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大学数学基礎解説
文献あり

一般化ルジャンドル関係式

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はじめに

 この記事では一般化楕円積分にまつわるルジャンドル関係式を紹介します。
 まずルジャンドル関係式とは次の恒等式のことを言うのでした。

ルジャンドル関係式

 完全楕円積分
K(k)=01dt(1t2)(1k2t2)E(k)=011k2t21t2dt
およびk=1k2に対して
K(k)E(k)+K(k)E(k)K(k)K(k)=π2
が成り立つ。

 そして芝浦工業大学の竹内慎吾教授(日本人!)はこれの一般化を考え、2016年(割と最近!)に
Legendre-type relations for generalized complete elliptic integrals
という論文で以下のように具体的な一般化を与えたようです。

一般化完全楕円積分

 4つのパラメーター
p(,0)(1,],q,r(1,),k[0,1)
に対して一般化完全楕円積分Kp,q,r(k),Ep,q,r(k)
Kp,q,r(k)=01dt1tqp1kqtqrEp,q,r(k)=011kqtqr1tqpdt
と定める。
 このときK2,2,2(k)=K(k), E2,2,2=E(k)が成り立つことに注意する。

一般化円周率

 一般化円周率πp,q
πp,q=201dt1tqp
と定める。
 このときπ2,2=πが成り立つことに注意する。

一般化ルジャンドル関係式

 写像xx1x+1x=1によって定め、また
k=1kqr,1s=1p1q
とおくと
Kp,q,r(k)Ep,r,q(k)+Kp,r,q(k)Ep,q,r(k)Kp,q,r(k)Kp,r,q(k)=πp,qπs,r4
が成り立つ(ただし1=0とする)。

 実際にp=q=r=2のときを考えてみるとq=r=2,s=であり
π,q=201dt(1tq)1=201dt=2
に注意すると最初に挙げたルジャンドル関係式
K(k)E(k)+K(k)E(k)K(k)K(k)=π2
が出てくることがわかります。
 ちなみにこの一般化ルジャンドル関係式は超幾何関数にまつわるElliottの恒等式
2F1(12+a,12ba+c+1;z)2F1(12a,12+bb+c+1;1z)+2F1(12+a,12ba+c+1;z)2F1(12a,12+bb+c+1;1z)2F1(12+a,12ba+c+1;z)2F1(12a,12+bb+c+1;1z)=Γ(a+c+1)Γ(b+c+1)Γ(a+b+c+32)Γ(c+12)
と等価であることが知られています(このことについては 別の記事 で詳しく解説します)。
 E.B.Elliottがこの恒等式を超幾何関数の観点から証明したところを、竹内教授は楕円積分の観点からの別証明を与えたという構図になっているようです。

証明のあらすじ

 まずKp,q,rEp,q,rとの間に
dKp,q,rdk=aEp,q,r(akq)Kp,q,rk(1kq)(a=1+qrqp)dEp,q,rdk=q(Ep,q,rKp,q,r)rk
という微分方程式が成り立つことを示す。
 そして
Kp,q,r=Kp,q,r(k),Ep,q,r=Ep,q,r(k)
とおいたとき、上の微分方程式から
L=Kp,q,rEp,r,q+Kp,r,qEp,q,rKp,q,rKp,r,q

dLdk=0
を満たすことを確かめる。
 したがって
L(k)=Const.
がわかるのでk0+において
Kp,q,r(0)=πp,q2,Ep,r,q(1)=πs,r2
および
limk0+(Ep,q,rKp,q,r)Kp,r,q=0
と計算できることから
L=limk0+L(k)=πp,qπs,r4
を得る。といった具合になります。

証明

一般化三角関数

 まず以下での議論を簡単にするために一般化した三角関数を導入します。

一般化三角関数

 一般化正弦関数sinp,q:[0,πp,q2][0,1]を関数
fp,q(x)=0xdt1tqp(x[0,1])
の逆関数として定義する。
 またpにおいて一般化余弦関数cosp,q:(0,πp,q2)[0,1]
cosp,qx=(sinp,qx)
と定める。

 いまsinp,q=fp,q1に注意すると逆関数の微分法から
cosp,qx=(fp,q1(x))=1fp,q(fp,q1(x))=1sinp,qqxp
つまり
cosp,qpx+sinp,qqx=1
がわかります。
 ただp=においてはcosp,qがうまく定義されない(性質が崩れる)ため代わりの関数を
cosp,qx=1sinp,qqx
と定めておきます。このときp=においても
(sinp,qx)=cosp,q1px(cosp,qx)=qsinp,qq1xcosp,q1px
が成り立ちます。
 ここで変数変換t=sinp,qθを考えるとθ=fp,q(t)から
dθ=dt1tqp
に注意すると
Kp,q,r(k)=012πp,qdθ1kqsinp,qqθrEp,q,r(k)=012πp,q1kqsinp,qqθrdθ
と表せることが肝になってきます。

楕円積分の微分方程式

 次に上で予告したように次の微分方程式を示します。

a=1+qrqp
とおくと
dKp,q,rdk=aEp,q,r(akq)Kp,q,rk(1kq)dEp,q,rdk=q(Ep,q,rKp,q,r)rk
が成り立つ。

 Ep,q,rについては簡単にわかる。
dEp,q,rdk=qr01kq1tq1tqp(1kqtq)11rdt=qrk01(1kqtq)11tqp(1kqtq)11rdt=qrk(011kqtqr1tqpdt01dt1tqp(1kqtq)11r)=qrk(Ep,q,rKp,q,r)
 Kp,q,rについては以下の補題を用いて示す。

ddθcosp,qθ1kqsinp,qqθr=q(kq1)rsinp,qq1θcosp,q1p1rθ(1kqsinp,qqθ)1+1r

 1r+1r=1およびcosp,qθ=1sinp,qqθとしていたことに注意すると
ddθcosp,qθ1kqsinp,qqθr=1r(cosp,qθ1kqsinp,qqθ)1r1ddθ(cosp,qθ1kqsinp,qqθ)=1rcosp,q1rθ(1kqsinp,qqθ)1r1(1kqsinp,qqθ)(1sinp,qqθ)(1kqsinp,qqθ)cosp,qθ(1kqsinp,qqθ)2=1rcosp,q1rθ(sinp,qqθ)((1kqsinp,qqθ)+kqcosp,qθ)(1kqsinp,qqθ)1+1r=1rcosp,q1rθ(qsinp,qq1θcosp,q1pθ)(kq1)(1kqsinp,qqθ)1+1r=q(kq1)rsinp,qq1θcosp,q1p1rθ(1kqsinp,qqθ)1+1r
とわかる。

 いま定義より
sinp,q0=0,sinp,qπp,q2=1,cosp,qπp,q2=0
が成り立つことに注意すると
dKp,q,rdk=qr012πp,qkq1sinqθ(1kqsinp,qqθ)1+1rdθ=kq1kq1012πp,q(q(kq1)rsinp,qq1θcosp,q1p1rθ(1kqsinp,qqθ)1+1r)sinp,qθcosp,q1r1pθdθ=kq1kq1012πp,qcosp,q1rθ1kqsinp,qqθrddθ(sinp,qθcosp,q1r1pθ)dθ=kq11kq012πp,qcosp,q1rθ1kqsinp,qqθr(cosp,q1rθq(1r1p)sinp,qqθcos1r1θ)dθ=kq11kq012πp,qcosp,qθ(a1)sinp,qqθ1kqsinp,qqθrdθ=1k(1kq)012πp,qkq(1asinp,qqθ)1kqsinp,qqθrdθ=1k(1kq)012πp,qkqa1kqsinp,qqθrdθ+1k(1ka)012πp,qa(1kqsinp,qqθ)1kqsinp,qqθrdθ=kqak(1kq)Kp,q,r+ak(1ka)Ep,q,r
を得る。

k=1kqr,Kp,q,r=Kp,q,r(k),Ep,q,r=Ep,q,r(k)
および
a=1+qrqp,b=1+rqrp
とおくと
dKp,q,rdk=aEp,q,r(akq)Kp,q,rk(k)rdEp,q,rdk=q(Ep,q,rKp,q,r)rkdKp,r,qdk=q(bEp,r,q(b(k)r)Kp,r,q)rk(k)rdEp,r,qdk=kq1(Ep,r,qKp,r,q)(k)r
が成り立つ。

dkdk=qrkq1(k)r1
および(x)=xに注意するとわかる。

ルジャンドル関係式の証明

L=Kp,q,rEp,r,q+Kp,r,qEp,q,rKp,q,rKp,r,q
とおくと
dLdk=0
が成り立つ。

 定理4系に注意して計算していくと
dLdk=aEp,q,r(akq)Kp,q,rk(k)rEp,r,qKp,q,rkq1(Ep,r,qKp,r,q)(k)rq(bEp,r,q(b(k)r)Kp,r,q)rk(k)rEp,q,r+Kp,r,qq(Ep,q,rKp,q,r)rkaEp,q,r(akq)Kp,q,rk(k)rKp,r,q+Kp,q,rq(bEp,r,q(b(k)r)Kp,r,q)rk(k)r=(akqk(k)rkq1(k)r+qbrk(k)r)Kp,q,rEp,r,q+(q(b(k)r)rk(k)r+qrkak(k)r)Kp,r,qEp,q,r+(kq1(k)rqrk+akqk(k)rq(b(k)r)rk(k)r)Kp,q,rKp,r,q+(ak(k)rqbrk(k)r)Ep,q,rEp,r,q=qbrark(k)r(Kp,q,rEp,r,q+Kp,r,qEp,q,rKp,q,rKp,r,qEp,q,rEp,r,q)
と整理でき、a,bの取り方からqbra=0が成り立つことに注意すると主張を得る。

1v=1p1r
とおくと
Kp,q,r(0)=πp,q2,Ep,q,r(1)=πv,q2
が成り立つ。

Kp,q,r(0)=01dt1tqp,Ep,q,r(1)=01dt(1tq)1p1r
および一般化円周率の定義から明らか。

limk0+(Ep,q,rKp,q,r)Kp,r,q=0

(Kp,q,rEp,q,r)Kp,r,q=012πp,q(1(1kqsinp,qqθ)1r(1kqsinp,qqθ)1r)dθ012πp,rdθ(1(k)rsinp,rrθ)1q=012πp,q1(1kqsinqθ)(1kqsinp,qqθ)1rdθ012πp,rdθ(1(1kq)sinp,rrθ)1q012πp,qkq1q(1kqsinp,qqθ)1rdθ012πp,rdθ(kq(1sinp,rrθ)+kqsinp,rrθ)q1q=kqKp,q,r(k)1kq1πp,r2=πp,r2kFp,q,r(k)0(ask0+)
とわかる。

 以上より
1s=1p1q
とおくと
L=limk0+L(k)=Kp,q,r(0)Ep,r,q(1)=πp,qπs,r4
を得る。

参考文献

投稿日:2021319
更新日:2024519
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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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  1. はじめに
  2. 証明のあらすじ
  3. 証明
  4. 一般化三角関数
  5. 楕円積分の微分方程式
  6. ルジャンドル関係式の証明
  7. 参考文献