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大学数学基礎解説
文献あり

【第一回】N次元球面上の掛け算構造

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キーワード

Lie群,Lie代数,de Rhamコホモロジー,de Rhamの定理,特異ホモロジー

0. イントロダクション

1次元球面S1R2Cは,以下のように表すことができる.
S1={e1θ|θR}
このS1上には,以下のようにして自然に掛け算の構造が入る(θの取り方によらずwell-defined)
e1θ1×e1θ2=e1(θ1+θ2)
この演算は,群の公理を満たしているため,S1には滑らかな群構造を定義することができるといえる.


一方,3次元球面S3R4にも群構造を定義することができる.
R4は四元数を定義することができるが,四元数p,qに対し,pq=pqが成り立つことから,この掛け算は,自然に3次元球面上の滑らかな群演算を誘導することがわかる.


以上の内容を命題の形でまとめると以下のように言える.

1次元球面S1,および,3次元球面S3は,Lie群構造を定めることができる.

では,より一般に正の整数N,N次元球面上にLie群構造を定めることができるだろうか.
実は,この問題に関して以下の定理が成り立つことが知られている.

Nを正の整数とする.N次元球面SNにLie群構造を定めることができるNの条件は,N=1,3である.

本記事では,2回に分けてLie群上のコホモロジー論を展開することにより,上記の定理の証明を目標とする.

本記事は[1]のChapter5,§12の議論をベースに,独自に再構成したものである.

【第一回】→本記事
【第二回】→ https://mathlog.info/articles/Ce9j4mlC3uJo4c3Ew5me

1. Lie群が作用する多様体のde Rhamコホモロジー

Lie群Gが,滑らかな多様体Mに左作用しているとする.すなわち,滑らかな写像G×MM:(g,x)tg(x)であって,tgth=tghかつ,te=idGが成り立つものが存在するとする.このとき,任意のgGに対し,tgは滑らかな逆写像tgを持つので,tgは微分同相写像である.


滑らかな多様体M上のp-form全体をΩp(M)とあらわす.また,ωΩp(M)が,任意のgGに対し,tgω=ωを満たすとき,ωは(左)作用に関して不変であるという.不変なp-form全体はRベクトル空間の構造を持っており,これをΩGp(M)と書くことにする.


ωΩGp(M)に対し,tg(dω)=d(tgω)=dωが成り立つことから,dωもまた,不変p-formであり,普通の外微分dに関して,(ΩG(M),d)はチェイン複体を定めることができる.このチェイン複体に関する,p次のコホモロジーをHGp(M)と表す.


実はGがコンパクトかつ連結である場合は,HGp(M)は,通常のde Rhamコホモロジーと同型であることがわかる.すなわち,以下の定理が成り立つ.

Gをコンパクト連結Lie群とし,Gが滑らかな多様体Mに滑らかに左作用しているとする.このとき,Rベクトル空間の同型
HGp(M)HdRp(M)
が成り立つ.

この定理が示されれば,Mのde Rhamコホモロジーの議論は,左作用に関して不変なformのみを考えれば十分であることがわかる.
このセクションでは,上の定理の証明を試みる.

写像の構成

GをコンパクトLie群とする(今は連結でなくてもよい).ωGG上のHaar体積形式であり,GωG=1を満たすものとする.M上の滑らかな実関数f:MRに対し,G上の積分を,
Gfdg=GfωG
と表すことにする.

ベクトル空間の準同型I:Ωp(M)ΩGp(M)を,以下で定める(XiM上の滑らかなベクトル場).
I(ω)(X1,...,Xp)=Gtgω(X1,...,Xp)dg
ここで,Iの像が不変p形式であることは以下のようにして確かめられる.
th(I(ω))(X1,...,Xp)=I(ω)((th)X1,...,(th)Xp)=Gω((tg)(th)X1,...,(tg)(th)Xp)dg=Gω((tgh)X1,...,((tgh)Xp)dg=Gω((tg)X1,...,((tg)Xp)dg=I(ω)(X1,...,Xp)
ここで4番目の等号は,Haar積分の不変性を使用している.
Iに関して,以下の主張が成り立つ.

I:Ωp(M)ΩGp(M) は外微分と可換である.すなわちdI=Id.

滑らかなベクトル場XX(M)に対し,Xg=(tg)Xとおく.
外微分の定義に基づいて,
d(I(ω))(X1,...,Xp)=i=0p(1)iXi(I(ω)(X0,...,Xi^,...,Xp))+i<j(1)(i+j)I(ω)([Xi,Xj],X0,...,Xi^,...,Xj^,...,Xp)=i=0p(1)iXiGω(X0g,...,Xi^,...,Xpg)dg+i<j(1)(i+j)Gω([Xig,Xjg],X0g,...,Xig^,...,Xjg^,...,Xpg)dg=Gdω(X0g,...,Xpg)dg=I(dω)(X1,...,Xp)
ここで,2番目の等号において,ベクトル場の基本性質F([X,Y])=[FX,FY](F:MMは微分同相)を使用していることに注意する.

上記の命題により,準同型I:Ωp(M)ΩGp(M)は自然にコホモロジーの準同型I:HdRp(M)HGp(M)を誘導する.


一方で,包含写像J:ΩGp(M)Ωp(M)も自然にコホモロジーの準同型J=HGp(M)HdRp(M)を定めることができる.

de RhamコホモロジーHdRp(M)には,[ω][tgω]により,自然に群の左作用を定義することができる.任意のgGHdRp(M)への左作用に対して不動点となるHdRp(M)の部分空間をHdRp(M)Gとおく.Jの像は,ΩGp(M)の定義より,HdRp(M)Gに含まれるため,包含写像Jの値域を書き換えて,J=HGp(M)HdRp(M)Gとすることができる.さらに,Iの定義域をHdRp(M)Gに制限して,改めて,I:HdRp(M)GHGp(M)と定める.


以上で定義した準同型I:HdRp(M)GHGp(M)と,J=HGp(M)HdRp(M)Gは互いに逆写像になっていることを示せば,I,Jは同型写像となる.

コホモロジー同型の証明

コンパクトLie群Gが,滑らかな多様体Mに滑らかに左作用しているとする.このとき,IJ=id,JI=idが成り立ち,以下の同型が成り立つ.
HGp(M)HdRp(M)G

ωΩG(M)に対し,
I(ω)(X1,...,Xp)=G(tgω)(X1,...,Xp)dg=Gω(X1,...,Xp)dg=ω(X1,...,Xp)
であるから,IJ=idが成り立つ.よって,IJ=id.
続いて,JI=idを示す.任意にα=[ω]HdRp(M)Gをとると,JI(α)=[I(ω)]なので,[ω][I(ω)]が,HdRp(M)の元として等しいことを示せばよい.ωHdRp(M)Gなので,任意のgGに対し,tgωω=dηなるηΩp1(M)が存在する.

ところで,任意の滑らかなp単体σ:ΔpM を任意にとり,σ上のωの積分を,
σω=Δpσω
で定義する(ただしp=0の場合は,Δ0は1点集合{e0}なので,σω=ω(σ(e0))とおく).すると特異pチェインcは,p単体の単純な線形和として表記されるから,cωが定義される.

滑らかな特異ホモロジー[c]Hp(M)をとると,Stokesの定理より,
cωctgω=cdη=cη=0
ここで,最後の等式は,cが特異ホモロジーの代表元であることから従う.
よって,
cI(ω)=c(Gtgωdg)=G(ctgω)dg=G(cω)dg=(cω)(G1)=cω
つまり,c(I(ω)ω)=0.ところで,de Rhamの定理より,HdRp(M)Hom(Hp(M),R)が成り立ち,その同型写像は,
[ω]([c]cω)で表示される([2]が参考になる).先の計算で,任意の[c]Hp(M)に対し,c(I(ω)ω)=0が成り立つことから,HdRp(M)の元として,[ω]=[I(ω)]

実は,Gが連結の場合は,HdRp(M)G=HdRp(M)である.つまりGがコンパクト連結Lie群の場合は,HGp(M)HdRp(M)が成り立ち,定理3が証明される.

Gが連結の場合は,HdRp(M)G=HdRp(M)

まず,任意のgGに対し,tgidMはホモトピックであることを示す.
Gは連結(とくにGは多様体なので弧状連結)なので,ある連続曲線c:[0,1]Gであって,c(0)=e,c(1)=gを満たすものが存在する.ここで,H:[0,1]×MMH(s,x)=tc(s)(x)で定義すると,これはtgidMを結ぶホモトピーになる(実は,Whitneyの定理より,滑らかなホモトピーとみなすことができる.[2]が参考になる).よって,tg=idM=id.よって,任意の[ω]HdRp(M)Gの左作用に関して不動点になるので,HdRp(M)G=HdRp(M)が成り立つ.

ここまでの議論において,MG自身とし,Gまたは,Gの直積Lie群G×Gによる,以下の左作用を考える.

  • 左移動Lg:GG|Lg(h)=gh
  • 右移動Rg:GG|Rg(h)=hg1
  • 共役Cg:GG|Cg(h)=ghg1
  • 両側移動B(g1,g2):GG|B(g1,g2)(h)=g1hg21
    またそれぞれの左作用に関して定まるコホモロジーHGp(G)またはHG×Gp(G)を,それぞれHLp(G),HRp(G),HCp(G),HBp(G)とおく.
定理3

Gをコンパクト連結Lie群とする.このとき,以下のコホモロジーの同型対応がとれる.
HdRp(G)HLp(G)HRp(G)HCp(G)HBp(G)

2. Lie代数とコホモロジー

前回のセクションでは,コンパクト連結Lie群Gのde Rhamコホモロジーは,左移動や共役などに関して不変な微分形式からなるコホモロジーと同型であることが示された.次のセクションでは,さらにde Rhamコホモロジーが,Lie代数上で定まるコホモロジーと同型であることを示す.

Lie代数上の交代形式のコホモロジー

GをLie群とし,G上に定まるLie代数をgとおく.また,g上のp次交代形式全体をpgとおく.
さらに,dg:pgp+1gを以下のように定める.
dgω(X1,...,Xp)=i<j(1)(i+j)ω([Xi,Xj],X0,...,Xi^,...,Xj^,...,Xp)

Lie群の一般論より,G上の左不変p-form全体をΩLp(G)とおくと,Rベクトル空間の同型写像Fp:ΩLp(G)pgが存在し,左不変ベクトル場X1,...,Xpに対し,ω(X1,...,Xp)=F(ω)((X1)e,...,(Xp)e)が成り立つ(左辺は実は定数になる).[3]参照.

dFp1=Fp+11dg

ωpgと,左不変ベクトル場X0,...,Xpに対し,
(dFp1ω)(X0,...,Xp)=i=0p(1)iXi((Fp1(ω))(X0,...,Xi^,...,Xp))+i<j(1)(i+j)Fp1(ω)([Xi,Xj],X0,...,Xi^,...,Xj^,...,Xp)=i<j(1)(i+j)Fp1(ω)([Xi,Xj],X0,...,Xi^,...,Xj^,...,Xp)=i<j(1)(i+j)ωe([(Xi)e,(Xj)e],(X0)e,...,(Xi^)e,...,(Xj^)e,...,(Xp)e)
ここで,2個目の等号については,Fp1(ω)(X0,...,Xi^,...,Xp)が定数であることからわかる.一方dgの定義より,
(Fp+1dgω)(X0,...,Xp)=i<j(1)(i+j)ωe([(Xi)e,(Xj)e],(X0)e,...,(Xi^)e,...,(Xj^)e,...,(Xp)e)
よって,左不変ベクトル場X0,...,Xpに対し,(d(Fp1(ω)))(X0,...,Xp)=(Fp+11(dgω))(X0,...,Xp)
ところで,任意のベクトル場は,各点で線形独立な左不変ベクトル場X0,...,Xp(g の基底を適当にとり,各基底に対し左不変ベクトル場を生成すればよい)のC(M)線形結合で書けるから,任意の滑らかなベクトル場X0,...,Xpに対し,(d(Fp1(ω)))(X0,...,Xp)=(Fp+11(dgω))(X0,...,Xp)
ここまでの内容で,dFp1=Fp+11dgが示された.

dgdg=0

dgdg=(Fp+2dFp+11)(Fp+1dFp1)=Fp+2ddFp1=0

上の補題により((g),dg)はチェイン複体となり,コホモロジーHp(g)を定めることができる.さらに補題7より,コホモロジーの同型写像HLp(G)Hp(g)[ω][Fp(ω)]により定めることができる.よって,次の同型が成り立つ.

コンパクト連結Lie群Gと,G上のLie代数gに対し,
HdRp(G)Hp(g)

共役不変な交代形式のコホモロジー

前項では,左移動に関して不変な微分形式がなすコホモロジーHLp(G)は,Lie代数上の交代形式がなすコホモロジーHp(g)と同型であることが確かめられた.この項では,両側移動に関して不変な微分形式がなすコホモロジーHBp(G)と同型なLie代数上に定まるコホモロジーを考える.「両側移動に関して不変」という条件は,より「左移動に関して不変」という条件より厳しいことから,Hp(g)より"小さい"範囲でコホモロジーが定義できることが期待される.

GをLie群とする.ωG上のp次微分形式としたとき,ωが両側不変な微分形式であることは,ωが左不変かつ,共役不変な微分形式であることの必要十分条件である.

ωを両側不変な微分形式とすると,Lgω=B(g,e)ω=ω,かつ,Cgω=B(g,g)ω=ωである.逆に,ωを左不変かつ共役不変な微分形式とすると,B(g,h)ω=ChLgh1ω=ω.

g上のp次交代形式のうち,Gの随伴表現Ad:GGL(g)に関して不変なもの全体の集合をΩAdp(g)とおく.ここで「Gの随伴表現Ad:GGL(g)に関して不変」とは,gGと,g上のp次の交代形式ωに対し,
g(ω)(X1,...,Xp)=ω(Ad(g1)X1,...,Ad(g1)Xp)
としてg(ω)を定めたとき,任意のgGに対し,g(ω)=ωを満たすことである.

Rベクトル空間の同型,ΩBp(G)ΩAdp(g)が成り立つ.ここで,ΩBp(G)はLie群G上の両側不変p次微分形式全体を表す.

Lie群の一般論より,G上の左不変p-form全体をΩLp(G)とおくと,Rベクトル空間の同型写像Fp:ΩLp(G)pgが存在するのであった.このFpΩBp(G)への制限を考えたとき,Fp|ΩBp(G)は単射なので,これがΩAdp(g)への全射であることが示されれば,補題が示される.まず,FpΩBp(G)ΩAdp(g)を示す.ωΩBp(G)に対し,fω=Fp(ω)とおくと,gGと,X1,...,Xpgに対し,
g(fω)(X1,...,Xp)=fω(Ad(g1)X1,...,Ad(g1)Xp)=ωe(Cg1X1,...,Cg1Xp)=(Cgω)e(Cg1X1,...,Cg1Xp)=ωe(X1,...,Xp)=fω(X1,...,Xp)
つまり,fωΩAdp(g)となる.逆にωに対し,ω=Fp1(ω)とおくと,上記の式から任意のgGと,X1,...,Xpgに対し,ωe(X1,...,Xp)=(Cgω)e(X1,...,Xp).よって,任意の滑らかなベクトル場は左不変ベクトル場のC(G)係数の線形結合で書けるので,ω=Cg(ω).つまりFp(ΩBp(G))ΩAdp(g)Fp|ΩBp(G)は全射になる.

ΩAdp(g)もまた,Lie代数の外微分作用素dgにより,チェインを形成するため,コホモロジーHAdp(g)が定義でき,以下のコホモロジーの同型が成り立つ.

コンパクト連結Lie群Gと,その上のLie代数gに対し,以下のコホモロジーの同型が成り立つ.
HdRp(G)HBp(G)HAdp(g)

次回予告

今回の記事では,コンパクト連結Lie群,およびその上のLie代数のコホモロジーについて考察を行い,
最終的にG上のde Rhamコホモロジーは,Lie代数gの共役不変な交代形式がなすコホモロジーと同型であることを示した.


ところが,実はLie代数g上の共役不変な交代形式は,すべて(dgに関して)閉形式であることが知られている.よって,コンパクトLie群のコホモロジーは,ΩAdp(g)の次元を調べる問題に帰着し,コホモロジー論を簡単な問題に変換できる.


次回の記事では,Lie代数g上の共役不変な交代形式が閉形式であることを示したのち,ΩAdp(g)の性質を調べる.また,ある条件の下では,g上に,Cartan's 3-formと呼ばれる特別な0でない交代形式が存在することを示し,球面のde Rhamコホモロジーと比較することにより,1,3次元でない球面上にはLie群構造が存在しないことを証明する.

参考文献

[1]
Glen E. Bredon, Topology and Geometry (Graduate Texts in Mathematics, 139), 1993
[2]
John Lee, Introduction to Smooth Manifolds (Graduate Texts in Mathematics, 218) Second Edition, 2012
[3]
松島 与三, 多様体入門 (数学選書 (5)) 第37版, 2011
投稿日:2023618
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  1. 0. イントロダクション
  2. 1. Lie群が作用する多様体のde Rhamコホモロジー
  3. 写像の構成
  4. コホモロジー同型の証明
  5. 2. Lie代数とコホモロジー
  6. Lie代数上の交代形式のコホモロジー
  7. 共役不変な交代形式のコホモロジー
  8. 次回予告
  9. 参考文献