この記事では, 2つの引数を複素数範囲まで拡張した二項係数$\ds\binom{y}{x}$とそれに関するFourier変換についてのお話を書こうと思います.
ちなみに, 結果の導出の仕方は参考文献と少し異なりますが, お話の展開の仕方はかなり似たものになっております.
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複素数$x,y$にまで一般化された二項係数を, ガンマ関数を用いて以下のように定義します.
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これは$x$が自然数のときには通常の二項係数と一致していて, また$x$の関数として正則(微分可能)なので, 自然な一般化となっています.
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実は一般化された二項係数に対しても, 通常の二項係数に対して成り立つ性質と同様の性質が成り立ちます.
まず $\ds\binom{y}{x}=\binom{y-1}{x-1}+\binom{y-1}{x}$ 等の関係式が成り立つことは簡単に分かります. では総和に関する性質はどうでしょうか.
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ここで通常の二項係数$\ds\binom{y}{n}$についておさらいしておきます. これは$y$が自然数の場合と同様, $(1+t)^y$のTaylor展開の$t^n$の係数として定義されるのでした. 即ち,
が成り立ちます.
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これに対応する関係式として, $\sum$を$\int$にしたものが成り立ちます! Stirlingの公式から$\ds\left|\binom{y}{x}\right|=O\big(|x|^{-(y+1)}\big)$ なので積分は$|t|=1$のときにしか収束しないので,
なる式が成り立つのです! 以下, これの証明をしていきます.
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ここで, 少し感覚的な議論をしようと思います.
$x$が自然数の場合と同様, $\ds\binom{y}{x}$は, $(1+t)^y$の$t^x$の係数と考えられます. しかし肩の数が一般の実数であるようなTaylor展開はない(私が知らない)ので, この方法で考えるのは難しそうですね.
そこでFourier変換を考えてみます. これはFourier級数展開の連続バージョンでした. つまり, $\ds\binom{y}{x}$は$(1+e^{it})^y$の$e^{ixt}$の係数と捉えられます!
従って$(1+e^{it})^y$のFourier変換を考えれば良いのですが, これはそのまま計算すると発散してしまいます(条件を満たしません). しかし実は, 1周期に限定した, 以下の式が成り立ちます!(ただし$y>-1$としておきます.)
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ベータ関数の積分を利用します. Wataruさんの「積分botを解けるだけ解く その1」の命題1と同様のことをします.
対数関数は$-\pi<\arg z<\pi$となるように取るものとし, 「$0$から実軸の下を通って$-1$に行き, 単位円周を正の方向に回ってもう一度$-1$に行き, 実軸の上を通って$0$に戻る」経路に沿った, 関数$(1+z)^yz^{-(1+x)}$の積分を考えます.
被積分関数は経路内で正則なので,
$$\beq
0&=&\int_0^1(1+e^{-i\pi}z)^y(e^{-i\pi}z)^{-(1+x)}\cdot e^{-i\pi}\,dz\\[5pt]
&&+\int_{-\pi}^\pi(1+e^{it})^ye^{-i(1+x)t}\cdot ie^{it}\,dt\\[5pt]
&&+\int_1^0(1+e^{i\pi}z)^y(e^{i\pi}z)^{-(1+x)}\cdot e^{i\pi}\,dz
\eeq$$
従って
$$\beq
&&\int_{-\pi}^\pi(1+e^{it})^ye^{-ixt}\,dt\\[5pt]
&=&-\frac1i(e^{i\pi x}-e^{-i\pi x})\int_0^1z^{-(1+x)}(1-z)^y\,dz\\[5pt]
&=&-2\sin\pi x\cdot B(-x,1+y)\\[5pt]
&=&-2\sin\pi x\frac{\G{-x}\G{1+y}}{\G{1+y-x}}\\[5pt]
&=&2\pi\frac{\G{1+y}}{\G{1+x}\G{1+y-x}}\\[5pt]
&=&2\pi\binom{y}{x}
\eeq$$
示すことができました. ただし, これは途中でベータ関数の積分表示を経由しているので$x$の範囲が制限されてしまっていますが, 初めの積分と二項係数自体は$x$の正則関数なので, 適任解析接続します.
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上の式をFourier変換とみて, 逆変換します.
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所望の式を得ることができました.
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Vandermondeの畳み込み式 $\ds\sum_{n=0}^m\binom{\a}{n}\binom{\b}{m-n}=\binom{\a+\b}{m}$ に対しても同様の式が成り立ちます.
Fourier変換の畳み込み積の式を利用すれば, 2つの関数$(1+e^{it})^\a$,$(1+e^{it})^\b$に対して
$$\beq
&&\frac1{2\pi}\int_{-\pi}^\pi(1+e^{it})^{\a+\b}e^{-iyt}\,dt=\binom{\a+\b}{y}\\[5pt]
&&\space=\int_{-\infty}^\infty\binom{\a}{x}\binom{\b}{y-x}\,dx
\eeq$$
とすることで,
を得ることができました. これを用いると
という面白い式も得られます.
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上の式で適切な変数変換をすることで, 前回の記事 の後半2つの式を示すことができます.
今回はFourier変換を使いましたが, もしかしたらMellin変換だったりもっと見通しの良くなる方法があるのかもしれません. もしそうでしたら教えていただきたいです.
では, 最後まで読んで下さった方, ありがとうございました.
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