はじめに
この記事では
前回の記事
に続いて進関数の微分法を実関数の微分法と比較したりしながら解説していきます。
微分の性質
定義
微分の定義は実解析でもp進解析でも同じで区間上の関数に対してにおける導関数を
と定めます。また積の微分法や合成関数の微分法などは進関数においても成り立ちます。
また多項式関数の微分についても実解析と同じになります。
各点での微分可能性
さて
前回の記事
でMahlerの定理として示したように、進解析では連続関数は次のようなニュートン級数展開を持つのでした。
この表示においてにおける微分を考えると以下の定理が成り立ちます。
タウバー型定理
進連続関数がで微分可能であることと
となることは同値であり、そのとき
が成り立つ。
これをなんとなくテイラー級数展開と比較してみると
という感じになります。なんだか指数と対数のテイラー展開みたいな関係になっていますね。
定理1の(微分可能性)(収束性)および後半の主張については
とおいたとき
は係数がに収束することからMahlerの定理により連続であり
といった具合に示せるので、あとは(微分可能性)(収束性)、つまり以下の主張を示せば十分となります。
に収束する進数列に対し極限
が収束するならば
が成り立つ。
とおいたとき、の仮定よりMahlerの定理からは連続であり、もにおいて連続となる。またの収束性の仮定よりはでも連続であるのでMahlerの定理からあるに収束する進数列が存在して
が成り立つ。このとき
より、特に
を得る。
ちなみに
が収束するという仮定は
が収束する、というより弱い仮定に置き換えても十分であることが言えますが、それらが同値であることはのにおける稠密性から自明なので詳しくは触れません。
導関数のニュートン級数展開
さて上で紹介してきた通り
が成り立っており、また
前回の記事
でも少し紹介したように
が成り立つことに注意すると
と具体的に導関数を求めることができます。収束性を吟味すると正確には以下のようになります。
進級関数、つまり上微分可能で導関数が連続であるような関数について
が成り立つ。特にである。
仮定より各点において
は収束するので
が成り立つ。これのの場合を考えていくと
のようにしてに対して
が成り立つ、つまり
はそれぞれ収束することがわかる。
よってが非負整数のときには
と和の順序が交換でき、
特にがわかる。
そしては連続であったのでMahlerの定理より
および
が成り立つことになる。
この証明を見る限り連続関数について
が収束し、が成り立てば導関数が存在し連続関数を定めるようにも思えますが
参考にした文献
によると反例を以って否定的に解決しています。具体的にはこの仮定からは非負整数に対して
つまり
が存在することまでは言えますが、に対しては
が成り立つかどうかまではわからないことが原因となっています(実際の反例も仮定のようなであってやが存在しないようなものが存在することを示しています)。
導関数の存在
上で定理3の逆は必ずしも成り立たないと言いましたが、以下のような条件を満たすに対しては級関数が定まることが知られています。
この仮定はにおける微分可能性の必要十分条件
の少し強い仮定
くらいの気持ちになっています。実際なので
が成り立っています。
とに一様収束するので
が存在し、また右辺は連続関数の一様収束極限なのでは連続関数を定める。
(やの連続性についてはMahlerの定理から明らか。)
更に次の仮定を満たせば無限階微分可能性もわかります。
進数列が任意のに対しを満たすとき、
は級関数(無限階微分可能)となる。
が連続関数を定めることは定理4からわかるので後は
について任意のがを満たすことを示せばよい。
そのことは
とわかる。
解析関数
これまで進連続関数の基本形としてニュートン級数
を使っていましたが、この節では実解析で慣れ親しんだ冪級数
を扱っていきます。
解析関数
上で収束する冪級数展開
を持つような進関数を解析関数という。
簡単にわかるように上の冪級数が任意ので収束するには
が必要十分条件となります。このときその冪級数は
と一様収束するので連続関数となります。また
のように評価できるので
がわかり、に注意すると同様にして
と級になることがわかります。
さて進解析では解析的なら級になることがわかりましたが、逆に複素解析のように級なら解析的であり
が成り立つなんてことが言えると嬉しいです。しかしそんなうまい話は流石に成り立たず、それには無数の反例が挙げられることになります。
が解析的であれば
においてには常に"ある不等式"が成り立つのに対し、級の十分条件(定理5)
を満たすようなものでその"ある不等式"を満たさないようなものが存在することを示せばよい。
解析性の必要条件
冪級数の各項は第二種スターリング数を用いて
とニュートン級数展開できるので
つまり
と評価でき、またより十分大きいに対しならばが成り立つこと、およびルジャンドルの公式よりにおいて
が成り立つことに注意すると十分大きいに対し
と評価することができる。
反例
としたとき、これは級の十分条件
を満たすのに対し、解析性の必要条件は
より満たさない。
別証明
下で示すように微分してになる定数でない関数は級ではあるがテイラー展開できない、つまり解析的ではない関数となる。
(こっちの方がかなり簡潔ですが級だけど解析的ではない関数を生成するには上の方法の方がより広い結果が得られるので
参考文献
に倣って紹介しておきました。)
以上のようにして級であっても解析的であるとは限らないことがわかりましたが、したがって級というだけでは
という等式も成り立たないことになります(このことについては後で少し触れます)。ただ、解析的な関数については
からが成り立つので安心してください。
逆微分の性質
"ほぼ定数"な関数
さて微分の性質がわかってきたところで次は逆微分の性質について考えていきます。
まずは基本的な方程式を考えたいところですが、直感的には定数関数しか存在しないように思えます。しかしそうはならないのが進解析、全然定数でない関数もを満たすことになります。
具体例1
例えば連続関数の進展開
を途中で打ち切った関数
は
前回の記事
でも見たようにある非負整数があってならばが成り立つので
ということになります。
具体例2
またなる正整数列(とか)
を取ったとき、の進展開
に対し
を返す関数を考えると、任意の非負整数に対しならばが成り立ち
よりということになります。
具体例3
を満たすような関数と級関数に対し
はを満たすことになります。
この性質を考えると微分してになる"ほぼ定数"な関数が無限に得られることになります(
参考にした文献
が"almost constant" functionと表現しているだけで、内実は全然定数的ではないですが...)。
考察
結局のところ方程式の一般解ってどうなるの?といったところですが、それに対する明確な答えは出せないみたいです。
というのも級関数
がを満たすには
および未知数および方程式の本数が無限個の線形方程式
を解く必要があり、それだけでも難しい上に(定理の逆が常には成り立たないと言及したように)その二つの条件を満たすようなに対しが級関数を定めるとは限らないので困難を極めている。といった具合なわけです。
逆微分の存在
とりあえず逆微分の不定性についてはおいておくとして、一般の微分方程式には常に解が存在することを紹介していきます。
連続関数に対してなる連続関数が常に存在する。特にの進展開
に対し
と定めたとき、任意の非負整数に対して
はを満たす。
が連続関数を定めることは有界性原理より
と一様にに収束することから(
前回の記事
の定理5より)わかります。
また
なのでの一様連続性から任意の整数に対してならばとなるような整数を取るとにおいて
となるのでを得る。
ただしにおいて
となることおよび
であることを用いた。
以上により微分方程式を進数の世界で解くと
が一般解ということになります。
色々成り立たない進解析
上で進解析ではテイラー級数展開ができないといったことを話しましたが、同様に実解析(複素解析)では成り立って進解析では成り立たない定理について軽く掘り下げていきます。
実解析には
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理
有界性定理
最大値最小値定理
ロルの定理
平均値の定理
テイラーの定理、ロピタルの定理、etc...
という一つの流れのようなものがありますが、進数は順序体という構造を持たないので上限や下限が定義できず、最大値最小値定理から成り立たないことになります(これは複素解析と全く同じ事情となっています)。そこで実際にロルの定理やテイラー級数展開が成り立たないことを見ていきましょう。
ロルの定理
ロルの定理とはざっくり言うと
"ならばあるが存在してを満たす"
という定理でしたが、進解析では
"だが任意のに対してが成り立つ"
という反例が存在します。
はにおいて同じ値を持つのであとは任意のに対してとなることを示せばよい。
そのことは
が係数の多項式であることからなるに対して
が成り立つので、特に
がわかる。
テイラー級数展開
複素解析では無限階微分可能な関数について
が成り立ちましたが、進解析では「任意のに対してが成り立つがとなる」という反例があります。
これについては上でも示したように微分してになる定数でない関数が存在するので
とおけばかつ任意のにが成り立つのに対してが成り立つことからこのがその反例となります。特にのテイラー級数は定数関数ということになってが定数関数でないことに矛盾しますね(これはつまりが級ではあるが解析的ではない関数だということも意味しています)。