi (x^{\frac{1}{mn}})\\ & =\sum _{l=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{l}(\sum _{d|l}\mu (d))\pi (x^{\frac{1}{l}})=\pi (x)\end{array}$$
が成り立つので$\pi (x)$の代わりに$\mathrm{\Pi }(x)$について以下の公式を示せばよいことがわかります。

　ここで$\zeta$関数と素数についての関係を考えてみましょう。$\zeta$関数とはオイラー積表示により
$$\zeta (s)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{n^s}=\prod _p(1-p^{-s}{)}^{-1}$$
という関係で素数と繋がっていました。これの対数を取って少し変形してみましょう。
$$\begin{array}{rcl}\log \zeta (s)& =& \sum _p-\log (1-p^{-s})\\ & =& \sum _p\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{n}{p}^{-ns}\\ & =& \sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\sum _p\frac{s}{n}{\int }_{p^n}^{\mathrm{\infty }}{x}^{-s-1}dx\\ & =& \sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{s}{n}{\int }_1^{\mathrm{\infty }}\left(\sum _{p^n<x}1\right)x^{-s-1}dx\\ & =& s{\int }_1^{\mathrm{\infty }}(\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\frac{1}{n}\pi (x^{\frac{1}{n}}))x^{-s-1}dx\\ & =& s{\int }_1^{\mathrm{\infty }}\mathrm{\Pi }(x)x^{-s-1}dx\\ & =& s\mathcal{M}[\mathrm{\Pi }(x)](-s)\end{array}$$
なんということでしょう、${\displaystyle \frac{\log \zeta (s)}{s}}$は$\mathrm{\Pi }(x)$のメリン変換だというのです。つまりこれを逆変換して$\mathrm{\Pi }(x)$を取り出してみると
$$\mathrm{\Pi }(x)=\frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{\log \zeta (s)}{s}{x}^{s}ds(c>1)$$
が成り立つというわけです。そして$\zeta (s)$にはちょうどいい感じに$\log$がかかっているのでこれは因数分解してみたくなります。$\zeta$関数は この記事 で紹介したように以下のように因数分解されるのでした。

　こうしてみると$(1-\frac{s}{\rho })$の部分が$\mathrm{Li}(x^{\rho })$になって、ともすれば$(s-1)$の部分が$\mathrm{Li}(x)$になるんだろうなあと薄々感付いてくると思います。以下で実際にそうなっていることを確かめていきましょう。
　その前に少し因子を削るために部分積分をしておきましょう。
$$\begin{array}{rcl}\mathrm{\Pi }(x)& =& \frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{\log \zeta (s)}{s}\frac{d}{ds}\left(\frac{x^s}{\log x}\right)ds\\ & =& \frac{1}{2\pi i}{[\frac{\log \zeta (s)}{s}\cdot \frac{x^s}{\log x}]}_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}-\frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{d}{ds}\left(\frac{\log \zeta (s)}{s}\right)\frac{x^s}{\log x}ds\\ & =& -\frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{d}{ds}\left(\frac{\log \zeta (s)}{s}\right)\frac{x^s}{\log x}ds\end{array}$$
こうすることで$\zeta (s)$の$\exp \left(\frac{\log \pi +\gamma }{2}s\right)$と$e^{-\frac{s}{2n}}$の因子が消え
$$\frac{d}{ds}\left(\frac{\log \zeta (s)}{s}\right)=\frac{d}{ds}(\frac{1}{s}(-\log (s-1)-\log 2+\sum _{\rho }\log (1-\frac{s}{\rho })+\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\log (1+\frac{s}{2n})))$$
となります。ここまでくると$\log 2$がそのまま出てきて、$\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\log (1+\frac{s}{2n})$が${\int }_x^{\mathrm{\infty }}\frac{dt}{t(t^2-1)\log t}$になるのだろうと今後の展望が見えてきますね。
　ではこのそれぞれの積分を計算していきましょう。

計算

定数項部分の計算

補題

　ここで$\zeta (s)$の零点・極部分を計算していく前に補題を一つ示しておきましょう。

自明な零点部分の計算

非自明な零点部分の計算

極部分の計算

　上では$\log (-1)=\pi i$としたり積分経路を$L_{+}$としたりしましたが、定理10の左辺は複素共役に対して不変、つまり実数であることと整合性は取れているので$\log$の枝の取り方や積分経路の取り方は問題にならないのだと思います。

まとめ

　以上の議論により
$$\begin{array}{rcl}\mathrm{\Pi }(x)& =& -\frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{d}{ds}\left(\frac{\log \zeta (s)}{s}\right)\frac{x^s}{\log x}ds\\ & =& \frac{1}{2\pi i}{\int }_{c-i\mathrm{\infty }}^{c+i\mathrm{\infty }}\frac{d}{ds}(\frac{1}{s}(\log (s-1)+\log 2-\sum _{\rho }\log (1-\frac{s}{\rho })-\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\log (1+\frac{s}{2n})))\frac{x^s}{\log x}ds\\ & =& \mathrm{Li}(x)-\log 2-\sum _{\rho }\mathrm{Li}(x^{\rho })-{\int }_{\mathrm{\infty }}^x\frac{dt}{t(t^2-1)\log t}\\ & =& \mathrm{Li}(x)-\sum _{\rho }\mathrm{Li}(x^{\rho })+{\int }_x^{\mathrm{\infty }}\frac{dt}{t(t^2-1)\log t}-\log 2\end{array}$$
を得る。

おまけ：チェビシェフ関数の素数公式

　上では$\pi (x),\mathrm{\Pi }(x)$についての素数公式について解説しましたが、解析的にはチェビシェフ関数の素数公式の方が便利な事が多いのでそちらについても解説しておきます。
　チェビシェフ関数とは以下のように定義される関数のことを言います。

　ちなみにチェビシェフ関数は
$$\vartheta (x)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\mu (n)\psi (x^{\frac{1}{n}}),\psi (x)=\sum _{n=1}^{\mathrm{\infty }}\vartheta (x^{\frac{1}{n}})$$
のような関係を持ちます。
　そしてチェビシェフ関数に関しては以下のような素数公式が成り立ちます。

　やることは$\mathrm{\Pi }(x)$の素数公式と同じなので大分端折って説明します。