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射影加群の圏が余核を持つ環について

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$$\newcommand{Coker}[0]{\mathrm{Coker}} \newcommand{Ext}[0]{\mathrm{Ext}} \newcommand{Hom}[0]{\mathrm{Hom}} \newcommand{m}[0]{\mathfrak{m}} \newcommand{Mod}[0]{\mathrm{Mod}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{pr}[0]{\mathrm{pr}} \newcommand{Proj}[0]{\mathrm{Proj}} $$

この記事では H.E.さんの提起された問題 の一つ、「射影加群の圏が余核を持つのはいつか?」について私の考えたことを述べます.内容は以下の2つです.

  • 射影左$R$加群の圏が余核を持つならば、$R$の任意個の直積は射影左$R$加群である.
  • そのような$R$は可換Noether整域に限れば体しかない.

射影化

以下、環$R$に対して左$R$加群の圏を$R\Mod$、射影左$R$加群の圏を$R\Proj$で表します.まず加群の射影化という概念を定義します.

$R$を環とする.左$R$加群$M$射影化とは、射影左$R$加群$P$と射$f\colon M\to P$の組であって以下の普遍性を満たすものである:任意の射影左$R$加群$P'$と射$g\colon M\to P'$に対して、射$h\colon P\to P'$であって$g=h\circ f$を満たすものが一意的に存在する.

例えば有限生成$\mathbb{Z}$加群$M$の射影化は$M/M_{\rm tor}$になります.

$R$に対して以下の3条件は同値である:
(R1) $R\Proj$は余核を持つ.
(R2) 任意の左$R$加群は射影化を持つ.
(R3) 包含関手$R\Proj\to R\Mod$は左随伴を持つ.

(i)$\implies$(ii):左$R$加群$M$に対して表示
$$ R^{\oplus J}\xrightarrow{f} R^{\oplus I}\to M\to 0\,\,\,(\text{exact}) $$
を選び、$f$$R\Proj$における余核を$P$とすると、$P$$M$の射影化の普遍性を満たす.
(ii)$\implies$(iii):左$R$加群に対してその射影化を返す関手が包含関手の左随伴となる.
(iii)$\implies$(i):左随伴は余核を余核に移すのでよい.

$R$を環とする.$R\Proj$が余核を持つならば、任意の小さな集合$I$に対して$R^I$は射影左$R$加群である.

$R^I$の射影化を$(M,f)$とする.$i\in I$に対して第$i$射影$\pr_i\colon R^I\to R$に射影化の普遍性を適用することで$f(x)=0\implies\pr_i(x)=0$がわかる.よって$f$は単射である.$N=\Coker\,f$とすると
$$ \Hom_R(M,R)\xrightarrow{{-}\circ f} \Hom_R(R^I,R)\to \Ext^1_R(N,R)\to 0\,\,\,(\text{exact}) $$
となるが、射影化の普遍性より${-}\circ f$は同型なので$\Ext^1_R(N,R)=0$である.したがって$\Ext^1(N,R^I)=0$であり、短完全列
$$ 0\to R^I\to M\to N\to 0\,\,\,(\text{exact}) $$
は分裂するので$R^I$は射影左$R$加群である.

可換Noether整域の場合

$R$を可換整域とする.$R^\N$から自由$R$加群$R^{\oplus I}$への単射が存在するならば$I$は非可算である.

$R$が高々可算な場合、もしも$I$が高々可算ならば$R^{\oplus I}$も高々可算である.一方で$|R^\N|\geq 2^{\aleph_0}>\aleph_0$となり矛盾するので$I$は非可算である.$R$が非可算の場合、Vandermonde行列式の性質より$\{(1,a,a^2,\dots)\mid a\in R\}\subset R^\N$は線型独立なので$|I|\geq|R|>\aleph_0$である.

$R$を体でない可換Noether整域とする.このとき$\bigcap_{n=0}^\infty(r^n)=\{0\}$なる$r\in R\setminus \{0\}$が存在する.

$R$は体でない可換整域なので$\{0\}$でない極大イデアル$\m$が取れる.Krullの交叉定理より
$$ \bigcap_{n=0}^\infty\m^n\subset \bigcap_{n=0}^\infty\m^nR_\m=\{0\} $$
なので、$r\in \m\setminus\{0\}$を取ればよい.

$R=\mathbb{Z}$ならば任意の$n\in \mathbb{Z}\setminus\{0,1\}$が補題の条件を満たす.

可換Noether整域$R$に対して以下は同値である:
(R1) $R\Proj$は余核を持つ.
(R2) $R$は体である.

(ii)$\implies$ (i) は明らかなので (i)$\implies$ (ii) を示す.
$R\Proj$が余核を持つが$R$が体でないとして矛盾を導く.補題4の通りに$r\in \N$を取る.命題2より$R^\N$は射影$R$加群であり、特に自由$R$加群$R^{\oplus I}$への単射$f$を持つ.補題3より$I$は非可算である.
$$ S=\{(a_n)_{n\in \N}\in R^\N\mid \forall n\in \N,\,a_n\in (r^n)\}\subset R^\N $$
と定めると$S$の階数は非可算である.一方で
$$ J=\min\{I'\subset I\mid f(R^{\oplus \N})\subset R^{\oplus I'}\} $$
は可算なので$f(S)\not\subset R^{\oplus J}$である.$s\in S\setminus f^{-1}(R^{\oplus J})$を任意に取る.自然な$R$準同型$R^\N/R^{\oplus \N} \to R^{\oplus I\setminus J}$による$s$の像は$0$でない.一方で任意の$n$に対して$s\in R^\N/R^{\oplus \N}$$r^n$-可除なので矛盾する.

投稿日:2021513
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J_Koizumi
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