今日はLie代数・Lie群とその表現の定義と簡単な例について紹介しようと思う。
位相,解析からの厳密な導入は本を見てもらいたいので、ここではLie代数とLie環を混用して同じ概念として書いている。
微分演算子introduction
https://mathlog.info/articles/2840
の記事の続きとなっているので先にそっちを読んでおく方がいい。
記号の整理
線形空間
上の線形変換全体に関数の合成で括弧積構造を入れたもの(後方の具体例参照)
上の線形自己同型写像全体
Kroneckerのδ:
Lie代数
Lie代数とは線形空間で、次のようなLie括弧積が入った構造である。
()
(1)[反交換性]
(2)[(双)線形性]
(3)[Jacobi恒等式]
Jacobi恒等式はLeibniz則と捉えられる:
Jacobi identity
線形変換のLie代数
(上の線形変換全体)に対して次のような交換子を定めるとLie代数の定義を満たすことがわかる:
特に数ベクトル空間の変換としてみなした場合となる。
部分Lie代数
Lie代数の部分Lie代数とはの線型部分空間でLie括弧積で閉じている、すなわちを満たすものである。
積で閉じた部分空間である。
特殊線形群
はの部分Lie代数である。なぜなら有限次元行列に対してだから
を満たしているからである。
Lie代数の準同型
線形写像で次の性質を満たすものをLie代数の準同型写像と言う:
特にが線形同型写像であるときLie代数の同型写像と呼ぶ。
つまり準同型はLie括弧積の構造を保つ写像である。
Lie代数の表現
を線形空間としてLie代数の準同型をLie代数の上の表現と言う。
特にを上の随伴表現と呼ぶ。
随伴表現
となるの上の表現を随伴表現と言う:
実際にJacobi恒等式と反交換性を用いて式変形をするとLie代数の準同型であるから表現になっていることがわかる:
Lie環の次はLie群との対応である。
Lie群
群構造を持つ可微分多様体をLie群という。とくにの部分群であるものをものを線形Lie群と言う。
連続なLie群の表現
群準同型で以下の連続性の条件を満たすものをLie群の上の連続な表現と言う:
特にに対してを満たす表現をLie群の随伴表現と呼ぶ。
微分表現
Lie群の表現に対して微分表現と呼ばれる、のLie環上の表現が存在して次を満たす:
detの微分表現はtr
は群準同型写像であるが、これの微分表現はtrである。Jordan細胞は上半三角行列でだからJordan標準形にしてdetを計算すると
よりの微分表現はである。
微分表現によって群の表現の構造を環の表現にうつす事ができる。(群としての)随伴表現が(環としての)随伴表現に移されるのは特に重要な例である(随伴表現は任意のLie環に対して定まるので。)
Lie環からLie群
「良い」Lie群G(単連結かつ(コンパクトor可解))の場合、そのLie代数の指数写像として書ける:
全射
Lie群が行列群でなくとも、の1パラメータ部分空間(加法群)を任意にとってLie群Gに群準同型写像としてはたらくように指数写像を拡張すると、Lie環の零元近傍からLie群の単位元近傍への可微分同相写像となる。
Lie代数の普遍包絡環
Lie代数に対して「普遍的な」単位的結合代数が定まり、これを普遍包絡環と呼ぶ。のベクトル空間としてのテンソル代数をとして、で生成されるの両側イデアルをとしたとき、というように構成される。
難しめの言い方だが、Lie代数の元に普遍的な(という変形以外の簡約化の操作がない)形で単位的かつ結合的な積を定めたものをとしている。普遍包絡環の良い例は後述のHeisenberg群の項目を見てほしい。行列には結合的な積が入っていてではにも書かれているようにが意味を持つが、これはLie代数を行列環の中に埋め込んだから行列環の積構造を借用しただけであって、Lie代数そのものには元々結合的な積は定まっていない。例えばは偽である。
PBWの定理
Lie代数代数の普遍包絡環は、の基底の順序を保った単項式を基底とした線形空間である。
Heisenberg Lie代数
次の関係式が与えられた無限次元線形空間をh
Heisenberg Lie代数と呼ぶ。
関係式を満たす線形空間はの部分Lie代数であり、これもHeisenberg Lie代数と呼ぶ。
このLie代数はに埋め込んで考えることができる:
実際に上のLie括弧積を満たしていることがわかるだろう。
指数写像(行列群なので行列の指数関数)でLie群を構成する。
次のHeisenberg Lie代数の表現はFock表現と呼ばれる。
添字が違う変数は独立であることを使えば、微分演算子introductionの記事に示されている式よりこれがHeisenberg Lie代数の表現になっているということがわかる。部分Lie代数に制限したら
となる。の普遍包絡環を求める。テンソル代数の生成元はFock表現では
という感じになるのでこれをイデアルで割る、つまりで「片側に寄せるイメージ」で変形するとという形の元の生成元で表すことができる。これがの場合のPBWの定理の適用例である。
Weyl代数の生成元の微分演算子と乗算演算子の間にはという関係以外無かったのでイデアルで割る操作は、微分演算子の多項式への作用に関する(外延的に定まる)同値類で割るという自然な操作で実現できるのである。
さらにこの普遍包絡環をの両側イデアルで割る、つまりと定めることによって、を基底とした線形空間、つまり1変数のWeyl代数となる。これをHeisenberg代数と呼ぶこともあるらしい(大変紛らわしい)。
有限次元の部分Lie代数でも同様の議論ができ、普遍包絡環でを定数と同一視する操作をするとという基底で生成されるWeyl代数となる。
Lie代数とLie群との対応を見る。以下と置いて計算する。
はLie群としての等式なのでこれをFock表現に移すと
という演算子としての等式が得られる。に埋め込んでそれを経由して等式を得たが、Weyl代数の等式として次のようにも計算できる:
exp(∂+g(x))の公式
一般にg(x)を微分可能な関数として
が成立する。とすれば示したい等式を得る。
途中が群準同型写像として作用すること、、が並進移動をする演算子であることなどを使った。が可換ならば指数法則が成立するが、非可換ならば成り立たないので安直な変形することはできないことに注意である。
次の等式も行列表示から得られるし、先程得た等式において並進移動演算子を式の右方向にずらすことでも得られる:
heisenberg代数で行列の作用を表せることを見る。
は単位ベクトルと行列単位の掛け算
と全く同じなので、と同一視できる。