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大学数学基礎解説
文献あり

代数学をやるその4 Z/pZの直積群の部分群の個数

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はじめに

今回はとある有限群のとある部分群の個数を数えたいと思います.最後に示す定理7は結構面白い結果になりました.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

更新履歴

(2022/8/8):文章を少し変更しました.

問題と解答

nを正の整数,pを素数とし,
G=(Z/pZ)n=Z/pZ××Z/pZn
とおく.このとき,Gの位数pの部分群の個数と,Gの位数pn1の部分群の個数を求めよ.(北大)

解答を表示

Gの単位元をeで表す.またGの演算はg+hのように加法的に表す.
Gの任意の単位元でない元は位数がpであることに注意する.よって,Gに含まれる位数pの元の個数はpn1である.これらは全て位数pの部分群を生成する.逆に,Gの位数pの部分群は全てこのpn1個の元が生成する部分群の内のいずれかに等しい.これらの内いくつが重複しているか考える.H,HGGの位数pの部分群とする.h0HH,h0eとする.H,Hの生成元をそれぞれh,hとすると,1k,kp1となる整数k,kが存在して,h0=kh=khが成り立つ.kpは互いに素であるから,kl1modpとなる整数lが存在する.すると,
h=(kl)h=l(h0)H
が成り立つ.同様にhHも成り立つので,H=Hとなる.逆にH=HならHH{e}であることは明らかである.即ち,H=HであることとHH{e}であることは同値である.位数pの部分群1つが別の位数pの部分群と共通に持ち得るe以外の元はp1個である.よって,位数pの部分群の個数はpn1p1となる.

また,一般に有限アーベル群Gに対し,Gの位数mの部分群の個数とGの位数|G|mの部分群の個数は等しいので,位数がpn1の部分群の個数もpn1p1である.

以上より解答は次の通りである.(終)
位数pの部分群の個数pn1p1
位数pn1の部分群の個数pn1p1

感想

位数pの方は難なく数えられます.問題は位数pn1の方ですが,こちらは最後に示す定理7を用いると瞬殺できます.この定理7を用いない場合は愚直に数えるしかないのでしょうが,多分大変なんじゃないかなあと思います…

今回用いた事実

以下,自明指標Gg1C×χ0で表すことにします.また,剰余群の元は上にバーを付けて表します.

有限アーベル群GからCの乗法群C×への準同型全てからなる集合をG^とおく.χ,χG^に対してχχ:GC×という写像を
(χχ)(g)=χ(g)χ(g)(gG)
を満たすものとして定めると,G^はこれを積として群となる.G^G指標群という.

証明を表示

任意のχ,χG^に対してχχG^GからC×への準同型であることは直ぐに分かる.自明な指標χ0はこの積に関して単位元となる.また,任意のχG^に対して,χ1:GC×を任意のgGに対しχ1(g)=(χ(g))1を満たすものとして定めると,明らかにχ1G^であり,この積に関してχの逆元となる.この積が結合法則を満たすことも,C×での積が結合法則を満たすことから従う.よってG^は群である.(証明終)

G1,G2が有限アーベル群であるとき,G1×G2^G1^×G2^が成り立つ.

証明を表示

e1,e2はそれぞれG1,G2の単位元を表すとする.
χ1G1^,χ2G2^に対して,χ1×χ2:G1×G2C
(χ1×χ2)(g1,g2)=χ1(g1)χ2(g2)(g1G1,g2G2)
を満たすものとして定める.χ1×χ2は明らかに準同型であるから,写像
f:G1^×G2^(χ1,χ2)χ1×χ2G1×G2^
を定めることができる.fが準同型であることも直ぐに確認できる.(χ1,χ2)Kerfとすると,任意のg1G1,g2G2に対して
(χ1×χ2)(g1,g2)=χ1(g1)χ2(g2)=1
が成り立つ.特にg1=e1とすることでχ2(g2)=1(g2G2)が成り立つ.よってχ2は自明指標である.同様に,g2=e2とすることでχ1が自明指標であることも従う.よってKerfは単位元のみからなるので,fは単射である.任意のχG1×G2^を取る.このとき,χ1=χ|G1,χ2=χ|G2とおくと,χ=χ1×χ2=f(χ1,χ2)が成り立つ.即ちfは全射である.よってfは同型であるから,題意は示された.(証明終)

Gが有限アーベル群であるとき,GG^が成り立つ.特に,|G|=|G^|が成り立つ.

証明を表示

有限アーベル群の基本定理から,Gはいくつかの巡回群の直積で表される.よって補題2を用いることで,Gが巡回群のときに主張を示せば十分であることが分かる.
Gの生成元をg|G|の位数をnとおく.任意のχG^に対して
χ(gk)=χ(g)k(kZ)
が成り立つので,χG^χ(g)の値で決まる.特に1=χ(gn)=χ(g)nであるから,χ(g)1n乗根である.1n乗根は全部でn個存在するから,|G^|nとなる.
ζ=exp(2π1n)とおき,写像
χ:GgkζkC×
を考える.χは明らかに準同型であるからχG^である.ここで,写像
f:GgkχkG^
を考える.fが準同型であることは直ぐ分かる.またgkKerfとすると,χkは自明指標である.よって,特にGの生成元gに対して
1=χk(g)=χ(g)k=ζk
が成り立つ.これよりknの倍数である.するとgk=eとなるのでKerf={e}が成り立つ.即ちfは単射である.これより,
|G^|n=|G||G^|
となるので,|G|=|G^|である.よってfは全単射となるから,fは同型である.(証明終)

Gを有限アーベル群,HGの部分群とする.任意のχH^に対しχ~G^で,任意のhHに対してχ~(h)=χ(h)を満たすものが存在する.

証明を表示

Hの指数に関する帰納法で証明する.(G:H)=1の場合はG=Hであるからよい.
(G:H)>1であるとする.指数が(G:H)よりも小さいGの部分群に対しては主張が示されていると仮定する.(G:H)>1よりgHとなるGの元gが存在する.gkgHとなる最小の正の整数kg(2)を取り,ζg=exp(2π1kg)とおく.写像χ:gHC
χ(gkh)=ζgkχ(h)(0kkg1,hH)
を満たすものとして定める.任意のgkh,gkhgHに対して
χ(gkhgkh)=χ(gk+khh)=ζgk+kχ(hh)=ζgkχ(h)ζgkχ(h)=χ(gkh)χ(gkh)
が成り立つから,χgH^である.そして,(G:gH)<(G:H)であるから帰納法の仮定により,χ~G^χ~(gkh)=χ(gkh)(0kkg1,hH)を満たすものが存在する.すると,特にk=0のときχ~(h)=χ(h)=χ(h)が成り立つ.よって題意は示された.(証明終)

Gを有限アーベル群,HGの部分群とする.このとき,
G^H={χG^|χ(h)=1,hH}
と定めると,G^HG^の部分群である.

証明を表示

χ0G^HであるからG^Hである.任意のχ,χG^Hに対し,
(χ1χ)(h)=χ1(h)χ(h)=1(hH)
が成り立つのでχ1χG^Hが成り立つ.従ってG^HG^の部分群である.(証明終)

Gを有限アーベル群,HGの部分群とする.このとき,次の同型が成り立つ.
(1)G/H^G^H
(2)G^/G^HH^

証明を表示

(1) π:GG/Hを自然な準同型とする.仮定からG/Hも有限アーベル群であるからG/H^を考えることができる.写像fを,ρG/H^に対して
f(ρ)=ρπ:GC×
を対応させるものとして定める.任意のρG/H^に対してf(ρ)は明らかに準同型であるから,ImfG^が成り立つ.更に,任意のρG/H^と任意のhHに対して
f(ρ)(h)=ρ(π(h))=ρ(e)=1
が成り立つので,ImfG^Hが成り立つ.また,任意のχG^Hは,準同型でHKerχを満たす.従って,準同型ρ:G/HC×χ=ρπを満たすものが存在する.明らかにρG/H^である.よって,χG^Hに対して今のρG/H^を対応させる写像g:G^HG/H^を得る.すると,f,gは互いに逆写像の関係にある準同型であるから,同型G/H^G^Hを得る.(証明終)

(2) f:G^H^χG^に対してχHに制限したものχ|Hを対応させるものとして定める.fは明らかに準同型であり,また補題4より全射である.fの核はHに制限したときに自明指標となるもの全体からなるが,それはG^Hに他ならない.従って準同型定理よりG^/G^HH^が成り立つ.(証明終)

Gを有限アーベル群とする.Gの位数nの部分群の個数とGの位数|G|nの部分群の個数は等しい

証明を表示

Gの位数nの部分群の個数をs1Gの位数|G|nの部分群の個数をs2とする.GG^であることからG^の位数nの部分群の個数はs1G^の位数|G|nの部分群の個数はs2となることに注意する.
HGを位数nの部分群とする.このとき,補題6からG/H^G^Hを得る.両辺の位数を考えると,
|G^H|=|G/H^|=|G/H|=|G|n
となる.従って,G^HG^の位数|G|nの部分群である.よって,s1s2であることが分かる.Hの位数を|G|nであるとして同様の議論を行うことでs2s1であることも分かる.従ってs1=s2である.(証明終)

定理7の具体例

上で示した定理7は結構面白い結果ですね.いくつかの具体例でも確認しておこうと思います.

G=Z/6Zのとき

Gの位数2の部分群は3Z/6Zの1つのみ,Gの位数3(=62)の部分群は2Z/6Zの1つのみなので,確かに個数は等しいですね.

G=Z/2Z×Z/4Zのとき

Gの位数2の部分群は
(0,2),(1,0),(1,2)
の3つで,Gの位数4(=82)の部分群は
(0,1),(1,1),(0,2),(1,0)
の3つです.やはり個数は等しいですね.

G=Z/2Z×Z/2Z×Z/2Zのとき

Gの位数2の部分群は
(1,0,0),(0,1,0),(0,0,1),(1,1,0),(1,0,1),(0,1,1),(1,1,1)
の7つで(個数だけなら問題で示した公式から23121=7と求めることもできます),Gの位数4(=82)の部分群は
(1,0,0),(0,1,0),(1,0,0),(0,0,1),(1,0,0),(0,1,1)
(0,1,0),(0,0,1),(0,1,0),(1,0,1),(0,0,1),(1,1,0),(1,1,0),(1,0,1)
の7つです.ちゃんと個数が等しいですね.この場合位数4の部分群を数えるのは少し大変なので,個数だけ知りたい場合は位数2の部分群の個数を求めた方が圧倒的に速く,補題7の威力が感じられます.

今回の記事は以上です.
最後までお読み頂きありがとうございました.

参考文献

[2]
永田雅宜, 復刻版 大学院への代数学演習, 現代数学社, 2021
投稿日:2022531
OptHub AI Competition

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素朴な問題が特に好きです.

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