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円に接しまくるn次関数(解決編)

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$$\newcommand{a}[0]{\alpha} \newcommand{Aut}[0]{\operatorname{Aut}} \newcommand{b}[0]{\beta} \newcommand{C}[0]{\mathbb{C}} \newcommand{d}[0]{\delta} \newcommand{dis}[0]{\displaystyle} \newcommand{e}[0]{\varepsilon} \newcommand{F}[4]{{}_2F_1\left(\begin{matrix}#1,#2\\#3\end{matrix};#4\right)} \newcommand{farc}[2]{\frac{#1}{#2}} \newcommand{G}[0]{\Gamma} \newcommand{g}[0]{\gamma} \newcommand{Gal}[0]{\operatorname{Gal}} \newcommand{H}[0]{\mathbb{H}} \newcommand{id}[0]{\operatorname{id}} \newcommand{Im}[0]{\operatorname{Im}} \newcommand{Ker}[0]{\operatorname{Ker}} \newcommand{l}[0]{\left} \newcommand{L}[0]{\Lambda} \newcommand{la}[0]{\lambda} \newcommand{La}[0]{\Lambda} \newcommand{Li}[0]{\operatorname{Li}} \newcommand{li}[0]{\operatorname{li}} \newcommand{M}[4]{\begin{pmatrix}#1& #2\\#3& #4\end{pmatrix}} \newcommand{N}[0]{\mathbb{N}} \newcommand{o}[0]{\omega} \newcommand{O}[0]{\Omega} \newcommand{ol}[1]{\overline{#1}} \newcommand{ord}[0]{\operatorname{ord}} \newcommand{P}[0]{\mathfrak{P}} \newcommand{p}[0]{\mathfrak{p}} \newcommand{q}[0]{\mathfrak{q}} \newcommand{Q}[0]{\mathbb{Q}} \newcommand{r}[0]{\right} \newcommand{R}[0]{\mathbb{R}} \newcommand{Re}[0]{\operatorname{Re}} \newcommand{s}[0]{\sigma} \newcommand{t}[0]{\theta} \newcommand{T}[0]{\Theta} \newcommand{ul}[1]{\underline{#1}} \newcommand{vp}[0]{\varphi} \newcommand{vt}[0]{\vartheta} \newcommand{Z}[0]{\mathbb{Z}} \newcommand{z}[0]{\zeta} \newcommand{ZZ}[1]{\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z}} \newcommand{ZZt}[1]{(\mathbb{Z}/#1\mathbb{Z})^\times} $$

はじめに

 この記事では SunPillar さんの記事「 円に接しまくるn次関数 」にて提起された問題

 $n$$3$以上の整数とする。このとき$n$次多項式$f_n(x)$であって
$f_n(x)$の最高次の係数は正である。
・円$x^2+y^2=1$とグラフ$y=f_n(x)$$n-1$個の共有点を持ち、それらは全て接点である。
・またその接点のうち$x$座標が最も小さい点と最も大きい点において円$x^2+y^2=1$とグラフ$y=f_n(x)$は交差する。
を満たすようなものを求めよ。

について個人的に考察したことをまとめていきます。
 ちなみにこの記事ではこのような関数が一意に定まるかどうかについては考察しませんのであしからず。

一般項について

  SunPillarさんの記事 では$f_n(x)$の係数についての次のような予想が挙げられていました。

  • $n$が奇数なら$f_n(x)$は奇関数、$n$が偶数なら$f_n(x)$は偶関数となる。
  • 特に$f_n(x)=\sum^n_{k=0}a_kx^k$と置いたとき、$n$$k$の偶奇が異なるときは$a_k=0$が成り立つ。
  • $k=0,1,2,3,4$に対し$n$$k$の偶奇が一致していれば$a_k$
    \begin{align*} a_0&=(-1)^{\frac n2} &a_1&=(-1)^{\frac{n-1}2}\sqrt{n(n-2)}\\ a_2&=(-1)^{\frac n2-1}\frac{(n-1)^2}2 &a_3&=(-1)^{\frac{n+1}2}\farc{(n-1)^4}{6\sqrt{n(n-2)}}\\ a_4&=(-1)^{\frac n2}\frac{(n-1)^4}{24} \end{align*}
    と表せる。

 私はまず同記事に載っている$n=3,4,\ldots,16$に対する$f_n(x)$の具体値とこの予想を参考に$f_n(x)$の一般項について考察し、その結果次のような法則性が見出されました。

 $k=5,6$に対し$n$$k$の偶奇が一致していれば$a_k$
\begin{align*} a_5&=(-1)^{\frac{n-1}2}\frac{(n-3)(n+1)}{120}\frac{(n-1)^6}{(n(n-2))^{\frac32}}\\ a_6&=(-1)^{\frac n2-1}\frac{(n-4)(n+2)}{720}\frac{(n-1)^6}{n(n-2)} \end{align*}
と表せる。
 また$k=0,2,4,6$に対し$a_{n-k}$
\begin{align*} a_n&=\frac{2^{n-2}(n-1)^{n-2}}{n^{\frac n2}(n-2)^{\frac{n-2}2}}& a_{n-2}&=-\frac{2^{n-4}(n-1)^{n-2}}{n^{\frac{n-4}2}(n-2)^{\frac{n-2}2}}\\ a_{n-4}&=\frac12\frac{2^{n-6}(n-1)^{n-4}}{(n(n-2))^{\frac{n-6}2}}& a_{n-6}&=-\frac{n-5}6\frac{2^{n-8}(n-1)^{n-6}}{(n(n-2))^{\frac{n-8}2}} \end{align*}
と表せる。

 一見何の法則性も見えませんが流石にこれだけのデータを揃えたことで一筋の光明が差し込み、いくつかの試行錯誤の末に以下の予想を立てることができました。

 $n$$k$の偶奇が一致していれば
$$a_k=(-1)^{\frac{n-k}2}\frac{\l(\frac{n+k-4}2\r)!}{\l(\frac{n-k}2\r)!k!}\frac{2^{k-2}(n-1)^k}{(n(n-2))^{\frac{k-2}2}}$$
が成り立つ。
 特に$A=(n-1)/\sqrt{n(n-2)}$とおくと、$n=2m$のとき
$$f_n(x)=\frac{n(n-2)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-2)!}{(m-k)!(2k)!}(2Ax)^{2k}$$
が成り立ち、$n=2m+1$のとき
$$f_n(x)=\frac{n(n-2)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-1)!}{(m-k)!(2k+1)!}(2Ax)^{2k+1}$$
が成り立つ。

$\sin$版チェビシェフ多項式

  Desmos で実験してみると上の予想は実際に正しそうだということがわかります。
 なので次に
\begin{align*} F_m(x) &=(2m-1)\cdot\frac{2m(2m-2)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-2)!}{(m-k)!(2k)!}(2x)^{2k}\\ G_m(x) &=2m\cdot\frac{(2m+1)(2m-1)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-1)!}{(m-k)!(2k+1)!}(2x)^{2k+1} \end{align*}
という多項式の性質について考えました。
 まずは閉じた形を求めようと母関数を考えたりなんだりした結果次のような性質を持つことがわかりました。

\begin{align*} F_m(\sin\t)&=\frac12((2m-2)\cos2m\t+2m\cos(2m-2)\t)\\ G_m(\sin\t)&=\frac12((2m-1)\cos(2m+1)\t+(2m+1)\cos(2m-1)\t) \end{align*}
が成り立つ。特に
\begin{align*} F_m(\sin\t)&=(2m-1)\cos(2m-1)\t\cos\t+\sin(2m-1)\t\sin\t\\ G_m(\sin\t)&=2m\sin2m\t\cos\t-\cos2m\t\sin\t \end{align*}
とも表せる。

 このことについては $\sin$版チェビシェフ多項式 ほか という記事でも紹介しているため、ここでは特に解説しません。
 いまこれを$f_n(x)$について当てはめると以下のような主張が現れます。

$$A=\frac{n-1}{\sqrt{n(n-2)}},\quad g_n(x)=Af_n(x/A)$$
とおくと$n$が偶数のとき
$$g_n(\sin\t) =\frac{(-1)^{\frac n2}}{\sqrt{n(n-2)}}((n-1)\cos(n-1)\t\cos\t+\sin(n-1)\t\sin\t)$$
が成り立ち、$n$が奇数のとき
$$g_n(\sin\t) =\frac{(-1)^{\frac{n-1}2}}{\sqrt{n(n-2)}}((n-1)\sin(n-1)\t\cos\t-\cos(n-1)\t\sin\t)$$
が成り立つ。
 特に$\t\mapsto\t+\frac\pi2$とすると$n$の偶奇に依らず
$$g_n(\cos\t)=-\frac1{\sqrt{n(n-2)}}((n-1)\sin((n-1)\t)\sin\t+\cos((n-1)\t)\cos\t)$$
が成り立つ。

円に接しまくる関数

 いま円$x^2+y^2=1$とグラフ$y=f_n(x)$との関係について考えていたわけですが、これらの図形を$A$倍拡大することでこれは円$x^2+y^2=A^2$とグラフ$y=g_n(x)$についての関係を考える問題に帰着できます。
 そのことに注意して$g_n(\cos\t)$の満たす性質を考えると以下のことがわかります。

\begin{align*} g'_n(\cos\t)&=\sqrt{n(n-2)}\cos((n-1)\t)\\ g''_n(\cos\t)&=\sqrt{n(n-2)}(n-1)\frac{\sin((n-1)\t)}{\sin\t} \end{align*}
が成り立つ。

 $x=\cos\t$において$\dis\frac{d}{dx}=-\frac1{\sin\t}\frac{d}{d\t}$が成り立つことに注意するとわかる。

$\dis\frac{(n-1)^2\sin^2\t+\cos^2\t}{n(n-2)}=A^2-\cos^2\t$が成り立つ。

 自明。

 $\t$についての方程式
$$\cos^2\t+g(\cos\t)^2=A^2$$
$0\leq\t\leq\pi$において少なくとも$n-1$個の解を持つ。

 $\phi=\phi(\t)$
$$\cos\phi=\frac{\cos\t}{\sqrt{(n-1)^2\sin^2\t+\cos^2\t}},\quad \sin\phi=\frac{(n-1)\sin\t}{\sqrt{(n-1)^2\sin^2\t+\cos^2\t}}$$
によって定めると定理3より
$$g_n(\cos\t) =-\sqrt{A^2-\cos^2\t}\cos((n-1)\t-\phi)$$
が成り立つ。
 したがって
\begin{align*} \cos^2\t+g(\cos\t)^2-A^2 &=(A^2-\cos^2\t)(\cos^2((n-1)\t-\phi)-1)\\ &=\frac{A^2-\cos^2\t}2(\cos(2(n-1)\t-2\phi)-1) \end{align*}
と変形でき、これが$0$となるためには
$$(\cos2\phi,\sin2\phi)=(\cos(2(n-1)\t),\sin(2(n-1)\t))$$
が成り立つことが必要十分である。
 いま$\t:0\to\pi$において$(\cos\phi,\sin\phi)$は単位円を半周するので$(\cos2\phi,\sin2\phi)$は単位円を一周する。それに対して$(\cos(2(n-1)\t),\sin(2(n-1)\t))$は単位円を$n-1$周するので少なくとも$n-1$個の点$\t$において
$$(\cos2\phi,\sin2\phi)=(\cos(2(n-1)\t),\sin(2(n-1)\t))$$
が成り立つことがわかる。

$$\cos^2\t+g(\cos\t)^2=A^2$$
の解$\t$に対して
$$\cos\t+g_n(\cos\t)g'_n(\cos\t)=0$$
が成り立つ。また$\t=0,\pi$においては
$$1+g_n(\cos\t)g''_n(\cos\t)+g'_n(\cos\t)^2=0$$
も成り立つ。

$$g_n(\cos\t)=-\sqrt{A^2-\cos^2\t}\cos((n-1)\t-\phi)$$
であったので
$$g(\cos\t)=\mp\sqrt{A^2-\cos^2\t}$$
なる$\t$に対して
$$\cos((n-1)\t-\phi)=\pm1$$
特に
$$(\cos((n-1)\t),\sin((n-1)\t))=\pm(\cos\phi,\sin\phi)$$
が成り立つ(複号同順)。
 したがって
\begin{align*} \cos\t+g_n(\cos\t)g'_n(\cos\t) &=\cos\t\mp\sqrt{A^2-\cos^2\t}\cdot\pm\frac{\cos\t}{\sqrt{A^2-\cos^2\t}}=0\\ 1+g_n(\cos\t)g''_n(\cos\t)+g'_n(\cos\t)^2 &=1\mp\sqrt{A^2-\cos^2\t}\cdot\pm\frac{(n-1)^2}{\sqrt{A^2-\cos^2\t}}+\frac{\cos^2\t}{A^2-\cos^2\t}\\ &=-(n-1)^2+\frac{A^2}{A^2-\cos^2\t}\\ &=-(n-1)^2+\frac{A^2}{A^2-1}=0\quad\l(\t=0,\pi\r) \end{align*}
がわかる。

結論

 以上により$f_n(x)$は所望の性質を持っていたことがわかります。
 ということで上でわかったことについてまとめておきましょう。

$$A=\frac{n-1}{\sqrt{n(n-2)}}$$
とおき、$n$が偶数のとき
$$f_n(x)=\l\{\begin{array}{ll} \dis\frac{n(n-2)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-2)!}{(m-k)!(2k)!}(2Ax)^{2k} &(n=2m)\\ \dis\frac{n(n-2)}4\sum^m_{k=0}(-1)^{m-k}\frac{(m+k-1)!}{(m-k)!(2k+1)!}(2Ax)^{2k+1} &(n=2m+1) \end{array}\r.$$
とすると$f_n(x)$は以下の性質を満たす。

  • $x^2+f_n(x)^2=1$$n-1$個の解を持ち、それらの解は
    $$\cos\frac{\pi j}{n-1}\leq Ax\leq\cos\frac{\pi(j-1)}{n-1}\quad(j=1,2,\ldots,n-1)$$
    において一つずつ存在する。特に$x=\pm1/A$はその解の一つとなる。
  • またその解$x$に対し$(x^2+f_n(x)^2)'=0$が成り立つ。
  • 特に$x=\pm1/A$に対しては$(x^2+f_n(x)^2)''=0$も成り立つ。

おわりに

 はい。なかなか手応えのある問題でしたがとりあえず形にはなってよかったと思います。
 特に言うことも思いつかないのでこの記事はこんなところで。では。  

投稿日:20231021
OptHub AI Competition

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投稿者

子葉
子葉
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主に複素解析、代数学、数論を学んでおります。 私の経験上、その証明が簡単に探しても見つからない、英語の文献を漁らないと載ってない、なんて定理の解説を主にやっていきます。 同じ経験をしている人の助けになれば。最近は自分用のノートになっている節があります。

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