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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその3 剰余類の置換

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はじめに

今回は剰余類の置換に関連した問題をやります.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

問題と解答

非可換群$G$が指数$n \, (2 \leq n \leq 4)$の部分群$H$を持つとき,$G$は単純群でないことを示せ.

本では$G$に非可換という条件が付いていませんでした.しかし,その場合は$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$がこの問題の反例となってしまうため,この条件は外してはいけません.但し,単純群の定義自体にその群が可換でないことを課す場合もあるようで(例えば参考文献[2]),その場合はわざわざ「非可換」と述べなくても$\mathbb{Z}/3\mathbb{Z}$は反例となり得ません.

感想

$n=2$の場合は一般論から直ぐに従うので,本質的なのは$n=3,4$のときです.$G$の作用による$H$の剰余類たちの置換を考えるというのは直ぐに思いつきますが,その後$G$の非自明な正規部分群を作り出すのが少し大変ですね.

剰余群の元は上にバーを付けて表します.また,$G$の単位元を$e$で表します.

証明を表示

$n=2$とすると,一般論から$H$は正規である.指数が$2$であることから$H \neq G$である.仮に$H=\{e\}$とすると$G$は位数が$2$の群となるが,このとき$G$が可換となって仮定に矛盾.従って$H$は非自明な正規部分群である.即ち,$G$は単純群でない.
$3 \leq n \leq 4$とする.$G/H$の完全代表系を$\{g_i\}_{i=1}^n$と取る.$G$$G/H$への作用$\phi$
$$\phi : G \times G/H \ni (g,g'H) \longmapsto (gg')H \in G/H$$
と定めると,これはwell-definedである.この作用により群準同型$\varphi : G \rightarrow S_n$($S_n$$n$次対称群)を得る.$H$を法として$e$と合同な代表元$g_i$を取ってくると,$g \notin H$となる元に対して($H$の指数が$1$でないからこのような元を取れる)
$$gg_iH=gH \neq H=g_iH$$
が成り立つ.即ち,${\rm Im}\,\varphi \neq \{(1)\}$である.ここで$(1) \in S_n$は恒等置換を表す.$A_n$$n$次交代群とする.$A_n$$S_n$の正規部分群であるから,${\rm Im}\,\varphi \cap A_n$${\rm Im}\,\varphi$において正規である.従ってその$\varphi$による逆像$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_n)$$G$において正規である.$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_n)$$G$において自明でないかどうかを考える.

$n=3$とする.まず,${\rm Im}\,\varphi \subset A_3$であるとすると,${\rm Im}\,\varphi \neq \{(1)\}$であるから${\rm Im}\,\varphi=A_3$となるしかない.これより$G/{\rm Ker}\,\varphi \cong A_3$であるから,${\rm Ker}\,\varphi$$G$の指数$3$の正規部分群となる.指数が$3$であるから${\rm Ker}\,\varphi \neq G$である.また,${\rm Ker}\,\varphi=\{e\}$とすると$G \cong A_3$となるが,$G$は非可換,$A_3$は可換であるから矛盾.よって${\rm Ker}\,\varphi$$G$の自明でない正規部分群であるから,$G$は単純群でない.
次に,${\rm Im}\,\varphi \not\subset A_3$であるとする.すると,$|S_3/A_3|=2$より$S_3=({\rm Im}\,\varphi)A_3$となる.これより,
$$\begin{split} S_3/A_3 = ({\rm Im}\,\varphi)A_3/A_3 &\cong {\rm Im}\,\varphi/({\rm Im}\,\varphi \cap A_3) \\ &\cong (G/{\rm Ker}\,\varphi)/(\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3)/{\rm Ker}\,\varphi) \cong G/\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3) \end{split}$$
が成り立つ.従って$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3)$$G$の指数$2$の正規部分群である.指数が$2$であるから$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3) \neq G$である.また,$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3)=\{e\}$とすると,$|G|=2$となるがこのとき$G$が可換となって矛盾.従って$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_3)$$G$の自明でない正規部分群であるから,$G$は単純群でない.

$n=4$とする.仮に${\rm Im}\,\varphi \subset A_4$であるとすると,$G/{\rm Ker}\,\varphi$$A_4$の部分群に同型である.$A_4$の正規部分群(クラインの四元群)$V$
$$V=\{(1), \, (12)(34), \, (13)(24), \, (14)(23)\}$$
とおく.ある$h \in H$$\varphi(h) \neq (1)$を満たすとする.$\varphi(h) \in V$とすると,$h$による作用は$H \in G/H$を動かさないので$\varphi(h)=(1)$とならなければならないが,これは仮定に矛盾.従って$\varphi(h) \notin V$である.すると,$\overline{\varphi(h)} \in A_4/V$は位数$3$の元である.即ち$({\rm Im}\,\varphi)V=A_4$となる.よって,
$$A_4/V=({\rm Im}\,\varphi)V/V \cong {\rm Im}\,\varphi/({\rm Im}\,\varphi \cap V) \cong G/\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap V)$$
であるから,$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap V)$$G$の指数$3$の正規部分群である.すると,$n=3$のときと同様にして$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap V)$$G$の非自明な正規部分群であることが示せる.
全ての$h \in H$$\varphi(h)=(1)$を満たすとすると,任意の$g \in G$に対して$hgH=gH$が成り立つ.即ち$g^{-1}hg \in H$であり,これより$H$$G$の正規部分群である.$G$が非可換であることと$H$の指数が$4$であることから$H$$G$の非自明な正規部分群である.
最後に${\rm Im}\,\varphi \not\subset A_4$であるとする.$|S_4/A_4|=2$より$({\rm Im}\,\varphi)A_4=S_4$が成り立つ.従って,
$$S_4/A_4 = ({\rm Im}\,\varphi)A_4/A_4 \cong {\rm Im}\,\varphi/({\rm Im}\,\varphi \cap A_4) \cong G/\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_4)$$
となる.これより,$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_4)$$G$の指数2の正規部分群である.$G$の非可換性から,$\varphi^{-1}({\rm Im}\,\varphi \cap A_4)$$G$の非自明な正規部分群である.即ち,$G$は単純群でない.(証明終)

今回使った事実

$G$を群,$H$$G$の指数$2$の部分群とする.このとき,$H$$G$の正規部分群である.

証明を表示

$H$による$G$の左剰余類分解の完全代表系を$\{e,g\}$とする.このとき,$(G:H)=2$であることから,$H$による$G$の右剰余類分解の完全代表系も$\{e,g\}$となる.従って,$gH=Hg$即ち$gHg^{-1}=H$となる.$G$の任意の元は$H$の元であるか$gH$の元であるかのいずれかである.任意の$h \in H$に対して$hHh^{-1}=H$であることは明らかである.また,任意の$gh(h \in H)$に対して
$$ghH(gh)^{-1}=ghHh^{-1}g^{-1}=gHg^{-1}=H$$
も成り立つ.即ち,$H$$G$の正規部分群である.(証明終)

最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[1]
代数学1 群論入門, 雪江明彦, 日本評論社, 2010
[2]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022529

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素朴な問題が特に好きです.

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