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剛体の釣り合いとベクトル空間

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$$\newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{div}[0]{\mathrm{div}} \newcommand{division}[0]{÷} \newcommand{dps}[0]{\displaystyle} \newcommand{grad}[0]{\mathrm{grad}\ } \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{rot}[0]{\mathrm{rot}\ } \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} $$

今回は剛体の釣り合いを線形代数を利用して理論付けしていこうと思います. 多くの人は剛体の力学をやったとき(やる前から?)物理に出てくるベクトルと線形代数のベクトルがなんとなく似ていて違うように感じた事も多いと思います.あと力の合成に場合分けが必要なのも違和感では無かったでしょうか?そこら辺をある程度すっきりした感じになるとうれしいです.

剛体の力のベクトル空間

今回は剛体の釣り合いを公理的に取り扱っていく.まずは公理を述べる.

剛体の釣り合いの公理
  • 剛体は$V=\mathbb R^n$と見なせる.
  • 剛体にかかる力一つ一つは始点$a\in V$から$b\in V$の力がかかっているものと見なせる.これを$v=(a;b)\in V^2$と書く.また力が$v_1,v_2,...,v_n$と複数かかっている場合はそれを$v_1+v_2+...+v_n$と書く.
  • 始点が一致している場合の力について$(a;b)+(a;c)$$(a;b+c)$は同じと見なせる.逆に$(a;b+c)$$(a;b)+(a;c)$は同じと見なせる.
  • 力はその作用線上において平行移動できる.つまり$(a;b)$$(a+kb;b)$は同じと見なせる.
  • 力が同じと見なせるのは上の同一視を繰り返して得られるもののみである.

基本的には高校物理でやったものと同じであるが今回は別に有限次元なら何次元でも良いので$n$次元にしておいた.なお3つ目と4つ目を認めないと剛体が変形する事になってしまう.(想像してみよ)剛体にかかる力は明らかに交換法則が成り立つ.

このままでは「同じと見なせる」というのがよくわからないので,これについて考える.

$v_1$$v_2$同じと見なせることを$v_1\sim v_2$と定義するとこれは同値関係である.

公理5より公理3,4の同一視がそれぞれ同値関係である事を見れば良い.
反射律は自明だが公理4において$k=0$としても得られる.
公理3の反射律は自明.公理4においては$(a;b)=((a+kb)+(-k)b;b)$とできるので従う.
推移律は公理5から従う.

これより剛体の力全体を定義できる.

剛体の力全体を$F=V^2/\sim$とする.

次の目標は$F$にベクトル空間の構造が入る事を示す事である.しかし$V^2$に今はいっている加法構造が複雑すぎて$F$におけるwell-defined性を確かめるのが難しくなっている.そこで「力のモーメント」なるものを導入する.

$(a;b)\in V^2$に対してその力のモーメントを$a\wedge b\in V\wedge V$とする.

  • $\overline{(a;c)}=\overline{(b;c)}\Longleftrightarrow a\wedge c=b\wedge c$
  • $\overline{(a;b)+(a;c)}=\overline{(a;d)}\Longleftrightarrow a\wedge b+a\wedge c=a\wedge d$

一つ目は公理4,二つ目は公理3から従う($a\wedge a=0$に注意).

これより$\overline{(a;b)}\in F$$(b,a\wedge b)\in V\times(V\wedge V)$と表示できる.以後この表示を使っていく.

$a,b$の順番に注意.
また$n$$4$以上のとき$V\times(V\wedge V)$$F$より真に大きくなる.

$(f,m)+(g,n)=(f+g,m+n)$と定義すると$\overline{v_1+v_2}=\overline{v_1}+\overline{v_2}$.ただし左辺は$V^2$での演算,右辺は今定義した演算からのものである.

始点が一致している場合は公理4と定理2から従う.始点が一致しないときも作用線上の移動で$(f,m)$が不変であることから始点が一致するよう力を平行移動して合成すれば良い.(2力が平行のときは片方の力を分解して平行でないようにしてから始点を一致させれば良い.)

これより$V\times(V\wedge V)$がベクトル空間である事から$F$に加法が入り,それは$V^2$における加法と整合性がとれる事が分かった.あとはスカラー積についてのみである.

$F$は自然にベクトル空間となる.

加法については上で見たとおりである.スカラー積が自然に入る事を見る.
$r(f,m)=(rf,rm)$とすれば明らかに定理3より整合性がとれる.よって示された.$(rf,rm)$なる力の存在性も自明である.

これらによって力の合成は力の足し算とモーメントの足し算をすれば良い事が分かった!

座標変換

上で導入した表示は座標変換によってどのように変化するか見る.
まずは平行移動から.

原点を$o\in V$になるように力を平行移動すると.$(f,m)$$(f,m+f\wedge o)$となる.

回転していないので力の向きは変わらない.始点の位置は$a$から$a-o$に移動するので$m=a\wedge f$$(a-o)\wedge f=m-o\wedge f$となる.

次は回転移動について.(普段回転を使わない身なのであってるとは保障できません)

$U\in O(n)$とする.$v\to Uv$という座標変換によって$(f,m)$$(Uf,Um)$となる.ただし$U(x\wedge y)=Ux\wedge Uy$としておく.(これは線形写像になる)

$f$$Uf$に移る事は自明.始点$a$$Ua$にうつるので,$m=a\wedge f$$Ua\wedge Uf=Um$.よって示された.

これらより次の事が分かる.
まず剛体の釣り合いの条件は座標変換によって変化しない.(当たり前だが)
また$n=3$のときは$a\wedge b$の代わりに$a\times b$が使えてこのとき$m$の絶対値は回転移動で不変.とくに偶力($(0,m)$なる力)のモーメントの大きさは座標変換によって不変である.

投稿日:2021710

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