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代数学をやるその5 多項式 X^a+Y^bの既約性

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以下では,特に断らない限り$a,b$を正の整数とします.

はじめに

多項式$X^a-Y^b \in \mathbb{C}[X,Y]$に対してよく知られた次の事実があります.
$$X^a-Y^b \in \mathbb{C}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a,b \, が互いに素$$
$\Longrightarrow$は対偶を取ればすぐに分かります.$\Longleftarrow$は,イデアル$(X^a-Y^b) \subset \mathbb{C}[X,Y]$が核となる環準同型を構成することで証明できます.実は全く同じ流れで,任意の体$F$に対して
$$X^a-Y^b \in F[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a,b \, が互いに素$$
であることが証明できます.係数体の取り方に依らず,$a,b$が互いに素であるか否かで多項式の既約性が決まるのは面白いですね.

では,ほんのちょっと形を変えて$X^a+Y^b \in \mathbb{C}[X,Y]$という多項式を考えたらどうなるでしょうか.後で示しますが,実は次が成り立ちます.
$$X^a+Y^b \in \mathbb{C}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a,b \, が互いに素$$
つまり,係数体が$\mathbb{C}$のときは$X^a-Y^b$と同じ事実が成り立ちます.では係数体を取り替えたらどうなるでしょう.例えば$\mathbb{R}$とか.これも後で示しますが,次が成り立ちます.
$$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=1,2$$
ここで${\rm GCD}(a,b)$$a$$b$の最大公約数を表します.既約となるような$a,b$の組み合わせが$\mathbb{C}$のときより増えて楽しくなってきました.

そこで,今回の記事では,係数体を色々変えたときに$X^a+Y^b$の既約性がどのように変化するかを見て楽しもうと思います.

$F$を体とする.多項式$X^a+Y^b \in F[X,Y]$が既約となるための$a,b$に関する必要十分条件を,$F$$\mathbb{C},\mathbb{R},\mathbb{Q}$の各場合について求めよ.

その他の問題たちは こちらのまとめページ から見れます.よろしければリンクをご利用ください.

係数体が$\mathbb{C}$のとき

上でも述べましたが次が成り立ちます.

$$X^a+Y^b \in \mathbb{C}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a,b \, が互いに素$$

証明を表示

以下,虚数単位を$i$で表します.まず,$a,b$が互いに素でないとします.$a,b$の最大公約数を$d(>1)$とおくと,互いに素な整数$a',b'$により$a=da', \, b=db'$と表すことができます.すると,
$$\begin{split} X^a+Y^b &=X^a-(e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^b \\ &=X^{da'}-(e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{db'} \\ &= (X^{a'})^d-((e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{b'})^d \\ &= \{X^{a'}-(e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{b'}\}\{(X^{a'})^{d-1}+(X^{a'})^{d-2}(e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{b'}+\cdots+(X^{a'})((e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{b'})^{d-2}+((e^{\frac{i\pi}{b}}Y)^{b'})^{d-1}\} \end{split}$$
が成り立つので,$a,b$が互いに素でないとき$X^a+Y^b$は可約です.対偶を取ると,$X^a+Y^b$が既約であるとき$a,b$は互いに素です.
次に,$a,b$が互いに素であるとします.写像$\varphi : \mathbb{C}[X,Y] \rightarrow \mathbb{C}[T]$を,$f(X,Y) \in \mathbb{C}[X,Y]$に対して
$$\varphi(f(X,Y))=f(T^b,e^{\frac{i\pi}{b}}T^a)$$
で定めると,これは環準同形となります.$\varphi$の核について考えましょう.まず,$f(X,Y) \in (X^a+Y^b)$とすると,$f(X,Y)=g(X,Y)(X^a+Y^b)$を満たす$g(X,Y) \in \mathbb{C}[X,Y]$が存在するので,
$$\varphi(f(X,Y))=\varphi(g(X,Y))((T^b)^a+(e^{\frac{i\pi}{b}}T^a)^b)=\varphi(g(X,Y))(T^{ab}-T^{ab})=0$$
となります.即ち$f(X,Y) \in {\rm Ker}\, \varphi$が成り立ちます.よって$(X^a+Y^b) \subset {\rm Ker}\, \varphi$となります.逆に,$f(X,Y) \in {\rm Ker}\, \varphi$であるとします.このとき,$f(X,Y)$$X$についての多項式とみて,$X^a+Y^b$で割ると,
$$f(X,Y)=g(X,Y)(X^a+Y^b)+g_{a-1}(Y)X^{a-1}+\cdots+g_1(Y)X+g_0(Y)$$
を満たす$g_0(Y),g_1(Y), \cdots ,g_{a-1}(Y) \in \mathbb{C}[Y]$$g(X,Y) \in \mathbb{C}[X,Y]$が存在します.$f(X,Y) \in {\rm Ker}\,\varphi$であることと$\varphi$が環準同形であることから,
$$\varphi(f(X,Y))=g_{a-1}(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)T^{b(a-1)}+\cdots+g_1(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)T^b+g_0(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)=0$$
が成り立ちます.$e^{\frac{ia\pi}{b}}$$\mathbb{C}$の元なので,$T$の指数に影響を与えないことに注意しましょう.さて,$g_k(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)T^{bk} \, (k=0,1,\cdots,a-1)$を展開した際に現れる$T$の指数は,$g_k(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)$$T^a$の多項式であることを考えると,$l_ka+bk$ ($l_k$は0以上の整数)と表されます.$l_ka+bk=l_{k'}a+bk'$を満たす$k,k'$が存在すると仮定しましょう.このとき,
$$b(k-k')=a(l_{k'}-l_k)$$
であり,$a,b$が互いに素であることから$k-k'$$a$の倍数となります.ところで,$0 \leq k,k' \leq a-1$であるから$|k-k'| \leq a-1$であるので$k-k'=0$即ち$k=k'$が従います.つまり,各$g_k(e^{\frac{ia\pi}{b}}T^a)T^{bk}$を展開した際に現れる$T$の指数は,添字$k$が異なれば全て異なることになります.これより,$g_0(Y)=g_1(Y)=\cdots=g_{a-1}(Y)=0$(多項式として0)が成り立ちます.よって$f(X,Y) \in (X^a+Y^b)$であり,これより${\rm Ker}\, \varphi \subset (X^a+Y^b)$が従います.上で示した包含と合わせて${\rm Ker}\,\varphi=(X^a+Y^b)$であり,準同形定理より次の同型を得ます.
$$\mathbb{C}[X,Y]/(X^a+Y^b) \cong {\rm Im}\,\varphi \subset \mathbb{C}[T]$$
$\mathbb{C}[T]$は整域であるので,その部分環${\rm Im}\,\varphi$も整域です.よって$\mathbb{C}[X,Y]/(X^a+Y^b)$は整域です.これより$(X^a+Y^b)$$\mathbb{C}[X,Y]$の素イデアルです.即ち,$X^a+Y^b$$\mathbb{C}[X,Y]$の素元となりますが,$\mathbb{C}[X,Y]$は整域で,整域において素元は既約元となるので,$X^a+Y^b$は既約です.以上より題意は示されました.(証明終)

今の証明から分かること

今の証明のポイントは,任意の正の整数$b$に対して,$\mathbb{C}$$-1$$b$乗根が存在することです.$\Longrightarrow$の証明も$\Longleftarrow$の証明もその点に支えられていることは,上の証明を見れば良く分かると思います.逆に言えば,$-1$$b$乗根さえ係数体に備わっていれば全く同じ証明が可能ということでもあります.

係数体が$\mathbb{R}$のとき

こちらも上で述べましたが,次が成り立ちます.

$$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=1, 2$$

証明を表示

$X^a+Y^b \in \mathbb{C}[X,Y]$でもあることに注意します.$X^a+Y^b$$\mathbb{C}[X,Y]$において既約であれば,$\mathbb{R}[X,Y]$においても既約です.よって,上で示したことより$a,b$が互いに素であるなら$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y]$は既約です.よって,$a,b$が互いに素でない場合が本質的です.
$a,b$が互いに素でないとします.$a,b$の最大公約数を$d(>1)$とおくことで,互いに素な整数$a',b'$により$a=da', \, b=db'$と表すことができ,
$$X^a+Y^b=X^{da'}+Y^{db'}=(X^{a'})^d+(Y^{b'})^d$$
となります.$d$が奇数の素因数$d'$を持つとしましょう.整数$\delta$によって$d=\delta d'$とおくと,
$$\begin{split} X^a+Y^b &=(X^{a'})^d+(Y^{b'})^d \\ &= (X^{a'\delta})^{d'}+(Y^{b'\delta})^{d'} \\ &= (X^{a'\delta})^{d'}-(-Y^{b'\delta})^{d'} \\ &= (X^{a'\delta}+Y^{b'\delta})\{(X^{a'\delta})^{d'-1}+(X^{a'\delta})^{d'-2}(-Y^{b'\delta})+\cdots+(X^{a'\delta})(-Y^{b'\delta})^{d'-2}+(-Y^{b'\delta})^{d'-1}\} \end{split}$$
となるので,$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y]$は可約です.$d$が奇数の素因数を1つも持たないとします.このとき,ある正の整数$l$によって$d=2^l$と表すことができます.$l \geq 2$のとき,$l-2=l'$とおくと$d=4 \cdot 2^{l'}$となるので,
$$\begin{split} X^a+Y^b &=(X^{a'})^d+(Y^{b'})^d \\ &= (X^{a'2^{l'}})^{4}+(Y^{b'2^{l'}})^{4} \\ &= \{ (X^{a'2^{l'}})^{2}+(Y^{b'2^{l'}})^{2}\}^2-2(X^{a'2^{l'}})^2(Y^{b'2^{l'}})^2 \\ &= \{(X^{a'2^{l'}})^{2}+(Y^{b'2^{l'}})^{2}+\sqrt{2}X^{a'2^{l'}}Y^{b'2^{l'}}\}\{(X^{a'2^{l'}})^{2}+(Y^{b'2^{l'}})^{2}-\sqrt{2}X^{a'2^{l'}}Y^{b'2^{l'}}\} \end{split}$$
となるので,$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y]$は可約です($\sqrt{2} \in \mathbb{R}$に注意).
最後に,$d=2$とします.このとき,$a',b'$のいずれか一方は奇数です.どちらが奇数であるとしても同様なので,$a'$が奇数であるとします.すると,$a',b$は互いに素となります.$K=\mathbb{R}(Y) \, (1変数有理関数体)$とおくと,$K$$\mathbb{R}[Y]$の商体です.$F(X)=X^a+Y^b \in K[X]$と見ます.$\overline{K}$($K$の代数閉包)における$F(X)$の根を$\alpha$とおきます.すると,$[K(\alpha):K] \leq a$が成り立ちます.$G(X)=X^{a'}+Y^b \in K[X]$とおきます.$\alpha^2 \in \overline{K}$
$$G(\alpha^2)=(\alpha^2)^{a'}+Y^b=F(\alpha)=0$$
を満たすので,$G(X)$の根です.$a',b$は互いに素なので,上で示したことから,$G(X)$$(\mathbb{R}[Y])[X](=\mathbb{R}[X,Y])$において既約です.$\mathbb{R}[Y]$は一意分解環で,$G(X)$$\mathbb{R}[Y]$上の原始多項式であるため,$G(X)$その商体$K$上でも既約となります.即ち,$\alpha^2$$K$上の最小多項式は$G(X)=X^{a'}+Y^b$です.これより$[K(\alpha^2):K]=a'$が成り立ちます.すると,$K(\alpha^2) \subset K(\alpha)$であることから,
$$a'=[K(\alpha^2):K] \leq [K(\alpha):K] \leq a=2a'$$
が成り立つ.即ち,$[K(\alpha):K]$$a'$を約数に持つ$2a'$以下の整数となるので,$[K(\alpha):K]=a'$もしくは$[K(\alpha):K]=2a'=a$のいずれかが成り立ちます.さて,
$$(\alpha^{a'})^2+Y^b=F(\alpha)=0$$
であることから,$\alpha^{a'}$$H(X)=X^2+Y^b \in K[X]$の根です.$H(X)$$K$上既約でないとすると,$H(X)$$X$に関する次数が2であることから$H(X)$$K$に根を持ちます.その根の可能性は,係数を見ると$rY^l \, (r \in \mathbb{R}, \, l \in \mathbb{Z}, \, l \geq 0)$の形をしていることが分かります.$2l \leq b$であるとすると,
$$0=H(rY^l)=r^2Y^{2l}+Y^b=Y^{2l}(r^2+Y^{b-2l})$$
となります.これより$r^2=-Y^{b-2l}$となり,$r \in \mathbb{R}$であることから,$b-2l=0$となります.しかし,このとき$r^2=-1$となって,このような実数$r$は存在しないので矛盾します.$b \geq 2l$でも同様に矛盾します.即ち$H(X)$$K$上既約です.これより,$[K(\alpha^{a'}):K]=2$が成り立ちます.$K(\alpha^{a'}) \subset K(\alpha)$であるため,$[K(\alpha):K]$は2を約数に持ちます.すると,$a'$は奇数であったので$[K(\alpha):K]=a'$となることはありません.よって$[K(\alpha):K]=2a'=a$となります.これより,$G(X)=X^a+Y^b$$\alpha$$K$上の最小多項式であり,特に$K$上既約です.$K$上既約であれば,$\mathbb{R}[X,Y]$においても既約です.以上より題意は示されました.(証明終)

今の証明からわかること

今の証明のポイントは,$\mathbb{R} \subset \mathbb{C}$かつ$\sqrt{2} \in \mathbb{R}$かつ$\sqrt{-1} \notin \mathbb{R}$という3点です.$\mathbb{R} \subset \mathbb{C}$より$\mathbb{C}$のときの条件を用いて$a,b$が互いに素なら既約だと言い切れます.$\sqrt{2} \in \mathbb{R}$であることは$a,b$の最大公約数が4以上の2べきで割り切れる場合に$X^a+Y^b$が可約であることを導いています.最後に,$\sqrt{-1} \notin \mathbb{R}$であるお陰で最後の矛盾を引き出しています.
従って,同様な条件を満たす体(例えば$\mathbb{Q}(\sqrt{2})$)であれば全く同じ議論ができます.

係数体が$\mathbb{Q}$のとき

$\mathbb{C}, \mathbb{R}$と来たので次は$\mathbb{Q}$を取ってきました.$\mathbb{R}$のときの証明と勘を頼りにすると次のような定理が予想されると思いますが,これは実際成り立ちます.

$$X^a+Y^b \in \mathbb{Q}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=2^l \, (l \, は非負整数)$$

実際,${\rm GCD}(a,b)=1,2$なら既約であることは$\mathbb{Q} \subset \mathbb{R}$から分かります.そして,${\rm GCD}(a,b)$が奇数の素因数を持つなら可約であることも,実際に因数分解ができることから分かります.従って,${\rm GCD}(a,b)=2^l \, (l \geq 2)$であるときが本質的な問題だと分かりますが,何となく$\mathbb{Q}$の範囲ではこのとき因数分解できなさそうだなと感じますね.

では,この定理を証明しましょう.以下の証明はStack Exchangeで得たものです.途中で用いた補題は後ろに書かれています.

定理3
証明を表示

${\rm GCD}(a,b)=1,2$なら既約であることは$\mathbb{Q} \subset \mathbb{R}$から分かります.そして,${\rm GCD}(a,b)$が奇数の素因数を持つなら可約であることも,$\mathbb{R}$のときと同じように因数分解ができることから分かります.

以下,${\rm GCD}(a,b)=2^l \, (l \geq 2)$とします.$F(X,Y)=X^a+Y^b$とおきます.$F(X,d) \in \mathbb{Q}[X]$が既約となるような$d \in \mathbb{Q}$は無限に存在するので(補題5),補題7から既約多項式$g(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$が存在して
$$F(X,Y)=f(Y)g(X,Y) \hspace{0.2in} (f(Y) \in \mathbb{Q}[Y])$$
と書けます.ところで,変数$X,Y$の役割を入れ替えて同様の議論を行うことで,既約多項式$u(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$が存在して,
$$F(X,Y)=u(X,Y)v(X) \hspace{0.2in} (v(X) \in \mathbb{Q}[X])$$
と書けます.従って,
$$f(Y)g(X,Y)=u(X,Y)v(X)$$
が成り立ちます.$\mathbb{Q}[X,Y]$は一意分解環であるため既約元は素元と同値になりますから,$g(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$は素元です.従って,$g(X,Y)|u(X,Y)$もしくは$g(X,Y)|v(X)$のいずれかが成り立ちます.

仮に$g(X,Y)|v(X)$であるとすると,$v(X)$$Y$についての項を含まないことから$g(X,Y)=g(X) \in \mathbb{Q}[X]$と書けることが分かります.すると
$$F(X,Y)=f(Y)g(X)$$
となります.$f(Y)$の最大べきの項を$a_kY^k$($a_k \in \mathbb{Q}\backslash\{0\}, \, k \geq 0$),$g(X)$の最大べきの項を$b_lX^l$($b_l \in \mathbb{Q}\backslash\{0\}, \, l \geq 0$)とおくと,$F(X,Y)$の最大べきの項は$a_kb_lX^lY^k$と書けますが,$F(X,Y)=X^a+Y^b$であり,$X,Y$のcross termは存在しないので,$k,l$のいずれかは0となります.即ち,$f(Y),g(X)$のいずれかは定数となりますが,このとき$F(X,Y)=f(Y)g(X)$より$F(X,Y)$$X$もしくは$Y$のみの項しか含まないことになり矛盾します.

従って$g(X,Y)|u(X,Y)$が成り立ちます.$u(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$の既約性により,ある定数$q \in \mathbb{Q}$が存在して$u(X,Y)=qg(X,Y)$と書けます.すると,$f(Y)=qv(X)$が成り立ち,これより$f(Y),v(X)$は共に定数であることが分かります.その定数を$f,v$と書けば,
$$F(X,Y)=f \cdot g(X,Y)=u(X,Y) \cdot v$$
となるので,$F(X,Y)$は既約となります.(証明終)

定理3の証明に用いた補題たち

以下に定理3の証明に用いた補題たちを挙げます.

多項式$X^a+d \in \mathbb{Q}[X]$が既約であることは,$a$を割り切る任意の素数$p$に対して$-d \notin \mathbb{Q}^p$が成り立ち,かつ$a$$4$で割り切れるなら$d=4q^4$を満たす有理数$q$が存在しないことに同値である.

この補題は,実は最後に挙げる定理8より従います.

${\rm GCD}(a,b)=2^l$($l$$2$以上の整数)のとき,多項式$F(X,Y)=X^a+Y^b \in \mathbb{Q}[X,Y]$に対して,$F(X,d) \in \mathbb{Q}[X]$が既約となるような$d \in \mathbb{Q}$が無限に存在する.

証明を表示

$a$と互いに素な整数$u$によって表される整数$d=2^{4u}$を考えます.このような整数$d$は無限に存在します.まず,仮定から$2|a$ですが,明らかに$-d \notin \mathbb{Q}^2$が成り立ちます.また,$p | a$を満たす奇素数$p$に対して$-d^b \in \mathbb{Q}^p$が成り立つとすると,$-1=(-1)^p \in \mathbb{Q}^p$より$d^b =2^{4ub} \in \mathbb{Q}^p$となります.素因数$2$の個数を考えると,$2$の指数$4ub$$p$で割り切れなければなりません.$u$$a$と互いに素であったので特に$p$で割り切れません.従って$b$$p$で割り切れますが,これは${\rm GCD}(a,b)=2^l$であることに矛盾します.従って,$p | a$を満たす任意の奇素数$p$に対して$-d^b \notin \mathbb{Q}^p$が成り立ちます.
更に,仮定から$a$$4$で割り切れますが,仮に$d=4q^4$を満たす有理数$q$が存在したとすると,$d$に含まれる素因数$2$の個数は$4$の倍数,$4q^4$に含まれる素因数$2$の個数は$4$で割って$2$余る整数となり矛盾します.従って,$d=4q^4$を満たす有理数$q$も存在しません.以上より,上で定めた$d$が補題4の条件を満たすことが分かり,題意は示されました.(証明終)

多項式$F(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$に対し,$F(X,d) \in \mathbb{Q}[X]$が定数となるような$d \in \mathbb{Q}$が無限に存在するならば,多項式$g(Y) \in \mathbb{Q}[Y]$が存在して$F(X,Y)=g(Y)$と書ける.

証明を表示

仮に$F(X,Y)$$a_k(Y)X^k \, (a_k(Y) \in \mathbb{Q}[Y], \, k \geq 1)$という項が存在したとすると,仮定より無限に多くの$d \in \mathbb{Q}$に対して$a_k(d)=0$が成り立ちます.零多項式でない体上の多項式の持ち得る根の数はその次数以下であることを考えると,$a_k(Y)$は零多項式でなくてはなりません.よって題意が従います.(証明終)

多項式$F(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$に対し,$F(X,d) \in \mathbb{Q}[X]$が既約となるような$d \in \mathbb{Q}$が無限に存在するならば,既約多項式$g(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y]$が存在して
$$F(X,Y)=f(Y)g(X,Y) \hspace{0.2in} (f(Y) \in \mathbb{Q}[Y])$$
と書ける.

証明を表示

$F(X,Y)$を因数分解して$F(X,Y)=f(X,Y)g(X,Y) \, (f(X,Y),g(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y])$と表したとします.ここで$g(X,Y)$は既約であるように取ります.そのような$g(X,Y)$を取れることは,$\mathbb{Q}[X,Y]$が一意分解環であることから従います.ここで,補題5から$F(X,d) \in \mathbb{Q}[X]$が既約であるような$d \in \mathbb{Q}$が無限に存在するので,$f(X,d),g(X,d)$のいずれかは無限に多くの$d \in \mathbb{Q}$に対して定数でなくてはなりません.即ち,$f(X,Y),g(X,Y)$のいずれかは$X$に依りません(補題6).$f(X,Y)=f(Y) \in \mathbb{Q}[X]$と書けるなら題意が従うので,$g(X,Y)=g(Y) \in \mathbb{Q}[Y]$と書けるとしましょう.
このとき,$f(X,Y)$
$$f(X,Y)=u(X,Y)v(X,Y) \hspace{0.2in} (u(X,Y),v(X,Y) \in \mathbb{Q}[X,Y])$$
というように共に$X$に依るような多項式$u,v$に分解できたとすると,
$$F(X,Y)=u(X,Y) \cdot \{v(X,Y)g(Y)\}$$
となり,$u(X,Y), \, v(X,Y)g(Y)$に対して上記の議論を適用することで$u(X,Y), \, v(X,Y)g(Y)$のいずれかは$X$に依らないことが従い矛盾します.即ち,$u,v$のいずれかは$X$に依りません.ここでは$v$$X$に依らないとします.すると,
$$F(X,Y)=u(X,Y) \cdot \{v(Y)g(Y)\}$$
となります.再び同様の議論から,$u(X,Y)$は2つの因子に分解できるとすれば片方の因子は$X$に依りません.以下同様の議論を$X$に依る因子が$\mathbb{Q}[X,Y]$の既約多項式となるまで続ければ,求めていた形を得ます.(証明終)

実はもっと簡単に証明できる

上で得た証明たちは,三者三葉の特徴があって眺めるのも楽しいですが,実はもっと統一的に証明する方法もあります.

Stack Exchangeで得たのですが,以下の一般的な定理があるようです.

$F$を任意の体,$a$を正の整数とする.このとき,次が成り立つ.
$$X^a-c \in F[X] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} c \notin F^p \, (\forall p \, | \, a) \, かつ \, -c \notin 4F^4 \, (4 \, | \, a \, の場合)$$

この定理の証明はおいおい考えていこうと思います.この定理を使えば任意の体$F$上での$X^a+Y^b$の既約性について,次のような結果を得ることができます.

$F$を体とする.このとき,次が成り立つ.
$$\begin{split} &X^a+Y^b \in F[X,Y] \, が既約 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=\left\{\begin{array}{ll} 1 & (\sqrt{-1} \in F \, のとき)\\ 1, 2 & (\sqrt{-1} \notin F \, かつ \, \sqrt{2} \in F \, もしくは \, \sqrt{-2} \in F \, のとき)\\ 2^l \, (l\, は非負整数) & \hspace{0.2in} (\sqrt{-1} \notin F \, かつ \sqrt{2},\sqrt{-2} \notin F \, のとき) \end{array}\right. \end{split}$$

証明を表示

$X^a+Y^b \in F(Y)[X]$とみなします.ここで$F(Y)$は有理関数体です.定理8から
$$X^a+Y^b \in F(Y)[X] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} -Y^b \notin (F(Y))^p \, (\forall p \, | \, a) \, かつ \, Y^b \notin 4(F(Y))^4 \, (4 \, | \, a \, の場合)$$
が成り立ちます.

まず$\sqrt{-1} \in F$であるとします.すると,任意の素数$p$に対して,$-1 \in F^p$が成り立つことから,
$$-Y^b \notin (F(Y))^p \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} p \, \not| \,\, b$$
が成り立ちます.従って,$X^a+Y^b \in F(Y)[X]$が既約であるためには,$a,b$が互いに素であることが必要です.逆に,$a,b$が互いに素であれば,条件
$$-Y^b \notin (F(Y))^p \, (\forall p \, | \, a) \, かつ \, Y^b \notin 4(F(Y))^4 \, (4 \, | \, a \, の場合)$$
は明らかに成り立つので,$X^a+Y^b \in F(Y)[X]$は既約となります.

次に$\sqrt{-1} \notin F$かつ,$\sqrt{2},\sqrt{-2}$のいずれかは$F$に属するとします.$\sqrt{-1} \notin F$であることから,$-Y^b \notin (F(Y))^2$は自動的に成り立ちます.また,任意の奇素数$p$に対して,$-1 \in F^p$であることから
$$-Y^b \notin (F(Y))^p \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} p \, \not| \,\, b$$
が成り立ちます.更に,$\sqrt{2},\sqrt{-2}$のいずれかが$F$に属しているので,$\frac{1}{4} \in F^4$が成り立ちます.従って,
$$Y^b \notin 4(F(Y))^4 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} 4 \, \not| \, \, b$$
となります.これより,
$$\begin{split} X^a+Y^b \in F(Y)[X] \, が既約 &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} -Y^b \notin (F(Y))^p \, (\forall p \, | \, a) \, かつ \, Y^b \notin 4(F(Y))^4 \, (4 \, | \, a \, の場合) \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a \, を割る任意の奇素数 \, p \, に対して \, p \not| \, \, b \hspace{0.1in} かつ \hspace{0.1in} 4 \, | \, a \, のときは\, 4 \, \not| \,\, b \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=1, 2 \end{split}$$
となります.

最後に,$\sqrt{-1},\sqrt{2},\sqrt{-2}$のいずれも$F$に属していないとします.$\sqrt{-1} \notin F$であることから,$-Y^b \notin (F(Y))^2$は自動的に成り立ちます.また,任意の奇素数$p$に対して,$-1 \in F^p$であることから
$$-Y^b \notin (F(Y))^p \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} p \, \not| \,\, b$$
が成り立ちます.更に,$\sqrt{2},\sqrt{-2}$のいずれも$F$に属していないので,$Y^b \notin 4(F(Y))^4$も自動的に成り立ちます.これより,
$$\begin{split} X^a+Y^b \in F(Y)[X] \, が既約 &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} -Y^b \notin (F(Y))^p \, (\forall p \, | \, a) \, かつ \, Y^b \notin 4(F(Y))^4 \, (4 \, | \, a \, の場合) \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} a \, を割る任意の奇素数 \, p \, に対して \, p \not| \, \, b \hspace{0.1in}\\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=2^l \, (l\,は非負整数) \end{split}$$
となります.(証明終)

この定理9を用いると,上の結果は次のように一瞬で従います.嬉しいですね.

$\sqrt{-1} \in \mathbb{C}$なので,$X^a+Y^b \in \mathbb{C}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=1$
$\sqrt{-1} \notin \mathbb{R}, \, \sqrt{2} \in \mathbb{R}$なので,$X^a+Y^b \in \mathbb{R}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=1, 2$
$\sqrt{-1},\sqrt{2},\sqrt{-2} \notin \mathbb{Q}$なので,$X^a+Y^b \in \mathbb{Q}[X,Y] \, が既約 \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=2^l \, (l\,は非負整数)$

更に,平方剰余の相互法則を用いることで,係数体が有限体$\mathbb{F}_p$の場合の既約性も次のように判定できます(証明略).とてもキレイな結果ですね~.

$p$を素数とする.このとき次が成り立つ.
$$\begin{split} &X^a+Y^b \in \mathbb{F}_p[X,Y] \, が既約 \\ &\hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in} {\rm GCD}(a,b)=\left\{\begin{array}{ll} 1 & (p=2 \, もしくは \, p \equiv 1 \hspace{0.05in} {\rm mod} \hspace{0.05in} 4 \, のとき)\\ 1, 2 & (p \equiv 3 \hspace{0.05in} {\rm mod} \hspace{0.05in} 4\, のとき) \end{array}\right. \end{split}$$

因みに,定理8を用いると,一番最初に挙げた事実
$$X^a-Y^b \in F[X,Y] \hspace{0.2in} \Longleftrightarrow \hspace{0.2in}a,bが互いに素$$
も一瞬で示せます.定理8は偉大です.

今回の記事は以上です.
最後までお読み頂きありがとうございました.

投稿日:202261
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certain
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素朴な問題が特に好きです.

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