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大学数学基礎解説
文献あり

奥深い判別式の話-高校数学編

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathrm{div}} \newcommand{division}[0]{÷} \newcommand{dps}[0]{\displaystyle} \newcommand{grad}[0]{\mathrm{grad}\ } \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rot}[0]{\mathrm{rot}\ } \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

こんにちは!今回は最近勉強していて面白いなと思った判別式について書こうと思います.

二次方程式の判別式

まずは簡単な二次方程式の判別式を見てみましょう.

二次方程式の判別式

二次方程式$ax^2+bx+c=0\ (a\neq0)$の判別式$D$$D=b^2-4ac$と定義する.

これだけだと何がうれしいかよく分らないですね.この意味は(よく知られたように)$ax^2+bx+c=0$$2$解が$$x=\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}$$と表されるので,このルートの中身が分ればこの解の様子がわかるということでした.少し例を見ていきましょう.

二次方程式$ax^2+bx+c=0$について

$(1)$$a\neq0,b,c$は実数とすると,
(i)$D>0\Longleftrightarrow$異なる実数解を$2$つ持つ.
(ii)$D=0\Longleftrightarrow$実数解をただ$1$つ持つ.(重解)
(iii)$D<0\Longleftrightarrow$異なる虚数解を$2$つ持つ.

$(2)$$a\neq0,b,c$を複素数とすると,
$D=0\Longleftrightarrow$複素数解をただ$1$つ持つ.(重解)

$(3)$$a\neq,b,c$を有理数とすると解が全て有理数になる$\Longleftrightarrow D=k^2$となる有理数$k$が存在する.
特に$a=1$$b,c$が整数のときは解が全て整数になる$\Longleftrightarrow D$は平方数.

証明は簡単ですし教科書にものってる(はず)なので省略します.応用もこの定理から分るように代数寄りの問題や整数問題など幅広いです(手元の問題集を参照してみてください).

今回はこの便利な判別式を一般化するところから始めたいと思います.今,判別式の定義は解の公式のルートの中身として定義しました.しかし,三次方程式の解の公式は扱いにくいし,五次以上の方程式にはルートのみでかけるような解の公式はないので,一般化には向いていなさそうです.(一応三,四次方程式の解の公式の形から判別式を考える事は可能らしいので暇な人はどうぞ())

ここで,解の公式や定理$1$$(1),(2)$を眺めながら判別式がこんな風にかけそうだなという風になります.

二次方程式$ax^2+bx+c=0$$2$解を$\alpha,\beta$とすると,$$D=a^2(\alpha-\beta)^2$$が成り立つ.

$D=b^2-4ac,$
$\begin{align}a^2(\alpha-\beta)^2&=a^2\left(\frac{-b\pm\sqrt{b^2-4ac}}{2a}-\frac{-b\mp\sqrt{b^2-4ac}}{2a}\right)^2 \\&=a^2\left(\pm\frac{\sqrt{b^2-4ac}}{a}\right)^2 \\&=b^2-4ac \end{align}$
より示された.

こっちの形なら,計算は大変でも一般化はしやすいなと感じます.これを利用すればぱっと見不思議な式を得ることが出来ます.

$a\neq0,b,c$を実数とし,$f(x)=ax^2+bx+c$とし$f(x)=0$の判別式を$D$とする.$y=f(x)$のグラフと$x$軸で囲まれる部分の面積を$S$とすると,
$$S>0\Longleftrightarrow D>0$$であり,$S>0$のとき,
$$S=\frac{D^{\frac32}}{6a^2}$$が成り立つ.

まず,前半の主張について$S>0$ということは,$y=f(x)$$x$軸(つまり,$y=0$))が交点を持つことであるので,定理$1$より従う.
後半の主張を示す.$y=f(x)$$y=0$の交点の$x$座標を$\alpha,\beta$とすると,定理$2$より,$D=a(\alpha-\beta)^2$である.さらに,$\displaystyle\frac16$公式より,($x=\alpha$$x=\beta$の間で$f(x)$の符号は変化しないので)
$\begin{align} S&=\left|\int_{\alpha}^{\beta}f(x)dx\right|\\ &=\left|\int_{\alpha}^{\beta}a(x-\alpha)(x-\beta)dx\right|\\ &=\left|a\cdot\frac{(\alpha-\beta)^3}{6}\right|\\ &=\left|\frac{(a^2(\alpha-\beta)^{2})^{\frac32}}{6a^2}\right|=\frac{D^{\frac32}}{6a^2} \end{align}$
(絶対値をつけているので途中の絶対値の中の正負は見やすいように入れ替えたりしている)よって示された.

判別式と積分をつなぐ少し変わった式ですね,ここから先,判別式を一般化するのですが判別式と微分の間には密接な関係があることが分るのです.(この定理とはあまり関連はありませんが)それでは判別式を一般化してみましょう.

一般の多項式の判別式

では一般の多項式についての判別式を見ていきましょう.扱いにくいのでこれ以降の多項式の最高次の係数は特に断らない限り$1$であるとする.

多項式の判別式

$f(x)$を(一変数)多項式とし,$f(x)=0$の重解を含めた解を$\alpha_1,...,\alpha_n$とする.これの多項式$\Delta$
$$\Delta=\prod_{0< i< j\leq n}(\alpha_i-\alpha_j)^2$$と定義する.

定義より,明らかに次のことが言える.

$f(x)=0$が重解を持つ.$\Longleftrightarrow \Delta=0$

まず気になるのは,$\Delta$の計算方法ですね.この値は多項式の係数たちの多項式でかけるのでしょうか.答えはyesです.定理として述べておきましょう.

$\Delta$$f(x)$の係数たちの多項式の形で書くことが出来る.

まず$\Delta$$\alpha_1,...,\alpha_n$の対称式であることに注意する.これは$\Delta$の定義式のかけ算が全ての解の組について差を取って二乗しているのでどの二つを交換しても(二乗のおかげで)値が変わらないことからわかる.
対称式は基本対称式の多項式の形で書けるので示された.

(最後の部分について補足しておく.少し複雑なので飛ばして良い)
どのように$\Delta$$f(x)$の係数で表されていくのか考える.$f(x)=x^n+s_1x^{n-1}+...+s_{n-1}x+s_n$と置いておく.
まずは$\Delta$をゴリゴリ展開したとする.これは一般に莫大な長さの式になる.しかしこれは$\alpha_1,...,\alpha_n$の対称式になる.さらに$\alpha_i$の次数の総和はどの項も等しい.(つまり斉次である).このとき次の操作を繰り返していくとできる:
まず次数が最も偏っているもの項達を選ぶ.つまり$\Delta=k\displaystyle\sum_{sym}\alpha_1^{a_1}...\alpha_n^{a_n}+($その他の項$)$として,
(ここで$k$は定数,$a_i$は単調増加数列$sym$はΣの中身を対称式になるように変数を交換したものを足してあげたものである)
他のどの項に対しても任意の$i$に対して$\displaystyle\sum_{k=1}^i a_k\geq\sum_{k=1}^ib_k$となるように選ぶのである.(muirheadの不等式の仮定とかに良く出てくるやつである.)

とにかくもっとも次数が偏っている項を見つけたら,その項を$\displaystyle\prod_{k=1}^n s_k^{a_k-a_{k+1}}-($その他の項$)$(ただし$a_{n+1}=0$)で置き換える.すると,$\Delta$の各項の次数は減少する.従ってこの操作はいつか終わるので,そのとき$\Delta$$s_1,...,s_n$の多項式で表される.

これで判別式が元の多項式の係数から表されることが分った.少し小さい次数について判別式を求めてみよう...といいたいが ウィキ に答えがある(おい)のでそれを書いてみます.

次数が小さいときの判別式

$(1)$$f(x)=x^3+bx^2+cx+d$とすると,この判別式$\Delta$
$$\Delta=b^2c^2-4c^3-4b^3d-27d^2+18bcd$$特に$b=0$のときは
$$\Delta=-4c^3-27d^2$$
$(2)$$f(x)=x^4+bx^3+cx^2+dx+e$の判別式$\Delta$
$$\Delta=256e^3-192bde^2-128c^2e^2+144cd^2e-27d^4+144b^2ce^2-6b^2d^2e-80bc^2de\\+18bcd^3+16c^4e-4c^3d^2-27b^4e^2+18b^3cde-4b^3d^3-4b^2c^3e+b^2c^2d^2$$

(間違ってたら訂正してください…)
とりあえず高次の判別式はほとんど使い物にならないし(この形だと)規則性もありません.式の長さは定理$5$の証明を見れば分かるように爆発的に増加します.これじゃ応用できませんね.

ただし,三次方程式の$b=0$のときの判別式はかなり簡潔なので覚えて損は無いかもしれません.(僕もこれを機に暗記します)これは三次方程式の判別式を見ると次の良いことが分かるからです.

三次方程式の判別式

$b,c,d$を実数とする.三次方程式$f(x)=x^3+bx^2+cx+d=0$に対して次が成立する.
$\Delta>0\Longleftrightarrow$(相異なる)実数解を$3$つ持つ.
$\Delta=0\Longleftrightarrow$(実数解に)重解を持つ.
$\Delta<0\Longleftrightarrow$実数解を$1$つ持ち,他の$2$つは虚数解である.

略証は後でしますが今知りたい方は 高校数学の美しい物語 のものを参照してください.
他にも二次形式などにも判別式は定義されますがここでは本筋と逸れるので省略します.

判別式と微分

ここまで,判別式を一般化して,その式を上手く求めるのは難しいという話をしました.ではどのように判別式を扱うのが良いでしょうか?

正解は微分を利用することです.いままでずっと代数的な話をしていたのにいきなり微分という言葉を聞いて驚いた人もいるかもしれませんが次の命題を見れば多少は納得できると思います.

微分で重解判定

方程式$f(x)=0$$x=\alpha$で重解を持つ.$\Longleftrightarrow f(\alpha)=f'(\alpha)=0$

まず$\Longrightarrow$を示す.仮定と因数定理より$f(x)=(x-\alpha)^2g(x)$となる多項式$g(x)$が存在する.よって$f'(x)=(x-\alpha)((x-\alpha)g'(x)+2g(x))$となるため$f'(\alpha)=0$.$f(\alpha)=0$は自明である.

次に$\Longleftarrow$を示す.仮定と因数定理,剰余の定理より$f(x)=(x-\alpha)^2g(x)+k(x-\alpha)$となる多項式と定数$g(x),k$が存在する.よって微分して$\alpha$を代入すると,$k$になるので,仮定とあわせて$k=0$を得る.従って$f(x)$$(x-\alpha)^2$で割り切れるので$x=\alpha$で重解を持つ.

ここで因数定理と積の微分法を使っているのが鍵です.まずは少しレベルアップして次の定理を示します.

$f(x)=x^3+bx^2+cx+d$とし,判別式を$\Delta$とする.さらに,$f'(x)=0$$2$解を$\alpha,\beta$とするとき,$\Delta=-27f(\alpha)f(\beta)$が成り立つ.

$f(x)=(x-\gamma_1)(x-\gamma_2)(x-\gamma_3)$とすると,$\Delta=(\gamma_1-\gamma_2)^2(\gamma_2-\gamma_3)^2(\gamma_3-\gamma_1)^2$である.
積の微分より$f'(\gamma_i)=(\gamma_i-\gamma_{i+1})(\gamma_i-\gamma_{i-1})$となる($\gamma$の添え字は$\bmod3$で考えている)また$f'(x)=3(x-\alpha)(x-\beta)$なので,
$$(\gamma_i-\gamma_{i+1})(\gamma_i-\gamma_{i-1})=3(\gamma_i-\alpha)(\gamma_i-\beta)$$従って
$\begin{align} \Delta&=-\prod_{i=1}^3(\gamma_i-\gamma_{i+1})(\gamma_i-\gamma_{i-1}) \\&=-27\prod_{i=1}^3(\gamma_i-\alpha)(\gamma_i-\beta) \\&=-27(\alpha-\gamma_1)(\alpha-\gamma_2)(\alpha-\gamma_3)(\beta-\gamma_1)(\beta-\gamma_2)(\beta-\gamma_3) \\&=-27f(\alpha)f(\beta) \end{align}$
よって示された.

ここで三次方程式の解の個数の問題を思いだそう.$f(x)=0$の解が$3$つあるということは,(極値を持ち)極値の積が負であることと同値だったので極値の積$f(\alpha)f(\beta)$が判別式を用いて表せることを考えれば定理$7$はかなり自然な帰結となります!
また一般の多項式では同様の定理が成り立たないのも三次方程式の時は極値の積で解の個数が分かるという特殊な性質から来ているということを考えれば自然に感じるでしょう.(多少の情報は得られるそうですが)

さてここからの話は高校数学を一気に離れるので一回ここで区切りをつけておきます.
次は終結式を定義してそれを使って判別式を表し,さらに判別式の整数論的な観点や,少し違った微分との関係を探っていきたいです.

参考文献

投稿日:202143

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整数が好きです

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