以下では,特に断らない限りを正の整数とします.
はじめに
多項式に対してよく知られた次の事実があります.
は対偶を取ればすぐに分かります.は,イデアルが核となる環準同型を構成することで証明できます.実は全く同じ流れで,任意の体に対して
であることが証明できます.係数体の取り方に依らず,が互いに素であるか否かで多項式の既約性が決まるのは面白いですね.
では,ほんのちょっと形を変えてという多項式を考えたらどうなるでしょうか.後で示しますが,実は次が成り立ちます.
つまり,係数体がのときはと同じ事実が成り立ちます.では係数体を取り替えたらどうなるでしょう.例えばとか.これも後で示しますが,次が成り立ちます.
ここではとの最大公約数を表します.既約となるようなの組み合わせがのときより増えて楽しくなってきました.
そこで,今回の記事では,係数体を色々変えたときにの既約性がどのように変化するかを見て楽しもうと思います.
を体とする.多項式が既約となるためのに関する必要十分条件を,がの各場合について求めよ.
その他の問題たちは
こちらのまとめページ
から見れます.よろしければリンクをご利用ください.
係数体がのとき
上でも述べましたが次が成り立ちます.
証明を表示
以下,虚数単位をで表します.まず,が互いに素でないとします.の最大公約数をとおくと,互いに素な整数によりと表すことができます.すると,
が成り立つので,が互いに素でないときは可約です.対偶を取ると,が既約であるときは互いに素です.
次に,が互いに素であるとします.写像を,に対して
で定めると,これは環準同形となります.の核について考えましょう.まず,とすると,を満たすが存在するので,
となります.即ちが成り立ちます.よってとなります.逆に,であるとします.このとき,をについての多項式とみて,で割ると,
を満たすとが存在します.であることとが環準同形であることから,
が成り立ちます.はの元なので,の指数に影響を与えないことに注意しましょう.さて,を展開した際に現れるの指数は,がの多項式であることを考えると, (は0以上の整数)と表されます.を満たすが存在すると仮定しましょう.このとき,
であり,が互いに素であることからはの倍数となります.ところで,であるからであるので即ちが従います.つまり,各を展開した際に現れるの指数は,添字が異なれば全て異なることになります.これより,(多項式として0)が成り立ちます.よってであり,これよりが従います.上で示した包含と合わせてであり,準同形定理より次の同型を得ます.
は整域であるので,その部分環も整域です.よっては整域です.これよりはの素イデアルです.即ち,はの素元となりますが,は整域で,整域において素元は既約元となるので,は既約です.以上より題意は示されました.(証明終)
今の証明から分かること
今の証明のポイントは,任意の正の整数に対して,にの乗根が存在することです.の証明もの証明もその点に支えられていることは,上の証明を見れば良く分かると思います.逆に言えば,の乗根さえ係数体に備わっていれば全く同じ証明が可能ということでもあります.
係数体がのとき
こちらも上で述べましたが,次が成り立ちます.
証明を表示
でもあることに注意します.がにおいて既約であれば,においても既約です.よって,上で示したことよりが互いに素であるならは既約です.よって,が互いに素でない場合が本質的です.
が互いに素でないとします.の最大公約数をとおくことで,互いに素な整数によりと表すことができ,
となります.が奇数の素因数を持つとしましょう.整数によってとおくと,
となるので,は可約です.が奇数の素因数を1つも持たないとします.このとき,ある正の整数によってと表すことができます.のとき,とおくととなるので,
となるので,は可約です(に注意).
最後に,とします.このとき,のいずれか一方は奇数です.どちらが奇数であるとしても同様なので,が奇数であるとします.すると,は互いに素となります.とおくと,はの商体です.と見ます.(の代数閉包)におけるの根をとおきます.すると,が成り立ちます.とおきます.は
を満たすので,の根です.は互いに素なので,上で示したことから,はにおいて既約です.は一意分解環で,は上の原始多項式であるため,はその商体上でも既約となります.即ち,の上の最小多項式はです.これよりが成り立ちます.すると,であることから,
が成り立つ.即ち,はを約数に持つ以下の整数となるので,もしくはのいずれかが成り立ちます.さて,
であることから,はの根です.が上既約でないとすると,のに関する次数が2であることからはに根を持ちます.その根の可能性は,係数を見るとの形をしていることが分かります.であるとすると,
となります.これよりとなり,であることから,となります.しかし,このときとなって,このような実数は存在しないので矛盾します.でも同様に矛盾します.即ちは上既約です.これより,が成り立ちます.であるため,は2を約数に持ちます.すると,は奇数であったのでとなることはありません.よってとなります.これより,はの上の最小多項式であり,特に上既約です.上既約であれば,においても既約です.以上より題意は示されました.(証明終)
今の証明からわかること
今の証明のポイントは,かつかつという3点です.よりのときの条件を用いてが互いに素なら既約だと言い切れます.であることはの最大公約数が4以上の2べきで割り切れる場合にが可約であることを導いています.最後に,であるお陰で最後の矛盾を引き出しています.
従って,同様な条件を満たす体(例えば)であれば全く同じ議論ができます.
係数体がのとき
と来たので次はを取ってきました.のときの証明と勘を頼りにすると次のような定理が予想されると思いますが,これは実際成り立ちます.
実際,なら既約であることはから分かります.そして,が奇数の素因数を持つなら可約であることも,実際に因数分解ができることから分かります.従って,であるときが本質的な問題だと分かりますが,何となくの範囲ではこのとき因数分解できなさそうだなと感じますね.
では,この定理を証明しましょう.以下の証明はStack Exchangeで得たものです.途中で用いた補題は後ろに書かれています.
定理3
証明を表示
なら既約であることはから分かります.そして,が奇数の素因数を持つなら可約であることも,のときと同じように因数分解ができることから分かります.
以下,とします.とおきます.が既約となるようなは無限に存在するので(補題5),補題7から既約多項式が存在して
と書けます.ところで,変数の役割を入れ替えて同様の議論を行うことで,既約多項式が存在して,
と書けます.従って,
が成り立ちます.は一意分解環であるため既約元は素元と同値になりますから,は素元です.従って,もしくはのいずれかが成り立ちます.
仮にであるとすると,がについての項を含まないことからと書けることが分かります.すると
となります.の最大べきの項を(),の最大べきの項を()とおくと,の最大べきの項はと書けますが,であり,のcross termは存在しないので,のいずれかは0となります.即ち,のいずれかは定数となりますが,このときよりがもしくはのみの項しか含まないことになり矛盾します.
従ってが成り立ちます.の既約性により,ある定数が存在してと書けます.すると,が成り立ち,これよりは共に定数であることが分かります.その定数をと書けば,
となるので,は既約となります.(証明終)
定理3の証明に用いた補題たち
以下に定理3の証明に用いた補題たちを挙げます.
多項式が既約であることは,を割り切る任意の素数に対してが成り立ち,かつがで割り切れるならを満たす有理数が存在しないことに同値である.
この補題は,実は最後に挙げる定理8より従います.
(は以上の整数)のとき,多項式に対して,が既約となるようなが無限に存在する.
証明を表示
と互いに素な整数によって表される整数を考えます.このような整数は無限に存在します.まず,仮定からですが,明らかにが成り立ちます.また,を満たす奇素数に対してが成り立つとすると,よりとなります.素因数の個数を考えると,の指数はで割り切れなければなりません.はと互いに素であったので特にで割り切れません.従ってがで割り切れますが,これはであることに矛盾します.従って,を満たす任意の奇素数に対してが成り立ちます.
更に,仮定からはで割り切れますが,仮にを満たす有理数が存在したとすると,に含まれる素因数の個数はの倍数,に含まれる素因数の個数はで割って余る整数となり矛盾します.従って,を満たす有理数も存在しません.以上より,上で定めたが補題4の条件を満たすことが分かり,題意は示されました.(証明終)
多項式に対し,が定数となるようなが無限に存在するならば,多項式が存在してと書ける.
証明を表示
仮ににという項が存在したとすると,仮定より無限に多くのに対してが成り立ちます.零多項式でない体上の多項式の持ち得る根の数はその次数以下であることを考えると,は零多項式でなくてはなりません.よって題意が従います.(証明終)
多項式に対し,が既約となるようなが無限に存在するならば,既約多項式が存在して
と書ける.
証明を表示
を因数分解してと表したとします.ここでは既約であるように取ります.そのようなを取れることは,が一意分解環であることから従います.ここで,補題5からが既約であるようなが無限に存在するので,のいずれかは無限に多くのに対して定数でなくてはなりません.即ち,のいずれかはに依りません(補題6).と書けるなら題意が従うので,と書けるとしましょう.
このとき,が
というように共にに依るような多項式に分解できたとすると,
となり,に対して上記の議論を適用することでのいずれかはに依らないことが従い矛盾します.即ち,のいずれかはに依りません.ここではがに依らないとします.すると,
となります.再び同様の議論から,は2つの因子に分解できるとすれば片方の因子はに依りません.以下同様の議論をに依る因子がの既約多項式となるまで続ければ,求めていた形を得ます.(証明終)
実はもっと簡単に証明できる
上で得た証明たちは,三者三葉の特徴があって眺めるのも楽しいですが,実はもっと統一的に証明する方法もあります.
Stack Exchangeで得たのですが,以下の一般的な定理があるようです.
を任意の体,を正の整数とする.このとき,次が成り立つ.
この定理の証明はおいおい考えていこうと思います.この定理を使えば任意の体上でのの既約性について,次のような結果を得ることができます.
証明を表示
とみなします.ここでは有理関数体です.定理8から
が成り立ちます.
まずであるとします.すると,任意の素数に対して,が成り立つことから,
が成り立ちます.従って,が既約であるためには,が互いに素であることが必要です.逆に,が互いに素であれば,条件
は明らかに成り立つので,は既約となります.
次にかつ,のいずれかはに属するとします.であることから,は自動的に成り立ちます.また,任意の奇素数に対して,であることから
が成り立ちます.更に,のいずれかがに属しているので,が成り立ちます.従って,
となります.これより,
となります.
最後に,のいずれもに属していないとします.であることから,は自動的に成り立ちます.また,任意の奇素数に対して,であることから
が成り立ちます.更に,のいずれもに属していないので,も自動的に成り立ちます.これより,
となります.(証明終)
この定理9を用いると,上の結果は次のように一瞬で従います.嬉しいですね.
なので,
なので,
なので,
更に,平方剰余の相互法則を用いることで,係数体が有限体の場合の既約性も次のように判定できます(証明略).とてもキレイな結果ですね~.
因みに,定理8を用いると,一番最初に挙げた事実
も一瞬で示せます.定理8は偉大です.
今回の記事は以上です.
最後までお読み頂きありがとうございました.