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de Rhamの定理への道3:与えられたチャートから位相と滑らかな構造を構成する

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教科書:John M. Lee, Introduction to Smooth Manifolds(second edition)

このページの内容

  • 先にチャートが与えられた集合に対して、位相と滑らかな構造を導入する

Smooth Manifold Chart Lemma

定義に従うと$M$が滑らかな多様体であることを示すには

  1. $M$が位相空間であること
  2. $M$が位相多様体であること
  3. $M$のアトラスが滑らかであること

という3ステップが必要になる。
もしチャートが与えられている状況の場合、次の命題を使うことで、チャートを元に位相を導入し$M$が位相多様体・滑らかな多様体であることを一気に示すことができる。

Smooth Manifold Chart Lemma(p21, 補題1.35)

$M$を集合とする。$M$の被覆$\{ U_\alpha \}_{\alpha \in A} $と写像の集合$\{ \phi _\alpha :U_\alpha \to \mathbb R^n \}_{\alpha \in A}$が次の条件をすべて満たすと仮定する。

  1. 任意の$\alpha$に対して$\phi _\alpha :U_\alpha \to \phi(U_\alpha)$は全単射
  2. 任意の$\alpha, \beta$に対して$\phi_\alpha(U_\alpha \cap U_\beta), \phi_\beta(U_\alpha \cap U_\beta)$はともに$\mathbb R ^n$の開集合
  3. $U_\alpha \cap U_\beta \neq \varnothing$ならば$\phi_\beta \circ \phi_\alpha ^{-1}: \phi_\alpha(U_\alpha \cap U_\beta) \to \phi_\beta(U_\alpha \cap U_\beta)$は滑らかな写像
  4. $\{ U_\alpha \}_\alpha $は可算個
  5. 異なる2点$p, q\in M$に対してある$\alpha, \beta$があって次を満たす
    $$p\in U_\alpha, q\in U_\beta, U_\alpha \cap U_\beta = \varnothing$$

このとき$\mathcal B = \{ \phi_\alpha ^{-1} (O) | O: \mathbb R ^ n\text{の開集合}, \alpha \in A \}$を開基とする位相を入れることで、$M$$(U_\alpha, \phi_\alpha)$はアトラスとする滑らかな多様体となる。

(証明の流れ)

  1. $\mathcal B$が開基となる条件を満たすことを示す
  2. $\mathcal B$が開基となる位相を$M$に導入する
  3. その位相のもとで$M$が位相多様体であることを示す。
  4. $(U_\alpha, \phi_\alpha)$が滑らかなアトラスであることを示す

STEP1:$\mathcal B$が開基となる2条件を示す( こちら の命題2)。
$\{ U_\alpha \}_\alpha$$M$の被覆なので、1つ目の条件は明らか。
あとは「任意の$p\in \phi_\alpha ^{-1} (V) \cap \phi_\beta ^{-1} (W)$に対して$p\in \phi_\gamma ^{-1} (O) \subset \phi_\alpha ^{-1} (V) \cap\phi_\beta ^{-1} (W)$となる$\phi_\gamma ^{-1} (O)$が存在すること」を示せばよい。

(注意:今回は$\phi_\gamma ^{-1} (O) = \phi_\alpha ^{-1} (V) \cap\phi_\beta ^{-1} (W)$となることが分かる)

$p\in \phi_\alpha ^{-1} (V) \cap \phi_\beta ^{-1} (W)$とする。

$U_\alpha, U_\beta$$M$の集合、$V, W$$\mathbb R^n$の開集合であることに気を付ける)

(i)の単射性より
$$\phi_\alpha ^{-1} (V) \cap\phi_\beta ^{-1} (W)=\phi_\alpha^{-1}(V\cap (\phi_\beta \circ \phi_\alpha ^{-1})^{-1}(W))$$
が成り立つ。
$f=\phi_\beta \circ \phi_\alpha ^{-1}:\phi_\alpha (U_\alpha \cap U_\beta) \to \phi_\beta (U_\alpha \cap U_\beta)\hookrightarrow \mathbb R^n$
とおくと、$W$$\mathbb R^n$の開集合なので、(iii)$f$の連続性より$f^{-1}(W)$$\phi_\alpha (U_\alpha \cap U_\beta)$の中での開集合である。
また(ii)より$\phi_\alpha (U_\alpha \cap U_\beta)$$\mathbb R^n$の開集合なので、$f^{-1}(W)は\mathbb R^n$の開集合である。
よって、$V\cap (\phi_\beta \circ \phi_\alpha ^{-1})^{-1}(W)$は開集合なので、開基の2つめの条件が示せた。

STEP2$\mathcal B$の元のいくつかの和集合の全体を$M$の位相とする。

STEP3$M$が位相多様体であることを示す。

$\mathcal B$の定義より、任意の$\alpha$に対して$\phi _\alpha :U_\alpha \to \phi(U_\alpha)$は明らかに同相写像。
(iv)より第二可算公理を満たす。
(v)よりハウスドルフの公理を満たす。

STEP4:(iii)より$(U_\alpha, \phi_\alpha)$が滑らかなアトラスである。

  • 本当は$(U_\alpha, \phi_\alpha)$がチャートとなる位相構造は1つしかないことも示したかったが、今回は省略。$\phi _\alpha$が連続となる初期位相の議論となるので、いつか補足します。
  • 折角証明した命題なので、今後の記事で具体例に当てはめようと思います。
投稿日:31日前
更新日:25日前
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投稿者

地方国立大数学科の修士卒。社会人になってからも定期的に数学したくなる。いつか論文を書いて投稿するのが夢。専門で勉強していたのは多様体とその一般化。博士や研究者の方を尊敬してやまない。 今はデータ関係の仕事(分析、可視化など)をしています。

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