確率の定義について
この文章では公理的に確率を扱う方法について簡単に紹介します。一般にやるのは難しいので、事象全体の集合が有限の場合に限ります。また、それに伴って確率変数やその期待値、部分加法族といった概念を紹介します。上の動画のレジュメですので、動画とともにお読みいただければと思います。
これを読むために必要な概念である冪集合や逆像については
こちらの記事
をご覧ください。
確率空間
確率空間
有限集合とがある条件を満たし
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、さらに写像を合わせた三つ組が以下を満たすとき、このを確率空間という。
に対しなら
が有限集合でなくても確率空間を定義することはできるが少々ややこしくなるので、この講義ではしばらくを有限集合とし、とする。
をトランプのカード枚の集合としよう。
この集合を記号と数の直積集合として表現しておく。
つまりであり、の要素はなどと表示される。は例えばハート全体の集合とか、全体の集合とか、適当に選んだ集合などを要素に持つ集合
^2
。をで定める。
ここでをの要素の個数とする。
つまり、どのカードを引く確率も同様に確からしいとする。
これは確率空間になる。 定義を確かめよう。
まずである。
また、なとき、 なのでである。
確率空間という概念が導入された経緯については
こちらの動画
をご覧ください。
確率変数
前の例と同様トランプ枚の集合、と、同様に確からしい確率を用いて考える。
数字、色、記号、偶奇によって次のような確率変数を定める。を とする。 を とする。 を とする。 を とする。
^4
確率変数に対しては、次のようにして期待値という数を定義できる。
上のトランプの確率空間と確率変数について、期待値は以下の通り。
部分加法族
部分加法族
を確率空間とする。が部分加法族であるとは次を満たすこと。
ならば
ならば
定義ではのみを条件にしているが、実はの要素に対して他の操作をしてもまたに属することを示すことができる。
が部分加法族であるとする。 このとき、
ならば
ならば
証明は
こちらの動画
をご覧ください。
つまり、の要素に対して部分集合に対する操作(これは基本的な論理操作とも言える)を行ったときにまたの要素になるというのが部分加法族の定義である。集合演算を代数的操作と見て、sub algebraともいう。
確率変数からという部分加法族を次のようにして定める。
確率変数から定まる部分加法族
を確率空間、を確率変数とする。 これに対し
と定める。
これの証明は
こちらの動画
をご覧ください。
上の例と同じくトランプの確率空間を考える。
確率変数に対しては のつの要素からなる集合。
確率変数に対しては要素がからなる集合で、例えば
などを要素に持つ。
これはが与える情報と見ることができる。このことをより理解しやすくするために、次に部分加法族の原子と分割という概念を導入する。
部分加法族の原子
を部分加法族とする。がの原子であるとは、であり、ならばまたはであること。
自然数における素数の定義を思い出そう。が素数であるとは、であり、がを割り切るならばまたはであることである。これと似たような定義になっていることを確認しよう。
「原子」という言葉から想像できるように、これらが与えられた部分加法族の基本的な構成要素と言える。実際、部分加法族の他の要素は原子の和集合として表される。これは自然数が素数の積で表されるのと同様。
前の例と同様にトランプの確率空間と、確率変数を考える。
の原子は次の個の集合。
の原子は次の個の集合。
の原子は次の個の集合。
の原子は次の個の集合。
確率変数に対して、の原子はあるに対してであってでないものである。
集合の分割とはの部分集合で
ならば
を満たすもの。
分割と部分加法族には次のような関係がある。
部分加法族に対し、その原子を集めるとの分割を与える。
逆にの分割から部分加法族を定める。
これらは互いに逆の対応になっている。
これについては
こちらの動画
をご覧ください。
つまりが有限であれば、分割を与えることと部分加法族を与えることは等価。分割という概念の方がイメージはつきやすいが、部分加法族という概念の方が数学的な記述はスッキリする。例えば、という二つの部分加法族があったとき、であることでの方がより豊富な情報を持つことを記述できる。分割で述べるのであればで定まる分割の方が細かいということになるが、数学的にこれを述べるのはやや面倒。このあたりの事情は
こちらの動画
をご覧ください。
改めてが情報であるということについて考える。これの原子はであってでないもの全体である。の値を知ることでがどう分割できるかを捉えている。逆に、を分割するとそれに対応する確率変数を定めることもできる。
可測
可測
を確率空間、を確率変数、を部分加法族とする。が可測であるとは、であること。
言い換えるとであること。
今はが有限集合であるから、が可測であることはの原子についてとしても同値である。
つまり、により定まる分割がにより定まる分割より粗いということ。言い換えれば、で与えられた情報はの様子を全て捕まえているということになる。
確率変数が可測であるとする。
このとき、の原子においては定数である。
をの原子とする。の値がの要素に対してつ以上定まると仮定しをそのような値とする。
つまりであるとする。
これらはいずれもとは一致しない。 このとき、が可測であるからである。
さらにであることとが部分加法族であることから、でありであるからが原子であることに矛盾する。
よっての値はの上でただ一つである。
前の例と同様にトランプの確率空間と、確率変数を考える。
は可測である。
実際、の原子は前に見たように $$\begin{eqnarray}
{(s,n)\mid s\in S, n\mbox{は偶数}},{(s,n)\mid s\in S, n\mbox{は奇数}}\end{eqnarray}\begin{eqnarray}
{(s,n)\mid s\in S, n\mbox{は偶数}}
=\bigcup_{n\in N,n\mbox{は偶数}}{(s,n)\mid s\in S}\in\sigma{X_n}\end{eqnarray}$$である。
は可測である。 例えば である。
は可測ではない。
もしそうならは$\sigma{X_s}{(\heartsuit,n)\mid n\in N}X_p1, -1$両方の値をとる。
は可測ではない。
もしそうならは$\sigma{X_n}{(s,1)\mid s\in S}X_c1, 2$両方の値をとる。
独立性
独立性
を確率空間とする。 とする。をそれぞれ部分加法族、をそれぞれ確率変数とする。
が独立であるとは、任意のに対して
$$\begin{eqnarray}
P(B_1\cap\cdots\cap B_n)=P(B_1)\times\cdots\times P(B_n)\end{eqnarray}$$が成り立つこと。
が独立であるとは、が独立なこと。
前の例と同様にトランプの確率空間と、確率変数を考える。
は独立である。 例えば であり、他も同様である。
は独立でない。 例えば である。
を確率空間、を確率変数とする。 が独立ならば
である。
より一般に、が独立な確率変数とし、とする。 このとき である。
証明は
こちらの動画
をご覧ください。