1. ジョルダン基底の帰納的構成の方針
前回の記事[1]でのジョルダン基底の構成法を用いて、行列に対しがジョルダン標準形となるような行列を求めるアルゴリズムを解説したいと思います。
[1]でのジョルダン基底の構成法は次のようにまとめられます。
を 次元ベクトル空間 の線形変換、 として、、 とする。 のジョルダン基底 が なら となっている時、 に を付け加えて の基となるように取り、 を、 となるように取れば、 にこれらを付け加えると のジョルダン基底となる。
が行列で与えられている時上のがどのような行列で表されるのかが分かれば、次元を下げてゆくことにより帰納的にのジョルダン基底を構成してゆくことができることになります。それは次の補題により分かります。
次元逓減補題
次正方行列 が として、必要なら番号を取り替えて、 が の基になっているとします。この時 に行変形を行なって簡約化すると、
となります。この分割に応じて と分割します。この時
の、基 に関する、 の表現行列は、
で与えられます。
この補題の証明には少し準備が必要なので別稿に回したいと思います。自力でこれを証明できる人は線形代数のエキスパートと言えるでしょう。
2. の場合
帰納法の出発点はですが、の時に次の分類定理を用いると計算が簡単になります。
2次複素行列の分類定理
2次複素行列 の固有値を とすると、 は次のいずれかとなります。
のとき、 ただし なら とする、は の固有ベクトルで、 として とすると、
で、 または のとき、任意の に対し として、 なら は正則で、
こんな簡単な定理が知られていないはずはないと思うのですが文献を見つけることはできませんでした。どなたかご教示いただければ幸いです。(易しすぎるので誰も考えたことがないのかもしれません。)
証明は練習問題ということにしておきます。
3. 計算例6つ
ここで具体的な例について計算してみます。問題として、ジョルダン標準形の例題をたくさん扱っている、斎藤正彦[2]の 8.2.10 節の六つの例題を解いてゆくことにします。(以下でははまたはとします。)
1) 固有多項式は を簡約化すると、
よって が の固有値2に属する固有ベクトル。 の基底 に関する の表現行列は、補題1により、
の固有値は だけだから定理1(2) により、 では、で はジョルダン標準形に変換され、 は元の では
だから とすれば、
2) を簡約化すると、
の基底 に関する の表現行列は、
の固有値は だけだから、 は、 でジョルダン標準形となり、元のでは、 で より ととれて、 とすると、
3) を簡約化すると、
従って が の固有値1に属する独立な固有ベクトル。
の基底 に関する の表現行列は、
の固有値は だけだから でジョルダン標準形となり、 では でこれに の基底を付け加えて とすると,
4) を簡約化すると、
の基底 に関する の表現行列は、
よって なので 逆行列の計算のことも考えて、 と取って、 とすれば、
5) を簡約化すると、
の基底 に関する の表現行列は、
の固有値は だけだから は のジョルダン基底で、元のでは、 なので とすると で、 に を加えると が の基底となります。したがって とすると、
6) を簡約化すると、
の基底 に関する の表現行列は、
を簡約化すると、
の基底 に関する の表現行列は、
となり、 のジョルダン基底は と取れ、これらは では と表され、 が を満たして、これらは元の では、 で が を満たしているので、 とすれば、
4.ジョルダン細胞がただ一つの場合
問題によっては上に述べた方法より簡単な方法があります。例えば前節の例題 2) と 6) は次の命題で、 とした場合にあたります。
次行列 の固有多項式が で なら任意の に対し とすると、 なら は正則で、.
実際この時 のジョルダン基底は大きさ の 系列が一つだけで、 とすると であることがわかります。したがって ととれば、 となり は独立で、 のジョルダン基底となっています。