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LTEの補題とその応用~一般化へ向けて~

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前回 (LTEの補題とその応用) では整数における付値を定義し,奇素数に対してLTEの補題を証明しました.しかしこれだけだと扱いにくい場面も出てきます.そこでp=2のときや有理数に議論を拡張していきます.

p進付値の拡張とLTEの補題

有理数におけるp進付値

pを素数とし,rを有理数とする.整数n,mを用いてr=nmと表したとき,vp(r)=vp(n)vp(m)と定義する.

明らかにこの定義はwell-definedである.また整数の時と同様に以下の補題も成立する.(ここら辺からvppを省略します.)

x,yを有理数とすると以下が成立する.(1)  v(xy)=v(x)+v(y) (2)  v(x+y)min(v(x),v(y))

(1) x=ab,y=cdとすると,v(xy)=v(acbd)=v(ac)v(bd)=v(a)v(b)+v(c)v(d)=v(x)+v(y) (2)(1)より両辺に十分大きい整数を足せば整数の議論に出来る.よって前回の補題1(整数の時の同様な命題)によって示された.

(2)は通分を考えても出来そうですね.

v5(202043)=1,vp(p2)=2である.また整数nについてvp(n)0である.

実は(当たり前かもしれないが)LTEの補題は有理数でも(十分な仮定の下で)成り立ちます.

有理数のLTEの補題

pを奇素数,x,yvp(x)=vp(y)=0,vp(xy)>0を満たす有理数とする.このときnを任意の整数とするとvp(xnyn)=vp(xy)+vp(n)が成立する.

(i)n>0のとき
x=ab,y=cd(ab,cdは互いに素)とするとvp(cd)=0よりvp(xy)=vp(adbc),vp(xnyn)=vp((ad)n(cd)n)となるので,整数におけるLTEの補題から従う.
(ii)n=0のときこれは両辺ともにとなるので明らかである.
(iii)vp(x1y1)=vp(yx)+vp(xy)=vp(xy)より(i)から従う.

ここではもう少し定理について考察してみます.
v(xnyn)=v(xy)+v(n)v(y)=0よりt=xyとおけばv(tn1)=v(t1)+v(n)となる.従って有理数におけるLTEの補題を直接示したかったらy=1の時のみ示せばよいのである.また実はこの形の方が一般化がしやすいのです.

有理数のLTEの補題

v5(43+34)=2なのでv5((43)375+(34)375)=2+3=5である.

p=2のときのLTEの補題

ここでようやくp=2の場合が救われました(?).p=2のときのLTEの補題は有理数の場合で証明しちゃいます.(その方が見やすいので)なぜp=2のときは他の素数のように行かないのか考えながら証明を読むと良いかもしれません.

p=2のときのLTEの補題

x,yv2(x)=v2(y)=0,v2(xy)>0を満たす有理数とする.このとき任意の整数nについて以下が成立する.
(1)nが奇数の時v2(xnyn)=v2(xy)(2)nが偶数かつv2(xy)>1のときv2(xnyn)=v2(xy)+v2(n)(3)nが偶数かつv2(xy)=1のときv2(xnyn)=v2(x2y2)+v2(n)1

この場合分けでは(1)(2)は合体させることが出来るが一般化の時の事を考えてあえて分けて書いた.((1)方がより広く一般化できる.)また(2)のときも(3)は成立する.

方針は通常のLTEの補題と同じである.しかしあるところの不等式評価が少しだけ変になる.まず明らかにn=0のときは従い,n<0のときはn>0のときから従う.のでn>0とする.また上での考察と同様にy=1のときを示せば十分である.仮定よりx1=tとおくとv(t)>0であり,v(xn1)=v((t+1)n1)=v(tn+ntn1+nC2tn2+...+nC2t2+nt+11)=v(t)+v(tn1+ntn2+nC2tn3+...+nC2t+n)(ここで前回の証明と変数変換の方法を変えていることに注意(単にこちらの方が見栄えが良いからである.))
よって前回と同様に2knを満たす正整数kに対してv(nCktk1)>v(n)が示せれば通常のLTEの補題が成立する.
(1)のとき(nが奇数の時)仮定より(右辺)=0,(左辺)>0なので成立する.
(2),(3)のとき(nが偶数の時))これも前回の証明を真似て考えるが有理数の付値が考えられるので少し直感的な変形になる.v(nCktk1)v(n)=v(1nnCktk1)=v(1knCktk1)v(1ktk1)=(k1)v(t)v(k) となるので(k1)v(t)v(k)>0ならよい.しかしv(t)=1のときうまくいかない!!!実際k=2を代入すると(21)11=0となり不等式が成立しない.これが場合分けが生じる原因である.
(2)のときk=a2v(k)とすると,(k1)v(t)v(k)2(2v(k)1)v(k)=2v(k)+1v(k)2>0となる.(最後の部分は二項定理や帰納法を使えば示せる.)よってv(xnyn)=v(t)+v(tn1+ntn2+...+nC2t+n)=v(t)+v(n)=v(xy)+v(n)がわかる.
最後に(3)を示す.これは補題1よりv(x2y2)=v(xy)+v(x+y)=v(xy)+v(xy+2y)2v(xy)>1であることと(2)よりv(xnyn)=v((x2)n2(y2)n2)=v(x2y2)+v(n2)=v(x2y2)+v(n)1となる事から従う.

最初のうちはp=2のときのLTEの補題を使うのは怖いような気もするがなぜp=2のときはうまくいかないのかや,証明を理解すれば使えるようになると思います.(証明は前回紹介したような帰納法的な方法でも出来ます.)

LTEの補題の応用

では少し具体例や応用を見ていきましょう

p=2のときのLTEの補題

v2(51)=2,v2(1024)=10よりv2(510241)=120である.
v2(31)=1,5は奇数であることからv2(351)=1である.実際351=242=2112なので定理が正しいことがわかる.
またv2(321)=3なのでv2(3161)=3+41=6である.

実際にこの定理を使う問題を見ていきます.

例題

nnn(n1)!が整数となる正整数nを全て求めよ.

解答

nが十分大きい時分母と分子が何回2で割り切れるか見てみます.
v22を省略し,[n]n以下の最大の整数を表すとする.
(1)nが偶数のとき
分母は2v(n)回割り切れ,分子はk=1[n12k]回割り切れる.仮定より,v(n)[n12]n22となる.両辺2倍して,v(n)n2.b=v(n)とし,n=a2b(aは奇数)とすれば,ba2b22b2これはb>2のとき解を持たない.
b=1のとき12a2より,a=1つまりn=2となる.
b=2のとき24a2より,a=1つまりn=4となる.
(2) n1 (mod 4)のとき
n=1のときは明らかに条件を満たすのでn>1とする.
LTEの補題からv(nnn)=v(nn11)=2v(n1)となる.よって(1)と同様に2v(n1)n12であり,b=v(n1)とおき,n1=a2bとすると,4ba2b2bよりb<5がわかり,仮定よりb>1に注意して調べるとb=2,3,4のときa=1でこの不等式が成立することがわかる.よってn=5,7,9となる.
(3)n3 (mod 4)のとき,
LTEの補題からv(nnn)=v(n21)+v(n1)1=v(n+1)+1となり,(1),(2)と同様に,v(n+1)n12となり,b=v(n+1),n+1=a2bとすれば2ba2b22b2の不等式は(1)と同じなので(b>1に注意して)b=2のときa=1つまりn=3となる.
以上よりn=1,2,3,4,5,7,9となるが実際に代入して整数になるか確かめるとn=1,2,3,4,5が条件を満たすことがわかる.

他の問題は前回の参考文献の二つ目などを参考にしてほしいです(疲れました()).

一般化へ向けて~

最後にLTEの補題がどのように一般化されるのかその流れなどを書こうと思います.
僕自身もLTEの補題の全ての一般化の方法を追えた訳ではないです(それだけ奥深いです).その一般化の中でイデアルを利用したものを述べたいと思います.
LTEの補題の証明では実際には二項定理とコンビネーションの性質,付値の性質を使っています.二項定理は別に整数だけで成り立つ性質ではなく環で成り立つ性質です.コンビネーションも環にはZから準同型が入ることからうまく扱うことが出来ます.付値の性質はイデアルの性質で十分うまくいきます(はず).よって次回からはイデアルのLTEの補題を示し,付値の一般化にその一般化を適用し,さらにそれを代数体の整数環(整数の親戚)に適用し命題を示していきます.他にも付値はp進数体と相性がよく,そこからさらに考察を行うことも可能です.そこら辺の話は少しずつ書こうと思います.

投稿日:2020118
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整数が好きです

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