6

Lie環・群抄録/Heisenberg代数

1470
0

今日はLie代数・Lie群とその表現の定義と簡単な例について紹介しようと思う。
位相,解析からの厳密な導入は本を見てもらいたいので、ここではLie代数とLie環を混用して同じ概念として書いている。

微分演算子introduction https://mathlog.info/articles/2840 の記事の続きとなっているので先にそっちを読んでおく方がいい。

記号の整理

K=C,R
V:K線形空間
Mn(K):Kn×n
glnK={MMn(K)}
slnK={MMn(K)|tr(M)=0}
gl(V):V上の線形変換全体に関数の合成で括弧積構造を入れたもの(後方の具体例参照)
GL(V):V上のK線形自己同型写像全体
GLn(K)=GL(Kn)={MMn(K)|detM0}
SLn(K)={MGLnK|detM=1}
Kroneckerのδ:δi,j=1(i=j),0(ij)

Lie代数

Lie代数aとはK線形空間で、次のようなLie括弧積[,]:a×aa:(X,Y)[X,Y]が入った構造である。
(X,Y,Za,a,bK)
(1)[反交換性][X,Y]=[Y,X]
(2)[(双)線形性][aX+bY,Z]=a[X,Z]+b[Y,Z]
(3)[Jacobi恒等式][X,[Y,Z]]+[Y,[Z,X]]+[Z,[X,Y]]]=0

Jacobi恒等式はLeibniz則と捉えられる: Jacobi identity

線形変換のLie代数

gl(V)(V上の線形変換全体)に対して次のような交換子を定めるとLie代数の定義を満たすことがわかる:
[f,g]:VV:v[f,g]v=fg(v)gf(v)             (f,ggl(V))
特に数ベクトル空間の変換としてみなした場合gl(Kn)=glnK,[X,Y]=XYYXとなる。

部分Lie代数

Lie代数gの部分Lie代数hとはgの線型部分空間でLie括弧積で閉じている、すなわちX,Yh[X,Y]hを満たすものである。

積で閉じた部分空間である。

特殊線形群

slnKglnKの部分Lie代数である。なぜなら有限次元行列に対してtr(XY)=tr(YX)だからtrX=trY=0tr[X,Y]=tr(XY)tr(YX)=0
を満たしているからである。

Lie代数の準同型

K線形写像f:ghで次の性質を満たすものをLie代数の準同型写像と言う:
X,Yg,f([X,Y])=[f(X),f(Y)]
特にfK線形同型写像であるときLie代数の同型写像と呼ぶ。

つまり準同型はLie括弧積の構造を保つ写像である。

Lie代数の表現

VK線形空間としてLie代数の準同型ρ:ggl(V)をLie代数gV上の表現と言う。
特にad:ggl(g):Xad(X),ad(X)Y=[X,Y]g上の随伴表現と呼ぶ。

随伴表現

ad(X)Y=[X,Y]となるgg上の表現ad:ggl(g)を随伴表現と言う:

実際にJacobi恒等式と反交換性を用いて式変形をするとLie代数の準同型であるから表現になっていることがわかる:
ad([X,Y])Z=[[X,Y],Z]=[X,[Y,Z]][Y,[X,Z]]=(ad(X)ad(Y)ad(Y)ad(X))Z=[ad(X),ad(Y)]Z

Lie環の次はLie群との対応である。

Lie群

群構造を持つ可微分多様体をLie群という。とくにGL(Kn)の部分群であるものをものを線形Lie群と言う。

線形Lie群のLie環

線形Lie群GGLnKに対してg={XMnK|sK,exp(sX)G}GのLie環と言う。

連続なLie群の表現

群準同型ϕ:GGL(V)で以下の連続性の条件を満たすものをLie群GV上の連続な表現と言う:
gG,ϕ:VV
vV,gϕ(g)v
特にXGに対してϕ(X)Y=XYX1を満たす表現ϕをLie群Gの随伴表現と呼ぶ。

微分表現

tK,Lie群Gの表現ϕ:gに対して微分表現と呼ばれる、GのLie環g上の表現ρ:ggl(g)が存在して次を満たす:
ϕ(exp(tX))=exp(tρ(X))

随伴表現の微分表現

Adの随伴表現はadである。
ddtϕ(exp(tX))Y|t=0=ddtexp(tρ(X))Y|t=0
ddtexp(tX)Yexp(tX)|t=0=ddt(Y+tρ(X)Y+O(t2))|t=0
exp(tX)XYexp(tX)exp(tX)YXexp(tX)|t=0=ρ(X)Y+O(t)|t=0
ρ(X)Y=XYYX=ad(X)Y
ゆえにρ=ad

detの微分表現はtr

det:GKは群準同型写像であるが、これの微分表現はtrである。Jordan細胞Jn(λ)は上半三角行列でdet(expJn(λ))=enλだからJordan標準形にしてdetを計算すると
det(expX)=det(expdiag(Jn1(λ1),,Jnm(λm)))=idet(exp(Jni(λi)))=expiniλi=exptrX
よりdetの微分表現はtrである。

微分表現によって群の表現の構造を環の表現にうつす事ができる。(群としての)随伴表現が(環としての)随伴表現に移されるのは特に重要な例である(随伴表現は任意のLie環に対して定まるので。)

Lie環からLie群

「良い」Lie群G(単連結かつ(コンパクトor可解))の場合、そのLie代数gの指数写像として書ける:
全射exp:gG
Lie群が行列群でなくとも、gの1パラメータ部分空間(加法群)を任意にとってLie群Gに群準同型写像としてはたらくように指数写像を拡張すると、Lie環の零元近傍からLie群の単位元近傍への可微分同相写像となる。

Lie代数の普遍包絡環

Lie代数gに対して「普遍的な」単位的結合代数U(g)が定まり、これを普遍包絡環と呼ぶ。gのベクトル空間としてのテンソル代数をT(g)=Kk=1gkとして、XYYX[X,Y] (X,Yg)で生成されるT(g)の両側イデアルをIとしたとき、U(g)=T(g)/Iというように構成される。

難しめの言い方だが、Lie代数の元に普遍的な(XYYX=[X,Y]という変形以外の簡約化の操作がない)形で単位的かつ結合的な積を定めたものをU(g)としている。普遍包絡環の良い例は後述のHeisenberg群の項目を見てほしい。行列MnKには結合的な積が入っていてglnKでは[X,Y]=XYYXにも書かれているようにXYが意味を持つが、これはLie代数を行列環の中に埋め込んだから行列環の積構造を借用しただけであって、Lie代数そのものには元々結合的な積は定まっていない。例えばX,YslnKXYslnKは偽である。

PBWの定理

Lie代数代数gの普遍包絡環U(g)は、gの基底[B1,,BN]の順序を保った単項式B1n1BNnNを基底としたK線形空間である。

Heisenberg Lie代数

次の関係式が与えられた無限次元C線形空間{pn,qn,c}nZをh
Heisenberg Lie代数heiと呼ぶ。
[pn,qm]=cδn,m,[pn,c]=[qn,c]=[pn,pm]=[qn,qm]=0    (n,mZ)

関係式[X,Z]=[Y,Z]=0,[X,Y]=Zを満たす線形空間hei3=CXCYCZheiの部分Lie代数であり、これもHeisenberg Lie代数と呼ぶ。

このLie代数はM3(C)に埋め込んで考えることができる:
p0=X=(010000000),q0=Y=(000001000),c=Z=(001000000),実際に上のLie括弧積を満たしていることがわかるだろう。
指数写像(行列群なので行列の指数関数)でLie群を構成する。

exp(sX+tY+uZ)=(1su+12st01t001)=(10001t001)(1s0010001)(10u+12st010001)=exp(tY)exp(sX)exp(u+12st)Z

次のHeisenberg Lie代数の表現はFock表現と呼ばれる。
ρ:heigl(C[xi|iZ]):piii=ixi,qixi,ci

添字が違う変数は独立であることを使えば、微分演算子introductionの記事に示されている式よりこれがHeisenberg Lie代数の表現になっているということがわかる。部分Lie代数hei3に制限したら
ρ:hei3gl(C[x]):Xq0=x,Yp0=ix,Zi
となる。hei3の普遍包絡環を求める。テンソル代数T(hei3)の生成元はFock表現では
np0n1q0m1p0nkq0mk
という感じになるのでこれをイデアルIで割る、つまり[p0,q0]=iで「片側に寄せるイメージ」で変形するとN1q0N2p0N3という形の元の生成元で表すことができる。これがg=hei3の場合のPBWの定理の適用例である。
Weyl代数の生成元の微分演算子と乗算演算子xの間には[,x]=1という関係以外無かったのでイデアルIで割る操作は、微分演算子の多項式への作用に関する(外延的に定まる)同値類で割るという自然な操作で実現できるのである。
さらにこの普遍包絡環をci=i(1)の両側イデアルで割る、つまり=1と定めることによって、xN1N2を基底とした線形空間、つまり1変数のWeyl代数となる。これをHeisenberg代数と呼ぶこともあるらしい(大変紛らわしい)。

有限次元の部分Lie代数hei2n+1=CcCp1CpnCq1Cqnでも同様の議論ができ、普遍包絡環でcを定数と同一視する操作をするとx1N1xnNn1M1nMnという基底で生成されるWeyl代数となる。

Lie代数とLie群との対応を見る。以下=iと置いて計算する。

exp(sX+tY+uZ)=exp(tY)exp(sX)exp(u+12st)Z
はLie群としての等式なのでこれをFock表現に移すと
exp(sx+tu)=exp(t)exp(sx)exp(u12st)
という演算子としての等式が得られる。M3(C)に埋め込んでそれを経由して等式を得たが、Weyl代数の等式として次のようにも計算できる:

exp(∂+g(x))の公式

一般にg(x)を微分可能な関数として
exp(tg(x)+tu)f(x)=exp(t+exp(g(x))[t,expg(x)])euf(x)=exp(Ad(eg(x))t)euf(x)=(Ad(eg(x))exp(t))euf(x)=exp(g(x))exp(t)exp(g(x))euf(x)=exp(t)exp(g(xt)+g(x))euf(x)
が成立する。g(x)=s2tx2とすれば示したい等式を得る。
exp(sx+tu)=exp(t)exp(sx)exp(u12st)

途中Adが群準同型写像として作用すること、[,g(x)]=g(x)exp(t)が並進移動をする演算子であることなどを使った。X,Yが可換ならば指数法則eX+Y=eXeYが成立するが、非可換ならば成り立たないので安直な変形することはできないことに注意である。
次の等式も行列表示から得られるし、先程得た等式において並進移動演算子を式の右方向にずらすことでも得られる:
exp(sx+tu)=exp(t)exp(sx)exp(u12st)=exp(s(x+t))exp(t)exp(u12st)=exp(sx)exp(t)exp(u+12st)

heisenberg代数で行列のad作用を表せることを見る。
xijxk=xiδjk
は単位ベクトルと行列単位の掛け算
Eijek=eiδjk
と全く同じなので、Eijxijと同一視できる。

投稿日:20211211
更新日:20231115
OptHub AI Competition

この記事を高評価した人

高評価したユーザはいません

この記事に送られたバッジ

バッジはありません。
バッチを贈って投稿者を応援しよう

バッチを贈ると投稿者に現金やAmazonのギフトカードが還元されます。

投稿者

赤げふ
赤げふ
92
15635
東工大情報B4 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

コメント

他の人のコメント

コメントはありません。
読み込み中...
読み込み中