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大学数学基礎解説
文献あり

パワーな定積分

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はじめに

今回はとある依頼を受けて次の定積分を計算したので,その結果を過程と共にここに記そうと思います(といっても,ただひたすら原始関数を求めて逐次積分するだけなので,斬新な発想とかはほとんどありません…).

次の定積分を計算せよ.
01dx101dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2

因みにこの定積分は,「1辺の長さが1の正方形平板2枚を間隔1で平行に置いたときの形態係数」という値を導出する際に表れます.本題からそれるので,ここで形態係数については説明しません.詳しくは Wikipedia 等を参照して頂きたいと思います.

解答

早速計算を始めます.被積分関数の分母はどの変数についても複2次多項式なので,どれでも積分できますが,ここではとりあえずy2で積分します.

y2で積分

コチラの記事 内にある複2次多項式の逆数の積分より,
01dy2{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2=12{(x2x1)2+1}32[(x2x1)2+1(y2y1)(x2x1)2+1+(y2y1)2+Arctan(y2y1(x2x1)2+1)]01=12{(x2x1)2+1}32{(x2x1)2+1(1y1)(x2x1)2+1+(1y1)2+(x2x1)2+1y1(x2x1)2+1+y12}+12{(x2x1)2+1}32{Arctan(1y1(x2x1)2+1)+Arctan(y1(x2x1)2+1)}
となります.

y1で積分

一気に被積分関数がぐちゃぐちゃになりましたが,じっと眺めているとy1に関しては比較的簡単な形をしていることがおぼろげながら見えてくると思います.そこで次はy1で積分することにします.すると最初の2項が
01(x2x1)2+1y1(x2x1)2+1+y12dy1=(x2x1)2+12[log|(x2x1)2+1+y12|]01=(x2x1)2+12log((x2x1)2+2(x2x1)2+1)
01(x2x1)2+1(1y1)(x2x1)2+1+(1y1)2dy1=10(x2x1)2+1z(x2x1)2+1+z2(dz)(z=1y1)=01(x2x1)2+1z(x2x1)2+1+z2dz=(x2x1)2+12log((x2x1)2+2(x2x1)2+1)
と計算されます.後ろの2項は コチラの記事 内のArctan(ax+b)の積分より,
01Arctan(y1(x2x1)2+1)dy1=[y1Arctan(y1(x2x1)2+1)(x2x1)2+12log|1+(y1(x2x1)2+1)2|]01=Arctan(1(x2x1)2+1)(x2x1)2+12log((x2x1)2+2(x2x1)2+1)
01Arctan(1y1(x2x1)2+1)dy1=10Arctan(z(x2x1)2+1)(dz)(z=1y1)=01Arctan(z(x2x1)2+1)dz=Arctan(1(x2x1)2+1)(x2x1)2+12log((x2x1)2+2(x2x1)2+1)

と計算できます.従って,
01dy101dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2=1{(x2x1)2+1}32Arctan(1(x2x1)2+1)
が成り立ちます.被積分関数がちょっとスッキリして安心するポイントです.

x2で積分

次はx1,x2のいずれで積分しても良いですが,とりあえずx2で積分してみます. コチラの記事 内の,分母が2次式の3/2乗の積分を用いて部分積分することで,
011{(x2x1)2+1}32Arctan(1(x2x1)2+1)dx2=[x2x11+(x2x1)2Arctan(1(x2x1)2+1)]0101x2x11+(x2x1)2(x2x1){(x2x1)2+1}3211+(1(x2x1)2+1)2dx2=1x11+(1x1)2Arctan(11+(1x1)2)+x11+x12Arctan(11+x12)+01x2x11+(x2x1)2x2x1{(x2x1)2+1}32(x2x1)2+1(x2x1)2+2dx2=1x1(1x1)2+1Arctan(1(1x1)2+1)+x1x12+1Arctan(1x12+1)+01(x2x1)2((x2x1)2+1)((x2x1)2+2)dx2
が成り立ちます.最後の積分は,
01(x2x1)2((x2x1)2+1)((x2x1)2+2)dx2=01{1(x2x1)2+1+2(x2x1)2+2}dx2=[Arctan(x2x1)+2Arctan(x2x12)]01=Arctan(1x1)+2Arctan(1x12)+Arctan(x1)2Arctan(x12)=Arctan(x11)2Arctan(x112)Arctan(x1)+2Arctan(x12)
と計算されるので,与式をy2,y1,x2で積分した結果は,
01dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2=1x1(1x1)2+1Arctan(1(1x1)2+1)+x1x12+1Arctan(1x12+1)Arctan(x1)+2Arctan(x12)+Arctan(x11)2Arctan(x112)
となります.

x1で積分

最後にx1で各項を積分しましょう.()×Arctanという形が入っている2つ目の項は先ほどと同様に部分積分を使って,
01x1x12+1Arctan(1x12+1)dx1=[x12+1Arctan(1x12+1)]0101x12+1x1(x12+1)32x12+1x12+2dx1=π4+2Arctan(12)+01x1x12+2dx1=π4+2Arctan(12)+[12log|x12+2|]01=π4+2Arctan(12)12log23
と計算できます.これより,
011x1(1x1)2+1Arctan(1(1x1)2+1)dx1=10zz2+1Arctan(1z2+1)(dz)(z=1x1)=01zz2+1Arctan(1z2+1)dz=π4+2Arctan(12)12log23
も成り立ちます.残りの項については,
01Arctan(x1)dx1=[x1Arctan(x1)12log(1+x12)]01=π412log2
012Arctan(x12)dx1=2[x1Arctan(x12)22log(1+x122)]01=2Arctan(12)log32
01Arctan(x11)dx1=z=1x101Arctan(z)dz=π4+12log2
012Arctan(x112)dx1=z=1x1012Arctan(z2)dz=2Arctan(12)+log32
が成り立つので,x1で積分した結果は
01dx101dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2=π4+2Arctan(12)12log23π4+2Arctan(12)12log23π4+12log2+2Arctan(12)log32π4+12log2{2Arctan(12)+log32}=42Arctan(12)+log43π
これが求める値です.そこそこキレイな値が得られました!

この結果を定理として挙げておきます.

次が成り立つ.

01dx101dy101dx201dy21{(x2x1)2+(y2y1)2+1}2=42Arctan(12)+log43π

実数値

WolframAlphaで計算したところ,
42Arctan(12)+log43π=0.6277684243
でした.

発展

上と全く同様の轍を踏むことで,次の定積分も計算できます.

L,Hを正の実定数とするとき,次が成り立つ.ここで,w=HLである.
1L20Ldx10Ldy10Ldx20Ldy2H2{(x2x1)2+(y2y1)2+H2}2=4w2+1Arctan(1w2+1)4wArctan(1w)+w2log{(w2+1)2w2(w2+2)}

実はこの値は,「1辺の長さがLの正方形平板2枚を間隔Hで平行に置いたときの形態係数」を求める際に表れます.L=H=1即ちw=1を代入すると,上で得た値と等しくなることも確認できます.

さいごに

初めてこの定積分を見たときは,閉じた値が求まりそうになかったので絶望しかけました.が,最終的に閉じた値が得られて良かったです.

今回の記事は以上です.
お読み頂きありがとうございました.

参考文献

投稿日:2022510
OptHub AI Competition

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