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大学数学基礎解説
文献あり

超幾何関数のいろいろな公式

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{array}{c}#1,#2\\#3\end{array};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{lr}[0]{\leftrightarrow} \newcommand{ndiv}[0]{\nmid} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{prime}[0]{\mathrm{prime}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\mathrm{Re}} \newcommand{resp}[0]{\mathrm{resp}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

この記事では超幾何関数${}_2F_1$にまつわる色々な公式を紹介していきます。
また、より発展的な内容の記事も最近書きましたので、こちらもご参照ください→ 超幾何関数の変換公式の導出

まず超幾何関数とは以下のような関数のことを言うのでした。

超幾何関数

複素数$a,b,c,z$に対して超幾何関数$\F{a}{b}{c}{z}$
$\dis\F{a}{b}{c}{z}=\sum^\infty_{n=0}\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_n}\frac{z^n}{n!}$
と定める。ただし$(x)_n$はポッホハマー記号$(x)_n=x(x+1)(x+2)\cdots(x+n-1)$とした。

超幾何関数は(例えばダランベールの判定法などにより)収束半径が$|z|<1$の関数であることがわかります。
また$a,b,c$については$\G$関数が絡んでくる影響で様々な制約($c\not\in\Z_{\leq0}$とか)を課す必要がありますがこの記事では特に気にしないこととします。

ちなみに$F$の左右に置かれている$2$$1$は一般化超幾何関数
$\dis{}_pF_q\left(\begin{array}{c}a_1,a_2,\ldots,a_p\\b_1,b_2,\ldots,b_q\end{array};z\right)=\sum^\infty_{n=0}\farc{(a_1)_n(a_2)_n\cdots(a_p)_n}{(b_1)_n(b_2)_n\cdots(b_q)_n}\farc{z^n}{n!}$
$p=2,q=1$という特別な場合であることを表しています。この記事では${}_2F_1$についてしか解説しませんが、一般化超幾何関数の一つ${}_3F_2$はClausenの公式として後で出てくることになります。

公式の一覧

先にこの記事で紹介する公式を書き並べておきます。

積分表示

$\dis \F abcz=\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-zt)^{-b}dt$

超幾何定理

$\dis \F abc1=\frac{\G(c)\G(c-a-b)}{\G(c-a)\G(c-b)}$

超幾何微分方程式

$F(z)=\F abcz$について
$\dis z(1-z)F''+(c-(a+b+1)z)F'-abF=0$

二次変換公式

$\dis \F ab{\frac{a+b+1}{2}}z=\F{\frac a2}{\frac b2}{\frac{a+b+1}2}{4z(1-z)}$

Clausenの公式

$\dis {\F ab{a+b+\frac12}z}^2= {}_3F_2\left(\begin{array}{c}2a,2b,a+b\\2a+2b,a+b+\frac12\end{array};z\right)$

Elliottの恒等式

\begin{eqnarray} &&\F{\frac12+a}{-\farc12-b}{a+c+1}{z}\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&&\quad+\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{-\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&&\quad-\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&=&\frac{\G(a+c+1)\G(b+c+1)}{\G(a+b+c+\frac32)\G(c+\frac12)} \end{eqnarray}

ルジャンドル関係式

$\dis F_s(z)=\F{\farc1s}{1-\farc1s}1z,\;G_s(z)=z\frac{dF_s}{dz},w=1-z$としたとき
$\dis zF_s(z)G_s(w)+wF_s(w)G_s(z)=\frac{1}{\pi}\sin\frac{\pi}{s}$

証明

積分表示と超幾何定理

超幾何関数の積分表示

$\dis \F abcz=\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-zt)^{-b}dt$

ベータ関数の性質
$\dis B(x,y)=\int^1_0t^{x-1}(1-t)^{y-1}dt=\frac{\G(x)\G(y)}{\G(x+y)}$
$(1-x)^{-\a}$のマクローリン展開
$\dis (1-x)^{-\a} =\sum^\infty_{n=0}\left.\frac{d^n}{dt^n}(1-t)^{-\a}\right|_{t=0}\frac{x^n}{n!} =\sum^\infty_{n=0}\frac{\a(\a+1)\cdots(\a+n-1)}{(1-0)^{\a+n}}\farc{x^n}{n!} =\sum^\infty_{n=0}\farc{(\a)_n}{n!}x^n$
そしてポッホハマー記号の明示的な式
$\dis (x)_n=\frac{\G(x+n)}{\G(x)}$
に注意すると
\begin{eqnarray} \F abcz &=&\sum^\infty_{n=0}\frac{\G(a+n)}{\G(a)}\frac{\G(c)}{\G(c+n)}\farc{(b)_n}{n!}z^n \\&=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\sum^\infty_{n=0}\farc{\G(a+n)\G(c-a)}{\G(c+n)}\farc{(b)_n}{n!}z^n \\&=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\sum^\infty_{n=0}\int^1_0t^{a+n-1}(1-t)^{c-a-1}dt\farc{(b)_n}{n!}z^n \\&=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}\sum^\infty_{n=0}\farc{(b)_n}{n!}(zt)^ndt \\&=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-zt)^{-b}dt \end{eqnarray}
とわかる。

ちなみにこの積分公式は
$\dis \int^1_0t^{a-1}(1-t)^{b-1}(1-zt)^{-c}dt=B(a,b)\F ac{b+a}z$
と表すこともできます。

$\dis \F abc1=\frac{\G(c)\G(c-a-b)}{\G(c-a)\G(c-b)}\quad$(超幾何定理)

上の積分表示において$z=1$とすることで
\begin{eqnarray} \F abc1 &=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-t)^{-b}dt \\&=&\farc{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\frac{\G(a)\G(c-a-b)}{\G(c-b)} \\&=&\frac{\G(c)\G(c-a-b)}{\G(c-a)\G(c-b)} \end{eqnarray}
とわかる。

超幾何微分方程式

超幾何微分方程式

$F(z)=\F abcz$について
$\dis z(1-z)F''+(c-(a+b+1)z)F'-abF=0$

$\dis A_n=\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_n}$
とおいたとき、$(x)_{n+1}=(x+n)(x)_n$であることから漸化式
$\dis A_{n+1}=\frac{(a+n)(b+n)}{c+n}A_n$
が成り立つ。これを変形していくと
\begin{eqnarray} (c+n)A_{n+1}&=&(n^2+(a+b)n+ab)A_n \\&=&(n(n-1)+(a+b+1)n+ab)A_n \\cA_{n+1}+nA_{n+1}&=&n(n-1)A_n+(a+b+1)nA_n+abA_n \end{eqnarray}
となるので
$\dis F(z)=\sum^\infty_{n=0}A_n\frac{z^n}{n!}$
$\dis F'(z)=\sum^\infty_{n=0}nA_n\frac{z^{n-1}}{n!} =\sum^\infty_{n=0}A_{n+1}\frac{z^n}{n!}$
$\dis F''(z)=\sum^\infty_{n=0}n(n-1)A_n\frac{z^{n-2}}{n!} =\sum^\infty_{n=0}nA_{n+1}\frac{z^{n-1}}{n!}$
であることに注意すると
$cF'+zF''=z^2F''+(a+b+1)zF'+abF$
つまり
$(z-z^2)F''+(c-(a+b+1)z)F'-abF=0$
が成り立つことがわかる。

Clausenの公式を示すにあたって${}_3F_2$が満たす微分方程式も示しておく。

$F(z)={}_3F_2\left(\begin{array}{c}a,b,c\\d,e\end{array};z\right)$について
$z^2(1-z)F'''+z((d+e+1)-(a+b+c+3)z)F''+(de-(a+b+c+ab+bc+ca+1)z)F'-abcF=0$

$\dis A_n=\farc{(a)_n(b)_n(c)_n}{(d)_n(e)_n}$
とおいたとき、上と同様にして
\begin{eqnarray} (d+n)(e+n)A_{n+1}&=&(a+n)(b+n)(c+n)A_n \\(n(n-1)+(d+e+1)n+de)A_{n+1}&=&(n^3+(a+b+c)n^2+(ab+bc+ca)n+abc)A_n \end{eqnarray}
および
\begin{eqnarray} &&n^3+(a+b+c)n^2+(ab+bc+ca)n+abc \\&=&(n(n-1)(n-2)+3n(n-1)+n)+(a+b+c)(n(n-1)+n)+(ab+bc+ca)n+abc \\&=&n(n-1)(n-2)+(a+b+c+3)n(n-1)+(a+b+c+ab+bc+ca+1)n+abc \end{eqnarray}
なので
\begin{eqnarray} &&z^2F'''+(d+e+1)zF''+deF' \\&=&z^3F'''+(a+b+c+3)z^2F''+(a+b+c+ab+bc+ca+1)zF'+abcF \end{eqnarray}
がわかり、これを整理することで主張の式を得る。

二次変換公式

超幾何関数の二次変換公式にはかなりの数のバリエーションがあるが、この記事では後の記事で必要になる以下の公式だけ紹介する。
(二次変換公式について詳しく知りたい場合は"hypergeometric function quadratic transformation"などで検索してみると無数の公式を目にすることができるだろう。また単に"hypergeometric function transformation"で検索してみるとさらに膨大なバリエーションの変換公式を見ることができるだろう。)

二次変換公式

$\dis \F ab{\frac{a+b+1}{2}}z=\F{\frac a2}{\frac b2}{\frac{a+b+1}2}{4z(1-z)}$

主張の式の左辺を$f(z)$、右辺を$g(4z(1-z))$とおく。このとき$f,g$はそれぞれ微分方程式
$z(1-z)f''(z)+\frac{a+b+1}{2}(1-2z)f'(z)+abf(z)=0$
$4z(1-z)g''(z)+2((a+b+1)(1-z)-z)g'(z)+abg(z)=0$
を満たす。

ここで$w=4z(1-z)=1-(1-2z)^2$として$G(z)=g(w)$とおくと
$G'(z)=4(1-2z)g'(w),\;G''(z)=16(1-2z)^2g''(w)-2g'(w)=4(4(1-w)g''(w)-2g'(w))$
であるので
\begin{eqnarray} &&z(1-z)G''(z)+\frac{a+b+1}{2}(1-2z)G'(z)+abG(z) \\&=&w(4(1-2z)^2g''(w))-2g'(w))+2(a+b+1)(1-2z)^2g'(w)+abg(w) \\&=&4w(1-w)g''(w)+2((a+b+1)(1-w)-w)g'(w)+abg(w) \\&=&0 \end{eqnarray}
つまり$G(z)$$f(z)$と同じ微分方程式を満たすことがわかる。

そして超幾何関数の定義から$z=0$において
$\dis f(0)=g(0)=G(0)=1$
$\dis f'(0)=\frac{ab}{\farc{a+b+1}{2}}=4\frac{\frac a2\frac b2}{\farc{a+b+1}{2}}=4g'(0)=G'(0)$
がわかるので$h(z)=f(z)-G(z)$とおくと
$z(1-z)h''(z)+\frac{a+b+1}{2}(1-2z)h'(z)+abh(z)=0$かつ$h(0)=h'(0)=0$
となり微分方程式の一般論によりそのような関数は$h(z)=0$しか存在しない。
よって$f(z)=g(4z(1-z))$を得る。

補足

上の議論において次のような命題を使っていた。
"超幾何微分方程式$z(1-z)f''+(c-(a+b+1)z)f'+abf=0$を満たす関数$f$のうち$f(0)=f'(0)=0$であるようなものは$f(z)=0$しか存在しない。"
これは次にようにしてわかる(と思う)。

$f(0)=f'(0)=0$から
$\dis\lim_{z\to0}\farc{f(z)}{z}=f'(0)=0,\;\lim_{z\to0}\frac{f'(z)}{z}=f''(0)$
であることに注意して微分方程式
$\dis f''+\farc{c-(a+b+1)z}{z(1-z)}f'(z)+\frac{ab}{z(1-z)}f=0$
において$z\to0$とすると$(1+c)f''(0)=0$がわかるが、($0$除算を避けるため)$c\neq-1$であるので結局$f''(0)=0$となる。
同様に微分方程式を微分しては$z\to0$極限を取ることで
$0=f(0)=f'(0)=f''(0)=f'''(0)=\cdots$
であることがわかる(と思う)ので
$\dis f(z)=\sum^\infty_{n=0}\frac{f^{(n)}(0)}{n!}z^n=0$
でなければならない。

実際にはピカール=リンデレーフの定理という定理によって微分方程式の解の一意性が保証され、同じ微分方程式を満たし初期値が等しい$2$つの関数は解の一意性から関数として一致する。という論証をするのが一般的らしい。

Clausenの公式

Clausenの公式

$\dis {\F ab{a+b+\frac12}z}^2= {}_3F_2\left(\begin{array}{c}2a,2b,a+b\\2a+2b,a+b+\frac12\end{array};z\right)$

二次変換公式を示したのと同じように微分方程式と$z=0$における値が一致していることを示す。
主張の式の左辺を$f(z)^2$、右辺を$g(z)$とおく。このとき$f,g$はそれぞれ微分方程式
$z(1-z)f''+((a+b+1)(1-z)-\frac12)f'-abf=0$
$z^2(1-z)g'''+3z((a+b+1)(1-z)-\frac12)g''+\big((a+b)(2a+2b+1)-(1+3(a+b)+4ab+2(a+b)^2)z\big)g'-4ab(a+b)=0$
を満たす。このままだと少し煩雑なので$c=a+b,d=ab$とおいて
$z(1-z)f''+((c+1)(1-z)-\frac12)f'-df=0$
$z^2(1-z)g'''+3z((c+1)(1-z)-\frac12)g''+\big(c(2c+1)-(1+3c+4d+2c^2)z\big)g'-4cdg=0$
と書き直しておこう。

いま
$z(1-z)f''+((c+1)(1-z)-\frac12)f'-df=0$
$(4cf+6zf'+2zf\frac{d}{dz})$を作用させた式
\begin{eqnarray} 0&=&4cf\Big(\ul{z(1-z)f''}_{(2)}+\ul{((c+1)(1-z)-\frac12)f'}_{(1)}-\ul{df}_{(0)}\Big) \\&&\quad+6f'\Big(\ul{z^2(1-z)f''}_{(3)}+\ul{((c+1)(1-z)-\frac12)zf'}_{(2)}-\ul{dzf}_{(1)}\Big) \\&&\quad+2f\Big(\ul{z^2(1-z)f'''}_{(3)}+\ul{((1-2z)+(c+1)(1-z)-\frac12)zf''}_{(2)}+\ul{(-(c+1)-d)zf'}_{(1)}\Big) \end{eqnarray}
について、下線部の各番号ごとの和を計算すると
\begin{eqnarray} (0)&=&-4cdf^2 \\(1)&=&\Big(2c((c+\frac12)-(c+1)z)-3dz-(c+1+d)z\Big)2ff' \\&=&(c(2c+1)-(1+3c+4d+2c^2))2ff' \\(2)&=&\Big(2c(1-z)+((c+3)(1-z)-\frac32)\Big)2zff''+3((c+1)(1-z)-\frac12)2zf'^2 \\&=&3z((c+1)(1-z)-\frac12)(2ff''+2f'^2) \\(3)&=&z^2(1-z)(6f'f''+2ff''') \end{eqnarray}
となる。

ここで$F(z)=f(z)^2$とおくと
$F'=2ff',\;F''=2ff''+2f'^2,\;F'''=6f'f''+ff'''$
であるので上での議論より
$z^2(1-z)F'''+3z((c+1)(1-z)-\frac12)F''+\big(c(2c+1)-(1+3c+4d+2c^2)z\big)F'-4cdF=0$
つまり$F$$g$と同じ微分方程式を満たすことがわかる。

そして超幾何関数の定義から
\begin{eqnarray} F(0)&=&f(0)^2=g(0)=1 \\F'(0)&=&2f(0)f'(0)=2\farc{ab}{a+b+\frac12}=\frac{2a\cdot2b(a+b)}{(2a+2b)(a+b+\frac12)}=g'(0) \\F''(0)&=&2f(0)f''(0)+2f'(0)^2 \\&=&\frac{2ab(a+1)(b+1)}{(a+b+\frac12)(a+b+\frac32)}+\farc{2a^2b^2}{(a+b+\frac12)^2} \\&=&\frac{ab((a+1)(b+1)(2a+2b+1)+ab(2a+2b+3))}{(a+b+\frac12)^2(a+b+\frac32)} \\&=&\frac{ab(2a+1)(2b+1)(a+b+1)}{(a+b+\frac12)^2(a+b+\frac32)} \\&=&\frac{2a(2a+1)2b(2b+1)(a+b)(a+b+1)}{(2a+2b)(2a+2b+1)(a+b+\frac12)(a+b+\frac32)} \\&=&g''(0) \end{eqnarray}
と初期値も一致しているので結局$F=f^2=g$を得る。

ちなみにこのClausenさん、ベルヌーイ数の分母を決定する定理として有名なvon Staudt-Clausenの定理でおなじみのClausenさんと同じ人らしいです。

Elliottの恒等式

Elliottの恒等式

\begin{eqnarray} &&\F{\frac12+a}{-\farc12-b}{a+c+1}{z}\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&&\quad+\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{-\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&&\quad-\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&=&\frac{\G(a+c+1)\G(b+c+1)}{\G(a+b+c+\frac32)\G(c+\frac12)} \end{eqnarray}

実はこれは既に 前の記事 で一般化ルジャンドル関係式として証明してあります。ここでは一般化ルジャンドル関係式とElliottの恒等式が等価であることを確かめていきましょう。
まず一般化ルジャンドル関係式とは次のステートメントのことを言うのでした。

一般化ルジャンドル関係式

一般化楕円積分
$\dis K_{p,q,r}(k)=\int^1_0\frac{dt}{\sqrt[p]{1-t^q}\sqrt[r]{1-k^qt^q}},\; E_{p,q,r}=\int^1_0\farc{\sqrt[r]{1-k^qt^q}}{\sqrt[p]{1-t^q}}dt$
と一般化円周率
$\dis \pi_{p,q}=\int^1_0\farc{dt}{\sqrt[p]{1-t^q}}$
および写像$\cdot^*:x\mapsto\frac{x}{x-1}$について
$\dis K_{p,q,r^*}(k)E_{p,r,q}(k')+K_{p,r,q^*}(k')E_{p,q,r}-K_{p,q,r^*}(k)K_{p,r,q^*}(k')=\frac{\pi_{p,q}\pi_{s,r}}{4}$
が成り立つ。ただし$k'=\sqrt[r]{1-k^q},\;\frac1s=\farc1p-\frac1q$とした。

このとき$K_{p,q,r},E_{p,q,r},\pi_{p,q}$がそれぞれ超幾何関数や$\G$関数で表せれることを示しましょう。

$\dis K_{p,q,r}(k)=\farc{\pi_{p,q}}{2}\F{\farc1q}{\farc1r}{\frac1{p^*}+\frac1q}{k^q},\;E_{p,q,r}(k)=\farc{\pi_{p,q}}{2}\F{\farc1q}{-\farc1r}{\frac1{p^*}+\frac1q}{k^q},\;\pi_{p,q}=\farc2q\farc{\G(\farc1{p^*})\G(\farc1q)}{\G(\farc1{p^*}+\frac1q)}$

$\dis\farc1p+\frac1{p^*}=1$に注意すると変数変換$\dis t^q=t',\;dt=\farc{t'^{\frac1q-1}}{q}dt'$から
$\dis \pi_{p,q}=\farc2q\int^1_0t^{\frac1q-1}(1-t)^{(1-\frac1p)-1}dt=\frac2qB(\frac1q,\frac1{p^*})=\farc2q\farc{\G(\farc1{p^*})\G(\farc1q)}{\G(\farc1{p^*}+\frac1q)}$
がわかるので同様にして超幾何関数の積分表示から
\begin{eqnarray} K_{p,q,r}(k)&=&\farc1q\int^1_0t^{\frac1q-1}(1-t)^{(1-\frac1p)-1}(1-k^qt)^{-\farc1r}dt \\&=&\farc1qB(\frac1q,\farc1{p^*})\F{\farc1q}{\farc1r}{\frac1{p^*}+\frac1q}{k^q} \\&=&\farc{\pi_{p,q}}{2}\F{\farc1q}{\farc1r}{\frac1{p^*}+\frac1q}{k^q} \end{eqnarray}
とわかる。($E_{p,q,r}$についても同様)

あとは
$\dis k^q=z,\;\farc1p=\frac12-c,\;\farc1q=\frac12+a,\;\farc1r=\farc12+b$
とおいたとき
$\dis k'^r=1-z,\;\frac1{p^*}=\frac12+c,\;\farc1{q^*}=\farc12-a,\;\farc1{r^*}=\frac12-b,\;\frac1{s^*}=a+c+1$
に注意して一般化ルジャンドル関係式
$\dis K_{p,q,r^*}(k)E_{p,r,q}(k')+K_{p,r,q^*}(k')E_{p,q,r}-K_{p,q,r^*}(k)K_{p,r,q^*}(k')=\frac{\pi_{p,q}\pi_{s,r}}{4}$
の両辺を$\dis\farc{\pi_{p,q}\pi_{p,r}}{4}$で割ることで
\begin{eqnarray} &&\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{-\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&&\quad+\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z}\F{\frac12+a}{-\farc12-b}{a+c+1}{z} \\&&\quad-\F{\frac12+a}{\frac12-b}{a+c+1}{z}\F{\frac12-a}{\frac12+b}{b+c+1}{1-z} \\&=&\frac{\pi_{s,r}}{\pi_{p,r}} =\farc1r\farc{\G(a+c+1)\G(\farc12+b)}{\G(a+b+c+\frac32)}\cdot\frac r1\farc{\G(b+c+1)}{\G(\farc12+c)\G(\frac12+b)} =\frac{\G(a+c+1)\G(b+c+1)}{\G(a+b+c+\frac32)\G(c+\frac12)} \end{eqnarray}
が得られる。

またElliottの恒等式において$a=b=\frac12-s,a+c+1=b+c+1\mapsto c$とすることで以下の系が得られる。

定理7

\begin{eqnarray} &&\F{s-1}{1-s}{c}{z}\F{s}{1-s}{c}{1-z} \\&&\quad+\F{s-1}{1-s}{c}{1-z}\F{s}{1-s}{c}{z} \\&&\quad-\F{s}{1-s}{c}{z}\F{s}{1-s}{c}{1-z} \\&=&\frac{\G(c)^2}{\G(c+s-1)\G(c-s+1)} \end{eqnarray}

ルジャンドル関係式

ルジャンドル関係式

$\dis F_s(z)=\F{\farc1s}{1-\farc1s}1z,\;G_s(z)=z\frac{dF_s}{dz},w=1-z$としたとき
$\dis zF_s(z)G_s(w)+wF_s(w)G_s(z)=\frac{1}{\pi}\sin\frac{\pi}{s}$

上で得たElliottの恒等式の系において$c=1,\;s\mapsto\frac1s$としたとき
$F'_s(z)=\F{\farc1s-1}{1-\farc1s}1z$とおくと$\G$関数の相反公式から
$\dis F_s(z)F'_s(w)+F_s(w)F'_s(z)-F_s(z)F_s(w) =\farc{\G(1)^2}{\G(\frac1s)\G(2-\frac1s)}=\frac1{(1-\farc1s)\G(\frac1s)\G(1-\farc1s)}=\farc1{1-\frac1s}\frac{\sin\farc\pi{s}}{\pi}$
がわかるのであとは$F'_s(z)$$F_s(z)$$G_s(z)$を用いてうまい具合に表せれることを確かめればよい。

隣接関係式

$(c-a)\F{a-1}{b}{c}z=(c-2a-(b-a)z)\F abcz+a(1-z)\F {a+1}bcz$

両辺の$z^{n+1}$の係数
$\dis(c-a)\frac{(a-1)_{n+1}(b)_{n+1}}{(c)_{n+1}(n+1)!} \lr(c-2a)\farc{(a)_{n+1}(b)_{n+1}}{(c)_{n+1}(n+1)!}-(b-a)\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_nn!} +a\farc{(a+1)_{n+1}(b)_{n+1}}{(c)_{n+1}(n+1)!}-a\frac{(a+1)_n(b)_n}{(c)_nn!}$
が一致していることを示す(定数項については自明)。これを$\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_{n+1}(n+1)!}$で割ると
$(c-a)(a-1)(b+n)\lr(c-2a)(a+n)(b+n)-(b-a)(c+n)(n+1)+(a+n+1)(a+n)(b+n)-(a+n)(c+n)(n+1)$
移項して
$(c-a)(a-1)(b+n)+(b-a)(c+n)(n+1)\lr(a+n)\Big((c-2a)(b+n)+(a+n+1)(b+n)-(c+n)(n+1)\Big)$
であって
\begin{eqnarray} &&(c-a)(a-1)(b+n)+(b-a)(c+n)(n+1) \\&=&((c+1)a-c-a^2)(b+n)+(b-a)(c+(c+1)n+n^2) \\&=&(b-a)n^2+(bc+b-c-a^2)n+(bc+b-ab-c)a \\&=&(a+n)((b-a)n+bc-ab+b-c) \end{eqnarray}
および
\begin{eqnarray} &&(c-2a)(b+n)+(a+n+1)(b+n)-(c+n)(n+1) \\&=&\big((c-2a)+(a+b+1)-(c+1)\big)n+(c-2a)b+(a+1)b-c \\&=&(b-a)n+bc-ab+b-c \end{eqnarray}
と計算できるので一致していることがわかる。

$z\dis\farc{d}{dz}\F abcz=a(\F{a+1}bcz-\F abcz)$

両辺の$z^n$の係数を比較すると
$\dis n\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_nn!}\lr a(\frac{(a+1)_n(b)_n}{(c)_nn!}-\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_nn!})$
であって、これを$\frac{(a)_n(b)_n}{(c)_nn!}$で割ると
$n\lr (a+n)-a$
と一致していることがわかる。

補題10,11から次の式が直ちに従う。

$\dis (c-a)\F{a-1}bcz=(c-a-bz)\F abcz+(1-z)z\frac{d}{dz}\F abcz$

これに$a=\frac1s,b=1-\frac1s,c=1$を代入すると
$\dis (1-\farc1s)F'_s(z)=(1-\frac1s)wF_s(z)+wG_s(z)$
および
$\dis (1-\farc1s)F'_s(w)=(1-\frac1s)zF_s(w)+zG_s(w)$
がわかります。これを用いて最初の式を変形していきましょう。
\begin{eqnarray} \frac{\sin\farc\pi{s}}{\pi} &=&(1-\frac1s)(F_s(z)F'_s(w)+F_s(w)F'_s(z)-F_s(z)F_s(w)) \\&=&F_s(z)\Big((1-\frac1s)zF_s(w)+zG_s(w)\Big)+F_s(w)\Big((1-\frac1s)wF_s(z)+wG_s(z)\Big)-(1-\frac1s)F_s(z)F_s(w) \\&=&zF_s(z)G_s(w)+wF_s(w)G_s(z)+(1-\frac1s)(z+w-1)F_s(z)F_s(w) \\&=&zF_s(z)G_s(w)+wF_s(w)G_s(z) \end{eqnarray}

こうして定理9の式が得られます。

参考文献

投稿日:2021319

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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