この記事では
H.E.さんの提起された問題
の一つ、「射影加群の圏が余核を持つのはいつか?」について私の考えたことを述べます.内容は以下の2つです.
- 射影左加群の圏が余核を持つならば、の任意個の直積は射影左加群である.
- そのようなは可換Noether整域に限れば体しかない.
射影化
以下、環に対して左加群の圏を、射影左加群の圏をで表します.まず加群の射影化という概念を定義します.
を環とする.左加群の射影化とは、射影左加群と射の組であって以下の普遍性を満たすものである:任意の射影左加群と射に対して、射であってを満たすものが一意的に存在する.
例えば有限生成加群の射影化はになります.
環に対して以下の3条件は同値である:
(R1) は余核を持つ.
(R2) 任意の左加群は射影化を持つ.
(R3) 包含関手は左随伴を持つ.
(i)(ii):左加群に対して表示
を選び、のにおける余核をとすると、がの射影化の普遍性を満たす.
(ii)(iii):左加群に対してその射影化を返す関手が包含関手の左随伴となる.
(iii)(i):左随伴は余核を余核に移すのでよい.
を環とする.が余核を持つならば、任意の小さな集合に対しては射影左加群である.
の射影化をとする.に対して第射影に射影化の普遍性を適用することでがわかる.よっては単射である.とすると
となるが、射影化の普遍性よりは同型なのでである.したがってであり、短完全列
は分裂するのでは射影左加群である.
可換Noether整域の場合
を可換整域とする.から自由加群への単射が存在するならばは非可算である.
が高々可算な場合、もしもが高々可算ならばも高々可算である.一方でとなり矛盾するのでは非可算である.が非可算の場合、Vandermonde行列式の性質よりは線型独立なのでである.
を体でない可換Noether整域とする.このときなるが存在する.
は体でない可換整域なのででない極大イデアルが取れる.Krullの交叉定理より
なので、を取ればよい.
可換Noether整域に対して以下は同値である:
(R1) は余核を持つ.
(R2) は体である.
(ii) (i) は明らかなので (i) (ii) を示す.
が余核を持つがが体でないとして矛盾を導く.補題4の通りにを取る.命題2よりは射影加群であり、特に自由加群への単射を持つ.補題3よりは非可算である.
と定めるとの階数は非可算である.一方で
は可算なのでである.を任意に取る.自然な準同型によるの像はでない.一方で任意のに対しては-可除なので矛盾する.