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現代数学解説
文献あり

超幾何関数の変換

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{c}[0]{\cdot} \newcommand{CP}[0]{\hat{\mathbb{C}}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\varDelta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{FF}[6]{{}_3F_2\left(\begin{matrix}#1,#2,#3\\#4,#5\end{matrix};#6\right)} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{led}[0]{\operatorname{led}} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{lr}[1]{\overset{#1}{\leftarrow}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{RP}[2]{P\left\{#1 \quad #2\right\}} \newcommand{RS}[9]{\begin{matrix}#1& #2& #3\\ #4& #5& #6\\#7& #8& #9\end{matrix}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では超幾何関数の変換に関する理論について解説していきます。
 以下では$\vp(x)$を有理関数、$\t(x)$を無理関数(多項式の冪根とその四則演算によって表される関数)として
$$\F ABCx=\t(x)\F abc{\vp(x)}$$
なる変換公式について考察していきます。なお
$$\t_1(x)\F{a_1}{b_1}{c_1}{\vp_1(x)}=\t_2(x)\F{a_2}{b_2}{c_2}{\vp_2(x)}$$
のような一般の代数変換については扱わないのであしからず。

超幾何微分方程式

 超幾何関数の変換を考えるには超幾何関数
$$f(z)=\F abcz$$
はの満たす超幾何微分方程式
$$z(1-z)\frac{d^2f}{dz^2}+(c-(a+b+1)z)\frac{df}{dz}-abf=0$$
の話に帰着させるのが効果的である。
 超幾何微分方程式に関する基本事項は 以前書いた記事 の序盤にてまとめているのでここではそのステートメントを確認するだけに留める。

確定特異点

確定特異点

 微分方程式
$$\frac{d^2u}{dz^2}+p(z)\frac{du}{dz}+q(z)u=0\qquad\cdots(\bigstar)$$
に対し$p,q$が共に正則となる点を$(\bigstar)$通常点、そうでない点を特異点と言う。また$p,q$の極の位数がそれぞれ高々$1,2$となるような特異点を確定特異点、そうでない特異点を不確定特異点と言う。
 また無限遠点$z=\infty$$(\bigstar)$の通常点、特異点、確定特異点であるとは$w=1/z$に関して変形した微分方程式
$$\frac{d^2u}{dw^2}+\l(\frac2w-\frac{p(1/w)}{w^2}\r)\frac{du}{dw}+\frac{q(1/w)}{w^4}u=0$$
$w=0$を通常点、特異点、確定特異点に持つことを言う。

特性指数

 確定特異点$z=c$に対し
$$p_c=\lim_{z\to c}(z-c)p(z),\quad q_c=\lim_{z\to c}(z-c)^2q(z)$$
とおいたとき$\a$についての方程式
$$\a(\a-1)+p_c\a+q_c=0$$
のことを$z=c$における決定方程式と言い、その解$\a=\a_1,\a_2$のことを特性指数と言う。
 通常点においても決定方程式を考えることができ、その場合の特性指数は$0,1$と求まる。

確定特異点周りの解

 $(\bigstar)$の特異点$z=c$が確定特異点であることと、$(\bigstar)$$z=c$周りでの任意の解$u$$z=c$を高々極に持つ、つまりある$N$が存在して
$$\lim_{z\to c}|z-c|^N|u(z)|=0$$
を満たすことは同値である。
 また確定特異点$z=c$における特性指数を$\a,\a'\;(\Re(\a)\geq\Re(\a'))$とおくと、$\a-\a'\not\in\Z$であれば
\begin{align} u_1(z)&=(z-c)^\a\sum^\infty_{n=0}a_n(z-c)^n&(a_0=1)\\ u_2(z)&=(z-c)^{\a'}\sum^\infty_{n=0}a'_n(z-c)&(a'_0=1) \end{align}
という形の解が、$m=\a-\a'$が正整数のときは
$$u_2(z)=Gu_1(z)\log(z-c)+(z-c)^{\a'}\sum^\infty_{n=0}a'_n(z-c)^n\qquad(a_0=1)$$
という形の解が、$\a-\a'=0$のときは
$$u_2(z)=u_1(z)\log(z-c)+\sum^\infty_{n=1}a'_n(z-c)^n$$
という形の解が$z=c$の周りで定まる。このことについては この記事 にて紹介している。

リーマンの$P$方程式

Fuchs型微分方程式

 $\CP=\C\cup\{\infty\}$において不確定特異点を持たない微分方程式のことをフックス型微分方程式と言う。

Riemannの$P$方程式

 $\CP$において丁度$3$つの確定特異点を持つ二階のフックス型微分方程式のことをリーマンの$P$方程式と言う。
 その特異点を$z=a,b,c$、対応する特性指数を$\a,\a',\b,\b',\g,\g'$とおいたとき、$P$方程式の解全体を
$$\RP{\RS abc\a\b\g{\a'}{\b'}{\g'}}z$$
と表し、これをリーマンの$P$関数と言う。またこの図式のことをリーマンの$P$図式とも言う。
 リーマンの$P$方程式はその$P$図式から
\begin{align} u''&+\l(\frac{1-\a-\a'}{z-a}+\frac{1-\b-\b'}{z-b}+\frac{1-\g-\g'}{z-c}\r)u'\\ &+\frac1{(z-a)(z-b)(z-c)}\l(\frac{\a\a'(a-b)(a-c)}{z-a}+\frac{\b\b'(b-c)(b-a)}{z-b}+\frac{\g\g'(c-a)(c-b)}{z-c}\r)u=0 \end{align}
と逆算できることが知られている。

 ちなみに一般のフックス型微分方程式では特異点や特性指数に依らないパラメーター(アクセサリー・パラメーター)が出現するため、このように微分方程式を逆算することはできない。

Fuchsの関係式

 上の$P$図式において
$$\a+\a'+\b+\b'+\g+\g'=1$$
が成り立つ。

$P$関数の変換

 $\rho$を一次分数変換
$$\rho(z)=\frac{Az+B}{Cz+D}\quad(AD-BC\neq0)$$
とすると
\begin{align} \l(\frac{z-a}{z-b}\r)^\d\RP{\RS abc\a\b\g{\a'}{\b'}{\g'}}z &=\RP{\RS abc{\a+\d}{\b-\d}\g{\a'+\d}{\b'-\d}{\g'}}z\\ \RP{\RS abc\a\b\g{\a'}{\b'}{\g'}}{\rho(z)} &=\RP{\RS {\rho^{-1}(a)}{\rho^{-1}(b)}{\rho^{-1}(c)}\a\b\g{\a'}{\b'}{\g'}}z \end{align}
が成り立つ(ただし$b=\infty$のときは$(z-b)^\d\mapsto1$とおく)。

超幾何微分方程式

$$\RP{\RS01\infty00a{1-c}{c-a-b}b}z$$
に対応する微分方程式
$$z(1-z)\frac{d^2u}{dz^2}+(c-(a+b+1)z)\frac{du}{dz}-abf=0$$
のことを超幾何微分方程式という。
 超幾何微分方程式は$z=0$周りにおいて
$$\F abcz,\quad z^{1-c}\F{a-c+1}{a-c+1}{2-c}z$$
という基本解を持つ(ただし$c\not\in\Z$とした)。

有限被覆

 以下では微分方程式が有理関数によってどのように変換されていくかを見ていくことになるが、それには有限被覆の考え方(用語)を用いるのが便利である。単に用語を用意するだけなので特に深く理解する必要はない。
 有理関数とは一口に言えば多項式の商として表される関数のことを言うが、複素解析的な見方では$\CP$から$\CP$への正則写像という特徴付けがあった。これを一般化した概念として有限被覆というものがある。

被覆

 位相空間$X,Y$に対し全射$\pi:X\to Y$
・任意の$q\in Y$に対してある開近傍$V\ni q$が存在し、$\pi^{-1}(V)$の任意の連結成分$U$に対し$\pi:U\to V$は位相同型となる。
を満たすとき$\pi$$Y$被覆であると言う。
 $Y$が連結であるときファイバー$\pi^{-1}(q)$の濃度は$q\in Y$に依らず定まり、その値のことを$\pi$の被覆の次数あるいは被覆度と言い$\deg\pi$と表す。

有限被覆

 コンパクトリーマン面$X,Y$に対し正則写像$\pi:X\to Y$のことを有限被覆と言う。
 適当な局所座標を取ることで$\pi$は各点$p\in X$の周りで$\pi(z)=z^e$と局所座標表示できる。この$e$のことを分岐指数と言い$\ord_p\pi$と表す。また$\ord_p\pi\geq2$なる点$p\in X$または$\pi(p)\in Y$のことを$\pi$分岐点と言う。
 分岐点全体のなす集合$R_\pi,B_\pi$$X,Y$において有限集合となり、$\pi:X\setminus R_\pi\to Y\setminus B_\pi$は有限次の被覆を成す($R$はramification、$B$はbranchの頭文字を取っている)。

 これは有理関数$\vp:\CP_x\to\CP_z$に関して言えば

  • $p\in\CP_x$における$\vp$の分岐指数とは方程式$\vp(x)=\vp(p)$における解$x=p$の重複度のこと
  • $q\in\CP_z$$\vp$の分岐点であるとは方程式$\vp(x)=q$が重解$x=p$を持つこと
  • $\vp$の被覆度とは各点$q\in\CP_z$における$\vp(x)=q$の解$x\in\CP_x$の個数、つまり互いに素な多項式$f,g$を用いて$\vp(x)=f(x)/g(x)$と表したときの$\max\{\deg f,\deg g\}$のこと

を意味している($\CP_x,\CP_z$についている添え字は始域と終域を区別するためのもの)。
 本記事で有限被覆の理論が関わってくることは特にないが次の式は覚えておきたい。

Riemann-Hurwitzの公式

 $X,Y$の種数をそれぞれ$g_X,g_Y$$\pi$の被覆度を$d$とおくと
$$2-2g_X=d(2-2g_Y)-\sum_{p\in X}(\ord_p\pi-1)$$
が成り立つ。

 なお$\CP$の種数は$0$なので有理関数$\vp$に関して言えば
$$D=\sum_{p\in\CP_x}(\ord_p\vp-1)$$
とおいたとき$D=2d-2$が成り立つことを意味している。

微分方程式の変換

 以下では$\vp:\CP_x\to\CP_z$を有理関数、$\t$を無理関数とし、$\CP_z$におけるフックス型微分方程式$H_1$がその解の変換
$$u(z)\mapsto U(x)=\t(x)u(\vp(x))$$
によってどのような微分方程式$H_2$に写るのかを考える。
 このような変換$H_1\mapsto H_2$のことをpull-back transformationまたはRS-transformationと言う(直訳するなら引き戻し変換と言うべきだろうか)。

 フックス型微分方程式$H_1$の解$u(z)$に対し
$$U(x)=\t(x)u(\vp(x))$$
は再びあるフックス型微分方程式$H_2$を満たす。

 $U(x)$が何らかの微分方程式を満たすことは簡単にわかる。またそれがフックス型であることは$U$の特異点が常に高々極であることからわかる。

irrelevantな特異点

 いま$H_2$の特異点の振る舞いを考えるために以下のような分類を考える。

 フックス型微分方程式$H$に対し

  • $H$$z=c$周りの基本解が$\log$の項を持つとき$z=c$対数的な点であると言う。
  • $z=c$における特性指数の差(の絶対値)が$1$かつ$z=c$は対数的でないとき、$z=c$irrelevantな点であると言う。
  • 特異点$z=c$がirrelevantでないとき、$z=c$relevantな特異点であると言う。

 参考文献Vidでは対数的やirrelevantの定義に$z=c$が特異点であることが含まれているが、簡単のためここでは対数的ではない点、irrelevantな点と言ったときは通常点も含むものとする。
 ちなみにirrelevantな特異点は適当な無理関数$\t(x)$を掛けることで簡単に取り除くことができる。

 リーマンの$P$方程式を拡張して$3$つの確定特異点と$k$個のirrelevantな点を持つフックス型微分方程式
$$P\l\{\begin{matrix} a&b&c&p_1&\cdots&p_k\\ \a&\b&\g&e_1&\cdots&e_k\\ \a'&\b'&\g'&e_1+1&\cdots&e_k+1 \end{matrix}\quad z\r\}$$
を考えるとこれは
$$\l(\frac{z-p_1}{z-c}\r)^{e_1}\cdots\l(\frac{z-p_k}{z-c}\r)^{e_k} \RP{\RS abc\a\b{\g+e_1+\cdots+e_k}{\a'}{\b'}{\g'+e_1+\cdots+e_k}}z$$
と表せる。

 微分方程式
$$\frac{d^2u}{dz^2}+p(z)\frac{du}{dz}+q(z)=0$$
の特性指数が$0,1$なるirrelevantな点$z=c$は通常点、つまり$p,q$$z=c$において正則となることを示せばよい。
 $p$が正則となることはその決定方程式からわかる。またirrelevantという仮定から特性指数$0$に対応する
$$u_0(z)=\sum^\infty_{n=0}a_n(z-c)^n\qquad(a_0=1)$$
なる正則解が存在するので
$$q(z)=-\frac1{u_0}\l(\frac{d^2u_0}{dz^2}+p(z)\frac{du_0}{dz}\r)$$
も正則となることがわかる。

引き戻しと特異点

 $p\in\CP_x$を任意に取り$q=\vp(p)$とおく。このとき

  1. $q$$H_1$の対数的な点であることと$p$$H_2$の対数的な点であることは同値である。
  2. $q,p$における$H_1,H_2$の特性指数の差(の絶対値)をそれぞれ$e,e'$とおくと$e'=e\ord_p\vp$が成り立つ。
  3. 特に$p$がirrelevantであることと$q$が対数的ではなく$e=1/\ord_p\vp$を満たすことは同値である。

 解の挙動を考えれば明らか。

  1. $\D$$\CP_z$内の三点とする。$\vp$の分岐点が$\D$で尽くされるとき$|\vp^{-1}(\D)|=d+2$が成り立ち、そうでなければ$|\vp^{-1}(\D)|>d+2$が成り立つ。
  2. $H_1,H_2$が共に超幾何微分方程式であるとする。このとき$\vp$の被覆度を$d$$H_1,H_2$の特性指数の差(の絶対値)をそれぞれ$e_0,e_1,e_\infty,e'_0,e'_1,e'_\infty$とおくと
    $$d(e_0+e_1+e_\infty-1)=e'_0+e'_1+e'_\infty-1$$
    が成り立つ。

 各点$q\in\CP_z$に対し
$$|\vp^{-1}(q)|=d-\sum_{p\in\vp^{-1}(q)}(\ord_p\vp-1)$$
が成り立つことに注意するとリーマン・フルヴィッツの公式より
\begin{align} |\vp^{-1}(\D)| &=3d-\sum_{p\in\vp^{-1}(\D)}(\ord_p\vp-1)\\ &\geq3d-\sum_{p\in R_\vp}(\ord_p\vp-1)\\ &=3d-(2d-2)=d+2 \end{align}
を得る。この等号成立条件は明らかに$R_\vp=\vp^{-1}(\D)$である。
 またフックス型微分方程式$H$$z=c$における特性指数の差を$\led_cH$と表すことにすると
\begin{align} \sum_{p\in\CP_x}(\led_pH_2-1) &=\sum_{p\in\CP_x}(\ord_p\vp\led_{\vp(p)}H_1-1)\\ &=d\sum_{q\in\CP_z}(\led_qH_1-1)+\sum_{p\in\CP_x}(\ord_p\vp-1)\\ &=d\sum_{q\in\CP_z}(\led_qH_1-1)+2d-2 \end{align}
つまり
$$e'_0+e'_1+e'_\infty-3=d(e_0+e_1+e_\infty-3)+2d-2$$
を得る。

変換の決定

 $H_1$が超幾何微分方程式であるとき、$H_2$も超幾何微分方程式となるための条件を考える。
 いま$\vp$$\CP_z$において$4$つ以上の分岐点を持つとすると補題7の(3)より$H_2$$4$つ以上のrelevantな特異点を持つことになり不適である。したがって$\vp$$\CP_z$内の三点、特に適当な一次変換によって$\D=\{0,1,\infty\}$以外の点で分岐しないものとしてよい。
 また同じく補題7の(3)より$\D$のうち$N\ (=0,1,2,3)$点における$H_1$の特性指数の差は対応する分岐指数$k$によって$1/k$に制限される。またこのとき以下が成り立つ。

 $H_2$が超幾何微分方程式となるためには
$$d-\sum^N_{j=1}\l\lfloor\frac d{k_j}\r\rfloor\leq1$$
特に
$$\frac1d+\sum^N_{j=1}\frac1{k_j}\geq1$$
となることが必要である。

\begin{align} 3&\geq\mbox{($H_2$のrelevantな特異点の個数)}\\ &\geq|\vp^{-1}(\D)|-\mbox{(分岐指数が$k_j$なる$x\in\vp^{-1}(\D)$の個数)}\\ &\geq d+2-\sum^N_{j=1}\l\lfloor\frac d{k_j}\r\rfloor\\ &\geq d+2-\sum^N_{j=1}\frac d{k_j} \end{align}
とわかる。

 また$k=1$なる点があるときは以下の主張が成り立つことにも注意したい。

 $H_1$のある特異点がirrelevantであるとすると残る二つの特異点における特性指数の差(の絶対値)は一致しなければならない。

 $H_1$
$$z(1-z)\frac{d^2u}{dz^2}+(c-(a+b+1)z)\frac{du}{dz}-abu=0$$
と表せることに注意して$z=0$がirrelevant、特に$c=0$であるものとしてよい。
 このとき$z=0$における特性指数は$0,1$となるので補題6での議論から
$$\frac{c-(a+b+1)z}{z(1-z)}=-\frac{a+b+1}{1-z}$$
および
$$-\frac{ab}{z(1-z)}$$
$z=0$において正則でなければならない。したがって$ab=0$でなければならず、$b=0$とするとこの$P$図式は
$$\RP{\RS 01\infty00a1{-a}0}z$$
となる。

 このことを踏まえてどのような変換$H_1\mapsto H_2$があり得るのかを考えてみよう。

$N=0$のとき

 補題9の不等式から$d=1$、つまりこれは一次分数変換であり、特に
$$\F ABCx=\t(x)\F abc{\vp(x)}$$
という形のものはEulerの変換公式
$$\F abcz=(1-z)^{c-a-b}\F{c-a}{c-b}cz$$
およびPfaffの変換公式
$$\F abcz=(1-z)^{-a}\F a{c-b}c{\frac z{z-1}}=(1-z)^{-b}\F{c-a}bc{\frac z{z-1}}$$
に他ならない。

$N\geq1,k_1=1$のとき

 補題10より$H_1$$P$図式は例えば
$$\RP{\RS01\infty00a{-1}{-a}b}z$$
のようになり、これは
$$\F{1+a}12z=\l\{\begin{array}{ll} \dis\frac{1-(1-z)^{-a}}{az}&a\neq0\\ \dis-\frac1z\log(1-z)&a=0 \end{array}\r.$$
と明示的に解ける。したがって特に面白い変換公式は得られない。
 参考文献VidのSection 5では少し深堀りされているので、興味があればそちらを参照されたい。

$N=1$のとき

 以下、$k_j\geq2$とする。
 補題9の不等式および$2\leq k_1\leq d$より$k_1=d=2$となる。このとき適当な一次変換によって

  • $\vp(x)=0$$x=0,1$を解に持つ
  • $\vp(x)=1$はある重解$x=p$を持つ
  • $\vp(x)=\infty$は重解$x=\infty$を持つ

としてよく、この条件から$\vp(x)=4x(1-x)$と決定できる。このとき上での議論から
\begin{align} \RP{\RS01\infty00a{\frac12-a-b}{\frac12}b}{4x(1-x)} &=\RP{\begin{matrix} 0&1&\infty&\frac12\\ 0&0&2a&0&\\ \frac12-a-b&\frac12-a-b&2b&1 \end{matrix}}x\\\\ &=\RP{\RS01\infty00{2a}{\frac12-a-b}{\frac12-a-b}{2b}}x \end{align}
つまり
$$\F{2a}{2b}{a+b+\frac12}z=\F ab{a+b+\frac12}{4z(1-z)}$$
という二次変換変換が得られる(これが成り立つことは両辺が$z=0$において正則であることと$z=0$において$1$となることから導ける)。
 またこれを適当に一次変換することで($\vp(0)=0$という条件下で)計$6$通りの二次変換公式が得られる。その一覧については この記事 を参照されたい。

$N=2$のとき

 $N=2$のときは$\max(k_1,k_2)\geq3$および$k_1=k_2=2$の二通りの場合が考えられる。
 $\max(k_1,k_2)\geq3$の場合からはよく知られた三、四、六次の変換公式が出てくることとなる。それについては後で別途解説する。
 $k_1=k_2=2$の場合は適当な二次変換によって
$$\RP{\RS01\infty00a{-2a}{\frac12}{a+\frac12}}{4x(1-x)}=\RP{\RS01\infty00{2a}{-2a}{-2a}{2a+1}}x$$
のようにirrelevantな特異点を持つ場合に帰着できるのでやはり面白い変換公式は得られない。
 これについても参考文献VidのSection 6にて少し深堀りされている。

$N=3$のとき

 $N=3$のときは$1/k_1+1/k_2+1/k_3$$1$より大きいか小さいか等しいかの三通りに場合分けして考える。やはり長くなるので詳しくは後で別途解説するが、端的にまとめると

  • $\sum1/k_j>1$のとき、$H_1,H_2$の解は代数関数となる。
  • $\sum1/k_j=1$のとき、$H_1$の解は不完全楕円積分として表せる。
  • $\sum1/k_j<1$のとき、$d$$(d\leq24)$の特殊な変換公式が得られる。

という結果が得られることとなる。

$N=2$の場合

 不等式
$$\frac1d+\frac1{k_1}+\frac1{k_2}\geq1,\quad 2\leq k_1\leq k_2\leq d,\quad k_2\geq3$$
の解は
\begin{align} (k_1,k_2,d) ={}&(2,3,3),(2,3,4),(2,3,5),(2,3,6),\\ &(2,4,4),(2,4,5),(2,4,6),(3,3,3) \end{align}
$8$つで尽くされ、このうち
$$d-\l\lfloor\frac d{k_1}\r\rfloor-\l\lfloor\frac d{k_2}\r\rfloor\leq1$$
を満たすものは
$$(k_1,k_2,d)=(2,3,3),(2,3,4),(2,3,6),(2,4,4),(3,3,3)$$
$5$つに限られる。
 また$\vp$の分岐の仕方を考えると以下のような可能性が考えられる。
\begin{array}{|c|r|c|l|l|}\hline (k_1,k_2,d)&0&1&\infty&\mbox{存在・分解}\\\hline (2,3,3)&2+1&3&2+1&\mbox{分解できない}\\ (2,3,4)&2+2&3+1&3+1&\mbox{分解できない}\\ (2,3,4)&2+2&3+1&2+2&\mbox{存在しない}\\ (2,3,6)&2+2+2&3+3&4+1+1&2\times3\\ (2,3,6)&2+2+2&3+3&2+2+2&2\times3\ \mathrm{or}\ 3\times 2\\ (2,3,6)&2+2+2&3+3&3+2+1&\mbox{存在しない}\\ (2,4,4)&2+2&4&2+1+1&2\times2\\ (3,3,3)&3&3&1+1+1&\mbox{分解できない}\\\hline \end{array}
 真ん中の$3$列は$d+2$個の点$\vp^{-1}(\{0,1,\infty\})$の分岐の仕方を表しており、最後の列は$\vp$がある$p,q$次変換$\vp_p,\vp_q$を用いて$\vp=\vp_q\circ\vp_p$と表せることを$p\times q$と表している。
 実際これを満たすような有理関数$\vp$を考えると例えば
\begin{align} \F{3a}{a+\frac16}{4a+\frac23}z &=\l(1-\frac z4\r)^{-3a}\F a{a+\frac13}{2a+\frac56}{\frac{27z^2}{(4-z)^3}}\\ \F{4a}{4a+\frac13}{6a+\frac12}z &=\l(1-\frac89z\r)^{-3a}\F a{a+\frac13}{2a+\frac56}{\frac{64z^3(1-z)}{(9-8z)^3}}\\ \F{6a}{4a+\frac16}{2a+\frac56}z &=\l(\frac{16-16z+z^2}{16}\r)^{-3a}\F a{a+\frac13}{2a+\frac56}{\frac{-108z^4(1-z)}{(16-16z+z^2)^3}}\\ \F{6a}{2a+\frac13}{4a+\frac23}z &=\l(1-z+z^2\r)^{-3a}\F a{a+\frac13}{2a+\frac56}{\frac{27z^2(1-z)^2}{4(1-z+z^2)^3}}\\ \F{4a}{2a+\frac14}{4a+\frac12}z &=\l(1-\frac z2\r)^{-4a}\F a{a+\frac14}{2a+\frac34}{\frac{16z^2(1-z)}{(2-z)^4}}\\ \F{3a}{a+\frac13}{2a+\frac23}z &=(1+\o^2z)^{-3a}\F a{a+\frac13}{2a+\frac23}{\frac{3\o(\o-1)z(1-z)}{(z+\o)^3}} \qquad(\o=e^{\frac{2\pi i}3}) \end{align}
のような変換公式が得られることとなる(多分)。
 このようにして得られる変換の一覧については この記事 を参照されたい。

$N=3$のとき

$1/k_1+1/k_2+1/k_3>1$のとき

 $k_1=k_2=2$の場合は上で考えたので$k_1\leq k_2\leq k_3,\ k_2\geq3$としてよい。このとき不等式
$$\frac1{k_1}+\frac1{k_2}+\frac1{k_3}>1$$
の解は
$$(k_1,k_2,k_3)=(2,3,3),(2,3,4),(2,3,5)$$
$3$つで尽くされる。
 このとき$H_1,H_2$モノドロミーの変換のされ方を考えることで特殊な変換が構成できるらしい。詳しくは参考文献VidのSection 7を参照されたい。

$1/k_1+1/k_2+1/k_3=1$のとき

 不等式
$$\frac1{k_1}+\frac1{k_2}+\frac1{k_3}=1,\quad2\leq k_1\leq k_2\leq k_3$$
の解は
$$(k_1,k_2,k_3)=(2,4,4),(2,3,6),(3,3,3)$$
$3$つで尽くされる。このときオイラー積分表示
$$\F abcz=\frac{\G(c)}{\G(a)\G(c-a)}\int^1_0t^{a-1}(1-t)^{c-a-1}(1-zt)^{-b}dt$$
から$H_1$の解は
\begin{align} \F ab{a+1}z &=a\int^1_0t^{a-1}(1-zt)^{-b}dt\\ &=az^{-a}\int^z_0t^{a-1}(1-t)^{-b}dt \end{align}
という形に表せる。
 これの変換についてはこの積分をイジっていくと何か得られるらしい。詳しくは参考文献VidのSection 8を参照されたい。

$1/k_1+1/k_2+1/k_3<1$のとき

 不等式
$$\frac1{k_1}+\frac1{k_2}+\frac1{k_3}<1,\quad k_1\leq k_2\leq k_3$$
が成り立つとき以下が成り立つ。

 上の条件下において
\begin{align} d-\l\lfloor\frac d{k_1}\r\rfloor-\l\lfloor\frac d{k_2}\r\rfloor-\l\lfloor\frac d{k_3}\r\rfloor&=1\\ d\l(1-\frac1{k_1}-\frac1{k_2}-\frac1{k_3}\r)&\leq1-\frac3{k_3}\\ \l(1-\frac1{k_1}-\frac1{k_2}\r)k_3^2-2k_3+3&\leq0\\ \frac23<\frac1{k_1}+\frac1{k_2}&<1 \end{align}
が成り立つ。

 第一式は
$$d-\sum^3_{j=1}\l\lfloor\frac d{k_j}\r\rfloor\geq d\l(1-\sum^3_{j=1}\frac1{k_j}\r)>0$$
および補題9からわかる。
 第二式は補題8の(2)(および補題7の(2))より
\begin{align} d\l(1-\frac1{k_1}-\frac1{k_2}-\frac1{k_3}\r) &=1-e'_0-e'_1-e'_\infty\\ &\leq1-\frac1{k_3}-\frac1{k_3}-\frac1{k_3} \end{align}
とわかる。
 第三式は第二式の左辺において$k_3\leq d$とすることでわかる。
 第四式は不等式$ax^2-2x+3\leq0$が実数解を持つための条件が$1-3a^2\geq0$であることから
$$1-\frac1{k_1}-\frac1{k_2}\leq\frac13$$
とわかる。またこの等号が成り立つときは$k_3=3$つまり$1/k_1+1/k_2+1/k_3=1$となるため不適である。

 まず第四式から$(k_1,k_2)$の候補が
$$(k_1,k_2)=(2,3),(2,4)$$
に絞られ、$1/k_3<1-1/k_1-1/k_2$および第三式から$k_3$の候補は
\begin{align} \frac{k_3^2}6-2k_3+3=\frac{(k_3-6)^2-18}6\leq0&\quad\cdots\quad k_3=7,8,9,10\\ \frac{k_3^2}4-2k_3+3=\frac{(k_3-4)^2-4}4\leq0&\quad\cdots\quad k_3=5,6\quad \end{align}
に絞られる。
 また第一式、第二式、$d\geq k_3$を満たすような$d$および$\vp$の分岐の仕方を考えると以下のような可能性が考えられる。

\begin{array}{|c|c|c|l|}\hline (k_1,k_2,k_3)&(e'_0,e'_1,e'_\infty)&d&\mbox{存在・分解}\\\hline (2,3,7)&(1/3,1/3,1/7)&8&\mbox{分解できない}\\ (2,3,7)&(1/2,1/7,1/7)&9&\mbox{分解できない}\\ (2,3,7)&(1/3,1/7,2/7)&10&\mbox{分解できない}\\ (2,3,7)&(1/7,1/7,3/7)&12&\mbox{存在しない}\\ (2,3,7)&(1/7,2/7,2/7)&12&\mbox{存在しない}\\ (2,3,7)&(1/3,1/7,1/7)&16&\mbox{存在しない}\\ (2,3,7)&(1/7,1/7,2/7)&18&2\times9\\ (2,3,7)&(1/7,1/7,1/7)&24&3\times8\\ (2,3,8)&(1/3,1/8,1/8)&10&\mbox{分解できない}\\ (2,3,8)&(1/4,1/8,1/8)&12&2\times2\times3\\ (2,3,9)&(1/9,1/9,1/9)&12&3\times4\\ (2,4,5)&(1/4,1/4,1/5)&6&\mbox{分解できない}\\ (2,4,5)&(1/5,1/5,1/5)&8&\mbox{存在しない}\\\hline \end{array}
 このようにして次のような変換公式が得られることとなる。

8次変換公式

 $\o=e^{\frac{2\pi i}3}$および
$$\vp_8(x)=\frac{x(x-1)(27x^2-(723+1392\o)x-496+696\o)^3}{64((6\o+3)x-8-3\o)^7}$$
とおくと
$$\F{\frac2{21}}{\frac5{21}}{\frac23}x =\l(1-\frac{33+39\o}{49}x\r)^{-\frac1{12}}\F{\frac1{84}}{\frac{13}{84}}{\frac23}{\vp_3(x)}$$
が成り立つ。

9次変換公式

 $\xi$$\xi^2+\xi+2=0$を満たす複素数とし
$$\vp_9(x)=\frac{27x(x-1)(49x-31-13\xi)^7}{49(7203x^3+(9947\xi-5831)x^2-(9947\xi+2009)x+275-87\xi)^3}$$
とおくと
$$\F{\frac3{28}}{\frac{17}{28}}{\frac67}x =\l(1+\frac{7(10-29\xi)}8x-\frac{343(50-29\xi)}{512}x^2+\frac{1029(362+87\xi)}{16384}x^3\r)^{-\frac1{28}} \F{\frac1{84}}{\frac{29}{84}}{\frac67}{\vp_9(x)}$$
が成り立つ。

10次変換公式1

$$\vp_{10}(x)=-\frac{x^2(x-1)(49x-81)^7}{4(16807x^3-9261x^2-13851x+6561)^3}$$
とおくと
$$\F{\frac5{42}}{\frac{19}{42}}{\frac57}x =\l(1-\frac{19}9x-\frac{343}{243}x^2+\frac{16807}{6561}x^3\r)^{-\frac1{28}} \F{\frac1{84}}{\frac{29}{84}}{\frac67}{\vp_{10}(x)}$$
が成り立つ。

10次変換公式2

 $\xi=\sqrt{-2}$とし
$$\vp_{10}(x)=-\frac{4x(x-1)(8\xi x+7-4\xi)^8}{(2048\xi x^3-(3072\xi+3264)x^2+(912\xi+3264)x+56\xi-17)^3}$$
とおくと
$$\F{\frac5{24}}{\frac{13}{24}}{\frac78}x =\l(1+\frac{16(4-17\xi)}9x-\frac{64(167-136\xi)}{243}x^2+\frac{2048(112-17\xi)}{6561}x^3\r)^{-\frac1{16}} \F{\frac1{48}}{\frac{17}{48}}{\frac78}{\vp_{10}(x)}$$
が成り立つ。

6次変換公式

$$\vp_6(x)=\frac{4ix(x-1)(4x-2-11i)^4}{(8x-4+3i)^5}$$
とおくと
$$\F{\frac3{20}}{\frac7{20}}{\frac34}x =\l(1-\frac{8(4+3i)}{25}x\r)^{-\frac18}\F{\frac1{40}}{\frac9{40}}{\frac34}{\vp_6(x)}$$
が成り立つ。

 また$12,12,18,24$次の変換は上の公式を合成することで得られる。特に$24$次変換公式は以下のようになる。

24次変換公式

\begin{align} \t_{24}(x)&=(x^2-x+1)(x^6+229x^5+270x^4-1695x^3+1430x^2-235x+1)\\ \vp_{24}(x)&=\frac{1728x(x-1)(x^3-8x^2+5x+1)^7}{\t_{24}(x)^3} \end{align}
とおくと
$$\F{\frac27}{\frac37}{\frac67}x =\t_{24}(x)^{-\frac1{28}}\F{\frac1{84}}{\frac{29}{84}}{\frac67}{\vp_{24}(x)}$$
が成り立つ。

参考文献

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子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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