本記事ではTate-Senによって知られている連続cohomology群の消滅定理をなるべく前提知識を仮定せずに, その証明を与えたいと思います. ただし無限次Galois理論程度の代数及び位相の知識や進数環などは断らずに用います.
Introduction
を進体とし, をその絶対Galois群とします.
このときはに自然に作用しています.
さて上の拡大体(in)に対しての不変部分はどうなっているでしょうか.
これに関してはAx-Tate-Senによって次の結果が知られています.
この証明は技術的な補題を要するので, 証明は省略します.
ところではの表現(正確には半線形な表現)でした. ではこのような表現の不変空間はどうなってるの??というのは自然な疑問です. 一般にこれ知るのは容易ではありませんが, 特別な(1次元)表現に関してはこの疑問に完全に答えることができます. 以下ではそのような特別な表現の構成とその不変空間の分類を行いたいと思います.
進円分指標とTate捻り
上の重要な指標として進円分指標があります.
ここではその定義と, それによるのTate捻りについて解説したいと思います.
がにおける点列で, は1の原始乗根, とします.
このときに対してただ一つのが存在して
が成立します.
は連続指標を定めます. この指標を進円分指標と呼びます.
特にに対応する上の拡大体はになります.
ただしです. この事実は後程用います.
最後にTate捻りを構成したいと思います.
これは基底を持つ1次元ベクトル空間でが次のように作用するものです:
ただしです. をの次Tate捻りと呼びます.
上で述べたを上の基底とみなした階数1の自由加群をZ_p(1)と書き, これをTate捻りと呼ぶこともあります. この定義は上の定義とcompatibleです.
実際, です. またすぐに分かるようにの回テンソルを取ったものはに対応し, その加群としての双対はに対応しています.
Tate-Senの定理
関手:は左完全関手です. この右導来関手は連続cohomology群関手なのでした. 例えば () ならが成立します.
つまりに不変空間を調べたいとき, よりも次元の低いの不変空間を調べることに帰着できます. この手法は基本的ですが非常に有効に思えます.
したがってH^i(G_K,W)=0となるのはいつか?を決定することは非常に重要な問題となります. Tate-Senはこれに関して一つの答えを与えました:
Tate-Senの定理はより広い範囲で証明できます.
つまりが連続指標で像が次元の進Lie群の時にを完全に分類できます.
さて定理1の証明をなるべく前提知識を仮定せずに証明をしたいと思います.
しかしに関しては連続cocycleを有限群上のcocyleで近似する, という議論が必要なのでどうしても証明に至るまでが長くなってしまいよくありません. そこでこの記事ではに限って証明を与えることにします.
normalized trace
ここでは定理の証明で最も重要な役割を果たすTateのnormalized traceについて解説します. 以下を進円分拡大とします. このとき, 次が知られています.
に対して
と定義します. ただしです.
これはに依存した定義ですが補題3から実際にはには依存しません.
mの取り方に依存しないこと
とします. は有限次Galois拡大なので
(x)です. また補題2からなのでで割ることで
を得ます.したがってはの取り方には依存しません.
定義からは-線形写像であり次の性質を満たします.
補題4からは連続延長を持ち, 補題3と全く同じ性質を満たします. 簡単のためにもと書くことにします.
定理の証明
証明を行う前に言葉を定義しておきます.
を(連続とは限らない)指標,
任意のに対して
を満たすとき, をのperiodと呼びます.
特に0を自明なperiodと呼びます.
さて定理2()の証明を少し一般的な主張を経由して証明します.
:指標
, の像は無限集合とするとのperiodは自明なものしかない
をのperiodとします. 任意のに対して
が成立します. 特にに対しては
つまりです.
さてとおくとnormalized traceの性質(補題4-(ii))からはに収束します. またはの作用と可換なのでに対して
が成立します.
もしならより上では自明な指標になります. したがっては有限群を経由するので像は有限集合となります. しかしこれはの仮定に矛盾します. ゆえです.
とすればが得られます.
定理2の証明
とします. 任意のに対して
となるのでならはのperiodでありかつは無限の像を持つので定理5からです. ゆえです.
の時はAx-Tate-Senの定理からです.