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分解型複素数の乗法群

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まえがき

こんにちは!的場 沙雪です.今回は分解型複素数について考えていた時に,分解型複素数全体の集合Dの部分集合は乗法群に出来るのではないかと考え,調べてみたのですが特にそのような記述は見つからなかったので記事にしようという話です.

群論がわからない方も,極形式もどきの部分だけでも読んでみる価値はあると思います!なお群論の知識は本当に初歩の部分だけで問題無いです! Wikipedia を参照してもいいかもしれません.

オイラーの公式

定義や導出方法など詳しくは こちらのサイト などを参照していただきたいのですが,このような公式があります(紹介しなくてもいいのですが,後々計算が楽になります)

オイラーの公式

以下の等式が成り立ちます.ただしtRとします.
ejt=cosht+jsinht

さらに,指数法則も成り立ちます.

指数法則

以下の等式が成り立ちます.ただしzDwDとします.
ezew=ez+w

極形式もどき

(非零)複素数には極形式と呼ばれる表示方法がありました.

以下の論理式は恒真です.
zC0, r>0 s.t. θR s.t. z=reiθ

分解型複素数でも極形式(のようなもの)を考えることが出来ます.rejt=rcosht+jrsinhtを考えてみましょう.ただしr>0tRとします.これは実部がrcosht,虚部がrsinhtなので,分解型複素数x+jyxy平面上の点(x,y)にプロットするとrejtは双曲線x2y2=r2x>0の部分にあることがわかります. rr>0の範囲で動かしてみる と,rejtの形で表せる点全体は図1に示す領域y<xy>xになります(境界は含みません).
!FORMULA[22][802541962][0]が表す領域 y<xy>xが表す領域

さて,困りました.どうやらrejtの形では分解型複素平面全体を表現出来ないようです.どうにかして残りの部分を表現できないでしょうか……

そういえば,複素数において1倍は原点対称に点を移す操作でした.分解型複素数でも出来ないでしょうか?ということで,やってみます.rejt=rcoshtjrsinhtは実部がrcosht,虚部がrsinhtなので,先程と同様にプロットするとrejtは双曲線x2y2=r2x<0の部分にあることがわかります.つまりrejtの形で表せる点全体は図2に示す領域y>xy<xになります(境界は含みません).
!FORMULA[33][215676366][0]が表す領域 y>xy<xが表す領域

残るは上部分と下部分です.上部分は双曲線x2y2=r2y>0の部分にある点を表現出来ればいいことがわかるので,そこから逆算しましょう.x2y2=r2は変形するとy2x2=r2となるので,(x,y)=(rsinht,rcosht)を考えればいいことがわかります.rsinht+jrcosht=j2rsinht+jrcosht=j(rcosht+jrsinht)=jejtなので,jejtで表せるで表せる点全体は図3に示す領域y>xy>xになります(境界は含みません).
!FORMULA[42][215735948][0]が表す領域 y>xy>xが表す領域

これで後は下部分だけです!下部分は先程考えた1倍の話から,jejtを考えればよいことがわかります.つまりjejtで表せるで表せる点全体は図4に示す領域y<xy<xになります(境界は含みません).
!FORMULA[47][802482380][0]が表す領域 y<xy<xが表す領域

以上でyxyxを満たす全ての点を極座標(のようなもの)で表すことが出来ました!分解型複素数のすごいところは,なんとこの極座標(のようなもの),rtが一意に定まります!!!複素数では偏角に周期2πの任意性がありましたが,分解型複素数では任意性が無いので,対数関数が多価性を持ちません!!!!!!ただし,logjlog(1)の定義のしようがない(もしくは,j1は指数関数の値域にない)ので,対数関数の定義域は図1で表される領域だけになります……どなたかうまい定義を思いついたらご一報いただければ幸いです.私はlog(1)のように複素数を持ってくることで無理やり解決は出来るのかな……?と考えています.二元数の行列表現から以下の表(表の値は積)を作れるので,四元数と恐らく同型な数体系R[i,j,ε]を考えて何とか出来ないでしょうか……

↓左から掛ける数\右から掛ける数→1ijε
11ijε
ii1i+2ε1j2
jji2ε1ε
εε1+j2ε0

なお,今回はy=xy=xを満たす部分は使わないので関係ないですが,r1+j2などとして表現することが出来ます(1+j2 冪等元 です,冪等元を用いると計算が楽になります.「幻影数」で検索してみてもいいかもしれません).

以後,図1,図2,図3,図4の領域に移される分解型複素数全体の集合を,それぞれ極形式(のようなもの)になぞらえてD1D1DjDjと表すことにします.

乗法群

いよいよ大詰めです.D×:=D1D1DjDjと定義すると,なんとD×は乗法群になります!きちんと述べれば,(D×,1,×)はアーベル群になります(ちなみに組(D1,1,×)や組(D1D1,1,×)もアーベル群になります)!

これを示すには,元々(D,×)は可換モノイドですから,D×上で積が閉じていること(組(D×,×)がマグマであること),そしてD×の任意の元がD×上に乗法逆元を持つことを示せば十分です.なお,乗法単位元1D1に属しています.

まず前者の乗算の閉性からです.D12r1ejt1r2ejt2をとると(もちろんr1>0t1Rr2>0t2Rです),それらの積r1ejt1r2ejt2は指数法則よりr1r2ej(t1+t2)となってD1の元となります.D1DjDjの元はD1の元にそれぞれ1jjが掛かっているだけなので,結局D×は乗法に関して閉じていることがわかります.具体的には以下の表のようになります.

zが属する集合wが属する集合zwが属する集合
D1D1D1
D1D1D1
D1DjDj
D1DjDj
D1D1D1
D1DjDj
D1DjDj
DjDjD1
DjDjD1
DjDjD1

さあ後は逆元の存在性のみです!先程と同じくD12r1ejt1r2ejt2をとると,それらの積r1ejt1r2ejt2r1r2ej(t1+t2)となります.ここで,乗法単位元1D1に属しているので,極形式(のようなもの)で書けます.具体的には1=1ej0です,ということは,r1>0に注意してr2:=1r1t2:=t1と定義すればr1ejt1r2ejt2=r1r2ej(t1+t2)=r11r1ej(t1+(t1))=1ej0=1となって積が乗法単位元になります!つまりr1ejt1の乗法逆元はD1上に存在して1r1ejt1となります.

先程の表から,残るD1DjDjの乗法逆元はそれぞれD1DjDj上に存在することがわかります(乗法逆元との積は乗法単位元1なので,特にD1に属していなければなりません).後はもうわかりますね!rejtjrejtjrejtの乗法逆元はそれぞれ1rejtj1rejtj1rejtです.ようやく示せました!!

あとがき

分解型複素数はなんだかマイナーというか豆知識のような扱いを受けがち(体感)ですが,こんなにも面白い性質を持っているんです!!みなさんも分解型複素数を研究してみてはいかがでしょうか?ここまで読んでくださりありがとうございました.

投稿日:2021322
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微分積分学,数理論理学,順序数解析が好きです.ここでは主に微積や級数の話題をすると思います.記事まとめは下のリンクからどうぞ.

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