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Legendreの(陪)微分方程式

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Legendreの(陪)微分方程式の級数解法

Legendreの微分方程式

Legendreの微分方程式とは、以下のような有理関数係数の2階の線形微分方程式である。

(1z2)d2ydz22zdydz+Λy=0

Λは実パラメータである。

実は超幾何級数を使うと一瞬で解けますが、飛び道具に頼らず着実に計算できるべき級数法も両方重要だと考えています。

Step0 背景知識

シュレディンガー方程式の変数分離

Legendreの微分方程式はシュレディンガー方程式を球座標(r,θ,ϕ)で表した時の角度成分(θ,ϕ)を変数分離することで登場します。ϕ依存性をmで変数分離すると、ラプラシアンの角度成分は角運動量演算子
L^2=1sinθ[θ(sinθθ)m2sinθ]で表現できます。角運動量の固有状態|l を求めることで、角運動量の値ごとに量子状態を分類し、動径成分rのみの常微分方程式で理解できるようになるのです。

Legendreの微分方程式を導出

このようなモチベーションのもと、固有値問題
L^2Θ(θ)=ΛΘ(θ)の解で、θで周期的になるような解を求めてみましょう(周期的な境界条件は後で本質的になってきます)。実は、有理関数係数の微分方程式は、その解の構造が局所的にも大域的にもよく理解されているため、
z=cosθ
という変数変換は極めて有効です。
ddθ=dzdθddz=sinθddz=1z2ddz
に注意し、
1sinθ[ddθ(sinθdΘdθ)m2sinθΘ]
=11z2[1z2ddz((1z2)dΘdz)m21z2Θ]

=[ddz((1z2)dΘdz)m21z2Θ]=ΛΘ

となります。Legendreの微分方程式は、m=0での微分方程式
(1z2)d2Θdz22zdΘdz+ΛΘ=0のことを指します。

m0の時はLegendreの陪多項式と呼ばれます

こうした背景の下では、波動関数がθで周期性を持つために、z=+1,1で有限値を取る解を持つ必要があります。

有理係数線形微分方程式はべき級数解で解くのが鉄板なので、処方箋に従って、解を導出してみましょう。

Step1 べき級数を方程式に代入

変数分離などの特殊解法が通用しないとわかったら、汎用性の高い級数解の形で解を作ってしまいましょう。

y(z)=k=0Ckzkと置いて、Ckに関する漸化式を立式します。CkΛに依存することに注意しておきましょう。

y(z)=k=1kCkzk1

y(z)=k=2k(k1)Ckzk2

第1項は以下の通り。()の変形ではn2nにずらしています。最後の変形では0次、1次、2次以降に分類しています。
(1z2)y(z)=k=2k(k1)Ck(1z2)zk2
=k=2k(k1)Ckzk2k=2k(k1)Ckzk
=k=0(k+2)(k+1)Ck+2zkk=2k(k1)Ckzk()
=2C2z0+6C3z1+k=2[(k+2)(k+1)Ck+2k(k1)Ck]zk

第2項は以下の通り。第1項に合わせ、1次と2次以降に分けています。
2zy(z)=2k=1kCkzk=2C1z1+k=2[2kCk]zk

第3項は以下の通り。同様に0次、1次と2次以降に分けています。
Λy(z)=k=0ΛCkzk=ΛC0z0+ΛC1z1+k=2[ΛCk]zk

0次、1次、2次以降に分類して全ての項を足して以下のように書けます。

[2C2+ΛC0]z0+[6C3+(2+Λ)C1]z1

+k=2[(k+2)(k+1)Ck+2k(k1)Ck2kCk+ΛCk]zk=0

zkの係数は全て0になる条件から、係数に関する漸化式が無事に立式できました。

Legendreの微分方程式の漸化式

y(z)=k=0Ckzkの係数は以下を満たす。

Ck=(k1)(k2)Λk(k1)Ck2

漸化式を解く際、2個跨ぎの漸化式なので、偶数項と奇数項に分けると見通しが良くなります。

この事実は、パリティ変換zzに対して方程式が不変であり、解空間が偶関数と奇関数に分類できる事実を反映しています。

(1)k=2mの場合、
C2m=(2m1)(2m2)Λ2m(2m1)(2m3)(2m4)Λ(2m3)(2m4)Λ21C0(2)k=2m+1の場合、
C2m+1=2m(2m1)Λ(2m+1)2m(2m2)(2m3)Λ(2m1)(2m2)21Λ32C1
となり、Λが邪魔して全く綺麗になりません。現状考えていない点は境界条件だけなので、端点付近の挙動を調べてみる価値はあるかもしれません。

Step2 解の挙動を吟味する

漸化式は確かに解けましたが、境界条件にはまだなにもふれていませんでした。実はこの条件はとても大切で、境界条件によってはΛの値に制限がかかります。ルジャンドルの微分方程式は球座標ラプラシアンの変数θを変数分離し、z=cosθという変数変換を施すことで生まれるので、z=+1,1(つまりθ=0,π,2π)で周期性を保つべく、zに関して端点で有界でなくてはいけません。

境界での漸近的挙動を把握すべく、ダランベールの判定法を使ってみます。
Ck+2Ck=k(k+1)Λ(k+2)(k+1)1(k)

より、べき級数は漸近的に幾何級数
k=0zk=11z
に近づきます。解が無限級数だと境界で発散してしまうので、係数Ckを有限で止める必要があります。

漸化式の分母に着目すると、Λ=n(n+1)に設定すれば,
n+2項が消えて、n次多項式になることがわかります。

Ck+2=k(k+1)n(n+1)(k+2)(k+1)Ck=(nk)(k+n+1)(k+2)(k+1)Ck

Step2 のまとめ

・境界条件を無視:境界で発散し、Λが未定
・境界で発散しない:Λ=n(n+1)が定まり、解はn次多項式

Legendreの微分方程式 (境界条件込み)

nを整数として、境界条件を満たす微分方程式固有値に以下のような条件がかかる。
(1z2)d2ydz22zdydz+n(n+1)y=0

Step3 係数を整理

Legendreの微分方程式の解のうち、n次多項式になるものをPn(z)と書き、Legendre多項式と呼びます。

境界条件下で漸化式を解きましょう。xnの係数である
Cn=(2n)!2nn!2
を初期条件にとると意外と綺麗になります。これはPn(1)=1となる規格化を行うことに相当しています。

べき級数は昇べきの順で書くことが多いですが、最大次数がnだとわかっているので、降べきの順の方が見通しが良くなります。

Ck2=k(k1)(nk+2)(n+k1)CkCn=(2n)!2nn!2

逐次代入して規則性を見つけていくと、

Cn2=n(n1)2(2n1)(2n)!2nn!2=12n(2n2)!(n1)!(n2)!

Cn4=12n(2n4)!2!(n2)!(n4)!

Cn6=12n(2n6)!3!(n3)!(n6)!

以下同様に、

Cn2i=(1)i12n(2n2i)!(ni)!i!(n2i)!

この和の範囲はn2i00i[n2]でとれば良いので、

Pn(z)=12ni=0[n/2][(1)i(2n2i)!(ni)!i!(n2i)!]zn2i

のように表現できることが示され、無事にLegendreの多項式が表現できました。

Legendreの多項式

Legendreの微分方程式と周期境界条件を満たす解は多項式であり、以下のような表式で表される。
Pn(z)=12ni=0[n/2][(1)i(2n2i)!(ni)!i!(n2i)!]zn2i

Rodorigueの公式

べき級数法で証明するのは超大変でしたが、実はこの多項式を簡便に表現する公式があります。

Rodorigueの公式
Pn(z)=12nn!dndzn[(z21)n]

本来は直交多項式の統一理論に由来する明確な数学的意義があるのですが、脱線してしまいそうなので、また別の記事で紹介します。

Strum-Liouville理論や、超幾何関数などが代表的です。いずれ執筆しようと温めています。

(z21)nを二項展開して微分

12nn!dndzn[(z21)n]
=12nn!dndzn[m=0n(nm)z2n2m(1)m]
=12nn![m=0[n/2](nm)(2n2m)(2n2m1)(2n2mn+1)z2n2mn(1)m]

=12nn![m=0[n/2](n)!m!(nm)!(2n2m)!(n2m)!zn2m(1)m]

=12n[m=0[n/2](1)m(2n2m)!m!(nm)!(n2m)!zn2m]
これはLegendreの多項式と一致する。

Legendreの陪微分方程式

シュレディンガー方程式からの導出にてm=0としたのは、角運動量のz成分がゼロである状態に対応しています。z方向の角運動量も考察したい場合には以下の微分方程式を吟味することになります。

Legendreの陪微分方程式
(1z2)d2Pn(m)dz22zdPn(m)dz+[n(n+1)m21z2]Pn(m)=0

境界条件を加味すると、固有値Λの値はn(n+1)に一致しないといけないことが示されます。

方程式の変形

先ほどのΛのように、m2が邪魔して係数の表示がめんどくさくなりそうです。m2m(m+1)に揃えられないかな?と試行錯誤を繰り返すと、

Pn(m)(z):=(1z2)m2u(z)

にたどり着くことができます。この関数変換を施すと、

P=mz(1z2)m21u(z)+(1z2)m2u(z)

P=m(1z2)m21u(z)+mz2(m2)(1z2)m22u(z)2mz(1z2)m21u(z)+(1z2)m2u(z)

より、

(1z2)d2Pn(m)dz2=(1z2)m21[m(1z2)u(z)+mz2(m2)u(z)mz(1z2)u(z)+(1z2)2u(z)]

2zdPn(m)dz=(1z2)m21[2mz2u(z)2z(1z2)u(z)]

[n(n+1)m21z2]Pn(m)=(1z2)m21[n(n+1)(1z2)u(z)m2u(z)]

両辺足して(1z2)m21で割りましょう。一見複雑ですが、計算すべきは実質(1z2)の因子を含まない項のみということに気づくと楽です。

m(1z2)u(z)+mz2(m2)u(z)mz(1z2)u(z)+(1z2)2u(z)+2mz2u(z)2z(1z2)u(z)+n(n+1)(1z2)u(z)m2u(z)=0

整理すると、こんな形になります。

(1z2)u(z)2z(m+1)u(z)+[n(n+1)m(m+1)]u(z)=0

Legendreの微分方程式と比較

(1)変形したLegendre陪微分方程式
(1z2)u(z)2z(m+1)u(z)+[n(n+1)m(m+1)]u(z)=0(2)Legendreの微分方程式
(1z2)y2zy+n(n+1)y=0

非常によく似た形をしているので、(1)を同様に級数展開しても上手くいきそうです。ところが、(2)の両辺を微分すると面白いことが起こります。

ddz[(1z2)y2zy+n(n+1)y]=0

y1=yとして見栄えをよくすると、

(1z2)y12zy12y12zy1+n(n+1)y1=0

(1z2)y12z(1+1)y1+[n(n+1)12]y1=0

となり、m=1の場合の(1)が登場します!

同様にm回微分すると、帰納的に

(1z2)ym2z(m+1)ym+[n(n+1)m(m+1)]ym=0

が導かれ、(2)のm回微分は(1)に一致します。ゆえにdmdzmy=u(z)であり、以下が導かれます。

Legendreの陪微分方程式の解
Pn(m)(z)=(1z2)m/2dmdzmPn(z)

お疲れ様でした。主に自分に向けて

ここからわかる通り、Legendreの微分方程式を愚直に解くことはできます。しかし、計算量も重いながら、Legendre微分方程式の解の本質を見抜けないまま時間だけが過ぎてしまいやすいので、個人的にはこの解法はお勧めしません。

気分が乗ったら、Legendreの微分方程式の見通しをもう少し良くする方法を執筆しようと思います。

追伸:執筆しました https://mathlog.info/articles/6FLHkDavWkEYBBjsVAqR

投稿日:2023105
更新日:2024116
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noho1024
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専攻は物理学です。 有機化学、物性理論、確率数理、場の量子論の勉強を経て、科学の面白さを世に広める活動をしていきたいと思っています。

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