2
大学数学基礎解説
文献あり

【第二回】N次元球面上の掛け算構造

157
0

こちらの記事は,前回の記事の続きです。

【第一回】→ https://mathlog.info/articles/1HCiInr5pVv8RbZq4Aup
【第二回】→ 本記事

3, Lie代数上の共役不変な交代形式の性質

前回の記事では,コンパクト連結Lie群Gとすると,Gのde RhamコホモロジーHdRp(G)は,GのLie代数g上の,共役不変な交代形式のなすコホモロジーHAdp(g)と同型になることを示した.

このセクションでは,Lie代数上の共役不変な交代形式の特徴付けを行い,その特徴付けと,前回の記事で示したコホモロジーの同型対応から,Lie群のコホモロジーに関する重要な結果を述べます.

特徴付けを証明する前に,証明に必要な補題を用意する.

Vを有限次元ベクトル空間とし,コンパクト連結Lie群GVに線形作用しているとする.すなわち,任意のgGに対し,作用によって定まる微分同相が,線形同型写像になり,群の表現,θ:GGL(V)が定まるとする.これを単位元で微分すると,θ:gEnd(V)が定まる.このとき,vVに対して,以下は同値.
(1) 任意のgGに対し,(θ(g))v=v.
(2) 任意のXgに対し,(θ(X))v=0.

(1)(2)
あらかじめVの基底を適当にとっておいて,Rkとして考える.
Xgに対し,θ(exp(tX)):RGL(V)は,GL(V)1-parameter部分群なので,何らかのk次の行列Aを用いて,θ(exp(tX))=etAと書け,θ(X)=Aとなる.([2]のProp20.2参照).
仮定より,任意のgGに対し,(θ(g))v=vであったから,
Av=(θ(X))v=ddt|t=0(θ(exp(tX)))v=ddt|t=0θ(v)=0
よって,θ(X)v=Av=0.
(2)(1)
すでに示したように,θ(exp(tX))=etAと書ける.このとき,
etAv=v+tAv+12t2A2v+...
であったから,etAv=v.つまり,(θ(exp(tX)))v=v.
ところで連結Lie群においては,eG近傍でG全体を生成する.よって,任意のgGに対し,θ(g)v=v.

Lie代数上の共役不変な交代形式の特徴付け

Gをコンパクト連結Lie群とする.ωg上のp重の線形形式(交代形式とは限らない)とすると,ωが共役不変であることと,任意のY,X1,...,Xpgに対し,
i=1pω(X1,...,[Y,Xi],...,Xp)=0
が成り立つことは同値である.

補題1におけるVp(g)とし,Gp(g)への左作用を
((θ(g))ω)(X1,...,Xp)=ω(Ad(g1)X1,...,Ad(g1)Xp)で定める.
Bt=Ad(exp(tY))とおくと,
((θ(Y))(ω))(X1,...,Xp)=ddt(θ(exp(tY))ω(X1,...,Xp))|t=0=ddt(ω(BtX1,...,BtXp))|t=0=limt01t(ω(BtX1,...,BtXp)ω(X1,...,Xp))=limt01t(ω(BtX1X1,BtX2...,BtXp)+ω(X1,BtX2X2...,BtXp)+ω(X1,X2...,BtXpXp))
ここで,
limt0BtXi=B0Xi=Xi
かつ,
ddtBtXi|t=0=ddt(Ad(exp(tY)))Xi|t=0=ad(ddtexp(tY)|t=0)Xi=ad(Y)X=[Y,X]
なので,
((θ(Y))(ω))(X1,...,Xp)=i=1pω(X1,...,[Y,Xi],...,Xp)
ここで補題1よりωが共役不変であることは,この式の(任意のY,...,X1,...,Xpgに対し)左辺が0であることと同値のため,命題が示された.

この特徴付けを用いることで,以下が示される.

任意のωΩAdp(g)dgに関して閉形式.

εi,ji=jのとき0,i<jのとき,(1)j,i>jのとき,(1)j+1で定める.
dgω(X0,...,Xp)=12ij(1)iεi,jω([Xi,Xj],X0,...,Xi^,...,Xj,...,Xp^)=12i(1)ijεi,jω([Xi,Xj],X0,,...,Xi^,...,Xj^,...,Xp)=12i(1)i+1jω(X0,...,[Xi,Xj],...,Xi^,...,Xp)
ここで,最後の式は定理2より0になるので,ωは閉形式.

よって,ΩAdp(g)がなすコホモロジーは,ΩAdp(g)自身と同型であり,以下が成り立つ.

Gをコンパクト連結Lie群とする.このとき,以下の同型が成り立つ.
HdRp(G)ΩAdp(g)

4, コンパクト連結Lie群のコホモロジー

前セクションで,コンパクト連結Lie群のde Rhamコホモロジーを計算するには,Lie代数上の共役不変な交代形式がどれぐらいあるか調べればよいことが分かった.
このセクションでは,Lie代数上の共役不変な交代形式の性質を調べることにより,Gのde Rhamコホモロジーを計算し,球面SNがLie群構造を持つには,N=1,3である必要があることを示す.

GN次元コンパクト連結Lie群,gをその上のLie代数とする.また,[g,g]{[X,Y]|X,Yg}の生成するgの部分ベクトル空間とする.このとき,
dimHdR1(G)=Ndim[g,g]
とくに,以下の同値が成り立つ(両辺が0の場合).
HdR1(G)=0[g,g]=g

ΩAd1(g)の特徴づけより,g上の1次交代形式ωが,ωΩAd1(g)を満たす必要十分条件は,任意のX,Ygに対しω([X,Y])=0であること.つまり,[g,g]の零化空間(anihilator)は,ΩAd1(g)と一致する.よって,dimHdR1(G)=Ndim[g,g].

Gを連結Lie群とする(ここはコンパクトである必要はない).また,gG上のLie代数とする.Gが可換群であることは,gが可換である,つまり任意のX,Ygに対し,[X,Y]=0であることと同値.特にGがコンパクト連結ならば,Gが可換であることと,dimHdR1(G)=Nであることは同値.

まず,Gが可換であると仮定したとき,gが可換であることを示す.写像I:GG|gg1Gの可換性より,Lie群の準同型なので,IはLie代数の準同型.また,I(exp(tX))=exp(tX)なので,I(X)=X.よって,
[X,Y]=I([X,Y])=[IX,IY]=[X,Y]=[X,Y]
つまり,[X,Y]=0.
次にgが可換であると仮定して,Gが可換であることを示す.[3]の§9より,exp(sX)exp(tY)=exp(tY)exp(sX).ところで,連結Lie群においては,Gの任意の元は,単位元付近(つまり,exp(sX)の形で書ける)の元で生成されるから,Gは可換.
最後にdimHdR1(G)=Nならば,命題5より[g,g]=0なので,gは可換.逆も然り.

(Gが行列群であると仮定されているが,)[4]のCorollary 11.11.から直ちにわかるように,実際にはGがコンパクト連結可換N次元Lie群ならば,GN次元Torusと同型であることが知られている.Torusの1次de Rhamコホモロジーは,RNであるから,命題と矛盾していないことがわかる.

Gをコンパクト連結Lie群とする.HdR1(G)=0ならば,HdR2(G)=0.

ωΩAd2(g)をとる.ωは閉形式であったから,
0=dgω(X,Y,Z)=ω([X,Y],Z)+ω([X,Z],Y)ω([Y,Z],X)=ω([X,Y],Z)(ω([Z,X],Y)+ω(X,[Z,Y]))=ω([X,Y],Z)
ここで,最後の等号は,ωが共役不変であることから従う.
HdR1(G)=0より,[g,g]=gだから,上の計算により,任意のX,Ygに対し,ω(X,Y)=0であるとわかったので,ω=0.よって,HdR2(G)=0.

Gをコンパクト連結Lie群とする.HdR1(G)=0ならば,HdR3(G)0.

ηg上の0でない共役不変な対称形式とする(このような対称形式の存在は後で示す).ここで,ω(X,Y,Z)=η([X,Y],Z)により,3重線形形式ωを定める.ωが共役不変かつ,非自明な交代形式であることを示せば,HdR3(G)0が示される.ωが共役不変であることは,ηの共役不変性からわかる.HdR1(G)=0より,[g,g]=gなので,ηの非自明性よりη([X,Y],Z)0となるようなX,Y,Zgが存在.よってωは非自明.交代性については,ηの共役不変性に注意して,以下のように示される(XYの交代性は自明).
η([Z,Y],X)=η([Y,Z],X)=η(Z,[Y,X])=η([Y,X],Z)=η([X,Y],Z)
η([X,Z],Y)=η(Z,[X,Y])=η([X,Y],Z)
最後に,g上の0でない共役不変な交代形式は,以下のように定める.
η(X,Y)=GAd(g)(X),Ad(g)(Y)dg
ここで,g上の適当な正定値内積とする.ηの共役不変性は,Haar体積形式の不変性よりわかる.

ここまでのコホモロジーの結果により,いよいよN次元球面SNがLie群になるNの条件は,N=1,3であることを示す.

Nを正の整数とする.N次元球面SNにLie群構造を定めることができるNの条件は,N=1,3である.

SNはコンパクト連結である.SNがLie群であると仮定する.
SNのde Rhamコホモロジーは,
HdRp(G)={R (p=0,N)0 (p0,N)
N1ならば,HdR1(G)=0なので,HdR3(G)0.よってN=3.

最後に,Lie群のコホモロジー論から,いくつかのコンパクト連結多様体がLie群になる条件について調べる.

  1. N2とする.N次元TorusTNは非可換Lie群構造を持たない.
  2. g2とする.種数g2次元TorusMgはLie群構造を持たない.

(1)TNの1次de Rhamコホモロジーは,HdR1(TN)=RN.仮にTNが非可換Lie群構造を持つならば,[g,g]0なので,dimHdR1(TN)<Nとなり矛盾.
(2)Mgの1次de Rhamコホモロジーは,HdR1(Mg)=R2g.仮にMgがLie群構造を持つならば,dimHdR1(Mg)2となり矛盾.

参考文献

[1]
Glen E. Bredon, Topology and Geometry (Graduate Texts in Mathematics, 139), 1993
[2]
John Lee, Introduction to Smooth Manifolds (Graduate Texts in Mathematics, 218) Second Edition, 2012
[3]
松島 与三, 多様体入門 (数学選書 (5)) 第37版, 2011
[4]
Brian Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction (Graduate Texts in Mathematics, 222), 2015
投稿日:2023627
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中
  1. 3, Lie代数上の共役不変な交代形式の性質
  2. 4, コンパクト連結Lie群のコホモロジー
  3. 参考文献