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大学数学基礎解説
文献あり

p進数の解析学と実解析:微分編

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{D}[0]{\Delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\mathrm{Gal}} \newcommand{id}[0]{\mathrm{id}} \newcommand{Im}[0]{\mathrm{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\mathrm{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{ndiv}[0]{\nmid} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\mathrm{ord}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\mathrm{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/{#1}\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では 前回の記事 に続いて$p$進関数の微分法を実関数の微分法と比較したりしながら解説していきます。

微分の性質

定義

 微分の定義は実解析でもp進解析でも同じで区間$I$上の関数$f$に対して$x\in I$における導関数$f'(x)$
$$f'(x)=\lim_{h\to0}\frac{f(x+h)-f(x)}{h}$$
と定めます。また積の微分法や合成関数の微分法などは$p$進関数においても成り立ちます。
\begin{eqnarray} (f(x)g(x))'&=&\lim_{h\to0}\frac{(f(x+h)-f(x))g(x+h)+f(x)(g(x+h)-g(x))}h \\&=&f'(x)g(x)+f(x)g'(x) \\ \\\big(f(g(x))\big)'&=&\lim_{h\to0}\frac{f(g(x+h))-f(g(x))}{g(x+h)-g(x)}\cdot\frac{g(x+h)-g(x)}h \\&=&f'(g(x))g'(x) \end{eqnarray}
また多項式関数の微分についても実解析と同じになります。
\begin{align} (x^n)'&=nx^{n-1}\\ \frac{d}{dx}\binom xn&=\sum^n_{k=0}\frac{(-1)^{k-1}}{k}\binom x{n-k} \end{align}

各点での微分可能性

 さて 前回の記事 でMahlerの定理として示したように、$p$進解析では連続関数$f$は次のようなニュートン級数展開を持つのでした。
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn\quad\bigg(a_n=\sum^n_{k=0}(-1)^{n-k}\binom nkf(k)\bigg)$$
この表示において$x=0$における微分を考えると以下の定理が成り立ちます。

タウバー型定理

 $p$進連続関数$f$$x=0$で微分可能であることと
$$\lim_{n\to\infty}\frac{a_n}{n}=0$$
となることは同値であり、そのとき
$$f'(0)=\sum^\infty_{n=1}(-1)^{n-1}\frac{a_n}{n}$$
が成り立つ。

 これをなんとなくテイラー級数展開と比較してみると
\begin{eqnarray} f(x)=\sum^\infty_{n=0}\frac{D^nf(0)}{n!}x^n&\to&\D f(0)=f(1)-f(0)=\sum^\infty_{n=1}\farc{D^nf(0)}{n!} \\f(x)=\sum^\infty_{n=0}\frac{\D^nf(0)}{n!}x^{\ul x}&\to&Df(0)=\sum^\infty_{n=1}(-1)^{n-1}\farc{\D^nf(0)}{n} \end{eqnarray}
という感じになります。なんだか指数と対数のテイラー展開みたいな関係になっていますね。
 定理1の(微分可能性)$\Leftarrow$(収束性)および後半の主張については
$$g(x)=\farc{f(x)-f(0)}{x}=\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{x}\binom xn=\sum^\infty_{n=0}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}$$
とおいたとき
$$g(x+1)=\sum^\infty_{n=0}\frac{a_{n+1}}{n+1}\binom xn$$
は係数が$0$に収束することからMahlerの定理により連続であり
$$f'(0)=\lim_{x\to0}g(x)=\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{-1}{n-1}=\sum^\infty_{n=1}(-1)^{n-1}\frac{a_n}{n}$$
といった具合に示せるので、あとは(微分可能性)$\Rightarrow$(収束性)、つまり以下の主張を示せば十分となります。

 $0$に収束する$p$進数列$a_n$に対し極限
$$\lim_{x\to0}\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}$$
が収束するならば
$$\lim_{n\to\infty}\frac{a_n}{n}=0$$
が成り立つ。

$$f(x)=\sum^\infty_{n=1}a_n\binom xn,\quad g(x)=\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}=\frac{f(x)}{x}$$
とおいたとき、$a_n\to0$の仮定よりMahlerの定理から$f$は連続であり、$g$$x\neq0$において連続となる。また$\dis\lim_{x\to0}g(x)$の収束性の仮定より$g$$x=0$でも連続であるのでMahlerの定理からある$0$に収束する$p$進数列$\{b_n\}$が存在して
$$g(x)=\sum^\infty_{n=0}b_n\binom xn$$
が成り立つ。このとき
\begin{eqnarray} f(x)&=&xg(x)=\sum^\infty_{n=0}b_n((x-n)+n)\binom xn \\&=&\sum^\infty_{n=0}b_n((n+1)\binom x{n+1}+n\binom xn) \\&=&\sum^\infty_{n=0}n(b_{n-1}+b_n)\binom xn \end{eqnarray}
より$a_n=n(b_{n-1}+b_n)$、特に
$$\lim_{n\to\infty}\frac{a_n}n=\lim_{n\to\infty}(b_{n-1}+b_n)=0$$
を得る。

 ちなみに
$$\lim_{x\to0}\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}$$
が収束するという仮定は
$$\lim_{\Z_{>0}\ni x\to0}\sum^\infty_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}=\lim_{\Z_{>0}\ni x\to0}\sum^x_{n=1}\farc{a_n}{n}\binom{x-1}{n-1}$$
が収束する、というより弱い仮定に置き換えても十分であることが言えますが、それらが同値であることは$\Z_{>0}$$\Z_p$における稠密性から自明なので詳しくは触れません。

導関数のニュートン級数展開

 さて上で紹介してきた通り
$$f'(0)=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(0)}{k}$$
が成り立っており、また 前回の記事 でも少し紹介したように
$$\D^kf(x)=\sum^\infty_{n=0}a_{n+k}\binom xn$$
が成り立つことに注意すると
\begin{eqnarray} f'(x)&=&\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(x)}{k} \\&=&\sum^\infty_{n=0}(\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{a_{n+k}}{k})\binom xn \end{eqnarray}
と具体的に導関数を求めることができます。収束性を吟味すると正確には以下のようになります。

 $p$$C^1$級関数、つまり$\Z_p$上微分可能で導関数が連続であるような関数$f$について
$$f'(x)=\sum^\infty_{n=0}a'_n\binom xn\quad(a'_n=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\frac{a_{n+k}}{k})$$
が成り立つ。特に$\dis\lim_{n\to\infty}a'_n=0$である。

 仮定より各点において
$$f'(x)=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(x)}{k}$$
は収束するので
$$\lim_{k\to\infty}\frac{\D^kf(x)}{k}=\lim_{k\to\infty}\sum^\infty_{n=0}\frac{a_{n+k}}k\binom xn=0$$
が成り立つ。これの$x=0,1,2,\ldots$の場合を考えていくと
\begin{eqnarray} \frac{\D^kf(0)}{k}&=&\frac{a_k}{k}\to0 \\\frac{\D^kf(1)}{k}&=&\frac{a_k}{k}+\farc{a_{k+1}}{k}&&\to&\farc{a_{k+1}}{k}\to0 \\\frac{\D^kf(2)}{k}&=&\frac{a_k}{k}+2\frac{a_{k+1}}{k}+\frac{a_{k+2}}{k}&&\to&\farc{a_{k+2}}{k}\to0 \\&\vdots& \\\frac{\D^kf(n)}{k}&=&\sum^{n-1}_{j=0}\farc{a_{k+j}}{k}\binom nj+\frac{a_{k+n}}k&&\to&\farc{a_{k+n}}{k}\to0\quad(k\to\infty) \end{eqnarray}
のようにして$n=0,1,2,\ldots$に対して
$$\lim_{k\to\infty}\frac{a_{k+n}}{k}=0$$
が成り立つ、つまり
$$a'_n=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{a_{n+k}}{k}$$
はそれぞれ収束することがわかる。
 よって$x$が非負整数のときには
\begin{eqnarray} f'(x)&=&\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(x)}{k} \\&=&\sum^\infty_{k=1}\farc{(-1)^{k-1}}k\sum^x_{n=0}a_{n+k}\binom xn \\&=&\sum^x_{n=0}(\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{a_{n+k}}{k})\binom xn \\&=&\sum^x_{n=0}a'_n\binom xn \end{eqnarray}
と和の順序が交換でき、
$$\D^kf'(x)=\sum^{x}_{n=0}a'_{n+k}\binom xn$$
特に$\D^kf'(0)=a'_k$がわかる。
 そして$f'$は連続であったのでMahlerの定理より
$$f'(x)=\sum^\infty_{n=0}\D^nf'(0)\binom xn=\sum^\infty_{n=0}a'_n\binom xn$$
および
$$\lim_{n\to\infty}a'_n=\lim_{n\to\infty}\D^nf'(0)=0$$
が成り立つことになる。

 この証明を見る限り連続関数$f$について
$$a'_n=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\frac{a_{n+k}}{k}$$
が収束し、$\dis\lim_{n\to\infty}a'_n=0$が成り立てば導関数$f'(x)$が存在し連続関数を定めるようにも思えますが 参考にした文献 によると反例を以って否定的に解決しています。具体的にはこの仮定からは非負整数$x$に対して
$$\lim_{k\to\infty}\frac{\D^kf(x)}{k}=0$$
つまり
$$f'(x)=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(x)}{k}$$
が存在することまでは言えますが、$x\not\in\Z_{\geq0}$に対しては
$$\lim_{k\to\infty}\frac{\D^kf(x)}{k}=0$$
が成り立つかどうかまではわからないことが原因となっています(実際の反例も仮定のような$f$であって$f'(-1)$$f'(-2)$が存在しないようなものが存在することを示しています)。

導関数の存在

 上で定理3の逆は必ずしも成り立たないと言いましたが、以下のような条件を満たす$\{a_n\}$に対しては$C^1$級関数が定まることが知られています。

 $p$進数列$\{a_n\}$$\dis\lim_{n\to\infty}n|a_n|_p=0$を満たすとき、
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn$$
$C^1$級関数となる。

 この仮定は$x=0$における微分可能性の必要十分条件
$$\lim_{n\to\infty}\farc{a_n}{n}=\lim_{n\to\infty}\farc{a_n}{p^{\log_pn}}=0$$
の少し強い仮定
$$\lim_{n\to\infty}\frac{a_n}{p^{\lfloor\log_pn\rfloor}}=0$$
くらいの気持ちになっています。実際$1\leq p^{\log_pn-\lfloor\log_pn\rfloor}< p$なので
$$\lim_{n\to\infty}n|a_n|_p=0\iff\lim_{n\to\infty}p^{\lfloor\log_pn\rfloor}|a_n|_p=\lim_{n\to\infty}\l|\farc{a_n}{p^{\lfloor\log_pn\rfloor}}\r|_p=0$$
が成り立っています。

\begin{eqnarray} \l|\frac{\D^kf(x)}k\r|_p&=&\l|\sum^\infty_{n=0}\farc{a_{n+k}}{k}\binom xk\r|\leq\max_n\l|\frac{a_{n+k}}k\r|_p \\&\leq&\max_nk|a_{n+k}|_p\leq\max_n(n+k)|a_{n+k}|_p\to0\quad(k\to\infty) \end{eqnarray}
$0$に一様収束するので
$$f'(x)=\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\farc{\D^kf(x)}{k}$$
が存在し、また右辺は連続関数の一様収束極限なので$f'(x)$は連続関数を定める。
($f(x)$$\D^kf(x)$の連続性についてはMahlerの定理から明らか。)

 更に次の仮定を満たせば無限階微分可能性もわかります。

 $p$進数列$\{a_n\}$が任意の$\la>0$に対し$\dis\lim_{n\to\infty}n^\la|a_n|_p=0$を満たすとき、
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn$$
$C^\infty$級関数(無限階微分可能)となる。

 $f'(x)$が連続関数を定めることは定理4からわかるので後は
$$f'(x)=\sum^\infty_{n=0}a'_n\binom xn$$
について任意の$\la>0$$\dis\lim_{n\to\infty}n^{\la}|a'_n|=0$を満たすことを示せばよい。
 そのことは
\begin{eqnarray} n^\la|a'_n|_p&=&n^\la\l|\sum^\infty_{k=1}(-1)^{k-1}\frac{a_{n+k}}{k}\r|_p \leq n^\la\max_k\l|\frac{a_{n+k}}{k}\r|_p \\&\leq&n^\la\max_k k|a_{n+k}|_p\leq n^\la\max_k(k+n)|a_{n+k}|_p \\&\leq&\max_k(k+n)^{\la+1}|a_{n+k}|_p\to0\quad(n\to\infty) \end{eqnarray}
とわかる。

解析関数

 これまで$p$進連続関数の基本形としてニュートン級数
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn$$
を使っていましたが、この節では実解析で慣れ親しんだ冪級数
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}c_nx^n$$
を扱っていきます。

解析関数

 $\Z_p$上で収束する冪級数展開
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0} c_nx^n$$
を持つような$p$進関数を解析関数という。

 簡単にわかるように上の冪級数が任意の$x\in\Z_p$で収束するには
$$\lim_{n\to\infty}c_n=0$$
が必要十分条件となります。このときその冪級数は
$$|c_nx^n|_p\leq|c_n|\to0\quad(as\;n\to\infty)$$
と一様収束するので連続関数となります。また
\begin{eqnarray} \l|\frac{f(x)-f(y)}{x-y}-\sum^\infty_{n=0}nc_nx^{n-1}\r|_p &=&\l|\sum^\infty_{n=0}c_n\frac{x^n-y^n}{x-y}-\sum^\infty_{n=0}nc_nx^{n-1}\r|_p \\&=&\l|\sum^\infty_{n=0}c_n\l(\sum^{n-1}_{k=0}x^k(y^{n-1-k}-x^{n-1-k})\r)\r|_p \\&\leq&|x-y|_p\max_{0\leq n}|c_n|_p\to0\quad(y\to x) \end{eqnarray}
のように評価できるので
$$f'(x)=\sum^\infty_{n=0}nc_nx^{n-1}$$
がわかり、$\dis\lim_{n\to\infty}|nc_n|_p\leq\lim_{n\to\infty}|c_n|_p=0$に注意すると同様にして
$$f^{(k)}(x)=\sum^\infty_{n=k}\frac{n!}{(n-k)!}c_nx^{n-k}$$
$C^\infty$級になることがわかります。
 さて$p$進解析では解析的なら$C^\infty$級になることがわかりましたが、逆に複素解析のように$C^\infty$級なら解析的であり
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}\farc{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$$
が成り立つなんてことが言えると嬉しいです。しかしそんなうまい話は流石に成り立たず、それには無数の反例が挙げられることになります。

 $C^\infty$級であるが解析的ではないような$p$進関数が存在する。

 $f$が解析的であれば
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}c_nx^n=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn$$
において$a_n$には常に"ある不等式"が成り立つのに対し、$C^\infty$級の十分条件(定理5)
$$\lim_{n\to\infty}n^\la|a_n|_p=0\quad(\forall \la>0)$$
を満たすようなものでその"ある不等式"を満たさないようなものが存在することを示せばよい。

解析性の必要条件

 冪級数の各項$x^n$は第二種スターリング数$\{{n\atop k}\}\in\Z$を用いて
$$x^n=\sum^n_{k=0}\l\{n\atop k\r\}x^{\ul k} =\sum^n_{k=0}\l\{n\atop k\r\}k!\binom xk$$
とニュートン級数展開できるので
\begin{eqnarray} f(x)&=&\sum^\infty_{n=0}c_n\sum^n_{k=0}\l\{\begin{array}{c}n\\k\end{array}\r\}k!\binom xk \\&=&\sum^\infty_{k=0}\l(\sum^\infty_{n=k}\l\{\begin{array}{c}n\\k\end{array}\r\}c_n\r)k!\binom xk \\&=&\sum^\infty_{k=0}a_k\binom xk \end{eqnarray}
つまり
$$|a_k|_p=\l|\l(\sum^\infty_{n=k}\l\{\begin{array}{c}n\\k\end{array}\r\}c_n\r)\r|_p\cdot|k!|_p\leq|k!|_p\max_{k\leq n}|c_n|_p$$
と評価でき、また$\dis\lim_{n\to\infty}c_n=0$より十分大きい$k$に対し$k\leq n$ならば$|c_n|_p\leq1$が成り立つこと、およびルジャンドルの公式より$k\geq p^2$において
$$v_p(k!)=\sum^\infty_{n=1}\l\lfloor\farc{k}{p^n}\r\rfloor \geq\l\lfloor\farc{k}{p}\r\rfloor+1>\frac kp$$
が成り立つことに注意すると十分大きい$k$に対し
$$|a_k|_p< p^{-k/p}$$
と評価することができる。

反例

$$a_n=p^{\lfloor n/p\rfloor}$$
としたとき、これは$C^\infty$級の十分条件
$$\lim_{n\to\infty}n^\la|a_n|_p =\lim_{n\to\infty}p^{-\lfloor n/p\rfloor+\la\log_p n}=0\quad(\forall\la>0)$$
を満たすのに対し、解析性の必要条件$|a_k|_p< p^{-k/p}\ (k\gg0)$
$$p^{-k/p}\leq p^{-\lfloor k/p\rfloor}=|a_k|_p$$
より満たさない。

別証明

 下で示すように微分して$0$になる定数でない関数は$C^\infty$級ではあるがテイラー展開できない、つまり解析的ではない関数となる。
(こっちの方がかなり簡潔ですが$C^\infty$級だけど解析的ではない関数を生成するには上の方法の方がより広い結果が得られるので 参考文献 に倣って紹介しておきました。)

 以上のようにして$C^\infty$級であっても解析的であるとは限らないことがわかりましたが、したがって$C^\infty$級というだけでは
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$$
という等式も成り立たないことになります(このことについては後で少し触れます)。ただ、解析的な関数については
$$f^{(k)}(0)=\sum^\infty_{n=k}\frac{n!}{(n-k)!}c_n0^{n-k}=k!c_k$$
から$c_n=\frac{f^{(n)}(0)}{n!}$が成り立つので安心してください。

逆微分の性質

"ほぼ定数"な関数

 さて微分の性質がわかってきたところで次は逆微分の性質について考えていきます。
 まずは基本的な方程式$f'(x)=0$を考えたいところですが、直感的には定数関数しか存在しないように思えます。しかしそうはならないのが$p$進解析、全然定数でない関数も$f'(x)=0$を満たすことになります。

具体例1

 例えば連続関数$f:\Z_p\to\Z_p$$p$進展開
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}f_n(x)p^n$$
を途中で打ち切った関数
$$g(x)=\sum^s_{n=0}f_n(x)p^n$$
前回の記事 でも見たようにある非負整数$t$があって$|x-y|_p\leq p^{-t}$ならば$g(x)=g(y)$が成り立つので
$$g'(x)=\lim_{y\to x}\frac{g(x)-g(y)}{x-y}=0$$
ということになります。

具体例2

 また$\dis\lim_{n\to\infty}(\o_n-n)=\infty$なる正整数列($\o_n=n^2$とか)
$$1\leq\o_1<\o_2<\o_3<\cdots$$
を取ったとき、$x\in\Z_p$$p$進展開
$$x=\sum^\infty_{n=0}x_np^n$$
に対し
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}x_np^{\o_n}$$
を返す関数$f$を考えると、任意の非負整数$t$に対し$|x-y|_p\leq p^{-t}$ならば$|f(x)-f(y)|\leq p^{-\o_t}$が成り立ち
$$\l|\frac{f(x)-f(y)}{x-y}\r|_p\leq p^{-(\o_t-t)}\to0\quad(t\to\infty)$$
より$f'(x)=0$ということになります。

具体例3

 $f'(x)=0$を満たすような関数と$C^1$級関数$F$に対し
$$g(x)=F(f(x)),f(F(x))$$
$g'(x)=0$を満たすことになります。
\begin{align} \frac d{dx}F(f(x))&=F'(f(x))f'(x)=F'(f(x))\cdot0=0\\ \frac d{dx}f(F(x))&=f'(F(x))F(x)=0\cdot F(x)=0 \end{align}
この性質を考えると微分して$0$になる"ほぼ定数"な関数が無限に得られることになります( 参考にした文献 が"almost constant" functionと表現しているだけで、内実は全然定数的ではないですが...)。

考察

 結局のところ方程式$f'(x)=0$の一般解ってどうなるの?といったところですが、それに対する明確な答えは出せないみたいです。
 というのも$C^1$級関数
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}a_n\binom xn$$
$f'(x)=0$を満たすには
$$\lim_{n\to\infty}a_n=0$$
および未知数および方程式の本数が無限個の線形方程式
$$\sum^\infty_{k=0}(-1)^{k-1}\farc{a_{n+k}}{k}=0\quad(n=0,1,2,\ldots)$$
を解く必要があり、それだけでも難しい上に(定理$3$の逆が常には成り立たないと言及したように)その二つの条件を満たすような$\{a_n\}$に対し$f(x)$$C^1$級関数を定めるとは限らないので困難を極めている。といった具合なわけです。

逆微分の存在

 とりあえず逆微分の不定性についてはおいておくとして、一般の微分方程式$F'(x)=f(x)$には常に解が存在することを紹介していきます。

 連続関数$f$に対して$F'=f$なる連続関数$F$が常に存在する。特に$x\in\Z_p$$p$進展開
$$x=\sum^\infty_{k=0}x_kp^k$$
に対し
$$x^{(n)}=\sum^n_{k=0}x_kp^k$$
と定めたとき、任意の非負整数$s$に対して
$$F_s(x)=\sum^\infty_{n=s}(x^{(n+1)}-x^{(n)})f(x^{(n)})$$
$F'_s(x)=f(x)$を満たす。

 $F_s$が連続関数を定めることは有界性原理より
$$|(x^{(n+1)}-x^{(n)})f(x^{(n)})|\leq p^{-(n+1)}\cdot M\to0$$
と一様に$0$に収束することから( 前回の記事 の定理5より)わかります。
 また
\begin{eqnarray} F_s(x)&=&\sum^\infty_{n=s}(x^{(n+1)}-x^{(n)})(f(x^{(n)})-f(x))+f(x)\sum^\infty_{n=s}(x^{(n+1)}-x^{(n)}) \\&=&\sum^\infty_{n=s}(x^{(n+1)}-x^{(n)})(f(x^{(n)})-f(x))+(x-x^{(s)})f(x) \end{eqnarray}
なので$f$の一様連続性から任意の整数$s'$に対して$|x-y|_p\leq p^{-t}$ならば$|f(x)-f(y)|_p\leq p^{-s'}$となるような整数$t>s$を取ると$|x-y|_p=p^{-(t'+1)}\leq p^{-t}$において
\begin{eqnarray} &&\l|\frac{F_s(x)-F_s(y)}{x-y}-f(x)\r|_p \\&=&\l|\farc1{x-y}\l(\sum^\infty_{n=t'}(x^{(n+1)}-x^{(n)})(f(x^{(n)})-f(x))+\sum^\infty_{n=t'}(y^{(n+1)}-y^{(n)})(f(y^{(n)})-f(y))\r)\r|_p \\&\leq&\frac1{|x-y|_p}\max_{t'\leq n}\l\{|(x^{(n+1)}-x^{(n)})(f(x^{(n)})-f(x))|_p,|(y^{(n+1)}-y^{(n)})(f(y^{(n)})-f(y))|_p\r\} \\&\leq&p^{t'+1}\max_{t'\leq n}\{p^{-(n+1)}p^{-s'},p^{-(n+1)}p^{-s'}\} \\&=&p^{t'+1}p^{-(t'+1)}p^{-s'}=p^{-s'} \end{eqnarray}
となるので$F'_s(x)=f(x)$を得る。
 ただし$|x-y|_p=p^{-(t'+1)}$において
$$x^{(n)}=y^{(n)}\quad(0\leq n\leq t')$$
となることおよび
$$|x-x^{(n)}|_p\leq p^{-(n+1)}$$
であることを用いた。

 以上により微分方程式$y'=f(x)$$p$進数の世界で解くと
$$y=F_0(x)+C(x)\quad(C'(x)=0)$$
が一般解ということになります。

色々成り立たない$p$進解析

 上で$p$進解析ではテイラー級数展開ができないといったことを話しましたが、同様に実解析(複素解析)では成り立って$p$進解析では成り立たない定理について軽く掘り下げていきます。
 実解析には
ボルツァーノ=ワイエルシュトラスの定理
$\downarrow$
有界性定理
$\downarrow$
最大値最小値定理
$\downarrow$
ロルの定理
$\downarrow$
平均値の定理
$\downarrow$
テイラーの定理、ロピタルの定理、etc...

という一つの流れのようなものがありますが、$p$進数は順序体という構造を持たないので上限や下限が定義できず、最大値最小値定理から成り立たないことになります(これは複素解析と全く同じ事情となっています)。そこで実際にロルの定理やテイラー級数展開が成り立たないことを見ていきましょう。

ロルの定理

 ロルの定理とはざっくり言うと
"$f(a)=f(b)$ならばある$c\in(a,b)$が存在して$f'(c)=0$を満たす"
という定理でしたが、$p$進解析では
"$f(a)=f(b)$だが任意の$c\in\Z_p$に対して$f'(c)\neq0$が成り立つ"
という反例が存在します。

 $x^{\ul p}\;(p\geq3)$はロルの定理の反例となる。

 $x^{\ul p}$$x=0,1,2,\ldots,p-1$において同じ値$=0$を持つのであとは任意の$x\in\Z_p$に対して$(x^{\ul p})'\neq0$となることを示せばよい。
 そのことは
$$\frac{d}{dx}x^{\ul p}=\sum^{p-1}_{n=0}\prod^{p-1}_{\substack{k=0\\k\neq n}}(x-k)$$
$\Z_p$係数の多項式であることから$x\equiv x_0\pmod{p}$なる$x_0=0,1,2,\ldots,p-1$に対して
$$\frac{d}{dx}x^{\ul p} \equiv\sum^{p-1}_{n=0}\prod^{p-1}_{\substack{k=0\\k\neq n}}(x_0-k) \equiv\sum^{p-1}_{i=0}\prod^{p-1}_{\substack{j=0\\j\neq i}}j =\prod^{p-1}_{j=1}j\not\equiv0\pmod p$$
が成り立つので、特に
$$\frac{d}{dx}x^{\ul p}\neq0$$
がわかる。

テイラー級数展開

 複素解析では無限階微分可能な関数$f$について
$$f(x)=\sum^\infty_{n=0}\frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^n$$
が成り立ちましたが、$p$進解析では「任意の$n\in\Z_{\geq0}$に対して$f^{(n)}(0)=g^{(n)}(0)$が成り立つが$f(x)\neq g(x)$となる」という反例があります。
 これについては上でも示したように微分して$0$になる定数でない関数$h(x)$が存在するので$$g(x)=f(x)+h(x)-h(0)$$
とおけば$g(0)=f(0)$かつ任意の$n\in\Z_{\geq1}$$g^{(n)}(x)=f^{(n)}(x)$が成り立つのに対して$f(x)\neq g(x)$が成り立つことからこの$f(x),g(x)$がその反例となります。特に$h(x)$のテイラー級数は定数関数$h(0)$ということになって$h(x)$が定数関数でないことに矛盾しますね(これはつまり$h(x)$$C^\infty$級ではあるが解析的ではない関数だということも意味しています)。

参考文献

[1]
Kurt Mahler, Introduction to p-adic numbers and their functions, Cambridge University Press, 1973, pp.62-86
投稿日:2021629
更新日:57

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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