はじめに
今回は剰余類の置換に関連した問題をやります.
その他の問題たちは
こちらのまとめページ
から見れます.よろしければリンクをご利用ください.
問題と解答
非可換群が指数の部分群を持つとき,は単純群でないことを示せ.
本ではに非可換という条件が付いていませんでした.しかし,その場合はがこの問題の反例となってしまうため,この条件は外してはいけません.但し,単純群の定義自体にその群が可換でないことを課す場合もあるようで(例えば参考文献[2]),その場合はわざわざ「非可換」と述べなくてもは反例となり得ません.
感想
の場合は一般論から直ぐに従うので,本質的なのはのときです.の作用によるの剰余類たちの置換を考えるというのは直ぐに思いつきますが,その後の非自明な正規部分群を作り出すのが少し大変ですね.
剰余群の元は上にバーを付けて表します.また,の単位元をで表します.
証明を表示
とすると,一般論からは正規である.指数がであることからである.仮にとするとは位数がの群となるが,このときが可換となって仮定に矛盾.従っては非自明な正規部分群である.即ち,は単純群でない.
とする.の完全代表系をと取る.のへの作用を
と定めると,これはwell-definedである.この作用により群準同型(は次対称群)を得る.を法としてと合同な代表元を取ってくると,となる元に対して(の指数がでないからこのような元を取れる)
が成り立つ.即ち,である.ここでは恒等置換を表す.を次交代群とする.はの正規部分群であるから,はにおいて正規である.従ってそのによる逆像はにおいて正規である.がにおいて自明でないかどうかを考える.
とする.まず,であるとすると,であるからとなるしかない.これよりであるから,はの指数の正規部分群となる.指数がであるからである.また,とするととなるが,は非可換,は可換であるから矛盾.よってはの自明でない正規部分群であるから,は単純群でない.
次に,であるとする.すると,よりとなる.これより,
が成り立つ.従ってはの指数の正規部分群である.指数がであるからである.また,とすると,となるがこのときが可換となって矛盾.従ってはの自明でない正規部分群であるから,は単純群でない.
とする.仮にであるとすると,はの部分群に同型である.の正規部分群(クラインの四元群)を
とおく.あるがを満たすとする.とすると,による作用はを動かさないのでとならなければならないが,これは仮定に矛盾.従ってである.すると,は位数の元である.即ちとなる.よって,
であるから,はの指数の正規部分群である.すると,のときと同様にしてがの非自明な正規部分群であることが示せる.
全てのがを満たすとすると,任意のに対してが成り立つ.即ちであり,これよりはの正規部分群である.が非可換であることとの指数がであることからはの非自明な正規部分群である.
最後にであるとする.よりが成り立つ.従って,
となる.これより,はの指数2の正規部分群である.の非可換性から,はの非自明な正規部分群である.即ち,は単純群でない.(証明終)
今回使った事実
を群,をの指数の部分群とする.このとき,はの正規部分群である.
証明を表示
によるの左剰余類分解の完全代表系をとする.このとき,であることから,によるの右剰余類分解の完全代表系もとなる.従って,即ちとなる.の任意の元はの元であるかの元であるかのいずれかである.任意のに対してであることは明らかである.また,任意のに対して
も成り立つ.即ち,はの正規部分群である.(証明終)
最後までお読み頂きありがとうございました.
[1]
代数学1 群論入門, 雪江明彦, 日本評論社, 2010
[2]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021