この記事では次の定理を証明します.
この定理をとに適用するとの超越性が分かり、とに適用すると(背理法により)の超越性が分かります.素晴らしい定理ですね!
本記事の証明は子葉さんによる解説記事
リンデマン・ワイエルシュトラスの定理 | Mathlog
のものと本質的に同じですが,代数的整数論の基礎的な知識を使うことで少し見通しよくしたつもりです.
問題の言い換え
まずは定理1を代数的な言葉で言い換えて整理することから始めましょう.をに含まれるの有限次Galois拡大体とします.定理1を示すには、相異なる元に対してが上線型独立であることを示せば十分です.というのも、はこのようなの和集合になっているからです.そこで以下ではこのようなを1つ固定して考えることにします.
上の「の加法群」の群環をで表し、に対応するの元をで表すことにします.すると
という代数の準同型が存在します.この写像を用いると,示したいことは次のように簡潔に言い表せます.
そこでについてもう少し詳しく調べてみます.
正整数およびに対して
であることを示せばよい.の加法群に全順序Abel群の構造を入れる(例えば実部と虚部の対に関する辞書式順序).一般性を失わずにと仮定してよい.このとき上式左辺を展開したときのの係数はなのでよい.
次にへのGalois群の作用を考えましょう.をのGalois群とすると、のへの左作用が
により定まります.写像を
により定めます.がの核に属していたとすると、もの核に属します.もしこの状況でが示せれば、命題3よりとなっての単射性が分かります.以上より、定理2を示す上では不変な元のみ考えれば十分です:
証明
多項式およびに対して
と定めます(多項式は何回か微分するとになるので右辺は有限和になります).また
と定めます(Cauchyの積分定理より積分路の取り方に依りません).これらの間には次のような関係があります.
この命題より,が小さくなるようなをうまく選ぶと,はにより近似することができます.特にが整数となるようにすれば,の有理数近似が得られます.このような都合の良い多項式の存在を保証するのが次の「近似補題」です.
近似補題
を相異なる元とし,とする.絶対ノルムが十分大きい素イデアルに対し,以下を満たす多項式が存在する:
- 任意のおよびに対して.
- , .
ただしはの係数にを作用させたものである.
の下にある素数をとする.と表す.の絶対ノルムが十分大きいという仮定より,としてよい.このとき多項式
が条件(1), (2)を満たすことを示そう.
(1) とを結ぶ線分上のの最大値をとすると、の絶対値はの定数倍で上から抑えられる.が十分大きければこの値は未満になる.
(2) は
と表せる.を代入するとの項はとなり、の項はの項を除いてに属する.かつの項は,よりに属する.以上よりである.また上の式にを代入するとの項はとなり、の項は全てに属するのでとなる.
また次のような代数的整数の基本的な性質を思い出しておきます.これは「絶対値が1未満の整数は0に限られる」という事実の一般化です.
いよいよ定理4を示します.
のでない元を取り、と仮定して矛盾を導く.一般性を失わずにとしてよい.は不変なので任意のに対して、つまり
が成り立つ.この関係式から矛盾を導こう.実数および絶対ノルムが十分大きい素イデアルを取る.このときとなるようにしておく.これらと元に近似補題を適用して多項式を定める.すると命題5より,の有理数近似
が得られる.を掛けてについて和を取ると
となる.は任意に小さく取れるので,代数的整数の離散性より
となる.これはかつであることに矛盾している.