こんにちは。
今日は微分演算子の計算に関する基本的な事柄と記法の準備について話そうと思います。そこまで解析学的にillな対象は扱わない(意図的に避けてる)つもりなので、計算の正当性や厳密な構成の仕方は代数的な考え方を一通り話した後にやるほうがいいと思っています。群,環,加群の定義と具体例を押さえて1年の線形代数がわかれば流れが追える、そんな記事集を目指します(微積の計算の詳細はEulerの公式等ある程度計算力を要求しそうですが)。
続編:
Lie環・群抄録/Heisenberg代数
sl2表現
Weierstrass変換exp(a∇^2)とそのイメージ
この記事では演算子の感覚を掴んでください。
隣接3項間漸化式をシフト演算子とよばれるとなるような形式的な「数」を使って書き換える。だからだが、「で括れて因数分解できる」と仮定するとというような形になる。つまり線形演算子からつくられた演算子を掛けると0になる、核(kernel)に相当する数列を求めると言う問題意識に行き着く。
とすればとなるので漸化式の解であることが確かめられる。この形式的に定めたを加群の作用として正確に捉えることを考える。漸化式はに関する恒等式であるが、をにうつす関数に関する方程式と捉え直すことで、作用,被作用の構造がわかりやすくなる。は「をにうつす関数」を「をにうつす関数」にうつす関数である。
一般に隣接項間漸化式ではの次式を関数に作用させたものとなる。なので漸化式(方程式)の左辺はの多項式の環を関数の成す環(群)に作用させた、加群の式となっている。「で括れて因数分解できる」と言ったのは加群として結合的かつ分配的な環の群への乗法的作用""を備えている、ということを意味する。これが演算子法の根本的な考え方である。
漸化式の特性方程式というのは、線形演算子の最小多項式に相当していて、これを解けば固有値が求められるから対角化して行列のべき乗をもとめられるという線形代数の流れを踏むように、特性方程式の解から漸化式の一般項を求めることができるのである。
環としての乗法(通常省略する)と加群としての乗法""は区別しなくてはならない。
今まではシフト演算子で説明してきたが、微分演算子についても全く同様の論理展開を行う事ができる。
定数係数線形微分方程式の左辺も微分演算子の多項式環の級関数の加法群への作用と考えられる。
係数を定数ではなくの元に拡張する、つまり多項式係数の線形微分方程式を考えたとき、全体をWeyl代数と呼び、と書く。と書いた場合は演算子を意味し、関数への作用はとなり、Weyl代数の元(多項式)の関数への作用は通常の乗法である。の作用を加群の定義を参照しながら計算するととなるが、演算子は「関数から関数への関数」で、任意の関数にたいして同じ結果の関数を返す演算子があったらその演算子同士は等しいと考えるべきである(外延性)。つまりWeyl代数としての等式が成立して、これはにおいてとした場合に該当して、もWeyl代数の元である事がわかる。
との違いには注意してほしい(そもそも型がちがう)。
物理的には、がを満たして非可換であることは正準交換関係と呼ばれ、位置と運動量を同時に確定することができないという量子力学の実験事実を定式化したものであると解釈できる(heisenbergの不確定性原理、より厳密にはKennardの不等式)。
一般にが成立することを確かめるとよい。次のような面白い式もある:
微分演算子は線形演算子なので行列表現として表せる。次多項式の基底でのの作用の表現行列は次のようになる:
として、微分演算子を上の行列として扱うことができる。という演算子の表現行列は成分がの行列である。なのでWeyl代数は実質ただの行列である。
次は微分演算子が並進移動の生成子であるということを様々な観点から見ていこう。Taylor展開を演算子の見方で書き換えると
というふうになる。途中を使った。あっけないが指数関数の肩に微分演算子を乗せることで並進移動をする演算子を作れるのである。言い換えるとシフト演算子は微分演算子の一種であり、(厳密には有限和に限定したが拡張された)Weyl代数の元として考えられる。
微分演算子の相等を「任意の多項式への作用が一致する」というように定めたとすると、基底に対する作用だけを調べたら基底の変換行列が求まり、等しいかどうかを決定することができる。これは二項定理の形が出現する形で証明できる:
これはのとき表現行列として次のような等式を意味する:
ただし、に対してと定める。
線形空間として同型なので微分演算子で考えても行列で考えても全く同じことである。また、次のような微小平行移動を繰り返したものと考えることで指数関数が出てくるのは自然だと考えることができる。微分の定義式において極限を外して誤差項にLandau記号をつかうとという式変形ができる。つまりは関数をだけシフトする演算子である。誤差の問題からこれは微小距離の分の並進移動しかできないが、有限距離だけ並進移動する場合は等分して回微小平行移動するとというようにできる。誤差はなので無視できる。これは指数写像として一般の多様体上の並進移動を定めることができる。
むしろ、を形式的な数として扱って、を定義として扱うと言う考え方も一応可能である。
微分演算子の利点は変数変換を行うことができるということである。
今並進移動演算子について見たので次はEuler演算子について見ることにする。という変数変換をするととしてなのでよりEuler演算子は関数の乗法的作用の生成子と考えることができる。
基底を取って考えると、はの固有値の固有関数なのでだから同じような結果を得る。
演算子の相等として先の議論では多項式に対する作用が等しいとして定義したが、一般の演算子を扱う上で関数のクラスを限定して議論するということが必要になるので演算子の同値類の定義をここで導入しておく。特定の関数の集合をとしてそれに対応する演算子の同値をと定める。例えばとしたらであるが、なのでと変化させるととなり、は偽となる。
微分演算子の公式を紹介して終わりとしよう。
とすると、多項式に作用する演算子としてとなる。つまりがを右から左に移動するとが1増えるのである。なので帰納的に
となる。ただしは下降ベキの記号で、を代入したと思える。
第二種Stirling数は
をみたす整数である(これで一意的に定まる)。差分の言葉で言うと、差分版Taylor展開での累乗を展開した展開係数である。なお
という公式がある。を代入することで
となる。