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大学数学基礎解説
文献あり

ゼータ関数の因数分解公式

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はじめに

 この記事ではRiemann zeta関数の因数分解(無限乗積展開)公式の証明を行います。
 具体的には以下の公式が成り立ちます。

 リーマンゼータ関数ζ(s)について
ζ(s)=1s1exp(logπ+γ2slog2)ρ(1sρ)n=1(1+s2n)es2n
が成り立つ。ただしγはオイラー定数つまり
γ=limn(k=1n1klogn)
とし、ρζの非自明な零点全体を虚部の絶対値が小さい順に渡るものとした。

 また上式の右辺は
πs2s(s1)Γ(s2)ρ(1sρ)
とも表せるので実際には以下の主張を示していくことになります。

 リーマンのξ関数
ξ(s)=s(s1)2πs2Γ(s2)ζ(s)
について
ξ(s)=12ρ(1sρ)
が成り立つ。

ξ関数の積分表示

 まずζ関数の関数等式を示す核として有名な公式

πs2Γ(s2)ζ(s)=1(xs21+x1s21)ψ(x)dx+1s(s1)
が成り立つ。ただし
ψ(x)=n=1eπn2x
とした。

を用いてξ関数が以下のような表示を持つことを示す(上の公式についてはここでは解説しない)。

ξ(s)=41(x32ψ(x))x14cosh(12(s12)logx)dx

 これは部分積分によって
ξ(s)=12s(1s)21(xs21+x1s21)ψ(x)dx=12+ψ(1)+1((1s)xs2+sx1s2)ψ(x)dx=12+ψ(1)+4ψ(1)+21(xs12+xs2)(x32ψ(x))dx=12+ψ(1)+4ψ(1)+41(x32ψ(x))x14cosh(12(s12)logx)dx
と変形できることからあとは以下の等式を示せばよい。

12+ψ(1)+4ψ(1)=0

 ポアソン和公式より
n=eπn2x=n=1xeπn2x
つまり
2ψ(x)+1=x12(2ψ(x1)+1)
が成り立っていたので、これを微分してx=1とすると
2ψ(x)=2x12x2ψ(x1)12x32(2ψ(x1)+1)2ψ(1)=2ψ(1)12(2ψ(x)+1)
がわかるのでこれを整理することで主張を得る。

ξ関数の因数分解表示

 まず最初に簡単な補題を一つ示しておく。

 x>1において(x32ψ(x))>0が成り立つ。

(x32ψ(x))=x32n=1(πn2)2eπn2x+32x12n=1(πn2)eπn2x=n=12πn2x32πn2x12eπn2x
であって、またx>1,n1より
2πn2x3>2π3>0
であることから主張を得る。

いま簡単のためΞ(s)=ξ(s+12)とおく。このときΞ(s)の位数
λ=lim suprloglogmax|s|=r|Ξ(s)|logr
は以下のように求められる。

 Ξの位数は1である。

 定理3およびcoshtのマクローリン展開
cosht=n=01(2n)!t2n
から
Ξ(s)=n=0a2n(2n)!s2n(a2n=41(x32ψ(x))x14(12logx)2ndx)
と展開でき、また補題5からa2n>0なので
|Ξ(s)|n=0|a2n(2n)!s2n|=n=0a2n(2n)!|s|2n=Ξ(|s|)
つまりmax|s|=r|Ξ(s)|=Ξ(r)が成り立つ。
 いまスターリングの公式からrにおいて
ξ(r)=r(r1)2πr2Γ(r2)ζ(r)=(r1)πr(r2eπ)r2(1+o(1))logξ(r)=r2(logr+O(1))loglogξ(r)=logr+O(loglogr)
と評価できるので、これはΞ(r)=ξ(r+12)についても同様であり
λ=lim suprloglogΞ(r)logr=lim suprlogr+O(loglogr)logr=1
を得る。

 あとは アダマールの因数分解定理 を適用し適当に変形していく。

Ξ(s)=Ξ(0)α(1sα)
が成り立つ。ただしαΞの零点全体を虚部の絶対値が小さい順に渡る。

 Ξの位数は1であったので、ある一次関数g(s)=a+bsがあって
Ξ(s)=ea+bsα(1sα)esα
と表せ、関数等式ξ(s)=ξ(1s)つまりΞ(s)=Ξ(s)から
Ξ(s)=ea+bsIm(α)>0(1sα)esα(1+sα)esα=ea+bsIm(α)>0(1s2α2)
および
Ξ(s)Ξ(s)=e2bs=1b=0
となることがわかるのでΞ(0)=eaに注意すると
Ξ(s)=Ξ(0)Im(α)>0(1s2α2)=Ξ(0)α(1sα)
を得る。
 ここで上式一行目の式は絶対収束するのに対し二行目の式は条件収束になるので等号が成り立つためにはαを虚部の絶対値が小さい順に渡らせる必要があることに注意する。

ξ(s)=12ρ(1sρ)

 Ξ(s)=ξ(s+12)であったことに注意して補題7の式をξの零点ρについて表すと
ξ(s)=Ξ(s12)=Ξ(0)ρ(1s12ρ12)=Ξ(0)ρρsρ12
となるのでこれをξ(0)で割ると
ξ(s)ξ(0)=ρρsρ12ρ12ρ0=ρ(1sρ)
を得る。
 またξの定義より
ξ(0)=(01)π02Γ(02+1)ζ(0)=112=12
がわかるので主張を得る。

おまけ:絶対収束する因数分解表示

 上では
ζ(s)=1s1exp(logπ+γ2slog2)ρ(1sρ)n=1(1+s2n)es2n
という表示を示しましたが、この非自明な零点の因子
ρ(1sρ)
は条件収束であり、これを絶対収束させるためには補正因子esρを掛けて
ρ(1sρ)esρ
とする必要があります。
 そしてこの変形によって因数分解公式の指数部分は次のように変化することがわかります。

logπ+γ2ρ1ρ=log2π1

 因数分解公式を対数微分すると
ζ(s)ζ(s)=1s1+logπ+γ2+ρ1sρ+n=1(1s+2n12n)
となるので
ζ(0)ζ(0)=1+logπ+γ2ρ1ρ
が成り立つ。
 また この記事 の定理10から
ζ(0)ζ(0)=log2π
であったことから主張を得る。

 したがって以下の絶対収束する因数分解表示が得られます。

ζ(s)=(2πe1)s2(s1)ρ(1sρ)esρn=1(1+s2n)es2n

参考文献

投稿日:2021119
更新日:202436
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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