昔に開写像定理に想いを馳せて書いたメモが埋もれていたので、せっかくなので記事にしてみたい。
しょうもない例を交えつつ、写像の像についてどの空間の位相で考えているかもぼんやり考えてみたい。
関数解析の定理に開写像定理という有名な定理がある。
$X$, $Y$を Banach 空間とし、$T: X \to Y$ を上への有界線型写像とする。
この時、開集合$M \subset X$に対して$T(M) \subset Y$も開集合である。
証明には Baire のカテゴリー定理を要するし、正直あんまりスッキリ頭に入る内容でもないので割愛することにして・・・上へのという条件について考えてみたい。
簡単なケースとして$X=Y=\R^3$として$T: \R^3 \to \R^3$を考えてみたい。舞台として線型空間での線型写像を扱っているので、ちょっと代数学チックな表現をするなら「$T$は線型空間準同型写像である」とも言える。つまり線型空間としての構造を維持する。
このことを頭に入れつつ$T: (x_1,x_2,x_3) \mapsto (x_1,x_2,0)$という連続な射影を考えてみる。これは開写像定理の前提条件である「上への」を満たさない。この時何が起こるのだろうか?
例えば、$\mathcal{B} = \{|x| < 1; x \in \R^3 \}$ という $\R^3$の開球を考えると、この$T$による像$T(\mathcal{B})$は$\{ x_1^2 + x_2^2 < 1; (x_1, x_2) \in \R^2 \}$である。これは明らかに$\R^3$の開集合ではない。というのもこれは$\R^3$の中の “平べったい” 集合なので、$x \in T(\mathcal{B})$を中心とするいかなる小球も$T(\mathcal{B})$に含まれないからである。
この考察をもとに、先ほど頭に入れたことに戻る。つまり、線型空間の構造を維持する写像$T$が上への写像でない場合、写像先の空間$Y$の中で$T(X)$はいずれかの方向に “潰れている” みたいなイメージになると思う。(無限次元のケースだとこの表現はあまりに雑であるが・・・)
潰れているなら$Y$の中の小開球が入るスペースがなくなるので、$X$のいかなる集合の$T$による像も開集合ではなくなる。
・・・というのが「上への」という条件が重要である直感的な理由かな?と思っている。
この記事を書きながらお夜食にドーナッツをいただきたかったので、タイトルのドーナッツをお題に一言書いて終える。
隣の部屋に表面がないドーナッツが置いてあるというファンタジーを考えて、障子越しに投影されたドーナッツの影を見るということを考える。この時、どの角度から見ても障子の上に境界のない開集合としてドーナッツは美味しそうにふっくらと投影されている。何故なら、隣の部屋という$\R^3$空間が、障子という$\R^2$空間の上にうつっているからである。$X=\R^3$, $Y=\R^2$にしてしまえば、$T: (x_1, x_2, x_3) \mapsto (x_1, x_2)$は今度こそ開写像になるのである。(先程は$Y=\R^3$としていたので、ぺちゃんこに潰れた悲しいドーナッツになってしまったのである!)