1
大学数学基礎解説
文献あり

ピカール・リンデレーフの定理

565
0

はじめに

 この記事では常微分方程式の解の存在と一意性を保証する定理であるピカール・リンデレーフの定理について簡単に解説していきます。

ステートメントと証明

ピカールの定理

 有界領域
D=I×Bρ={tR|tt0|r}×{xRnxu0ρ}
における連続関数f:DRntに依らず一様にリプシッツ条件を満たす、つまりある定数Lが存在して任意のtI, x,yBρに対し
f(t,x)f(t,y)Lxy
を満たすとする。
 このとき微分方程式
u=f(t,u)
の解u:IBρであって初期値u(t0)=u0を満たすようなものが
I={tR|tt0|min(r,ρ/M)}(M=max(t,x)Df(t,x))
において一意に存在する。

 u(連続関数)が微分方程式
u=f(t,u),u(t0)=u0
を満たすことと積分方程式
u=u0+t0tf(s,u(s))ds
を満たすことは等価なので以下ではこの積分方程式について考えていく。
 また簡単のためtt0とする。これは積分の評価において
t0tg(s)dst0tg(s)ds
とするだけのためであり、t<t0の場合も含めて統一的に議論するならば
t0tg(s)ds|t0tg(s)ds|
とすればよい。

存在性の証明

 関数列vnv0=u0および漸化式
vn+1=u0+t0tf(s,vn(s))ds
によって定め
u=limnvn
とおくと、これが件の方程式を満たすことを示す(この方法のことをピカールの逐次近似法と言う)。
 まずvnBρをはみ出ないことを確認しておく。そのことは|tt0|ρ/Mより
vn+1u0=t0tf(s,vn(s))dst0tMds=M|tt0|ρ
と評価できることからわかる。
 次にvnは一様収束すること、特に
vnvn1Mn!Ln1|tt0|n
と評価できることを示す。これはn=1のときは明らかであり、数学的帰納法により
vn+1vn=t0t(f(s,vn(s))f(s,vn1(s)))dst0tLvn(s)vn1(s)dsMn!Lnt0t|st0|nds=M(n+1)!Ln|tt0|n+1
とわかる。したがってvn
u=limnvn=limn(u0+k=0n1(vk+1vk))=u0+n=0(vn+1vn)
に一様収束することがわかる(cf. ワイエルシュトラスのMテスト)。
 特に一様収束性より
uu0t0tf(s,u(s))dsuvn+1+t0t(f(s,vn(s))f(s,u(s)))dsuvn+1+Lt0tvn(s)u(s)ds0(n)
と評価できるので積分方程式
u=u0+t0tf(s,u(s))ds
の解の存在性がわかる。

一意性の証明

 u=u1,u2が共に
u=u0+t0tf(s,v(s))ds
を満たすとする。
 このとき任意のnに対し
u1u2Mn!Ln1|tt0|n
と評価できることを示す。これはn=1のときは明らかであり、数学的帰納法により
u1u1=t0t(f(s,u1(s))f(s,u2(s)))dst0tLu1(s)u2(s)dsMn!Lnt0t|st0|nds=M(n+1)!Ln|tt0|n+1
とわかる。
 したがって
limnMn!Ln1|tt0|n=0
に注意するとu1=u2を得る。

 いま存在性の証明においてvnの評価の仕方を変えることで以下のような区間の取り方を考えることもできる。

リンデレーフの定理

 ピカールの定理の条件下で
M0=max|tt0|<rf(t,u0),r=1Llog(1+ρM0L)
とおくと区間
I={tR|tt0|min(r,r)}
においても解の存在と一意性が保証される。

 一意性については既に述べた通りなので存在性を示せばよい。

証明

 大枠はピカールの定理と同様なので端折って説明する。
 ピカールの定理と同じく関数列vnv0=u0および漸化式
vn+1=u0+t0tf(s,vn(s))ds
によって定める。
 このとき
v1v0=t0tf(s,u0)dsM0|tt0|
より数学的帰納法により
vnvn1t0tLvn1(s)vn2(s)dsM0n!Ln1|tt0|n
が成り立つ。
 これによりvnの一様収束性とその収束先uが件の積分方程式を満たすことはわかるのであとはvnu0<ρを示せばよい。そしてそのことについては
vnv0k=1nvkvk1M0Lk=1n1k!Lk|tt0|kM0LeLr=ρ
とわかる。

 ちなみにピカール・リンデレーフの定理の十分条件としてfxについての微分可能性が挙げられる。

 連続関数f(t,x)xについて連続微分可能、つまり偏導関数fxが存在し、これが連続関数となるときfはピカール・リンデレーフの定理の仮定を満たす。

 リプシッツ条件を満たすことを確認すればよい。そのことは
L=max(t,x)Dfx(t,x)
(このときのノルムは 行列ノルム (作用素ノルムなりフロベニウスノルムなり)である)とおくと
f(t,x)f(t,y)=01ddsf(t,sx+(1s)y)ds=01fx(t,sx+(1s)y)dds(sx+(1s)y)ds=01fx(t,sx+(1s)y)(xy)ds<Lxy
を得る。

おまけ:線形微分方程式の解空間

 ピカール・リンデレーフの定理の最たる例として線形微分方程式の解空間の構造について紹介しておこう。

 A(t)Mn(R),b(t)Rnを区間Iにおいて連続な関数とする。
 このとき任意のt0I,u0Rnに対し微分方程式
u=A(t)u+b(t)
の解u:IRnであって初期値u(t0)=u0を満たすようなものが一意に存在する。

 f(t,x)=A(t)x+b(t)とおくと
fx=A(t)
は連続なのでピカール・リンデレーフの定理が適用できる。
 いま適当に平行移動することでu0=0としてよく、このとき任意の有界閉区間t0JIにおいてリンデレーフの定理を考えると
L=maxtJA(t),M0=maxtJb(t)
とできる。またこれらの値はρに依らないのでρを十分大きく取ると
r=1Llog(1+ρM0L)
も十分大きくなり、したがってJ上で解の存在と一意性が保証される。
 そしてt0JIは任意であったのでI上で解の存在と一意性が保証されることとなる。

 区間I上の連続関数A(t)Mn(R)に対し同次方程式
u=A(t)u
を満たす関数u:IRn全体の集合をVとおくと、Vn次元R-線形空間となる。

 線形空間であることは明らか。また任意にt0Iを取ると上の定理より写像
φ:VRn,uu(t0)
は全単射であり、これはR-線形写像でもあることから同型VRnを得る。

参考文献

[1]
高野恭一, 常微分方程式, 朝倉書店, 2019
投稿日:2024224
更新日:2024224
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

子葉
子葉
1065
259812
主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. はじめに
  2. ステートメントと証明
  3. おまけ:線形微分方程式の解空間
  4. 参考文献