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大学数学基礎解説
文献あり

e^π が超越数であることの証明 (2)

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eπ が超越数であることを証明 の続きとなる。前回は、eπ が超越数であることを証明するための方針を説明した。その中で
0r,s<N3,0λ<N4,0μ<N
となる整数 r,s,λ,μ に対して
aλ,μ(r,s)(x)=(r+si)λ((1)rxs)μ
とし、
aλ,μ(r,s)(eπ)=(r+si)λ((1)reπs)μ=(r+si)λeμπi(r+si)
(rN3+s,λN+μ) 成分にもつ N6×N5 行列 M を構成した。今回は、この行列について
rankM=N5    (2)
を証明する。

そのために2変数多項式の零点に関する補題を証明するのだが、
前回にも触れた、その後の共著論文 [2] にやや一般的な補題があるので、それを証明する。

van der Monde型行列

まず、次の van der Monde型行列に関する命題を示す。

命題

n を正の整数、0K1<K2<<Kn<L0 以上の整数とする。

EL 個以上の0でない数からなる集合ならば、行列 (ajKi)1i,jn が正則となるように E から n 個の数 a1,a2,,an をとることができる。

n=1 のときは aE に対して aK10 から明らかである。

nn1 に置き換えたとき命題が正しいとし、0K1<K2<<Kn<L0 以上の整数、EL 個以上の0でない数からなる集合とする。すると先の仮定から A=(ajKi)1i,jn1 が正則となるように a1,,an1E からとることができる。

||A||0 であるから
P(z)=||a1K1an1K1zK1a1Knan1KnzKn||
によって定まる多項式 P(z) の最高次の項は ||A||zKn となる。

1in1 のとき P(ai)=0 であるから P(z)=(za1)(zan1)Q(z) と因数分解できる。Q(z) の次数は Kn(n1)<L(n1) であるから、Q(z)=0 の解の個数は L(n1) より少ない。よって a1,,an1 とは異なる E の要素 anQ(an)0 となるものが存在するので
||ajKi||1i,jn=P(an)0
となる。
 これにより、 n についても命題が正しいことが示され、数学的帰納法より命題は任意の正の整数 n について正しいことが示された。

2変数多項式の消滅

2変数多項式に関する次の補題が、(2)を証明するための鍵となる。

補題

K,L,R1,R2,S1,S2 を正の整数とし、a,β が複素数で
#{ar+sβ,0r<R1,0s<S1}L,    (4)
#{r+sβ,0r<R2,0s<S2}>(K1)L    (5)
が成り立っているとする。

また P(x,y)
1+degyPL,degxP(1+degyP)(K1)L    (6)
となる複素数係数の多項式で、 Φ(z)=P(z,az) とする。

このとき R=R1+R21,S=S1+S21 とおいて 0r<R,0s<S となるすべての整数 r,s について Φ(r+sβ)=0 となるのであれば、P(x,y) は多項式として 0 でなければならない。

P(x,y)0 として矛盾を導く。 P(x,y)y について展開すれば
P(x,y)=i=1nQi(x)yKi,Qi(x)0
となる 0K1<K2<<KndegyPL がとれる。また、 Ln である。
 P(x,y)y で割れるだけ割って、 K1=0 としても一般性は失われないので、以下、K1=0 とする。

仮定 (4) および Ln から、E={ar+sβ,0r<R1,0s<S1} に先の命題を適用することができ、 0r<R1,0s<S1 となる整数の組 (r,s) から n 個の要素からなる部分集合 S={(rj,sj),1jn}
B=||a(rj+sjβ)Ki||1i,jn0
となるように取り出すことができる。

(r,s)S について
Pr,s(x,y)=P(x+r+sβ,ar+sβy)=i=1nQi(x+r+sβ)aKi(r+sβ)yKi
とし、
W=W(x)=(Qi(x+rj+sjβ)aKi(rj+sjβ))1i,jn
とおくと W は正則な n×n行列で、
W(yK1yK2yKn)=(Pr1,s1(x,y)Pr2,s2(x,y)Prn,sn(x,y))
より
(yK1yK2yKn)=W1(Pr1,s1(x,y)Pr2,s2(x,y)Prn,sn(x,y))
である。W1 の各成分は W=W(x) の余因子を ||W||=||W(x)|| で割ったものだから、
K1=0 としたこととあわせて
R(x)=yK1R(x)=(r,s)SPr,s(x,y)Sr,s(x)
とあらわされる。

(r,s)S ならば 0rR11,0sS11 だから 0r<R2, 0s<S2 のとき 0r+rR1+R22<R, 0s+sS1+S22<S より
Pr,s(r+sβ,ar+sβ)=P((r+r)+(s+s)β,a(r+r)+(s+s)β)=0
となる。したがって
R(r+sβ)=0(0r<R2,0s<S2)
となる。仮定 (5) から R(x)=0(K1)L 個より多くの解をもつ。

一方 Qi(x) の最高次の項を bixmi とおくと midegxP
R(x) の最高次の項は Bb1b2bnxm1+m2++mn であるから
R(x) の次数は
m1+m2++mnndegxPdegxP(1+degyP)(K1)L
となって矛盾する。

このことから P(x,y)=0 でなければならないことがわかる。

rankM=N5 の証明

z=r+si とおくと
aλ,μ(r,s)(eπ)=zλeμπiz
である。ここで c(λ,μ)(0λ<N4,0μ<N)
λ=0N41μ=0N1c(λ,μ)aλ,μ(r,s)(eπ)=λ=0N41μ=0N1c(λ,μ)zλeμπiz=0(0r<N3,0s<N3)    (7)
の解とする。

a=eπi とし
P(x,y)=λ=0N41μ=0N1c(λ,μ)xλyμ,Φ(z)=P(z,az)
とおくと
Φ(r+si)=P(r+si,ar+si)=0(0r<N3,0s<N3)
が成り立つ。

この P(x,y),Φ(z) に先の補題が適用できるように K,L,R1,S1,R2,S2 をとる。まず degxPN4,degyPN だから K=N4,L=N とおくと (6) が成り立つ。β=i,R1=S1=R2=S2=N3 とおくと β=i は無理数だから
#{r+sβ,0r<R2,0s<S2}=R2S2=N6>(K1)L
より (5) は成り立ち、ar=(1)raβ=eπ1の累乗根ではないから
#{ar+sβ,0r<R1,0s<S1}=2S1=2N3>L
より (4) も成り立つ。よって補題から P(x,y) は多項式として 0 に等しい。つまり P(x,y) の係数 c(λ,μ)(0λ<N4,0μ<N) はすべて 0 でなければならない。

このことから、(7) が成り立つとき c(λ,μ)(0λ<N4,0μ<N) はすべて 0 でなければならないことがわかる。これは M の各列が線形独立であること、つまり rankM=N5 であることを意味している。

以上によって (2) は示された。次回は (3) の証明に移る。

参考文献

[1]
Y. Nesterenko述, 田中孝明訳・記, $e^\pi$ の超越性について, 第5回超越数論研究集会報告集 1996年12月3-5日 於学習院創立百周年記念会館, 1996, pp. 58--63
[2]
Michel Laurent, Maurice Mignotte, and Yuri Nesterenko, Formes lin\'{e}aires en deux logarithmes et d\'{e}terminants d'interpolation, J. Number Theory, 1995, pp. 285--321
投稿日:2021423
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