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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその1 p群の指数pの部分群

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はじめに

これから代数学の演習結果もメモしていきたいと思います.隔日ぐらいで投稿できれば理想ですが…(現在は更新されていません)

問題は参考文献[1]から適当に見繕っていくこともそうでないこともあります.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

問題と解答

$G$(有限群とは限らない)において,$G$の中心$Z$の指数が$p^n$($p$は素数,$n$は正の整数)であるとする.$G$の部分群$H$の指数が$p$であれば,$H$$G$の正規部分群であることを示せ.(お茶の水女子大)

感想

最初問題を見たときは(以下に示す)補題2を知らなかったので,どこから手を付ければよいか分かりませんでした.補題2を知れば$Z \not\subset H$$Z \subset H$で場合分けろ,というヒント(本に書いてありました)も頷けます.しかし,場合分けたら直ぐ従うみたいに書かれていましたが,ホントにそうなんでしょうか….解答ではそれなりに纏まっていますが,個人的には前者の場合が「直ぐ」とはいきませんでした….
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長い
長い証明を表示

$G$の単位元を$e$で表す.$Z \not\subset H$であるとする.このとき,$z \in Z$$z \notin H$となる元$z$が取れる.まず,$z^l \in H$となる整数$2 \leq l \leq p$の存在を示す$z$の位数$k$$p-1$以下であったとすると,$z^k=e \in H$となるから$l=k$とすればよい.$z$の位数$k$$p$以上もしくは無限であったとすると,$e,z,z^2, \cdots ,z^{p-1}$は全て互いに相異なる.従って,$|G/H|=p$であることから,$e,z,z^2,\cdots,z^p$の中には$H$を法として合同であるペアが存在する(鳩ノ巣原理).それを$z^{l_1},z^{l_2} \, (0 \leq l_1< l_2 \leq p)$とすると,$z^{l_2-l_1} \in H$となる.即ち,$2 \leq l \leq p$を満たす整数$l$が存在して,$z^l \in H$となる.ここで$l=1$が外されているのは$z \notin H$による.以上より,$z^l \in H$となる整数$2 \leq l \leq p$の存在が示された.そのような整数$l$の内最小のものを改めて$l$とおく.このとき$|\langle z \rangle H/H|=l$である.
さて,
$$|G/ZH \times ZH/H|=|G/H|=p<\infty$$
であるから,特に$|ZH/H|$は有限で,$p$の約数である.更に$\langle z \rangle \subset Z$より
$$|ZH/H|=|ZH/\langle z \rangle H \times \langle z \rangle H/H|$$
が成り立つが,$|ZH/H|, \, |\langle z \rangle H/H|$が共に有限であることから
$$|ZH/H|=|ZH/\langle z \rangle H \times \langle z \rangle H/H|= |ZH/\langle z \rangle H| \cdot l$$
が成り立つ.よって,
$$p=|G/H| = |G/ZH| \cdot |ZH/\langle z \rangle H| \cdot l$$
が成り立つ.今$2 \leq l \leq p$であったから,$l=p$となるしかなく,このとき
$$1=|G/ZH| \cdot |ZH/\langle z \rangle H|$$
が成り立つ.これより$|G/ZH|=1$となるので$G=ZH$が成り立つ.すると,任意の$G$の元は$z' \in Z$$h \in H$によって$z'h$と表される.よって任意の$x \in H$に対して
$$z'h \cdot x (z'h)^{-1}=hxh^{-1} \in H$$
が成り立つので,$H$$G$の正規部分群である.

次に,$Z \subset H$であるとする.$\pi : G \rightarrow G/Z$を自然な準同型とする.$H$$G$の部分群であるから,その$\pi$による像$\pi(H)=H/Z$$G/Z$の部分群である.$|G/Z|=p^n(<\infty), \, |G/H|=p(<\infty)$であることから,
$$\frac{|G/Z|}{|H/Z|}=|G/H|=p$$
が成り立つ.即ち,$H/Z$$p$$G/Z$の指数$p$の部分群である.一般に$p$群の指数$p$の部分群は正規であるので,$H/Z$は正規部分群である.よって,その$\pi$による逆像$\pi^{-1}(H/Z)=HZ=H \, (\because Z \subset H)$$G$の正規部分群である.以上より題意は示された.(証明終)

短い
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$G$の単位元を$e$で表す.$Z \not\subset H$であるとする.すると$z \in Z$$z \notin H$となる元$z$が取れる.このとき$z \notin H$より$|\langle z \rangle H/H| \geq 2$である.さて,
$$|G/ZH \times ZH/H|=|G/H|=p<\infty$$
であるから,特に$|ZH/H|$は有限で,$p$の約数である.更に$\langle z \rangle \subset Z$より
$$|ZH/H|=|ZH/\langle z \rangle H \times \langle z \rangle H/H|$$
が成り立つが,$|ZH/H|$が有限であるから,$|ZH/\langle z \rangle H|, \, |\langle z \rangle H/H|$も共に有限で,
$$|ZH/H|=|ZH/\langle z \rangle H \times \langle z \rangle H/H|= |ZH/\langle z \rangle H| \cdot |\langle z \rangle H/H|$$
が成り立つ.よって,
$$p=|G/H| = |G/ZH| \cdot |ZH/\langle z \rangle H| \cdot |\langle z \rangle H/H|$$
が成り立つ.今$|\langle z \rangle H/H| \geq 2$であったから,$|\langle z \rangle H/H|=p$となるしかなく,このとき
$$1=|G/ZH| \cdot |ZH/\langle z \rangle H|$$
が成り立つ.これより$|G/ZH|=1$となるので$G=ZH$が成り立つ.すると,任意の$G$の元は$z' \in Z$$h \in H$によって$z'h$と表される.よって任意の$x \in H$に対して
$$z'h \cdot x (z'h)^{-1}=hxh^{-1} \in H$$
が成り立つので,$H$$G$の正規部分群である.

次に,$Z \subset H$であるとする.$\pi : G \rightarrow G/Z$を自然な準同型とする.$H$$G$の部分群であるから,その$\pi$による像$\pi(H)=H/Z$$G/Z$の部分群である.$|G/Z|=p^n(<\infty), \, |G/H|=p(<\infty)$であることから,
$$\frac{|G/Z|}{|H/Z|}=|G/H|=p$$
が成り立つ.即ち,$H/Z$$p$$G/Z$の指数$p$の部分群である.一般に$p$群の指数$p$の部分群は正規であるので,$H/Z$は正規部分群である.よって,その$\pi$による逆像$\pi^{-1}(H/Z)=HZ=H \, (\because Z \subset H)$$G$の正規部分群である.以上より題意は示された.(証明終)

今回使った事実

特に断らない限り,群$G$の単位元を$e$で表します.

$G$を群,$H,N$$N \subset H \subset G$を満たす部分群とする.このとき,次が成り立つ.
$$|G/N|=|G/H \times H/N|$$
$|G/H|, \, |H/N|$が有限であれば,次が成り立つ.
$$|G/N|=|G/H| \cdot |H/N|$$

証明を表示

$G/H$の完全代表系を$\{g_i\}_{i \in I}$$H/N$の完全代表系を$\{h_j\}_{j \in J}$とする.すると,
$$G=\bigcup_{i \in I}g_iH=\bigcup_{i \in I}g_i\bigcup_{j \in J}h_jN=\bigcup_{(i,j) \in I \times J}g_ih_jN$$
が成り立つ.ここで,どの集合の和に関しても互いに共通部分は持たない.従って,
$$|G/N|=|I \times J|=|G/H \times H/N|$$
が成り立つ.(証明終)

$p$を素数とする.$G$$p$群,$H$$G$の指数$p$の部分群とすると,$H$は正規部分群である.

証明を表示

正の整数$n$によって$|G|=p^n$と表し,$n$に関する帰納法で補題を示す.まず,$n=1$のときは$H=\{e\}$となるので明らかに正規である.
次に,$1 \leq n \leq k$のとき題意が示されたとする.このとき$n=k+1$において題意が成り立つことを見る.$G$の中心を$Z$とする.一般に$p$群の中心は自明でないので,$z \in Z \backslash \{e\}$が取れる.$z$の位数は$p$の倍数であるから,$e,z,z^2, \cdots ,z^{p-1}$は全て互いに相異なる.従って,$e,z,z^2,\cdots,z^p$の中には$H$を法として合同であるペアが存在する(鳩ノ巣原理).それを$z^{l_1},z^{l_2} \, (0 \leq l_1< l_2 \leq p)$とすると,$z^{l_2-l_1} \in H$となる.即ち,$1 \leq l \leq p$を満たす整数$l$が存在して,$z^l \in H$となる.そのような整数$l$の内最小のものを改めて$l$とおく.
$1 \leq l \leq p-1$とする.このとき$\langle z^l \rangle \subset H$であるから,
$$|G/\langle z^l \rangle|=|G/H| \cdot |H/\langle z^l \rangle| = p \cdot |H/\langle z^l \rangle|$$
が成り立つ.よって$H/\langle z^l \rangle$は群$G/\langle z^l \rangle$の指数$p$の部分群である.$z$の位数が$p$の倍数であることと$z \neq e$であることから$z^l \neq e$であるので,$|G/\langle z^l \rangle| \leq p^{k}$が成り立つ.従って帰納法の仮定により$H/\langle z^l \rangle$は正規.$G$に戻れば$H$が正規であることを導く.
$l=p$とする.$z^p \neq e$であれば上と同様に示せる.$z^p=e$であるなら,$l$の最小性から$G/H$の完全代表系として$e,z,\cdots,z^{p-1}$が取れるので,$G=\langle z \rangle H$が成り立つ.すると,任意の$G$の元は$z^lh \, (0 \leq l \leq p-1, \, h \in H)$の形で書ける.よって任意の$x \in H$に対して
$$z^lh \cdot x \cdot (z^lh)^{-1}=hxh^{-1} \in H \hspace{0.2in} (\because z \in Z)$$
が成り立つので$H$は正規である.以上より,$n=k+1$においても題意が成り立つことが示された.(証明終)

$G,H$を群,$\varphi : G \rightarrow H$を群準同型とする.$\varphi(G)$の正規部分群$N$に対して,その$\varphi$による逆像$\varphi^{-1}(N)$$G$の正規部分群である.

証明を表示

任意の$x \in \varphi^{-1}(N)$と任意の$g \in G$に対して,
$$\varphi(gxg^{-1})=\varphi(g)\varphi(x)\varphi(g)^{-1} \in \varphi(g)N\varphi(g)^{-1}=N$$
が成り立つので,$gxg^{-1} \in \varphi^{-1}(N)$となる.よって題意は示された.(証明終)

$p$を素数とし,$G$$p$群とする.このとき,$G$の中心$Z$$Z \neq \{e\}$を満たす.

証明を表示

$G$の共役類の完全代表系を$A$とし,$G$の類等式
$$|G|=\sum_{x \in A}|C(x)|$$
を考える.$Z=\{e\}$であると仮定すると,類等式の右辺に$1$$|C(e)|$の分の1回しか登場せず,他の$|C(x)|$は全て$|G|$の約数,即ち$p$べきである.よって
$$(pべき)=1+(pの倍数)$$
という等式が成り立ち,矛盾する.(証明終)

最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
代数学1 群論入門, 雪江明彦, 日本評論社, 2010
[2]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022525

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素朴な問題が特に好きです.

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