今回は剛体の釣り合いを線形代数を利用して理論付けしていこうと思います. 多くの人は剛体の力学をやったとき(やる前から?)物理に出てくるベクトルと線形代数のベクトルがなんとなく似ていて違うように感じた事も多いと思います.あと力の合成に場合分けが必要なのも違和感では無かったでしょうか?そこら辺をある程度すっきりした感じになるとうれしいです.
剛体の力のベクトル空間
今回は剛体の釣り合いを公理的に取り扱っていく.まずは公理を述べる.
剛体の釣り合いの公理
- 剛体はと見なせる.
- 剛体にかかる力一つ一つは始点からの力がかかっているものと見なせる.これをと書く.また力がと複数かかっている場合はそれをと書く.
- 始点が一致している場合の力についてとは同じと見なせる.逆にとは同じと見なせる.
- 力はその作用線上において平行移動できる.つまりとは同じと見なせる.
- 力が同じと見なせるのは上の同一視を繰り返して得られるもののみである.
基本的には高校物理でやったものと同じであるが今回は別に有限次元なら何次元でも良いので次元にしておいた.なお3つ目と4つ目を認めないと剛体が変形する事になってしまう.(想像してみよ)剛体にかかる力は明らかに交換法則が成り立つ.
このままでは「同じと見なせる」というのがよくわからないので,これについて考える.
と同じと見なせることをと定義するとこれは同値関係である.
公理5より公理3,4の同一視がそれぞれ同値関係である事を見れば良い.
反射律は自明だが公理4においてとしても得られる.
公理3の反射律は自明.公理4においてはとできるので従う.
推移律は公理5から従う.
これより剛体の力全体を定義できる.
次の目標はにベクトル空間の構造が入る事を示す事である.しかしに今はいっている加法構造が複雑すぎてにおけるwell-defined性を確かめるのが難しくなっている.そこで「力のモーメント」なるものを導入する.
一つ目は公理4,二つ目は公理3から従う(に注意).
これよりをと表示できる.以後この表示を使っていく.
の順番に注意.
またが以上のときはより真に大きくなる.
と定義すると.ただし左辺はでの演算,右辺は今定義した演算からのものである.
始点が一致している場合は公理4と定理2から従う.始点が一致しないときも作用線上の移動でが不変であることから始点が一致するよう力を平行移動して合成すれば良い.(2力が平行のときは片方の力を分解して平行でないようにしてから始点を一致させれば良い.)
これよりがベクトル空間である事からに加法が入り,それはにおける加法と整合性がとれる事が分かった.あとはスカラー積についてのみである.
加法については上で見たとおりである.スカラー積が自然に入る事を見る.
とすれば明らかに定理3より整合性がとれる.よって示された.なる力の存在性も自明である.
これらによって力の合成は力の足し算とモーメントの足し算をすれば良い事が分かった!
座標変換
上で導入した表示は座標変換によってどのように変化するか見る.
まずは平行移動から.
回転していないので力の向きは変わらない.始点の位置はからに移動するのではとなる.
次は回転移動について.(普段回転を使わない身なのであってるとは保障できません)
とする.という座標変換によってはとなる.ただしとしておく.(これは線形写像になる)
がに移る事は自明.始点はにうつるので,は.よって示された.
これらより次の事が分かる.
まず剛体の釣り合いの条件は座標変換によって変化しない.(当たり前だが)
またのときはの代わりにが使えてこのときの絶対値は回転移動で不変.とくに偶力(なる力)のモーメントの大きさは座標変換によって不変である.