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LCT(一般化Fourier変換)

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sl2RのSchwartz空間上の表現を見たが、この表現を微分表現とするLie群の表現Tがあるか?という問いが出る。これの答えとなるのが"Linear Canonical Transform"(以後LCT)と呼ばれるものである。LCTは2次行列をパラメータに取り、Weierstrass変換や実数階Fourier変換、スケール変換等を内包する高度な一般性を持つ変換である。

記号を定義しておく。
C×=C{0},
複素数の偏角arg:C×(π,π]
z=|z|exp(i2argz)
i=1(巡回定義みがありますが...)
expα[β]=eαβ
det=12×2実行列全体SL2(R)

LCT積分表示

Tε(M11M12M21M22)f(x)=ε12πiM21f(t)expi2M21[M11x22xt+M22t2]dt=εM11if(M11x)exp(i2M11M12x2)   (iff  M21=0)

(M11M12M21M22)SL2(R), det(M11M12M21M22)=1, ε{±1}

Metaplectic群構造

L,M,NSL2(R),  ε1,ε2,ε3,ε,η{±1}
ε:=ε1ε2η
このときηが存在して次の群構造が成立する。
Tε(I)=ε
Tε1(M)Tε2(N)=Tε(MN)
(Tε1(L)Tε2(M))Tε3(N)=Tε1(L)(Tε2(M)Tε3(N))
(Tε(M))1=Tε(M1)

(※僕が調べた範囲(Wikipediaなど)だと代数的分岐が現れるということまでは書いてましたが、積構造の符号が曖昧になっていたりそもそも書かれてなかったりして困りました。自力でうまくLie群やLie代数構造とつながるように丁寧に整理してこの記事を書いてますが、間違いをしているかもしれません。
もう一度考え直した結果、符号部分の定め方に間違いが有りました。2022/2/9に修正しました。申し訳ありません。)

積分変換とは、次の形をとるような変換 T のことである。
(Tf)(u)=t1t2K(t,u)f(t)dt.
この積分変換の入力は関数 f であり、出力は関数 Tf である。積分変換は作用素の一種である。
個々の積分変換は、その変換の核関数,積分核,あるいは核 と呼ばれる二変数関数 K を定めれば決まる。
各々の積分変換が持つ性質は多岐に渡るが、いくつかの性質は共通のものとなっている。例えば、すべての積分変換は線形作用素である。実は、核函数が超関数となることをも許せば、すべての線形作用素は積分変換になる(このことをきちんと定式化したものがシュワルツの核定理である)。LCTは線形変換で核関数は()exp(2)の形を取る(退化した場合はデルタ関数とeax2の積が核関数となる。)

単位元は定義より自明であるが、積の式は非自明である。

退化

M21+0という変化で積分表示が崩れるが、その計算法を見る。
積分表示で変数変換tM21t+M11xをする。
limM21+0Tε(M11M12M21M22)f(x)=limM21+0ε12πif(M21t+M11x)expi2[M11M12x2+2M21xt+M22t2]dt=ε12πi2πiM22exp(i2M11M12x2)f(M11x)=εM11if(M11x)exp(i2M11M12x2)

途中Gauss積分

eat2dt=πaM221=M11/(1+M21M12)=M11を用いた。Gauss積分の有効な範囲はRe a0なので分岐に注意しなければならない。

積構造

L=MN,   W=(sgn(N21),sgn(M21),sgn(L21))
sgn(x)=±1(if ±x>0),sgn(0)=0とする。
まずSの成分に0が含まれない場合を考察する。
Tε1(M)Tε2(N)f(x)=ε112πiM21s=expi2M21[M11x22xs+M22s2]ds×ε212πiN21t=f(t)expi2N21[N11s22st+N22t2]dt=ε1ε212πiM2112πiN21t=f(t)exp(M11M21x2+N22N21t2)dt×s=exp[i2(M22M21+N11N21)s2i(tN21+xM21)s]ds=ε1ε212πiM2112πiN21t=f(t)exp(M11M21x2+N22N21t2)dt×2πM21N21iL21expi2x2N212+2txM21N21+t2M212L21M21N21=ε1ε212πiM2112πiN212πM21N21iL21t=f(t)dt×expi2M21N22L21t2M212t2+M11N21L21x2N212x22txM21N21L21M21N21=ε12πiL21f(t)expi2L21[L11x22xt+L22t2]dt=Tε(L)f(x)
なお、Wの各成分の正負8通りすべてについて場合分けして定義式を見ることで、
ε1ε21iM211iN21M21N21iL21=ε1iL21
となることが確かめられる。次にWに一つ0が含まれる場合を見る。

M=(M11M120M111)
として、退化の式を用いて
Tε1(M)Tε2(N)f(x)=ε1ε2M11i12πiN21f(t)expi2N21[N11M112x2+M11M12N21x22M11xt+N22t2]dt=ε12πiM111N21f(t)expi2M111N21[(M11N11+M12N21)x22xt+M11N22t2]=Tε(L)f(x)

となる。やはり
ε1ε2M11i12πiN21=ε12πiM111N21

が\成立することが分かる。他の成分が0の場合もすこし同様である(少しってなんだよ)。Wのうち2つの成分が0である場合、行列計算でWのもう一方の成分も0になることが分かる。実際に計算をすると
ε1M11iexp(i2M11M12x2)ε2N11if(N11M11x)exp(i2N11N12M112x2)=εM11N11if(M11N11x)exp(i2N11M11(M11N12+M12N111)x2)
となって、ε1M11iε2N11i=εM11N11i
が成立する。

符号について整理する。ε=ε1ε2が成立するWのパターンは符号の組み合わせ27(ありえるのは21)通りのうち、
W=±(1,1,1),(0,1,1)の場合と
W=(0,0,0)sgnM11=sgnN11=1の場合の11(6)通りに限られる。それ以外のときはε=ε1ε2である。

このようにLCTはSL2(R)×{±1}というパラメータの群構造を持つが、これはMetaplectic群と呼ばれるLie群である。。Symplectic行列Sp2n(R)は解析力学の正準交換等に現れる線形Lie群であるが、2次行列の場合はSp2(R)=SL2(R)という関係が成り立つ。一般にSymplectic群は無限巡回群(円周eitのように無限要素からなる巡回群)を含んでいて、二重被覆が唯一存在するため、それをMetaplectic群と呼ぶのである。Metaplectic群は忠実な有限次元表現を持たない、つまり行列だけであらあわすことが不可能なLie群である。LCTを多変数化するとき一般のSymplectic Lie群の構造を取るが、この記事を書いている現在の自分はまだ一般の場合の正当な計算方法を知らず、Metaplectic群と関わるか具体的に分からない状態であるため、この記事ではとりあえずSp2(R)に限定して話す。二重被覆であるかといったLie群の大域的な性質(離散的な違い)はLie環の構造にあらわれてこない。離散的な違いはLCTの場合は符号のパラメータ±に対応して、±どちらも「一様」にSp2(R)を被覆している。。LCTを随伴作用させるとき±の違いは消えてただのSL2(R)=Sp2(R)の作用になることは、次のようにして理解できる。

Heisenberg代数への随伴作用

u=(u+,u)TC2, b=(x,i)T, MSL2(R)とする。
Tε(M)(ub)Tε(M)1=(Mu)b

この補題は計算公式としても有効である。

V=i2M21[M11x22xt+M22t2]とする。
t f(t)expVdt=(iM21(M11M21ixitM21)+M11x)f(t)expVdt=(iM21+M11x)f(t)expVdt
より演算子として
Tε(M)x=(iM21+M11x)Tε(M)

また、
f(t)expVdt=[f(t)expV]f(t)expVdt=(ixM21M22M21it)f(t)expVdt=(ixM21M11M22M21ix+M22(M11M21ix1M21it))f(t)expVdt=(M12ix+M22)f(t)expVdt
なので演算子として
Tε(M)i=(M12x+M22i)Tε(M)
となる。部分積分のところで、fが急激減少関数であるからt=±での値が0であると仮定した。省略するがM21=0である場合も同様である。

実際にLCTの微分表現が
Schwartz空間上のsl2R表現であることを確認する。

微分表現

E+=i2x2,E=i22,H=x+12
sl2RCHCE+CE

ddsT+(1s01)f(x)|s=0=ddsexp(i2sx2)f(x)|s=0=E+f(x)ddsT+(10s1)f(x)|s=0=dds(exp(sE)f(x))|s=0  (Weierstrass)=[dds,exp(sE)]f(x)|s=0=Ef(x)ddsT+(es00es)f(x)|s=0=ddse12sf(esx)|s=0=Hf(x)

途中Weierstrass変換の積分表示を微分演算子の表示に変えた。
以後、LCTの積分表示を微分演算子による表示に書き換えて、色々な公式を導くようにする。

Weierstrass変換

ea2f(x)=14πaf(t)exp((xt)24a)dt
証明: Weierstrass変換とそのイメージ

LCT微分演算子表示

Tε(M)=εexp(M111M21E+)exp(M21E)exp(M221M21E+)=εexp(M11M12E+)M22H   (iff M21=0)

M210のときWeierstrass変換の公式より
Tε(M)f(x)=ε12πiM21f(t)expi2M21[(M111)x2+(xt)2+(M221)t2]dt=εexp(M111M21E+)exp(M21E)exp(M221M21E+)f(x)
となる。
Tε(M)f(x)=εexp(i2M11M12x2)M11if(M11x)=εexp(i2M11M12x2)1M22f(M221x)=εexp(M11M12E+)M22Hf(x)
ただし、z12=1z,zHf(x)=zf(zx)となるように調整した。

sl2のexp明示公式

A=(a0a+aa0),ϕ=a02+a+a=detAとする。このとき
eA=(coshϕ+a0ϕ1sinhϕa+ϕ1sinhϕaϕ1sinhϕcoshϕa0ϕ1sinhϕ)

Lie代数の同型はLie群が単位元近傍で局所的に同構造であることを意味するので、単位元近傍s0でSchwartz空間上の表現(Lie同型写像)を対応させるとLCTの公式として次を得る

a0,s0
exps[a+E++aE+a0H]f(x)=T+(coshϕs+a0ϕ1sinhϕsa+ϕ1sinhϕsaϕ1sinhϕscoshϕsa0ϕ1sinhϕs)f(x)=ϕ2πasinhϕsf(t)dt×expi2a[(ϕcothϕs+a0)x22ϕsinhϕsxt+(ϕcothϕsa0)t2]

LCTの大まかなことがわかったのでSL2(R)の部分群に着目するなどして得られる系や具体例を見る。
T+(I)f(x)=f(x)は恒等変換。
T±(I)f(x)=i f(x)はパリティ変換。
T±(I)2=T(I)=1より{1=T+(I),T+(I)T(I)T(I),}は位数4の巡回部分群である。
M21=0の場合、LCTはスケール変換とeax2の乗算演算子の合成であり、これはBorel部分群に対応している。

LCTはFourier変換やLaplace変換を含んでいる。

Fourier変換

J=(0110)とする。
T+(J)f(x)=1iFf(x)=12πif(t)eixtdt
はFourier変換である(i倍違う点に注意。)。逆Fourier変換は
T+(J)f(x)=T+(J1)f(x)=iF1f(x)=i2πf(t)eixtdt
となる。Fourier変換を2回行うとパリティ変換となるが、それはLCTの公式としてT+(J)2=T+(I)を意味する。Fourier変換の4回合成は元にもどる(F4=1)が、i倍されるので{±1,T±(±J),T±(I)}は位数8の巡回部分群である。SL2(R)の範囲から逸脱してしまうが、パラメータを複素数に拡張した場合、LCTはLaplace変換を含む。
T+(0ii0)f(x)=12πf(t)extdt

実数階Fourier変換

Fourier変換の実数回作用Fαとは何であるか?
加法的な実数パラメータαRを持つ群でかつF1がFourier変換となっているような拡張を考えればいいとわかる。LCTはLie部分群として実数階Fourier変換を含んでいるのである。
{Rθ=(cosθsinθsinθcosθ) }=SO(2)SL(2,R)
部分群である回転群SO(2)で考えた場合、θ0の近傍で(Er=EE+)
exp(θEr)f(x)=T+(Rθ)f(x)=12πisinθf(t)expi2sinθ[(x2+t2)cosθ2xt]dt
が成立する。0<θ<πまではこの積分表示が成立するが、πを超えるときθ=πではこの表示が存在しないため等号が成立しない。しかし指数関数の加法性
exp(θ1Er)exp(θ2Er)=exp((θ1+θ2)Er)は成立すべきものであるので、θ=θ¯+πn(nZ, 0<θ¯<πと分解したらθRπZに対して積分表示を出せる。
T+(Rθ)f(x)=T+(Rπ)nT+(Rθ¯)f(x)=(i)n(1)nx12πisinθ¯f(t)expi2sinθ¯[(x2+t2)cosθ¯2xt]dt=(i)n12πisinθ¯f(t)expi2sinθ¯[(x2+t2)cosθ¯2(1)nxt]dt

また、Rπ/2=JであるからF=F1=eiπ/4T+(Rπ/2)となる。
以上より実数階Fourier変換は
Fα=eiπα/4T+(Rπα/2)
と結論付けられる。
なお、実数階Fourier変換の核関数をMehler核と呼ぶ。

Fourier変換の微分演算子表示

観賞用に特筆すべき系を書いておく。

eiπ4(d2dx2+x21)f(x)=12πf(t)eixtdt
eiπ(d2dx2+x2)=1

この公式は『数学の現在π』の第1講(小林俊行著)に紹介されている。

(余談ですが:僕はこの公式を高1で初めて見たときとても強い衝撃を受けて、演算子の計算を更に活発に行うようになり、表現論やリー代数と量子力学の関係に興味を持つ今に至ります。この公式が僕の数学の原点となっています。僕は上の公式の一般化を試みて、LCTの積構造の符号を場合分けをすること無く一発で表示できる方法が無いかと模索しました。結局符号部分の議論の詳細を見つけることができなかったので、実数階Fourier変換の計算からエスパーする形であのような符号の定義の仕方を導入しました。計算がうまく行ったから恐らく正しいと思いますが、文献に載ってるといった情報があれば教えてほしいと思います。)

K={(cosθsinθsinθcosθ)SL(2,R) },
A={(r00r1)SL(2,R) | r>0},
N+={(1x01)SL(2,R) | xR,}.

としたとき、行列をQR分解することで
SL2(R)=KAN+
というように各部分群の積で表せる。なのでLCTは実数階Fourier変換とスケール変換とeax2の乗算作用で生成されるということがわかる。(岩澤分解)

投稿日:20211224
更新日:20231115
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赤げふ
赤げふ
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東工大情報M1 数学,理論物理,Minecraft計算機/微分演算子の記事を書きます/主に表現論,量子群,物理の数理に興味があります

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