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大学数学基礎解説
文献あり

Tate-Senの定理とTateのnormalized trace

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本記事ではTate-Senによって知られている連続cohomology群$H^i(G_K,\mathbb{C}_K(r))$の消滅定理をなるべく前提知識を仮定せずに, その証明を与えたいと思います. ただし無限次Galois理論程度の代数及び位相の知識や$p$進数環$\mathbb{Z}_p$などは断らずに用います.

Introduction

$K=\mathbb{Q}_p$$p$進体とし, $G_K=Gal(\bar{K}/K)$をその絶対Galois群とします.
このとき$G_K$$\mathbb{C}_K$に自然に作用しています.
さて$K$上の拡大体$L$(in$\bar{K}$)に対して$\mathbb{C}_K$$G_L$不変部分はどうなっているでしょうか.
これに関してはAx-Tate-Senによって次の結果が知られています.

Ax-Tate-Sen's Theorem

\begin{equation} \mathbb{C}_K^{G_L}=\hat{L},\ 特に\ \mathbb{C_K}^{G_K}=K \end{equation}

この証明は技術的な補題を要するので, 証明は省略します.
ところで$\mathbb{C}_K$$G_K$の表現(正確には$\mathbb{C}_K$半線形な表現)でした. ではこのような$G_K$表現の$G_K$不変空間はどうなってるの??というのは自然な疑問です. 一般にこれ知るのは容易ではありませんが, 特別な(1次元)表現に関してはこの疑問に完全に答えることができます. 以下ではそのような特別な表現の構成とその$G_K$不変空間の分類を行いたいと思います.

$p$進円分指標とTate捻り

$G_K$上の重要な指標として$p$進円分指標$\chi_{cyc}$があります.
ここではその定義と, それによる$\mathbb{C}_K$のTate捻り$\mathbb{C}_K(r)$について解説したいと思います.
$(\zeta_{p^n})_{n\geq 1}$$\bar{K}$における点列で, $\zeta_{p^n}$は1の原始$p^n$乗根, $\zeta_{p^{n+1}}^p=\zeta_{p^n}$とします.
このとき$g\in G_K$に対してただ一つの$\chi_{cyc}(g)\in \mathbb{Z}_p^{\times}$が存在して
\begin{array} \ g(\zeta)=(\zeta_{p^n}^{\chi_{cyc}(g)})=\zeta^{\chi_{cyc}(g)} \end{array}
が成立します.
$\chi_{cyc}$は連続指標$G_K\rightarrow \mathbb{Z}_p^{\times}$を定めます. この指標を$p$進円分指標と呼びます.
特に$H_K=Ker(\chi_{cyc})$に対応する$K$上の拡大体は$K_{\infty}=\cup K_n$になります.
ただし$K_n=K(\zeta_{p^n})$です. この事実は後程用います.

最後にTate捻り$\mathbb{C}_K(r)$を構成したいと思います.
これは基底$e$を持つ1次元$\mathbb{C}_K$ベクトル空間で$G_K$が次のように作用するものです:
\begin{align*} \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ \ g.(ce)=g(c)\chi_{cyc}(g)^re,\ g\in G_K,\ c\in \mathbb{C}_K \end{align*}
ただし$r\in \mathbb{Z}$です. $\mathbb{C}_K(r)$$\mathbb{C}_K$$r$次Tate捻りと呼びます.

上で述べた$\zeta=(\zeta_{p^n})$$\mathbb{Z}_p$上の基底とみなした階数1の自由$\mathbb{Z}_p$加群をZ_p(1)と書き, これをTate捻りと呼ぶこともあります. この定義は上の定義とcompatibleです.
実際, $\mathbb{C}_K(1)=\mathbb{Z}_p(1)\otimes_{\mathbb{Z}_p}\mathbb{C}_K$です. またすぐに分かるように$\mathbb{Z}_p(1)$$r(>0)$回テンソルを取ったもの$\mathbb{Z}_p(r)$$\mathbb{C}_K(r)$に対応し, その$\mathbb{Z}_p$加群としての双対$\mathbb{Z}_p(-r)$$\mathbb{C}_K(-r)$に対応しています.

Tate-Senの定理

$G_K$関手:$Rep_{\mathbb{C}_K}(G_K)\rightarrow Vec_K$は左完全関手です. この右導来関手は連続cohomology群関手$H^i(G_K,-)$なのでした. 例えば$H^i(G_K,W')=0$ ($i=0,1$) なら$W^{G_K}=(W/W')^{G_K}$が成立します.
つまり$W$$G_K$不変空間を調べたいとき, $W$よりも次元の低い$W/W'$$G_K$不変空間を調べることに帰着できます. この手法は基本的ですが非常に有効に思えます.
したがってH^i(G_K,W)=0となるのはいつか?を決定することは非常に重要な問題となります. Tate-Senはこれに関して一つの答えを与えました:

Tate-Sen's Theorem

$H^i(G_K,\mathbb{C}_K(r))= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} K \ :r=0\\ 0 \ :otherwise \end{array} \right. \ \ \ (i=0,1) \end{eqnarray} $

Tate-Senの定理はより広い範囲で証明できます.
つまり$\eta:G_K\rightarrow \mathbb{Z}_p^{\times}$が連続指標で像が次元$ \leq 1$$p$進Lie群の時に$H^i(G_K,\mathbb{C}_K(\eta))$を完全に分類できます.

さて定理1の証明をなるべく前提知識を仮定せずに証明をしたいと思います.
しかし$H^1$に関しては連続cocycleを有限群上のcocyleで近似する, という議論が必要なのでどうしても証明に至るまでが長くなってしまいよくありません. そこでこの記事では$H^0$に限って証明を与えることにします.

normalized trace

ここでは定理の証明で最も重要な役割を果たすTateのnormalized traceについて解説します. 以下$K_{\infty}:=\cup K_n \ \ (K_n=K(\zeta_{p^n}),\ \zeta_{p^n}:1の原始p^n乗根)$$p$進円分拡大とします. このとき, 次が知られています.

$K_{n+1}/K_n$はGalois拡大であり
$[K_{n+1}:K_n]= \begin{eqnarray} \left\{ \begin{array}{l} p \ \ \ \ \ \ \ \ \ :\ \ n\geq1\\ p-1\ \ :\ \ n=1 \end{array} \right. \end{eqnarray} $

$n\geq 1$に対して
\begin{align*} R_n(x):= \frac{Tr_{K_m/K_n}(x)}{p^{m-n}} \in K_n \end{align*}
と定義します. ただし$x\in K_m$です.
これは$m$に依存した定義ですが補題3から実際には$m$には依存しません.

mの取り方に依存しないこと

$x\in K_{m_1}\subset K_{m_2}$とします. $K_{m_i}/K_n$は有限次Galois拡大なので
$Tr_{K_{m_2}/K_n}(x)=[K_{m_2}:K_{m_1}]Tr_{K_{m_1}/K_{n}}$(x)です. また補題2から$[K_{m_2}:K_{m_1}]=p^{m_2-m_1}$なので$p^{m_2-n}$で割ることで
\begin{align*} \frac{Tr_{K_{m_2}/K_n}(x)}{p^{m_2-n}}=\frac{Tr_{K_{m_1}/K_n}(x)}{p^{m_1-n}} \end{align*}
を得ます.したがって$R_n(x)$$m$の取り方には依存しません.

定義から$R_n:K_{\infty}\rightarrow K_n$$K_n$-線形写像であり次の性質を満たします.

\begin{array} \ (i)\ R_n|K_n=id_{K_n}\\ (ii)\ \lim_{n \to \infty} R_n(x)=x, x\in K_{\infty}\\ (iii)\ \exists\ c>0 s.t. v(R_n(x))\geq v(x)-c, x\in K_{\infty}\\ (iv)\ g(R_n(x))=R_n(g(x)),\ g\in G_K,\ x\in K_{\infty} \end{array}

補題4から$R_n$は連続延長$\hat{R_n}:\hat{K_{\infty}}\rightarrow K_n$を持ち, 補題3と全く同じ性質を満たします. 簡単のために$\hat{R_n}$$R_n$と書くことにします.

定理の証明

証明を行う前に言葉を定義しておきます.

$\eta:G_K\rightarrow \mathbb{Z}_p^{\times}$を(連続とは限らない)指標, $x\in\mathbb{C}_K$
任意の$g\in G_K$に対して
\begin{array} \ g(x)=\eta(g)x \end{array}
を満たすとき, $x$$\eta$のperiodと呼びます.
特に0を自明なperiodと呼びます.

さて定理2($i=0$)の証明を少し一般的な主張を経由して証明します.

$\eta:G_K\rightarrow \mathbb{Z}_p^{\times}$:指標
$H_K\subset Ker(\eta)$, $\eta$の像は無限集合とすると$\eta$のperiodは自明なものしかない

$x\in \mathbb{C}_K$$\eta$のperiodとします. 任意の$g\in G_K$に対して
\begin{align*} g(x)=\eta(g)x \end{align*}
が成立します. 特に$g\in H_K\subset Ker(\eta)$に対しては
\begin{align*} g(x)=x \end{align*}
つまり$x\in \mathbb{C}_K^{H_K}=\hat{K_{\infty}}$です.
さて$x_n:=R_n(x)\in K_n$とおくとnormalized traceの性質(補題4-(ii))から$\{x_n\}$$x$に収束します. また$R_n$$G_K$の作用と可換なので$g\in G_K$に対して
\begin{align*} g(x_n)=\eta(g)x_n \end{align*}
が成立します.
もし$x_n\neq 0$なら$x_n\in K_n$より$G_{K_n}$上で$\eta$は自明な指標になります. したがって$\eta$は有限群$G_K/G_{K_n}=Gal(K_n/K)$を経由するので像は有限集合となります. しかしこれは$\eta$の仮定に矛盾します. ゆえ$x_n=0$です.
$n\rightarrow \infty$とすれば$x=0$が得られます.

定理2の証明

$x\in\mathbb{C}_K(r)^{G_K}$とします. 任意の$g\in G_K$に対して
\begin{align*} x=\chi_{cyc}(g)^rg(x) \end{align*}
となるので$r\neq 0$なら$x$$\chi_{cyc}^{-r}$のperiodであり$H_K\subset Ker(\chi_{cyc}^{-r})$かつ$\chi_{cyc}^{-r}$は無限の像を持つので定理5から$x=0$です. ゆえ$\mathbb{C}_K(r)^{G_K}=0$です.
$r=0$の時はAx-Tate-Senの定理から$\mathbb{C}_K^{G_K}=K$です.

参考文献

投稿日:2021514

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数論幾何寄り(局所的)のことをしてます

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